コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ビスケット便利屋__何でもお申し付け下さいまし!__ ( No.5 )
- 日時: 2016/06/29 22:59
- 名前: ミカズキ ◆Vt/gXKM8AI (ID: StvfWq.v)
「…で、咲?それはそうとして、どうしていきなりそんなこと思いついたの?」
仕切り直すように松本さんが桃瀬に訊く。
「そんなの…お金が欲しいからに決まってるでしょ。
私、ノートパソコンが欲しいのよね」
桃瀬は少しだけ言いよどんで言った。
「で?みんな協力してくれるわよね?」
が、その後間髪入れず僕らを睨みつけた。
その迫力に押されて、僕らは思わず頷いてしまった。
まあ、みんなお小遣いは欲しいだろうし、こんな中学生に大層な仕事を任せる人なんていないだろう。
だから、別にくってかかるつもりはないけどね。
「じゃあ、決まり!実はね、便利屋の名前も決めてあるの!」
「へええ!なになに!?」
「『ビスケット便利屋』。どう?」
「ダッサ!なんだそれ!?」
綾瀬が思い切り顔をしかめる。
確かになんだよビスケットって。
絶対適当に決めただろ…
「うるさい!どうでもいいでしょ?」
桃瀬はムキになり、顔を真っ赤にして言い返している。
そのとき、ずっと持ってきた雑誌を読んでいた槇が、ふと顔を上げた。
「えっ、ねぇねぇ何が決まったの?全然聞いてなかった!」
「大丈夫よ槇さん。大したことじゃなかったから」
松本さんがなだめて、みんなで笑ったところで、その日はお開きとなった。
*
それから、学校で宣伝したり、宣伝の張り紙をしたり、細々と活動をした。
もっとも、真面目にやっていたのは僕と咲と胡桃と秋で、拓海と琴音はサボってばかりだったが。
ああ、そうそう、なんやかんやで僕らは名前で呼び合うことになったのだ。
ある日、咲が『苗字呼びってなんだか仲間って感じしないでしょ。仮にも同じ便利屋の仲間なんだから』と言い出したから。
最初こそ抵抗はあったが、みんなが普通に呼んでくるのでいつの間にか定着してしまった。
で、僕らの努力は実を結び、少しずつではあるが仕事が来るようになった。
…まあ、子守だったり、迷い猫探しだったり、学校の資料のとじ込みであったり、雑用だらけだけど。
当たり前だけど、そんなにお金だってもらえない。
でも、優しい胡桃、活発な拓海、穏やかな秋、少し抜けている琴音、そして自己中心的な咲。
みんなと仕事をするのは、いらいらするときはあるけどとても楽しい。
…他のみんなはどう思ってるかしらないけど、さ。
*
そして、夏休みになった。
器械体操を習っている拓海以外は、夏休みといっても特にやることもないので、毎日のように僕の部屋でだらけている。
別に僕の両親は共働きだし、いいんだけどさ…
で、今日は拓海と桃瀬以外の3人が僕の部屋にいる。
とはいっても、今は特に仕事もなく、暇だ。
みんな思い思いにダラダラしている。
「えーっ!? ねえみんな聞いて!!」
「なんだい琴音! …びっくりするだろ」
ずっと秋に寄りかかって雑誌を読んでいた琴音が、素っ頓狂な声を上げた。
可哀想に、一番近くにいた秋が珍しく声を荒らげてビックリしている。
が、まだ琴音は興奮したようにまくし立てている。
「わーっ、あーもう信じらんない!!琴音、あの子絶対売れないと思ってたのに!!」
「どういうこと?」
「あのね__月野ウサギと、夏目杏奈の2人で今度の月9の主役になったんですって。
あの月野ウサギと、あの夏目杏奈が、よ!?
ありえないでしょ…!?」
月野ウサギと…夏目杏奈?
月野ウサギなら知っている。
今大人気の女優で、今TVをつければ大体彼女の顔がドアップになってるからね。
でも__
「夏目杏奈?だあれそれ」
「僕も知らない」
胡桃が首を傾げたので、僕も便乗。
夏目杏奈って誰?聞いたこともない。
琴音は大きな目を三角にして喚いた。
「まあ、知らなくて当然よ。だって、全然売れてない女優なんだもの!!」
「へぇ…で、そのウサギちゃんと杏奈ちゃんがドラマの主役になったのね?」
「そうなの、ホントありえない!だって夏目杏奈って言ったらホントに冴えない人なんだから!顔色が悪くって、目が小さくて__そりゃあ、演技はピカイチかもしれないけど…」
「まあまあ、落ち着いてよ。もしかしたらその演技力をかわれたのかもしれないでしょ」
僕は琴音が投げ出した雑誌を眺めた。
なるほど、琴音が騒ぐのも分かる気がする。
その女優は、とても美人とはいえなかった。
なんだかパッとしなくて、月野ウサギと並ぶと少し可哀想なくらいに。
「へぇ、『月野ウサギが猛プッシュ、今話題の夏目杏奈』?」
いつの間にかその雑誌を覗き込んでいた秋が呟いた。
全然気づかなかったから若干動揺したけど、平然と答える。
「そうみたいだね。とにかく月野ウサギサイドが推したって__」
「なんでだろうね?」
「演技力をかったんじゃないの?ほら、胡桃も言ってたろ」
肩を竦めるが、秋は納得していないようだった。
と、突然ドアが開いた。
あんまり開け方が荒かったので、琴音と胡桃がきゃあと悲鳴をあげる。
「ねぇ__聞いて!いい仕事が見つかったの!」
__息を切らした咲が、どかどかと部屋に入ってきた。