コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 夏祭りが終わりの夜に [短編集 お題募集] ( No.3 )
- 日時: 2016/07/18 19:20
- 名前: 夏目 織 ◆wXeoWvpbbM (ID: vstNT7v3)
- 参照: ちほりん→とらじ、澪羽、*織*→夏目 織、リザ、桜里
□ 向日葵の下には死体が埋まっている
灼熱の太陽の下、あなたは小さく呟いた。
「それを、見つけてほしいんだ」
そんなの自分でやれば良いのに。そんな気持ちを押し殺して、私は笑顔で良いよと言う。あぁ、とてもめんどくさい。こんな暑い中、そんなもののために時間を使わなきゃいけないなんて。
□ □
9月2日。始業式。夏休みは終わったけれど蒸し暑い中出席した。式の途中で何人か倒れたのに式を最後までやるなんて拷問だ。
家に帰って着替えると、昨日、圭が言ってた場所に私は向かう。学校の近くの向日葵畑、そこが待ち合わせ場所だ。
「来てくれてありがとう。……それじゃあ、よろしくね」
向日葵畑に着くなり、圭はそう言いながら去っていった。いったい何がしたかったのか。圭がいた場所を見つめると膨らんだビニール袋が置かれていた。中を見るとシャベルと軍手が入ってる。地面には指で書かれたであろう宝の地図などによくある×印。ーーつまり、ここを掘れと。
ーー向日葵の下には、死体が埋まっている。夏祭りの日、圭は言った。そのとき意味は分からなかったけど、今は分かる。軍手をしてスコップで向日葵の下を掘っていくと、ビニールらしきものが出てきた。さらに掘り進めていくと、それが袋だと気づく。金魚救いで、もらえる袋。
唾を飲み込んで袋に手をかける。中に入っていたのは白い紙。それと、死体。金魚の死体だ。
金魚の死体に触らないよう、私は折り畳まれた紙を開く。紙は二枚あって、黒のペンで書かれていた。
”秘密基地”
一枚目には、たったそれだけ。何を伝えたいのか分からない。
”さようなら”
二枚目も、たったこれだけ。
秘密基地? さようなら? 全く意味が分からない。けど、秘密基地に何か意味があるのかな……。
紙をポケットに入れて、スコップを雑に置き私は走り出した。
途中でサンダルが脱げそうになったり、汗が飛び散ったりするけど気にしない。私は”秘密基地”を目指す。
「っ……はぁっ……はぁっ……!!」
自分の運動不足とこの気温が憎い。”秘密基地”についた頃にはもう汗だくになっていた。息も、荒い。
家から少し離れた草むらの中に、私と圭の秘密基地はある。空洞みたいになっていて、上に上ると夏祭りの花火がよく見えるんだよね。毎年、二人でここで見てたっけ。綺麗だったなぁ。
久しぶりにここに来たこともあり、上に上って景色を眺めているとガサガサと草むらの方から音がした。振り返ってみると、そこには圭の姿がある。
「本当に、来てくれたんだ」
そう言いながら彼は私の方に進んでくる。あと一歩で私と重なるところまで来るとピタリと足を止め、下を向く。
「千夏」
「……何?」
名前を呼ばれて、頭にクエスチョンマークを浮かべながら私は答える。圭は、下を向いたまま話続けた。
「……俺、さ……引っ越すんだ」
ゆっくりと、途切れ途切れに圭は言う。ーーあぁ、そういえば今日の始業式に出席してなかったっけ。
「今日の夜が最後になる」
今日の夜引っ越すのだと、彼は言った。突然の出来事に私は返事をせず、ただ、ずっと、地面を見つめる。
「最後に、聞いてほしいんだ。ーー俺、千夏が好きだ」
えっ、突然の圭の言葉に私は思わず目を見開いた。
「ただ、それだけ。ーーそれじゃあ」
じゃりっ、と石が擦れる音がして、私は思わず顔をあげる。待って、ただそう言いたかった。
けど、もう圭の姿はなかった。跡形もなく、消えていた。
何で、という疑問の前に2年前の夏を思い出す。8月20日、毎年圭と行ってた町のお祭り。
「……あれ」
よく考えて、思い出せ。2年前の夏を。
帰り、私たちは何をした? 何をして帰った? 誰と帰った? 家まで私は誰といた?
ーー誰も、いない。私は一人で帰ってた。帰り道、毎年圭と帰ってたけどその日はーー
「千夏」
ほら、遠くで圭の声が聞こえる。
「おいで」
違う。圭じゃない。
「一緒にいよう」
嫌だ。いたくない。
「どうして?」
だって、だってー
圭は2年前にーー
いなく、なっちゃったんだよ。
ーー向日葵の下には死体が埋まっている。
二年前は、謎だった言葉。
死体は埋まってなんかいなかった。金魚も手紙も埋まっていなかった。そこに埋まっていたのは、圭が二年前持ってた金魚の置物ーー。
二年前の夏祭りの夜、圭は消えた。いや、死んだ。花火のように闇に消えた。
もう彼は戻ってこない。それは、一生。
圭がいなくなってから二年目の夏、私は未だに忘れない。いや、忘れられない。
私たちに突っ込んできたトラック。その一瞬の隙に私を横に押し倒して、私の身代わりになった圭。
その夏を、その夜を、その瞬間を、私は一生忘れない。
圭がいなくなってから二年目の夏。向日葵の下には死体が埋まっている。