コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

甘い毒と、危険な香り。 (3)  ( No.17 )
日時: 2016/06/10 21:52
名前: あさぎの。 ◆TpS8HW42ks (ID: UEhR5RB1)




 私たちは、肩を並べて雑談を交わす。
 真顔で隠してるけど、ぶっちゃけ緊張でガチガチだ。心臓はオーバーヒートしそうだし、スクバにかけた手がカタカタと震える。
 落ち着け自分、落ち着け自分……と暗唱した。

 やっと震えが納まってきたところで、洸は「そうだ」と声を上げて、白い歯を見せながら笑った。



「今日、うち来る?」



 一瞬、何を言っているのか分からなかった。
 何のお誘いかと、洸と交わした会話と記憶を探って探って、そういえば、と思う。
 洸は、私が不衛生で食事を抜きがちだと言っていた。そして私は、溢れんばかりの下心で「じゃあ洸が作ってよ」と言ったのだった。今思えば、というか、そのときも思っていたけれど、なんて嫌な女なのだろう。



「……行く」



 嫌な女だ、とは思いつつも私は半ば無意識に言っていた。
 洸はにっこりと笑って、じゃあ買い物行かなきゃな、なんて聞くに堪えない鼻歌を歌いながら、歩を進めた。
 止まった私。進む君。



 ——君の隣に、あの子が見えた。




「————」



 掠れた声で、私は確かに呟いた。
 
 手を伸ばして、洸の学ランをぎゅっと掴んだ。
 驚いて振り向いた洸の目には、聞き分けの悪い子どもみたいに洸に縋ってる、醜い私の姿が映っていた。
 馬鹿みたいだ。こんなにも君に縋って、溺れてる。
 鏡、と名前を呼ばれて、我に返る。不思議そうな顔をした洸が、私をじっと見つめていた。



「や、何でもない。……あのさ、なゆと絢都も呼ぼうよ。洸の家が駄目なら、私の家でもいいし」



 なゆに対する、罪悪感か、怯えただけか。
 私は引きつる顔に何とか笑みを浮かばせ、洸に言った。
 ちゃんと笑えていたは分からない。だって、私の絞り出した声は、滑稽なくらいに震えていたんだから。
 でも、彼は頷いてスマホを取り出し、なゆに電話を掛けた。





 いかないで。
 私はまた、呟いた。