コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 恋花火—ひと夏の恋— ( No.25 )
日時: 2017/08/13 23:55
名前: Aika (ID: CW8ddSGz)

Episode22:積み上げてきた関係。




報われない想いほど
ひどく、 辛い感情なんてない———。
それなら、諦めてしまえばいい。
誰だってきっと、そう思うだろう。

だけど、現実はそう簡単になんか回ってくれなくて。
諦めようとすればするほど、 貴方のことばかり考えて…もっと好きになってしまう。


*******************************************************


■青葉side■


去っていく輝の背中を…あたしは追いかけることもできず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
思考も完全に停止している状態だった。

——あたし、 今…輝にキスされた?

事の状況を把握し始めたのはそれから数分後ぐらいで。徐々に冷静になるにつれて顔が熱くなっていくのがわかった。

重なった唇の感覚も力強く引っ張られた腕の感覚も…まだ、かすかに残っていて。
現実のことだと言わんばかりに主張しているようにも感じる。

「ほんっと…やめてほしい」

爽のことで頭がいっぱいなときに。
こんなことするなんて。

「輝と…明日からどんな顔して会えばいいの?」



■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■



それからどこをどう歩いて帰って来たのか、思い出せない。そんな上の空状態のまま帰宅した。

「おー!青葉おかえり。遅かったな今日」
「ただいま。まぁ、部活が長引いて…あれ?お母さんとお父さんは?」

家のなかには爽の1人しかいなくて。
気になって話の途中で聞くと。

「何言ってるんだよ、青葉。今日から二人で旅行って言ってただろ。一泊二日で」

その言葉に衝撃が走った。

「はぁ!?マジで!??」
「うっせーな、大声出すなよ。前から言ってたぞー!知らなかったのか?」
「いや、今日初めて聞いたけど」
「あー、まぁ…青葉はいつも部活で家にいねーことの方が多かったから知らなくてもおかしくねぇか」

1人でそう言って納得している爽。
いや…大声だして驚いたのは、旅行にいくことじゃなくて。年頃の血の繋がりのない姉弟を置いていく親ってどうなのってところで反応したんだけど。
でも、まぁ。爽のやつは普段と何も変わらないし。
あたしばっかりが意識しても馬鹿みたいだし何も考えずに過ごそう。うん。

今夜だけ耐えれば明日には帰ってくるわけだしね。

「飯、食うか?」
「あー!食べる」

爽にむかって答えると、あたしの分のご飯をレンジで温め直して出してくれた。なんか…こういうちょっとした優しさにドキドキしちゃうんだよな。

「ありがと」
「おー。じゃあ、俺は風呂入ってこようかな」

そう言い残して。爽はリビングから出ていきお風呂場へと向かっていった。
爽がいなくなって、ほっとするあたし。

爽は、きっと…あたしと二人っきりでも何も意識なんかしてないんだろうな。
そう考えると少しだけ胸が痛む。わかってたことなのに。

「あたしばっかり意識して…ほんとバカみたいだわ」

それから何も考えないようにして、黙々と夕飯を食べ進めた。食べ終えてから洗い物をした。そんな一通りの家事を終えてから、ソファで横になっていると———。

瞼が徐々に重くなって。それから閉じられる。

夢の中に出てきたのは———。



『青葉———』



誰?
あたしの名前を呼ぶのは、 誰の声?





あたしの方へとその声の主は手を差し出す。
その手を取るようにあたしも手を伸ばしたけど。
掴めずにその姿は消えてしまった。


———嫌だ、 待って。
あたしを置いてけぼりにしないで。



「っ…爽———!」

そこで目を開けると。

「うわっ…びっくりしたー」

すぐ近くに爽の顔があって。とっさに握ってしまったのかあたしの手のなかには爽の服の裾の部分が入っている。

「そ…う…」

目にはなぜか涙がたまっていて。
今にも泣き出しそうな顔をしている。
なんで、 悲しくもないのに涙なんか出てるんだろう。

「ごめっ…すぐ離す、からっ…わっ!」
「えっ…」
ソファから起き上がって裾の部分を離すつもりが謝って強くつかんでしまい。立ち上がりかけていたバランスが崩れて、爽を間違えて引き寄せてしまった。そのせいで爽があたしの上に馬乗りになる形になってしまった。

「えっと…」

この状況は…ヤバイのではないのかな?

近くにある爽の顔。
お風呂上がりで濡れた髪。かすかに香るシャンプーの匂い。唇までは、ほんのわずかで触れる距離。



「青葉———」



不意に名前を呼ばれると。



彼は小さく呟いた。



「ごめん」







それから、 唇にそっと触れたのは。










愛しい貴方の唇———。