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私と彼は共犯者、あの子と君は——、 (1) ( No.1 )
日時: 2016/05/02 21:59
名前: あさぎの。 ◆TpS8HW42ks (ID: WeBG0ydb)



見えたのは、あの子とあいつの姿だった。



 「……何で、だろうね」



彼の隣。前は私の居場所だったのに、その場所にはいつの間にかあの子が立っていた。“そこ”から、突き落とされた訳じゃない。自分で進んで“そこ”から降りたのに、今になって惨めに手を伸ばしてる。


あの子にあるものは、全部私が持っていないもの。


喉から手が出そうなほど欲しいのに、私はあの子にあるものを何一つ持っていない。逆に、私にあるありふれたものなんて、あの子はすべて持っている。
だから憎らしい。世界で一番大好きで、世界で一番大嫌いなあの子。


欲しい。ほしい。ホシイ。

彼の隣が、優しい言葉が、明るい笑顔が、注がれる愛が。
何回も殺して、歪になった恋心がそう叫んでいる。汚い汚い私の恋心が、喚いて泣いて、彼を欲しがっていた。



 「鏡」



名前を呼ばれた。振り向けば、私と同じ感情を抱える“共犯者”がそこに立っていた。
彼は顎のところにあったマスクを鼻まで上げ、「帰ろう」とこもった声で呟く。私は大きく頷き、ひん曲がった恋心をまた殺した。



 「また見ちゃったよ」
 「……見ても、哀れになるだけじゃない?」
 「そうだね」



一ノ瀬絢都は、共犯者。
私と同じ劣情を、心の奥に隠している。