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- Re: 恋する乙女。 【短編集】 ( No.65 )
- 日時: 2016/10/11 18:23
- 名前: ももたん ◆hjAE94JkIU (ID: iJPfGsTj)
*君との場所は花畑*
いつだったか。
公園で倒れていた彼を見付け、助けた。
そして、何故だか、家にいれてしまった。
彼がもし、悪い人間だったら。
彼がもし、イタズラ好きの人間だったら。
彼がもし…別の人間だったら。
きっと、この場所を、私は知らなかった。
***
その日は雨だった。
(あれ…こんな時間に、こんな雨の日に、公園に…人?)
私は、ベンチに寝ころんでいた彼のもとに駆け寄った。
「あのう…大丈夫ですか?」
声をかけると、彼は「うう…」と小さくうめいて、バッととび起きた。
「えっ、あ、ぼ、僕のこと、ですか。今、心配してくれたの」
「え…。そう、ですが…?」
つい、変な口調になってしまった。
「ありがとうございます」
「いや、別に声かけただけなんで…。あの、こんな雨の中、何してるんですか?」
少し、不思議な彼に好奇心が沸いて、私は聞いてみた。
「ああ…。アパート、追い出されちゃって。家賃、払えなくて」
「え…」
聞いてはいけなかったのだろうか。ああ、好奇心で聞いてみようとか思うんじゃなかった。
「すみませ…知らなくて」
「あはは、知らないのは当然ですよ」
「あ…そっか」
「ああ、僕のことなんて心配しないでください。どうぞ、怪我しないようにお帰り下さい。雨、強くなりますよ?」
雨、強くなるんだ。
この人、帰る場所、ないんだよね。
「あの…私の家、来ます?」
***
「ああ…あったかい…!」
家にいれて彼が放った一言は、それだった。
きっと、暖房もつけられなかったんだろうな。
あったまる毛布とか、布団とかも。
「すみません、紅茶しかなくって」
「ああ、いいんです。僕、ハーブティー好きなので」
「あれ…私、ハーブティーって言いましたっけ?」
つい聞いてしまった。ポロリと本音が出たのだ。
「ああ…。僕、花とか植物だけは詳しくて、ハーブティーの香りとかはすぐわかっちゃうんですよ」
すみませんと言いながら、彼は笑って頭をかいていた。
「すごいですね、植物に詳しいんですか」
「はい。父が、生け花をよくするので、自然と匂いや名前を覚えたんです。好奇心で調べて、種類とか特徴とかも」
「わあ…すごい」
彼の意外な一面に驚いて、私は話しをたくさん聞きたくなった。
聞けば、彼は素直に色々と答えてくれる。
なんだかんだ言って、彼が家に来て三か月が立っていた。
彼はずっと、うちに居候してる。私が是非、って言ったから。
ある日彼は、電車で少し離れた場所に私を連れて行ってくれた。
「うわ…綺麗…!!」
駅から歩いて十数分。目の前に広がっていたのは、大きな花畑だった。
ピンク、オレンジ、黄色、緑、黄緑。
明るい色の花と葉が、とても素敵だった。
「僕、少し旅に出ようと思うんだ」
「え…?」
彼はそういった。
「いつまでも居候させてもらうわけにはいかないから。お金なら、前と違ってたくさんある」
アルバイト、掛け持ちして頑張ってたもんね。
「一年たったら。一年たったら、ここでまた会おう」
「いち、ねん」
「そう。来年の今日、時間は…昼の十二時丁度。ここで、待ち合わせ」
「来年の、今日。おひる丁度に、ここで」
「うん」
突然のことで、頭がどうかしそうだった。
「絶対に、来てくれるんだよね」
「ああ、もちろん」
「そっか…。じゃあ、来年、ここで。絶対、会おうね」
「うん、会おう」
彼は小指を出してきた。
…指切り、するんだね。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ーます、指切った!」
私は、ぱっと笑顔を向ける。
「また来年、会おうね。一緒にこの花畑をみようね!」
彼は笑顔で、
「ああ。必ず」
こういった。
帰りは別々に帰った。
いつの間にか荷物はまとめて駅のロッカーに入れてたみたいで、駅で別れた。
「じゃあ」
「うん。バイバイ」
「ばい、ばい」
彼は、改札の中に入っていく。
ああ、これでかれとは一年お別れなんだ。
そう思うと、無意識に涙が出てきた。
慌ててトイレに駆け込んで、涙をふく。
ダメだ。彼が帰ってくるまで、笑顔で、元気で、待たないと!
帰りの電車では泣かなかった。
家に帰っても、泣かなかった。
強くなって彼を待つ。そう決めたから。
あと一週間で、あと七日で彼は帰ってくるはずだ。
——いや、帰ってくる。絶対に。
彼は嘘なんか、つかないから。
正直で素直だから。
植物を愛せる、優しい人だから。
君と決めた場所で、私は待ってるよ。
あの素敵な花畑で、君を。
End