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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 観覧車】短編集。参照600突破記念祭り♪ ( No.67 )
- 日時: 2016/05/03 13:19
- 名前: 湯呑ゆざめ (ID: u3k5ctnm)
≫花弁はもうそこにはない。
彼女は、静かだった。
彼女は、世界と隔絶していた。
彼女は、諦めていた。
きっと、彼女は未来を待ってた。
初めて僕が話しかけたのは、どしゃぶりのいつか。
道行く人々は上なんて見ずにただ陰鬱そうに下を見る。
彼女の事なんか、見えてないように冷たい雫に溜息をつく。
長い艶めく髪をなすがまま雨に濡らしてしゃがんでいる。
躊躇った後、肩を叩くと振り向く。
漆のような瞳をしっとりと濡らして、見開く。
それはもう、花開くように笑って、微笑む。
「なにかしら。」
「や、えっと・・・」
「大丈夫?」
ありきたりな言葉。
彼女はおもむろに手を広げて、滴が零れ落ちてゆく。
「こうやって、全部全部なくなっちゃった。」
さっきよりも濃く影が彼女の瞳に落ちる。
白磁のような白い頬がじっとりと濡れる。
なんだか怖くて、肩にもう一度触れると長い睫毛がそっとあげられ
ちろ、と伺うようにこちらを見る。
あの時の僕は、どうかしていたんだろう。
「大丈夫、君の未来は綺麗に色づくはずだから。」
彼女は一言幼子のようにありがと、と言って走り去った。
そうして、足は空を切ったのだろう。
今日も、陽だまりの中彼女に話しかける。
こんなに未来は色づいてるよって。
もう、花開くような君の微笑みはない。
その時、微かな風が青い花を揺らして花弁を散らしていった。
名も知らない花。
名も知らない君へ。
end
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