コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 私と彼は共犯者、あの子と君は——、 (4) ( No.8 )
- 日時: 2016/05/23 18:36
- 名前: あさぎの。 ◆TpS8HW42ks (ID: LN5K1jog)
色素の薄めな瞳を細めて、彼はあの子の、色の髪を撫でた。
あの子は、ぱっちり二重の目と赤くて小さな唇をふにゃりと緩ませて、笑った。
——それはもう、綺麗に。
裏庭でイチャイチャしないでよ、なんて思っていた私の頬には、知らぬ間に涙が伝っていたらしい。本当に馬鹿だ、今更泣くなんて。頬を濡らした涙を乱暴に袖で拭き取り、ぐっと唇を噛みしめた。
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「一ノ瀬君と高槻さんって、付き合ってるの?」
よく聞かれる、この質問。この質問に対して、私と絢都は肯定も否定もしないスタンスをとっている。適当にはぐらかしたり、「秘密」なんて微笑んでみせたり。
だから、私たちを恋人同士だと思っている人は多い。でもまあ、もう一度言うけど否定する気はない。その方が便利だしね。
私と絢都は、共犯者。
利用しあって、この関係を築いてきた。
秘密は共有するけど、干渉はしない。時には慰めあい、時には利用する。そんな歪な関係で結ばれた私たちの中には、特殊な絆があるのだろう。
泣いてから、私はまた絢都と話していた。一粒だけ流した涙だったのに、絢都にはすべてお見通しのようだ。すぐに見抜かれた。エスパーかよ、と睨むと、彼の異変——というか不思議な点に、気が付いた。
「……マスク、何でしてるの」
彼の口元を覆う、真っ白いマスク。絢都がマスクをするのは完全オフのとき、つまりは私といるときだけなのだ。彼曰く落ち着く、とのことだが、マスクが苦手な私にとっては理解しがたい。
眉をひそめた私に、絢都は軽く肩を竦めて、何でもないように首を振った。
「何となく」
「嘘つき。裏庭で、絢都も見てたんでしょ」
何となくでマスクをする訳がない。だってマスクは、絢都にとってスイッチだ。オンとオフの切り替えは、完全にその白い仮面によって行われている。
じっと見つめると、絢都は観念したように目元を歪め、こくりと静かに頷いた。……何だ、絢都も見てるんじゃん。私は、泣かない強さはどこから来てるの、と問うた。すると返事は一言だけ。
「慣れ」
簡単な答えだった。でもそれは、一番難しいこと。それが出来たら苦労しないよ、と溜め息交じりにつぶやく私に、絢都は「だろうね」と笑った。
儚くて悲しげで、今にも消えそうな笑みだった。