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Re: 恋する乙女。 【短編集 コメント・リクエスト募集中】 ( No.28 )
日時: 2016/08/03 13:02
名前: ももたん ◆hjAE94JkIU (ID: yd06hlbJ)

*夏の大三角*

ベガ、アルタイル、デネブ。
この3つの星が作り上げる形のことを、人は「夏の大三角」と呼ぶ。
今日も俺は、それを見ながら、悲しくも、いい経験となったあの日を思いだす。





中2の夏。

俺には、初めて好きな奴ができた。隣の席の、鳴無琴音。
あいつは、名字が「おとなし」のくせに、全然大人しくない。寧ろ、少しうるさいくらいだった。
けど、俺はそんな無駄に明るいところに、ヒマワリのような…いや、太陽のようなところに惹かれた。

ただ、初恋にしてライバルがいた。
そいつの名前は井上翔。
悔しいかな、ファッションセンスはそこらの男子よりずば抜けて良く、成績優秀、品行方正。おまけにイケメン。
あんな「ザ・女子の理想」な奴に、誰が勝てるんだか。

確実に、俺とあいつだったら、あいつの方がいろいろと勝っているだろう。

ただ、その時の俺はあきらめなかったらしく、鳴無にものすごくアピールをしていた。

俺は、井上が鳴無のことを好きなことを知っていても、鳴無の好きな奴は知らなかった。
…まず、鳴無に好きな奴がいるかどうかも。





そんなある日、井上が鳴無に話しかけ、そのあと二人一緒に教室から出ていった。
気になった俺は、二人の後をついていった。いわゆる「尾行」だ。

二人が向かったのは屋上だった。
流石に俺もここまで来てわかった。
井上は「告白」するつもりなのだ。

俺は、屋上に飛び出てやろうかと思ったが、本当は告白じゃなかった場合の上手いいいわけが思いつかなかったため、屋上に出る扉をほんの少し開けて、扉の裏から見守ることにした。
もちろん、告白だった場合は飛び出て行くつもりで。

そして、井上の口から飛び出た言葉は…「好きです」という言葉だった。
俺は躊躇せずに扉から屋上へと飛び出し、「ちょっと待ったー!」と叫んだ。

二人は、ものすごく驚いた顔で俺のほうを見る。
その数秒後、井上が小さく舌打ちをし、俺から顔を背けた。

ふーん、あいつみたいなやつも舌打ちをするのか。
そんなことを思いながらも、俺は鳴無のほうへ歩き出す。

「いきなり、ごめん。でも、俺言いたいことがあるんだ」

「えっと…何?」

その言葉は、「ほかに聞きたいことはたくさんあるけど、理解がついていかない」というようだった。

「俺も、鳴無のことが好きなんだ」

「っえ…!」

鳴無が声をあげるのと同時に、井上もこっちを見るのが分かった。
その目は驚きそのものだったが、すぐにいつものキリっとした目つきにもどし、

「…そうか、僕と君はライバルってことなんだね。じゃあ鳴無さん」

「は、はい…!」

「僕と彼、どちらがいいか返事を、今、この場でお願いできる?どちらも無理だったら無理でいいけど」

「わ、分かりました…」

動揺を隠しきれていない鳴無。
動揺が、普段酷ど使わない敬語に表れている。

「えっと…」

井上と俺が、同時につばを飲み込む。

「…ごめんなさい。私…井上君のことが好きでした!こちらこそお願いします…っ」

グラ…

その時、俺の中で何かが大きく揺れ動いた。

「ご…ごめん。俺、邪魔かな。じゃ」

そういって、屋上から姿を消し、階段を駆け下りて、トイレの個室に飛び込む。
泣きたい…わけじゃない。ただ、ただただショックで、辛くて…苦しい。

「はは…。フラれるって、こーゆーことなんだなぁ…」

結局そのあとは、精神的に来てしまっているせいか立っていられず、一度教室に戻り、先生に声をかけ、保健室に行って…家に帰ることになった。

教室に言ったとき、おれより一足先に戻っていた鳴無が、何か言いたそうな目で見てきたけど、目は合わせなかった。
井上は…知らない。見たくもない。

…別に、あいつが悪いわけじゃないけど。





その日の夜、俺は晴れた夜空の下に寝ころび、夏の大三角を見た。


…今日の出来事を、3つの星と星を結ぶ線に重ねながら。

END