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Re: 『R−18』 ( No.4 )
日時: 2016/10/15 12:00
名前: 彩都 (ID: HijqWNdI)  

 そして島の海沿いを一周するのも終盤を迎えた頃、目の前に一人の少女が構えを作りながら立っていた、簡単に言えばクンフーや格闘技での構え、この構えはレスリングに良く似た構えだった、そしてそんな構えをしているのは自分でも良く知る少女である、その少女はアキナだった。
「…………」
 アキナは無言のまま十夜に向かって右手を前に出す、そして深呼吸をした後、腰を低く落とし、右足を思いっきり踏み込んで、前へ移動する、更にアキナのあまりの早さに十夜は少し判断を鈍ってしまう、そう、前へ移動してきたアキナの右手をそのまま両手で受け止めてしまったのだ、そして十夜のその判断で出来た隙をアキナは見逃さなかった、アキナはそのまま空いた左手で指先を下にして、腰を落として、十夜の空いた鳩尾に思いっきり左手の掌底を打ち込んだ、嗚咽、あまりにも重い一撃が十夜の体の中を駆け巡る、痛い、いや、重い、そんな痛覚と感覚が十夜の脳内に現れる、そして掌底の衝撃で十夜の体は少し浮いてしまう、そして空中に浮いた十夜は少しずつアキナから離れていく、両手で防いだアキナの右手も自分の両手から離れていく──そしてカランッ! と十夜がアキナの右手を掴む前に持っていた木製の石の槍が落ちる音がする、そしてその石の槍が落ちた音が聞こえた瞬間に目の前に居たアキナの姿は視認出来なくなる、えっ? アキナは何処へ行った──その瞬間、背中から謎の横殴りの風を感じる、まさか、まさかな? そんな筈は無い、『アキナが自分の後ろに居る』事等有り得ない! 十夜はそう思いながらゆっくりと頭を後ろに傾ける、十夜の背後には右手を後ろに縮めたアキナが居た、そしてアキナは十夜を左手で攻撃した時の様に腰をもう一度落とし、一気に右手で十夜の背中を貫く様に掌底を打ち込んだ──ドゴォッ! と今迄に感じた事の無い衝撃が背中に走る、十夜は我慢出来ずに口から唾液、唾、胃液を少しだけ吐き出してしまった、とんでもない衝撃が十夜の体の中で暴れる、こんなにアキナは強かったっけ……? 十夜はそう思いながら前へと吹っ飛んで行った、そして前に吹っ飛んだまま十夜は海にダイブしてしまう、ただ単に剣で刺されたり、槍で刺される事はあっても、ただの素手、特に掌底だけでこれだけ自分のダメージを与える事が出来るのか、十夜はそう思いながら何とか気を失わずに一人で泳いで陸地に上がる、そして大きく深呼吸をして、アキナが来るのを待つ、するとぴょんぴょんと跳びながらアキナが十夜の前に現れる、完全に嬉しそうな顔をしている。
 そして十夜はアキナに対して、アキナの頭を掴んで、頭突きを与える、ゴォォォン、と頭の中で衝撃がリピートする、十夜もアキナも頭の中で衝撃が走る、そして二人は地面に四つん這いになって、頭の痛みに対し、悶絶する、頭を抱えている内に、十夜は一足先に頭の痛みが無くなる、そして十夜はアキナに対して半分怒りながら言う。
「いきなり何攻撃してんだ!? 死ぬかと思ったぞ、掌底の痛みで!」
 十夜がそう言うとアキナが簡単に言う。
「島……育ちは、体が丈夫だから……死に難いけどね、いたたたたた……」
「いや、そうなんだけれど……って違うよ! 何で辻斬りみたいな事をしたんだよ!? 危うく海の中で溺れる所だったぞ!?」
十夜がそう言うとアキナはシュンとしなしなになった野菜みたいに萎(しお)れる、そしてアキナは小さな声で言う。
「……だって、試したかったんだもん、自分の力を──そしてお兄ちゃんに特訓を教えて貰おうと、私だって戦える事を証明したかったんだもん!」
 アキナはそう言いながら両手をガッツポーズしながら前屈みになる、はぁー、と十夜は呆れて、何も言えなかったが、一つ『疑問』が生じた、その『疑問』を十夜はアキナに向かって言う。
「なぁ、アキナ、少し聞いて良いか?」
「ん? 何お兄ちゃん?」
「ん? いやさぁ、『誰から今さっき俺に攻撃した時みたいな行動』を教えてもらったんだ? 何時の間に腰を落として攻撃とか、俺の後ろに回って掌底とかさぁ?」
 十夜が不思議そうに言うとアキナは頷きながら言う。
「うんうん、やっぱりお兄ちゃんも気になるよね、私にこの行動、基、戦闘方法を教えてくれた人を? それは簡単だよ、家長『ユキタニ』だよ、ユキタニのお姉ちゃんが私にこの闘い方を教えてくれたんだ、『アキナは速さが自慢だ、相手の隙を突いて、思いっきり重い攻撃をしたら勝てるだろう』って、んでもって、腰を落としたり、掌底とかを教えてもらったよ、エヘン! 凄いでしょ!? 褒めて褒めてー?」
 アキナは仁王立ちのまま顔を上に上げて両手を腰に当て、『自分は偉い!』みたいなポーズを取る、確かにあの攻撃は驚異的な威力で、もう少し忍者みたいな隠密系になった方が強い、と考えるが──アキナにとっては『前に出ないのは戦闘では無い』とか言いそうだ、影で攻撃する者、も少しは格好良いとは思えるが、アキナには隠しておこう、十夜はそう思いながらアキナに攻撃された場所に向かい、自分の石の槍を拾う、そしてアキナに言う。
「さぁ、アキナ、『自宅』に帰ろうか、ご飯を食べよう」
 十夜の言葉に対し、アキナは言う。
「うん、分かった!」
 アキナはそう言って、十夜の隣に移動して一緒に歩く──さぁ、次のご飯は何だろうな、十夜はそう思いながら、二人の歩幅は一緒の大きさになっていく──十夜は不意に空を見上げる、海に浮かぶ夕焼けが綺麗だった。