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Re: 恋花火—ひと夏の恋— ( No.9 )
日時: 2016/08/02 23:14
名前: Aika (ID: qMXr7W56)

Episode8:夏の夜、動き出す恋。





わたしは、 いつも蛍のことしか頭になくて
周りの人の…一番近くにいた
貴方の想いに…何も気づけなかった———。



□ ■ □ ■ □ ■ □



夏祭り当日。
浴衣の着付けに時間がかかって
わたしは、小走りで待ち合わせの場所に向かっていた。

息を切らしながら
待ち合わせ場所に着くと
そこには、七夏以外、みんな揃っていて笑顔で手を振る姿が視界に映った。

わたしは、みんなの元へ寄っていって
頭を下げて謝った。

「ごめん、遅れた!!思ったより着付けに時間かかっちゃって———」
「いいよ、いいよー!!うちらも今来たところだし」
「それで、七夏は??LINEだとみんないるって聞いたのに——」
「あー、七夏はトイレいってるから先、まわってていいよって」
「ふーん、そうなんだ」

そんなやりとりをしていると、
青葉が明るいテンションで話を切り出した。

「じゃあ、空も来たことだしどっからまわる??」
「あー、腹へったしなんか食いたい」
「あ!!あたし、たこ焼き食べたーい」
「おー、いいね!!行こうぜー」

青葉と輝のそんな会話にわたしがクスッと笑っていると海里がわたしに耳元でこそっと言った。

「あの二人さぁ…結構良い感じだよな」

あ…やっぱり、わたし以外にもそう感じている人がいたんだ。
うん、確かにあの二人は怪しいな。
実際のところはお互いにどう思ってるのかよく、分かんないけど。

「だよね。…恋人同士みたい」

6個入りのたこ焼きを
二人で分けあっている姿を目にしながら
素直にそう感じた。

———『空っ!!』

瞬間。
ここには、いないはずの声が頭に響いて。
あの日の夏の思い出が頭の中にフラッシュバックする。

今、 ここに…貴方が
蛍が隣にいたら。


もっと…楽しいのに———。



「——ら、空っ!!!!」
「えっ…」


気がつくと。
心配そうにわたしの顔を覗きこむ海里の姿があった。


「どうしたんだよ、泣きそうな顔して」

いつもより、低い声のトーンで
そう言う海里に
わたしは、不覚にもドキッとした。

「ううん、何でもない。ごめん、少しだけ一人になってもいいかな??」

そう自分で聞いておきながら
わたしは、海里の返事を聞かないまま
捲し立てるように続きの言葉を紡いだ。

「海里はその…もうすぐ七夏が来ると思うから一緒にまわってあげな。わたしは一人で大丈夫なので!!」
「おいっ!!空っ!!!!」

後ろで、呼び止める海里の声を無視して。
わたしは、ただひたすらに無我夢中でその場から走り去った。

やっぱり、わたしはここに来るべきじゃなかった。
思い出してしまう。
ざわざわとした喧騒。
たくさんの人混み。
香ばしい屋台の匂い。
そして——。


———パァンっ…



夜空に咲く…花火の音。






嫌でも思い出す。

にじむ涙を手でぬぐいながら
我に返った。
——嫌…??嫌な…思い出、なのかな。


そうじゃない。
蛍との思い出はどれも楽しくて、一分一秒すごく大切でかけがえのない時間で——。

それなのに。

なんで。



こんなにも、 悲しい気持ちになるの——??







「空——」






振り返ると。
息を切らしたまま、真っ直ぐな瞳でわたしを見つめる海里がいた。






わざわざ、 追いかけてきてくれた??
わたしなんかのために———…。





「なんでっ…一人になりたいって言ったのに」

七夏と、いてあげなって言ったのに。
それなのに…どうして。



すると。
海里は髪の毛をかきむしりながら
そっぽを向いたまま照れ臭そうに言葉を紡いだ。




「なんでって…泣いてる女、放っておけねーだろ」

その優しさが。
わたしには、痛かった——。
それは、七夏への罪悪感だ。
だから、このまま…海里と二人でいるのは駄目だ。

「あの…海里。わたしは大丈夫だから七夏のところ、行ってあげて」
「お前…さっきから七夏と俺を二人っきりにしようとしてね??なんで??」

えっ…なんか、バレてる。
わたしはとりあえず、ごまかした。

「えっと、海里は七夏と一緒にいた方が楽しいんじゃないかなーと思いまして」

そう言うと。
海里が横で今まで聞いたことないくらいの
大きなため息を吐いていた。
あれ?わたし、何か変なことを言ったのだろうか。

「お前さぁ…それ、本気で言ってる??」
「うん」
「だよなー…空だもんな」

なんか、今…バカにされた気がする。

「もういいや。この際だからはっきり言うわ」







夜空に花火が彩るなか。
貴方はわたしの耳元でそっと呟いた。







「———俺は…空が好きだ」