コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 不老不死の彼女はただひたすらに世界平和を望んでいた。 ( No.2 )
- 日時: 2016/05/24 21:24
- 名前: ぱる+りんご (ID: Q.pGZPl6)
第一章 ゆーくん《水川 優》
あーー。ウザい。まじウザい。
死んで欲しい。気持ち悪い。
彼ーー水川 優は、母親にいつものように怒られながら、いつものようにそんなことを思っていた。
だから「聞いてるの!?」と怒鳴り声をあびせられるのもまた、お決まりの約束。
これは、そんな反抗期少年、ゆーくんの物語。
+++
《水川 優 ミズカワ ユウ》
・13歳、中学二年生。
・好きな事はサッカー。嫌いな事は勉強と説教。
・好きな女子がいるんだとか。
・成績は良くなく、運動はできる。どこにでもいるような奴。
・親が大嫌いな、反抗期真っ只中の少年。
- Re: 不老不死の彼女はただひたすらに世界平和を望んでいた。 ( No.3 )
- 日時: 2016/05/30 09:58
- 名前: ぱる+りんご (ID: Q.pGZPl6)
一章 第1話 不老不死の彼女
《ソイツ》は、あきらかにおかしい生命体だった。
地球人ばなれした若草色の髪に、白一色のワンピース。
髪と同じ色の瞳をくりくりさせて、側に生えていたシロツメクサをもぐもぐと頬張っていたのだ。
ーーこれは、無視しないといけないパターン。
自分の中の警告ベルが、頭の中で力いっぱいに鳴り響いていた。
「…………い?」
可愛らしい声が、背中に聞こえたのを感じた。
無視すれば良かったのに。わずか十秒後、おれはそう後悔することになった。
当然、過去は変えられない。…おれは、その声にふり向いてしまったのだ。
「…は、はい?」
「食べ物、もってない?」
「はあ…」
ここは早く何かあげて、早くどっかにいってもらおう。
そう思い、鞄の中にあったチョコレートをさしだした。
「わー!ありがとう!!なにこれー!おいしそうな匂いがするよーー!」
くんくんと、銀紙に包まれたチョコレートの匂いをかぎはじめる謎の生命体。
早く立ち去らないと、身の危険。またしても警告ベルが鳴り響く。
「じゃ、おれはこれで……」
「待ってー!」
「何なんですか、もう!」
いい加減付き合いきれなくなり、声を少し荒げてみた。
でも、ソイツにはそんな事関係ないらしく。
にこにこふわふわした能天気な笑みで、こちらを見つめる。
あげたチョコレートは一瞬で食べたのか、手には包まれていた銀紙もなかった。食ったのか。
「何か飲み物もってない?」
首を傾げて、くるくる回りだす謎の生命体。
ワンピースのポケットから、チャリリンと二百一円が落ちる。
「ーー!?自分で買えよ!!」
とうとう耐えきれずにツッコミを入れてしまった。
- Re: 不老不死の彼女はただひたすらに世界平和を望んでいた。 ( No.4 )
- 日時: 2016/06/04 21:07
- 名前: ぱる+りんご (ID: Q.pGZPl6)
第二話 彼女はメロンソーダが好き。
謎の生命体は今、なぜかうちのソファでくつろいでいた。
『へー!これで飲み物が飲めるの?不思議だね』
『あんたの方がよっぽど不思議だよ。お金くらい知ってるでしょ』
『ふうん。オカネっていうの。どうやって飲むの?おいしいの?』
『分かってないよね絶対。もういい?オレ、優しくないからさ、付き合いきれないよ』
『そっかあ。分かったよー』
ー十分後ー
『変なやつだったなぁ…』
『おじゃまするねー』
『そうそう、こんな声で……』
『わ!この赤いの何?』
『何でいんの!!?』
そして今に至る。
「とりあえず何かあげるからおひきとりいただいてもいい?」
オレのテンション低めの声をきくと、ソイツはソファでぴょんぴょんするのを止めて、首だけでこちらを向き、
「分かったよー」
とふわっとした声でにこにこする。絶対分かってない。
「ーー。ーーあーもう。めんどくせぇ」
オレがキッチンへ消えると、ソイツはまたぴょんぴょんを再開し始める。
そのぼふっぼふっとした音をBGMに、オレはコップに氷をいれ、冷蔵庫から緑色の炭酸飲料を取り出す。
蓋をとるとぷしゅっと乾いた音がなり、甘い匂いが鼻孔をくすぐる。
おれは、そのメロンソーダを二人分に注ぎ、おぼんに乗せて謎の生命体のもとへむかった。
謎の生命体は、金魚に話しかけながらにこにこしていた。
「おーい。メロンソーダ、ついできたから飲めば?」
「おー、ありが…。すごいねそれ!私の髪と同じだ!」
メロンソーダを初めてみるのか、謎の生命体は興奮して跳び跳ねている。
とりあえず、うるさい。
「あげるから静かにして」
メロンソーダを机におくと、謎の生命体は目を輝かせて、それを口に運んだ。
喉がごくごくという音をだしながら、勢いよく飲み干し、コップの中は空になった。
「おいしいー!!こんなの、初めて飲んだよ!わー!」
頬をかすかに朱色に染めて、謎の生命体は喜びをあらわにする。
そこで、ふと、疑問に思う。
「おまえ、名前はなんていうの?何人なの?」
「わたし?わたしはねえ。名前はないんだよー、えへへ!あいうえお人だよ!すごいでしょー。えへへー!」
「まず、照れる要素がどこにもないのと、意味わかんないよ。名前はまだ無いって、猫かおまえ」
夏目漱石の『我輩は猫である』のことをいったんだけど、やっぱり謎の生命体にはそんなこと分からなかったようで、?マークを浮かべていた。
「じゃあもう帰れよ。大通りまでおくってやるから」
「んー、分かりました。分かったよ」
そうして大通りまで送る途中。オレにとってはとてもダメージの大きい事件が起こった。
+++
《不老不死の彼女》
若草色の髪をツインテールにした、なぞの生命体。
メロンソーダが好物。
食べるものは、シロツメクサ、タンポポ、甘いもの。
苦手な食べ物はコンクリート。彼女いわく、「かたくておいしくない。でも、おばーちゃんになるときのために歯をきたえなきゃだから」らしい。
- Re: 不老不死の彼女はただひたすらに世界平和を望んでいた。 ( No.5 )
- 日時: 2016/06/11 21:05
- 名前: ぱる+りんご (ID: Q.pGZPl6)
第三話 彼女の名前と片想いの相手
「それじゃあ、おれはここまで。気を付けて帰れよ」
「うん、分かった。またねって言わないの?」
「もう会いたくないんだから、またねって言う必要ないだろ」
「なるほどー。じゃあ、またね」
「……気が向いたらな」
そうやって、ぶっきらぼうに答えたのに、謎の生命体はふわふわと変わらない笑顔をオレに向けた。
そんなに幸せそうに笑えることが、少しだけ羨ましかった。
その姿をみて、オレは思わずにいられない疑問を口にする。
「ーー最後にひとつだけ聞いてもいいか?本当に、名前なんていうの?」
夕焼けで染まる空。風が強く吹き付ける。
初めて、寂しそうな笑みをみせる謎の生命体。
「本当に、無いんだよ」
唖然とする。そんな奴いるのか?
「それじゃあ、またね。“ゆーくん”」
また、大きく強く風が吹いて。
風にさらわれたのか、それともオレが夢を見ていたのか。
ーー謎の生命体は、消えていた。
+++
「水川くん?」
謎の生命体が突如消えた。そんなありえなさすぎて笑えてきそうな不思議現象の余韻に、ぼんやりと浸っているときだった。
「二瀬さん…!?どうしてこんなところに」
「偶然だね」と、目を細めて微笑を浮かべる姿はまさに女神。
黒く、光沢のある髪。右に一房三つ編みが施されており、女子特有のこだわりが感じられる。
学校でみる制服ではなく、ワンピースにカーディガンという可愛らしい私服。
柔らかい声が、オレの鼓膜を通して心臓まで伝わる。
「う、うん。珍しいね、二瀬さんがここら辺にいるなんて。家、逆だよね?」
心臓がばくばくいってるのが聞こえた。
何を隠そう、この二瀬 陽菜さんこそ、オレの片想いの相手なのだ。
「そう。今日は、塾があって。それにしても、水川くん、私の家知ってるの?」
人差し指を唇に当てて、首をかしげる二瀬さん。しぐさがかわいーなーー。
って、
「えっ!?あっ、これは…違うんだよ!!原!原が二瀬さんの隣の家だろ?それで、原ん家に遊びにいったときに教えてもらって!決してストーカーとかじゃないから…ッ」
慌てるオレをみて、二瀬さんは小さく吹き出す。
「あはは、ごめんごめん。ちょっとからかっちゃった。ーーあ、そろそろ行かなきゃ。またね、水川くん」
「…ふ、あ。また、学校で…」
ふふ、と口に手を当てて笑い、止めていた足を踏み出す二瀬さん。
そのまま、何も言えずにオレは家へと帰った。
家へ帰り、大嫌いな親の怒鳴り声を無視して二階の自分の部屋に駆け込む。
倒れこむと同時に小さく呟く。
「オレ…超絶かっこわりぃ」
相手はたいして気にとめていないだろう些細な出来事。
でも、その相手が想いをよせている人ということもあって、オレは落ち込まずにはいられなかった。
- Re: 不老不死の彼女はただひたすらに世界平和を望んでいた。 ( No.7 )
- 日時: 2016/06/13 21:34
- 名前: ぱる+りんご (ID: Q.pGZPl6)
《原 勇人 ハラ ユウト》
ゆーくんの友達。
二瀬さんと家が隣。
野球部所属。
お調子者キャラで、クラスマッチとかで熱くなるタイプ。
嫌いなものは炭酸飲料とゴキブリ。
《二瀬 陽菜 フタセ ヒナ》
顔よし、性格よし、頭よしのパーフェクト女子。
一人称は基本私だが、家族や親しい人の前では陽菜になる。
美術部所属。副部長。
ゆーくんだけでなく、多くの男子が想いをよせている。
好きなものはうさぎで、嫌いなものは蛙。実は犬も苦手。
《シロザカナ》
ゆーくんの家に住み着いた白と灰色の猫。
魚が好き。メス。
ぽっちゃりちゃんだが、そこが可愛いのだとか。
最近のマイブームは、土を掘り返すこと。
- Re: 不老不死の彼女はただひたすらに世界平和を望んでいた。 ( No.8 )
- 日時: 2016/06/19 21:31
- 名前: ぱる+りんご (ID: Q.pGZPl6)
第四話 親
時は少し進んで、夕食。
「勉強は進んでる?ちゃんと課題やってる?」
また始まる、どうしようもないくらい、どうでもいい問いかけ。
「授業もちゃんときかないとダメよ。特に社会。あんた、社会悪いんだから先生によく質問するのよ?」
うるせー。勝手に決めつけんな。
「特に今回の定期テストは、成績にも大きく関係してくるし。ーーちょっと、聞いてんの?」
うるせー。うるせー。黙ってろ、クソババア。
「はあ…」
大きくわざとらしいため息。きもい。
「あのね…!あなた受験生って自覚あるの…!?あんたがそんなんだから、お母さん心配でたまんないのよ?」
あーーー。うざいなあ、うるせえなあ。消えればいいのに。消えろ、消えろ消えろ消えろ死ね。
「ちょっと、優!!それが親に対する態度なの!?ちゃんとお母さんの目をみて話しをききなさい!大事なことなのよ!?」
「ーーっるっせぇよ!!」
机をたたきつける。机の上においてあったウスターソースが倒れた。
イライラで世界がぐるぐる回っている。視界が歪む。きもちわるい。
「成績がどうとか…!勉強がどうだとか…!!」
母さんの顔はみれない。見たくない。
ぐるぐる、ぐるぐる……
「そんなの…!親の資格でもなんでもねぇじゃんか…ッ!!!オレの…オレだけの人生だ!!!お前のいいなりになってたまるか!!」
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。
ああ、もうなにも分からない。
なにがただしい?なにがまちがってる?なにがいけなかった?
だれか、こたえをおしえて。
勢いのまま、二階の部屋へかけこんだ。
母さんの作ってくれていた夕食は、その日はもう食べなかった。
- Re: 不老不死の彼女はただひたすらに世界平和を望んでいた。 ( No.9 )
- 日時: 2016/07/09 16:56
- 名前: ぱる+りんご (ID: Q.pGZPl6)
第五話 名前
「にゃー。にゃにゃあ、にー」
オレの手に、シロザカナがじゃれついてくる。
ふわふわで、暖かくて、丸っこい。
「その白と灰色、すっごく可愛い」
白いワンピースを揺らして、ソイツは当たり前のようにオレの横にしゃがみこんだ。
「……この前」
「ん?」
「消えた、よな?」
「うん」
「ーー」
ソイツが手のひらを広げると、シロザカナは大喜び。
小さい体をこれでもかというほどに擦り付ける。
「何者なの?」
「不老不死です」
「そっか」
「うん!」
「名前は?」
「ーー。ーーなんでも良いよ?」
そう言って、ソイツはふわりと笑う。
つまりそれは、名前をつけて、ということだろうか。
「じゃあ、つい子」
「むむ、どうして?」
「ツインテールじゃん」
オレが、ソイツーーつい子の若草色の髪にふれると、「そっかあ!」と嬉しそうに笑った。
「母さんが、嫌いなんだ」
悩みを打ち明けていた。
つい子に話したって、解決するわけないのに。
こんなお気楽な不老不死なんかに、話したって。
「私ね、お母様に、大嫌いって言ったの」
ふうん、でも、そっかあ、でも、アドバイスでも批判でもなかった。
「そしたらね、もう二度と会えなかった。会えたけど、お母様は、もうそこにはいなかった」
死んでいた、ということだろうか。
「なんか、ごめーー
「ちゃんと向き合って、お母さんの心を知ろうとして、それで、自分のことも伝えるの。そしたら、きっと、大丈夫。ーー私はもう、だめだったけど」
強い風が吹く。
「頑張って」
耳元でそう聞こえた。
「分かった」
そう答えたら、微かな笑みを残して、つい子は消えた。
オレは立ち上がって、走り出す。
母さんのとこに、行かないと。
- Re: 不老不死の彼女はただひたすらに世界平和を望んでいた。 ( No.10 )
- 日時: 2016/07/14 21:06
- 名前: ぱる+りんご (ID: Q.pGZPl6)
第六話 不老不死に感謝を込めて
「ごめん。でもオレ、もう大丈夫だから。もうとっくに、子供は卒業したんだ」
そう言うと、母さんはやっぱり心配そうな顔をした。
この顔を笑顔に変えられるくらいに立派な大人になりたいだなんて、柄にもないことを思ってみたり。
+++
次の日。
二瀬さんに想いを伝えた。
すると彼女は、とても悲しげな顔をした。
オレに好かれるのがそんなに嫌だったのかーー。パニックに陥っていると、
「ごめんね。気持ちは、ほんとに、すっごく嬉しい。ーーでも、ダメなの。ほんとにごめんなさい」
一房の三つ編みが揺れる。
二瀬さんの笑顔がみれるなら、一番じゃなくてもいいや。
「うん。こっちこそ、ちゃんと向き合ってくれて、ありがとう」
+++
それから、時間は風のように過ぎ去り、オレは高校生になった。
つい子と会うことはなかった。
それでも、またどこかでシロツメクサをもぐもぐ食べてるんじゃないかって、そう思う。
大切なことを教えてくれた、不老不死の彼女に感謝を込めて。
オレは空を仰ぎ見た。