コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 恋人ごっこ ( No.5 )
- 日時: 2016/06/02 16:09
- 名前: 川魚 (ID: .KVwyjA1)
・・・・・・はぁ。
ため息が出た。
その場で座り込む。
もう二十件目だ。あ、今のを足したら二十一件か。
だんだん、振ることに罪悪感を覚えてきた。
いや、そうじゃない。
めんどくさいのか。
もう彼女作ろうかな。そうだな、そうしよう。
相手は恋愛に興味がない子がいいな。俺と一緒で告白されるのが嫌になってる子。
ーー偽物の彼氏彼女。
・・・・・・いるわけねぇか。
そろそろ、いいかな?
立ち上がって、扉に向かう。
若干重い鉄扉のレバーハンドルを捻り、引く。
キィィ、と錆びた音を立てて扉は開く。
ハンドルから手を放し、屋内に入る。
後ろ手で扉を閉めるとバァンと大きな音が立った。
わざと立てた訳ではない。この扉、手を放して閉めるとさっきのように大きな音を立てて閉まるので、手でゆっくりと閉めなければならない。
しかし、この扉はある程度閉まると急に重くなるので、閉まる際の力加減が難しく、ミスすると、今のように音を立ててしまうのだ。
だから、そこにいる女の子を故意に驚かせ、転ばしたわけでは決してない。
それにしても・・・・・・水色か。いやもう少し薄いな何色って言うんだろ? 青白磁色とか近い気がする。
いや、何言ってんだ俺。そうじゃなくて、女の子が何か焦ったような顔をしているのは俺の気のせいだろうか?
「さやかちゃん! ちょっと待ってくれ」
下の階から階段を駆け上がる音と男の声がした。
「あの! ちょっと! すみませんっ」
さやか、と呼ばれた女の子が立ち上がりこっちに向かってくる。
あ、巻き込まれたなこれ。
さやかさんが俺の後ろに逃げる。
そこで、下の階から先の声の男がさやかさんに追い付き、俺を挟んで彼女と向かい合うかたちになった。
「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・さやかちゃん、なんで、逃げるの」
男が荒い呼吸をしながら絶え絶えにも言う。
いやぁーーそりゃそんな見た目じゃ逃げるでしょ。目付き悪いし、ピアス開けすぎだし、香水なんか臭いし。
「あの人・・・・・・お断りしたのに追いかけてくるんです」
え、なんで俺に言うの? あの人がなんで逃げるか聞いてるよ?
「あぁ? おめぇ誰だ?」
いや、それこっちの台詞な?
「お、乙坂翔太だ」
「ふーん、で、さやかちゃんとどういう関係なんだ?」
あのさぁ、いちいち目付き怖いって。安心しろ、今会ったばかりの他人だから。
「他「恋人です」人だ」
は? 今なんつった?
「こ、恋人ぉ!?」
男が素っ頓狂な声をあげた。
うわー聞き間違いじゃなさそう。
「はい。恋人です」
さやかさんが俺の手を握った。
さらさらとした肌の感触と自分より少し冷たい体温が手全体に広がる。
男は恋人繋ぎになった俺とさやかさんの手を見て何を言おうか口を開けたままだ。
どうしようかと、考えていると、恋人というキーワードに俺は閃いた。効果音がついていたならキュッピーン、と鳴っていただろう。
「あー悪い、さやかとはこういう関係だからさ。引いてくれない?」