コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 恋する乙女。 【短編集 コメント・リクエスト募集中】 ( No.52 )
- 日時: 2016/10/05 20:58
- 名前: ももたん ◆hjAE94JkIU (ID: nnuqNgn3)
- 参照: パソコン直りました。更新再開します。
*トレイン・ラブ*
つり革につかまり、電車に揺られ…ない。なにしろ満員電車なのだ。
次はいつも沢山の人が乗り降りする駅だ。端に移動しないと。
駅につき、電車が止まった時にできるだけ素早く人が乗り降りしていない方の扉に向かう。
と、つり革に掴まらないうちに電車が動いた。
わっと小さく声をあげる。幸い転ばなかった。誰かが支えてくれたのだ。
「ありがとうございます」
お礼を言い、支えてくれた男の人を見る。
身長高いな、大人の人?
…いや、違う。彼が来ているのは、私と同じ制服だ。
「え…南桜中?」
驚いてついタメ口で聞いてしまった。
「ああ、そうだよ。3年の、岩瀬」
「岩瀬…先輩。ありがとうございます」
「いいのいいの。女の子がけがしたら大変でしょ?」
学校近くの駅につくまで、私と先輩はずっと話していた。
乗る駅が一緒だったため、次の日も、またその次の日も。
1週間近く一緒に電車に乗り、話していたが、教室に向かおうとは思わなかった。私がそういうことは苦手だったからだ。
けれど、名前を教えあうだけで、クラス、電話番号やメールアドレスの交換もしなかった。
教えてもらえばよかった。そう思ったときは、もう遅かった。
***
今日も先輩、来なかったなぁ。
一人電車に揺られながら考える。
先週から、岩瀬先輩と駅で会わなくなった。
連絡手段はなく、一応約束では「来なかったら遅れないように普通に電車に乗って行く」となっていた。だからしょうがなく、一人で電車に乗りこんだ。
でも、流石に一週間以上も会わないというのはむずがゆい。どうしたんだろうか、熱?何か用事がある?それとも…。
いや、これはありえないし、考えたくない。やめよう。
***
「亮…全治一か月だってよ。足がかなりヤバいらしい」
「うわ、マジか…。大変だなぁ」
「今度見舞い行く?」
「ああ、そうだな。西桜病院だから、帰りながら途中の駅で降りていこーぜ」
帰り際、廊下ですれ違った先輩たちの会話を聞いて、はっとなった。
亮。岩瀬先輩の名前。先輩は足を全治一か月の大けがをして、いま入院している。その病院は、西桜病院。
そこまで脳内で考えがまとまった瞬間、私はもう走り出していた。
走りながら親にメールを送る。今日はいいんかいがあるから遅くなると適当な嘘を書いて。
いつもはそんなに長く感じない駅と駅の間も、凄く長く感じた。
西桜病院は、足を怪我した祖母が入院していたところだ。何度か見舞いに行ったことがある。
病院に最も近い駅につくと、私は一番に電車を降り、人をかき分け駆け出した。
赤信号何か待ってる暇があったらもう一つ先の信号に向かう。たぶんその方が時間はかかるけれど、止まっていたくなくて、ただただ走っていた。
***
受付の人に先輩の病室を聞き、怒られない程度に小走りでそこに向かう。
先輩の名前が書かれた札のついた扉を静かに開ける。
目に飛び込んできたのは、驚いた表情の先輩だった。…あ。私、ノックするの忘れた。
「なんで…ここに…」
先輩が、途切れ途切れにそう言う。
「廊下ですれ違った先輩たちが話しているのを聞いて、病院と入院理由を知ったんです。…全治一か月っていうのも」
そっかと先輩がつぶやく。
先輩は、足の大けがの理由を話してくれた。
先輩が最初に待ち合わせに来なかった日。あの日先輩は、寝坊をしてしまって、焦って駅に向かったらしい。
その時、曲がってくる自転車に気付かなくて、思いっきりぶつかってしまった。その時に、足に強い痛みが走ったという。
その時先輩は、ひねっただけだと思い、そのまま駅に向かったらしい。
けれど、途中でいつもは転ばないちょっとした段差で転び、これはヤバいと思って、親に連絡を入れてそのまま病院に行ったんだという。
「そしたら、骨折で」
初め先輩はそう告げられた時、すぐ治るだろうと思っていたらしい。けれど現実は重く、暗いもので、先輩は自棄になって一度暴れてしまい、結果全治するのに一か月もかかる大けがとなってしまったという。
「私、先輩の看病します。毎日学校帰りにここ寄って、話して、先輩を楽しませます。だから、絶対一か月で治しましょう」
気づくと私はそんなことを言っていた。きっと、先輩と早く電車で話したかったんだと思う。
「そう、だな。俺、そしたら頑張れる気がする」
「はい。絶対絶対、治しましょう」
その日から、私はほぼ毎日、病院へと足を運んだ。
そして。
その日から、私の初恋も始まった。
***
「あ、先輩!」
先輩は、一週間前に退院し、今日から学校にも来れるようになった。
すっかり元気になった先輩は、怪我をする前と何も変わらなく、明るい笑顔も、陽気な性格も何一つ変わらなかった。
その日から、先輩が一度も駅に来ない日はなかった。
そして1年たって。
卒業してしまった先輩との電車通学は、途中までだけど続いている。
先輩が進学した高校は、中学の二つ手前の駅の近くなのだ。
ちなみに、私の初恋は今だ続いている。片思いという形で。
でも、今日それは変わる。
さて、初恋はハッピーエンドとなるか、バッドエンドとなるか。
これは、私の電車でのトラブルからから始まった初恋のお話、トレイン・ラブ。
end