コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 恋人ごっこ ( No.6 )
日時: 2016/06/02 16:13
名前: 川魚 (ID: .KVwyjA1)

#second effect


 水無瀬さやか。
 俺と同じ二年生で、クラスは十組。俺は一組なので教室の位置は校舎の端と端になる。
 男子からはかわいいと専ら評判で一時は告白が絶えなかったらしい。
 そんな彼女、実は女子にも人気がある。無論そっち系の人もいた。
 水無瀬菓子という和菓子屋の娘で趣味でよくお菓子を作るらしく、女子の中では美味しいお菓子が作れると専らの評判だ。
 そんな彼女と俺は先日、恋人になった。
 もちろん、偽物のーー

「二年十組。水無瀬さやかです」
「二年一組。乙坂翔太」
 男が去ったあと、俺と水無瀬さんは階段に座り先の恋人宣言について話し合うことにした。
 というわけで、まだお互いの名前も知らないので自己紹介をしたのだが、暗い。めっちゃ暗い。かくいう俺も声が明るくない。正直少し後悔している。
 なんだよ、こういう関係だからって。
 肩下、肩甲骨の辺りまで伸びたサラサラな黒髪、きめ細かな肌は白く綺麗だ。
 控えめに言っても彼女はかわいかった。
「水無瀬さんは・・・・・・告白にうんざりしてるとか思ったことある?」
「・・・・・・急ですね」
 水無瀬さんは相変わらず暗い、言ったことを後悔しているのだろうか。
「俺はさ、告白にはもううんざりなんだ。相手のことを傷付けたとかそういうことやっぱり考えちゃうし、めんどくさい。二日連続とかほんとめんどくさい」
「私は今日で九人連続です」
 マジかよ。
「それは大変だったな。話を戻すけど、俺は告白されるのが面倒になった。だから、さっき助けたところで何のメリットもないはずのお前を助けた。メリットができたから」
 水無瀬さんは静かに聞いていた。
 俺はそのまま続けた。
「そのメリットは偽物の彼女だ」
「偽物の・・・・・・彼女」
 水無瀬さんはそう呟いた。
 そして、続ける。
「そう。そしたら、乙坂くんは私の偽物の彼氏になるってことですね」
「そうだな。もし水無瀬さんが告白にうんざりしてるようだったら悪い話ではないはずだ」
「そう・・・・・・ですね。既に付き合ってる人がいたら、告白しようとする人も減りますね・・・・・・わかりました。私と偽物の恋人になってください」
「あぁ、よろしく頼む」
 こうして、俺と水無瀬は偽物の恋人となった。

Re: 恋人ごっこ ( No.7 )
日時: 2016/06/02 16:28
名前: 川魚 (ID: .KVwyjA1)

 水無瀬と偽物の恋人になって、一週間が経とうとしていた。
 はじめのうちはうるさく、騒ぎのようになっていた。
 噂で水無瀬が告白百回目のメモリアルで付き合っているというのがあつたので、本当に百人に告白されたのか、気になったので水無瀬に聞いてみると、
「本当ですよ。男子だけなら乙坂くんで百人目ですよ」と答えてくれた。
 ん? ちょっと待て。男子だけなら?
 少し・・・・・・いや、大変気になったが水無瀬が何も言わなかったので、俺も何も訊かなかった。

「恋人ごっこしましょう」
 唐突に水無瀬は言った。
 昼休み。俺は水無瀬に呼び出され、調理室にいた。
 なぜ、調理室なのかというと水無瀬が調理部だからだ。部長に頼んで開けてもらったそうだ。
 部長に頼んで、というところが覗き見とかされてないかと、気になるが、調理室は広いので多分普通にしてる分には話し声が漏れることはなさそうなので、少し気を付ける程度に落ち着いた。
 そんなことより。
「恋人ごっこ?」
「そうです。恋人ごっこです」
 水無瀬ははっきりとそう言った。
「私たち付き合ってからもう一週間経つじゃないですか、それなのに一緒に下校するどころか、今こうやってお昼を一緒に食べた事もないですし、五分以上一緒にいたこともないですよね?」
 そう水無瀬に言われ、この一週間を振り返ってみる。
 ・・・・・・あ、ほんとだ。というか、水無瀬と付き合ってから一回しか喋ってない。
 だけどーー
「俺らは偽物の彼氏彼女なんだから、問題ないだろ。それとも何か問題あるのか?」
 そう俺らはあくまで告白避けで付き合ったダミーの恋人だ。
 つまり、恋人ではないのでお互い干渉はしないし、今までどおり完全にとは言わないが他人として過ごすだけなのだ。
「それは・・・・・・確かにそうですけど・・・・・・」
「だろ?」
「けど・・・・・・」
 そこで水無瀬が黙り込む。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
 お互い沈黙が続く。
 誰もいない調理室はとても静かだ。
 水無瀬は口を開かない。
 言いにくい事なのだろうか。少し考えてみる。
 さっきの恋人ごっこという言葉・・・・・・あ、簡単なことじゃないか。
「もしかして、クラスの人に本当に恋人なのか疑われた?」
 水無瀬がコクコクと頷く。
 確かに普通恋人と言ったら、さっき水無瀬が言ったようなことをするのが普通だろう。
 だが、それを全くしない俺たちは異常だ。
隠れて付き合っているならまだしも、はっきりと交際宣言はしていないが交際しているという事実は校内に知れ渡っている。
「ん〜、じゃあやるか。恋人ごっこ」
 仕方ないと、俺は割り切り承諾した。
「はい! では早速ですね、今日クッキー焼いてきたんですけど、本来あげる予定だった子が欠席しちゃて一つ余ったのでどうぞ」
 水無瀬はそういうと鞄の中を漁りはじめる。
 そして、何枚かいい色に焼けたクッキーが入った小さな袋を出した。
 今からやるのか? と思いつつ袋を受けとる。
 袋を開け、一口サイズのクッキーをポイっと口の中に放り込む。
 水無瀬が膝に手を置き、真剣な眼差しでその様子を見る。
 バターの香りとサクッとした食感が口内に広がる。
 美味しかった。
 そんじょそこらのコンビニやスーパーで売っているようなクッキーより断然うまい。お店を出せるレベルだ。
「すごく美味しいよ。これお店に出したら売れるんじゃないか?」
「ほんとですか!? まぁでも和菓子屋の娘なんですから、それぐらい当然ですよ」
 謙遜しているわりにはとても嬉しそうな顔で水無瀬が笑った。
 和菓子屋の娘なだけあって、人に自分の作ったお菓子を食べてもらい、美味しいと言ってもらえるのが人一倍嬉しいのだろう。
 ふと、時計を見るとあと少ししたら、予鈴が鳴るところだった。
 よいしょ、と立ち上がる予鈴が鳴った。
「教室戻るか」
 そう言って、自分の椅子を片付けるついでに水無瀬の使った椅子も片付けようと水無瀬に手を出す。
「あ、ありがとうございます」
 水無瀬が俺の手を握る。
 反射的に水無瀬を引っ張って立たせた。
「椅子片付けるから貸してって意味だったんだけど、まぁいっか」
 水無瀬が座っていた椅子を取り、自分の椅子を重ねる。
「え? あ、すみません!」
 水無瀬が自分の勘違いに気付き頭をペコペコ下げる。
「いいよ、気にしないで。これも恋人ごっこだと思っておけばいいから」
 そう言いながら、重ねた椅子を椅子の山に戻し、扉の方に向かうが、水無瀬が着いてこない。
「何、ボーッとしてるんだよ。先行くぞ」
「あ、すみません。今行きます」
 水無瀬が追い付いたところで扉を開けると、廊下に誰かがいた。
 いるだろうなとは思っていたので気に止めたりはしない。
 むしろ、練習にはちょうどいいくらいだ。
 水無瀬を教室まで送る間、他愛のない話をして、恋人ごっこをしてみた。
 してみた感想としては、水無瀬、お前演技下手すぎ。