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Re: 観覧車】短編集。参照600突破記念祭り♪ ( No.66 )
日時: 2016/04/28 19:13
名前: 湯呑ゆざめ (ID: ovLely7v)

≫あの、美しい嘘をもう一度。


空き教室に、すすり泣く私の声がか細く聞こえる。理科室の、軋んだ
机や、落書きが書き殴られた壁、今はただ、月明かりにぼうっと照らされてる。

目が腫れぼったいし、熱い。次から次へと涙が溢れ出る滴となって滲み
頬を伝ってゆく。


:::




だめだ、失恋するのはわかってたはずなのに。準備できてたんだけどな
おかしいな…


ふう、と吐き出すように溜息をつく。胸の中、蟠った何かが消えない。
ガラ、と立てつけ悪くドアが開く。ふっと見れば理科の沖野先生。
手には湯気をたてたミルクココア。「とりあえず座って下さい」
ほわっと笑って先生はマグカップを置いた。「はい。」なんでか、
胸が切なくて目を逸らした。

「まあでも、君には僕がいますし、なんてね?」
「先生、その言葉に甘えてもいいですか?」
涙がまた溢れ出す。
「いいですよ。」
短く、余裕たっぷりに、囁かれる。
「はい…」
熱い吐息が混じりあって溶けていった。


:::

季節がめぐり、時は卒業式前日になった。

もう今日で最後かと机をなぞる。ふと、椅子を見ればあの時の景色が
鮮明に蘇る。先生は結婚した。あーあ、溜息をついてすっかり
長くなった髪をはらう。
ガラ、また音がした。
期待をして視ると、あの人の姿。
「あ、はは、夢みたい。」
力なく笑って目を閉じる。
「何で、泣いてんですか、」
「え、と…」
「大丈夫ですよ、あなたには、僕が…」
そこで、ぐっと声が詰まる。期待が淡く砕け散る。
困ったように先生は笑って、部屋を出ていく。




あの、美しい嘘をもう一度。


end