コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

私と彼は共犯者、あの子と君は——、 (2) ( No.4 )
日時: 2016/05/02 22:39
名前: あさぎの。 ◆TpS8HW42ks (ID: WeBG0ydb)



私も絢都も、仮面を被っている。

猫被りなんて可愛いもんじゃなくて、自分の顔をすっぽり覆い隠すような、完璧な仮面。自らつけることを選んだその仮面は、もうすっかり馴染んで、剥がれ落ちることはないんだろうな、なんてぼんやり思う。
廊下を歩いていると、クラスメイトの女の子に会った。人当たりの良い彼女は、笑顔で「またねー」と手を振っている。



 「うん、またね」
 「今度の放送、楽しみにしてるよ」



絢都も手を振って、私はにっこりと彼女に笑いかけた。彼女は放送委員。褒めるといいポイントを、私はズバリと当てたみたいで、彼女は嬉しそうに顔を綻ばせる。
私も絢都も、『真面目で優しい学級委員』。気配りができて頼りがいがあって、でも便利屋にはならずに、クラスの大体から好かれる、そんな人物。
この子の好感度アップは狙えたかな? と、笑顔を貼り付けたまま考える。


彼女と別れて、絢都と一緒に帰路を辿る。

私と絢都は、幼馴染。因みにあの子——北見なゆと、あいつ——六条洸もで、私たち四人はある意味呪いのように強力な、“幼馴染”という言葉で繋がれている。
小さいころからいつでも一緒。運命共同体のような存在だった私たちの関係が崩れたのは、中二のとき。洸が、「なゆと付き合っている」と、私たちに告げたからだった。



 「……鏡?」
 「ああ。ごめん、ちょっと思い出してた」
 「そう。……俺も」



あのときのことを、鮮明に思い出して、歩みが止まった。急に止まった私を心配そうに覗き込んだ絢都も、同じ気持ちだったらしい。
彼の切れ長の瞳に、ふっと影がよぎる。立ち止まった私たちを、少し肌寒い秋の風がそよそよと揺らす。そういえば、あの日もこんな風だった。

きっとあの二人は、“幼馴染”という関係が崩れたとは、思っていない。

また四人で笑いあえるって、思い出が作れるって。そう信じているのだろう。関係を壊したのはそっちのくせに、呑気に考えているのだろう。私たちの恋情なんて知らないで。



 「——私は、洸が、好きだよ」



ぽそりと、泣きそうな声で呟いたそれは、風にかき消えた。