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Re: 恋花火—ひと夏の恋— ( No.23 )
日時: 2017/04/02 21:40
名前: Aika (ID: a6i4.RaK)

Episode20:思わせぶりの彼。





彼のぬくもりも、匂いも、声も———。
全てが懐かしくて愛おしくて…

もう貴方のもとに戻れないとわかっていても
やっぱり、好きだと感じてしまう。


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誰もいない放課後の夕日が差し込む教室の中で。
聞こえるのは窓から入る風でカーテンが揺れる音だけ。

——何してるんだろう、 わたし。

本当は突き放さなくちゃいけない。
蛍にはあの夏の夜にはっきりとフラれたんだから。
甘えちゃいけない、 のに。

なのに、 どうしてですか?





「———どう?少しは落ち着いた??」

どうして、 こんなに蛍はわたしに優しくするの??

好きじゃないんだったら、放っておいて帰ればいいじゃん。
無視すればいいじゃん。
じゃないと、 わたし。



いつまでたっても
貴方のこと、 好きなままじゃんか——。




「うん、 ありがと。蛍」




涙は引っ込んだけど。
胸に残ったのは、 わけのわからないモヤモヤとした感情。

今の蛍は何を考えてるのか全く分からない。

蛍はわたしから離れると
安心したような顔でわたしの頭をポンポンと叩きながら
口を開いた。

「そっか。なら、よかった」

昔と変わらない、 笑顔を向ける彼に。
わたしの鼓動はうるさいぐらいに高鳴る。
——顔が熱いのも、 赤いのも。
きっと、 窓から入る夕日のせいだ。

わたしは、 蛍から視線を背けて。
ぶっきらぼうに言う。

「じゃあっ…わたし、日誌も書き終わったしそろそろ帰るわ」

これ以上、 こんな場所で二人っきりでいたら
気が変になる。きっと、冷静なんかじゃいられなくなる。

スクールバッグを肩にかけて逃げるように教室の扉のほうへ向かった。

「あっ…おいっ…」

呼び止める蛍の声も聞こえないふりをした。
だって、 ここで立ち止まってしまったら。

きっと、 わたしはあなたを諦められない。
前に進めない。





だからっ、 ごめんね。蛍。







わたしは蛍を一人、取り残して。
放課後の教室から去っていった。



「何してるんだろうな、 俺は」


一人、 そう呟いた蛍の声を知らずに。
わたしは誰もいない廊下をひたすらと駆けていった———。