コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 音色に君をのせて ( No.1 )
- 日時: 2016/08/06 15:55
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
今日は登校日じゃ、ないはずだ。
なのに、なんで生徒がいるんだろう。
私は、明日の入学式で校歌を弾く。
その練習をしに私は学校に来た。
音楽室は1階にあり、外から入れる。
聞こえてくる歌声は心地が良い。
私に気が付いて止まらないように、忍び足で音楽室に入る。
私は5歳からピアノを始めた。
高校2年生の今、未だにピアノは弾いている。
音楽が好きだから。
…このフレーズの次は…さっき聞いたところ。
「(私が伴奏だったら…)」
風になびくカーテンのように、徐々に上がる音。
次は、少し抑えて丁寧に。
その次は、少し強めに、それでいて優しく。
最後は、儚く消えていくように、ゆっくりと。
ハッとした。
指が勝手に動いてしまった。
歌声は止まってしまった。
「(もっと…聞きたかった…)」
その時、ドアが開く音がした。
そこには、見たことのない男子がこちらを見ている姿があった。
- Re: 音色に君をのせて ( No.2 )
- 日時: 2016/08/05 16:50
- 名前: Ria (ID: uI3hDTJ6)
しまった。
怒らせてしまったかな。
それよりも、男だった…。
こんなに綺麗な声が、どこから出ているのか。
「続き、聞かせて」
名前は、何でここにいるの?
そんなことはどうでも良かった。
ただ、さっきの歌声が聞きたかった。
私はそっと目を閉じた。
彼は少し戸惑ったようだが、歌ってくれた。
何でだろう、どこか心地が良い。
音楽が、好きだ。
演奏が、歌詞が、声が。
私の大好物はこのような歌。
明るい感じでもなく、暗い感じでもない。
曖昧で不思議な世界観の歌詞。
そんな歌が、好きだ。
- Re: 音色に君をのせて ( No.3 )
- 日時: 2016/08/05 17:13
- 名前: 立山桜 (ID: ???)
読ませていただいてます!立山桜です!以後お見知りおきを。リアさんの作品はすごく人を惹き付けるようなようそがあってとても読んでて気持ちいいと言うか…更新ガンバってください!
- Re: 音色に君をのせて ( No.4 )
- 日時: 2016/08/06 00:34
- 名前: Ria (ID: cetVlQWk)
立山桜 様
読んでくださり、ありがとうございまず(^ ^)
そう思って頂けて嬉しいです。
不慣れな文章ですが、これからも読んで下さると嬉しいです。
——————————
「…好きなんだ、音楽」
音楽が。
「弾くこと?」
初めて彼が話した。
声は少し低めの、声変わりした声。
その声でさえ、羨ましいと思ってしまう。
「…君はなんのために歌うの?」
私は自分のために、ピアノを弾く。
大好きな音楽にふれるため。
音を奏でるため。
「私は…人に聞かせるためじゃない」
そう、自分のためだけに。
「俺は—」
桜がひらひらと、舞う。
その花びらを彼は地面に落ちるのを見る。
「好きなものの、ため」
彼も人に聞かせない歌を歌うのだろうか。
「空、風、植物…自然のため」
- Re: 音色に君をのせて ( No.5 )
- 日時: 2016/08/14 20:31
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
桜 ひらりひらり
落ちた花びらは 飛んでいく
1人旅立つ 僕を置き去りにして
自由に動けない僕は
じっと空を見つめてる
「素敵」
ふいに彼が口ずさんだ。
短時間で、歌詞もメロディーも浮かぶなんて。
「…ね、上手くいくかな?」
「?」
彼は、元々不登校だったという。
学年を聞いたら、私と同じ2年生だった。
「大丈夫」
彼は少し微笑んだ。
「鈴音…」
後から俺の名前、と付け加えた。
「私は…美鈴」
始業式の1日前。
この時、初めて鈴音に出会った。
- Re: 音色に君をのせて ( No.6 )
- 日時: 2016/08/06 16:03
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
「(鈴音…)」
鈴の音、と書いて、鈴音。
綺麗な名前だな、と羨ましく思った。
入学式の演奏を終えて、私は教室へ移動する。
今日から、新しいスタート。
クラス替えがあり、周りの人が変わる。
それだけなのに。
「(新しい感じがしない)」
学校に行く楽しさなんて、忘れてしまった。
私が私を失ってから—。
それ以来、私はクラスから孤立した。
別にいい。
周りがどう思おうと関係ない。
1年生の教室からだろうか。
校歌が聞こえてくる。
学校の校歌が嫌い。
音楽の歌の授業が嫌い。
私は—。ピアノに逃げた。
指で押して奏でる音は、私を呼び覚ましてくれる。
私には。
ピアノがすべて。
- Re: 音色に君をのせて ( No.7 )
- 日時: 2016/08/06 22:14
- 名前: こん (ID: 3dpbYiWo)
こんにちは。
初めまして。
こん、と申します。
題名に惹かれてやってきました。
綺麗な物語が紡がれていく予感。
これからどうなるのか楽しみです。
更新、頑張ってください。
- Re: 音色に君をのせて ( No.8 )
- 日時: 2016/08/07 00:18
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
コン様
初めまして、読んでいただきありがとうございます(^ ^)
話が進むのがゆっくりなので、その分丁寧に書けるように頑張ります!
コメントありがとうございました。
——————————
放課後。
今日も私はピアノを奏でる。
ここは、力強く。大雨のように。
次は、ゆっくり。流れる川のように。
ただピアノを弾くことはしない。
ひとつひとつの音に、命を芽吹かせる。
死んだ音にはしない。
ふと、歌を歌いたくなってしまう。
指をピアノから離し、自分の喉に手を当てる。
—ダメ。
心がそう答えているような気がした。
ドアが開く音がする。鈴音だ。
「ピアノの音聞こえて、いるかなって」
そう言って彼はピアノの横に腰を下ろした。
「そうだ」
私は鞄の中から1枚の紙を取り出した。
自分で作ったピアノの楽譜。
軽く深呼吸をして、私は指を走らせた。
彼は、何も言わずに聞いてくれた。
「この曲に…歌詞をつけて欲しい」
かつて、自分で作った曲。
本当は歌詞だって、ちゃんとついていた。
でも。
「私が書いた歌詞は…もう、いらないの」
- Re: 音色に君をのせて ( No.9 )
- 日時: 2016/08/07 12:48
- 名前: 立山桜 (ID: ???)
どんな歌詞だったのだろうか気になります
- Re: 音色に君をのせて ( No.10 )
- 日時: 2016/08/07 13:36
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
立山 桜 様
コメント感謝です(^ ^)
今はまだ出てきませんが、そのうち出てきます。
楽しみにしていてください!
——————————
楽譜には、書いては消してを繰り返した痕がある。
やっと完成したその歌詞は、完全に消してしまった。
「どんな歌詞だったの?」
「…忘れちゃった。」
嘘。
忘れてなんかいない。
忘れるはずがない。
私の思いがこもった1曲で、毎日のように口ずさんでいた。
「どうしてこの曲を俺に?」
そんなの—。
私は目を伏せた。
—言えない。
この人とはまだ知り合ったばかりだ。
「鈴音ー!帰るぞー!」
ドア越しに、男子の声が聞こえてきた。
「良かったね」
「皆優しくてさ。すぐ慣れたよ」
そう言って、彼は少し微笑んでドアに歩いていった。
「その曲—。本当は大事な歌詞が詰まっていたんじゃないか?」
背を向けたまま、言葉を投げられる。
彼はそのままドアを閉めた。
その言葉が、ザックリと私の胸を刺した。
ピアノに手を置く。
私は溢れる涙がピアノに落ちないように。
上を向いて、唇をかみしめて。
指を豪快に走らせた。
私が、歌を嫌いになったきっかけを元に作った歌。
伴奏は、普段の感情を入れるのとは違う。
ただただ、乱暴で、力強く。
でも、どこかで泣いているような。
歌詞だって、いいものじゃなかった。
なのに。
私はこの曲に愛着を持ってしまっていた。
- Re: 音色に君をのせて ( No.11 )
- 日時: 2016/08/07 14:20
- 名前: 立山桜 (ID: ???)
はい!(*´∇`*)楽しみにしてます!…鈴音が好きなのかな??だから歌詞を託したんじゃないだろうか…(私の勘です。爆笑)
- Re: 音色に君をのせて ( No.12 )
- 日時: 2016/08/14 20:33
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
立山 桜 様
鈴音とはまだ出会って数日なので、美鈴にまだそういう気持ちはありません。
でも、いずれはくっつけたい…ですね(^ ^)
コメントありがとうございました!
——————————
「すっげーなぁ…」
鈴音は友達と学校から出たところだった。
音楽室からピアノの音が聞こえてきた。
「そうかな」
俺には、泣き叫んでいるように聞こえる。
確かに、演奏自体は凄いし、難しいのだろう。
「お前さ」
考え事をしても仕方がない…か。
「(あの人…)」
美鈴は、いつも冷めた目をしている気がする。
昨日会った時、この人の瞳は、濁っていた。
輝いているわけでも、その逆でもなく。
その間。
迷いの目、というのだろうか。
そんな気がした。
「なぁってば」
「っごめん。何?」
友達にずっと声をかけられていたみたいだ。
友達に、少しため息を疲れてしまった。
「…これってさ、聞いていいのか分かんないんだけど…」
次の言葉は、予想できてしまった。
「なんで不登校になったのか、とか?」
…当たりみたいだ。
友達はびっくりした顔でこちらを見ていた。
「そうだね…別に学校が嫌になった訳じゃなかったんだ」
「じゃあ…何?」
少ししか行っていなかったけれど、学校は楽しかった。
いじめられてたわけでも、孤立していたわけでもない。
授業中、木から剥がれ飛んでいった葉が目に入った。
それだけ。
葉は、風にのって空を舞っていた。
行き先は、わからない。
風の赴くままに。
知らない土地へと飛んでいく。
そんな葉を見て、羨ましい、なんて思った。
だって、俺は—
自由じゃないから。
それから、学校に行かなくなった。
それは。
「自分を探す旅に出かけたかったんだ」
- Re: 音色に君をのせて ( No.13 )
- 日時: 2016/08/07 18:40
- 名前: 織原ひな (ID: Qz56zXDk)
コメント失礼します
この板「溺死桜」って作品を書いてる織原ひなっていいます
詩的な地の文がすてきですね……
こんな書き方もあるんですねー
キラキラしてる背景が想起できます
更新頑張ってください!
いつか暇があれば私の作品も見に来てください!
- Re: 音色に君をのせて ( No.14 )
- 日時: 2016/08/07 23:46
- 名前: Ria (ID: yVTfy7yq)
織原ひな 様
コメントありがとうございます!(^ ^)
そう思っていただけて嬉しいです。
更新頑張ります(^ ^)
後で伺いますねー!
——————————
「…へ?」
よく分からないのだろう。
少し考えてみる。
「空が羨ましい…みたいな」
「…?よく分かんない。俺、こっちだから。じゃっ!」
俺は軽く手を振った。
去年の友達にも、そんなことを言われた。
難しい、とか。よく分からない、とか。
学校に行かなかった期間、ずっと家にいた訳ではない。
色んなところを見て回った。
空、川、山、草花。
その場所に行くと、自然と頭の中で歌ができていた。
俺は、歌の時、僕になる。
僕、の方がほんのりと景色を写し出してくれる気がするから。
自由。
それは、誰もが求めるもの。
自分の思いのままに、行動すること。
俺は。
ゆっくりと足を運び、やっと目的地に着いた。
自動ドアが迎えてくれる。
そこへ入るなり、俺はいつも自分が嫌になる。
「何か変わった事はありませんでしたか?」
「大丈夫です」
そのまま2人で、エレベーターにのる。
そして、1人では広すぎる部屋に入る。
俺は、ベットに横になった。
そう、俺は自由に動けない。
病院で、点滴という鎖に繋がれている。
だから、羨ましいんだ。
自由な自然が。
- Re: 音色に君をのせて ( No.15 )
- 日時: 2016/08/08 00:00
- 名前: 立山桜 (ID: ???)
何回もすいません!!迷惑ですね! 点滴…病弱男子というところですね…
- Re: 音色に君をのせて ( No.16 )
- 日時: 2016/08/14 20:37
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
立花 桜 様
いえ、迷惑じゃないですよ!
むしろ嬉しいです(^ ^)
貧弱男子、個人的に好きです。w
コメントありがとうございました!
——————————
去年の秋頃。
気が付いたら病院に運ばれていた。
再生不良性貧血。
医師からはそう言われた。
造血幹細胞というものが、減少する。
そのせいで赤血球、白血球、血小板が減少してしまう病気。
幸い、俺はまだ初期だったため、そこまでは重くない。
俺は点滴で輸血をしている。
医師からは、体内の血液が正常になるまで、治療を進めると言われた。
もう、前みたいに立ちくらみなどはないし、至って普通だ。
俺は、旅をしたいのに。
「どうでした?久しぶりの学校は」
点滴の準備をしているナースに言われた。
「楽しかったですよ。体に異常もないですし」
入院した頃は、廊下すらまともに歩けなかったくらい。
そのくらい、貧血がひどかった。
今は、少し走っても大丈夫なくらい。
貧血など、もう何日も起こしてないのに。
「はい、じゃあ何かあったら言ってくださいね!」
「ありがとうございます」
俺は、今日も鎖に結ばれる。
- Re: 音色に君をのせて ( No.17 )
- 日時: 2016/08/08 18:04
- 名前: Ria (ID: yVTfy7yq)
ここにいる 私はここにいるの
どうして 気づいてくれないの?
私はここだよ すぐここなの
あなたに私は 見えていないの?
こんなにも 叫んでいるのに
どうして 届かないの?
…
乱暴で、力強い演奏の曲の歌詞。
私はか細い声で途中まで口ずさんだ。
「(歌えない…)」
鈴音に渡そうとした楽譜を、取り出した。
本当は、大切な楽譜。
私には、かつて双子の姉がいた。
両親は、比べる人だった。
姉の方は、勉強もできて、スポーツもできて。
私は、音楽が得意なだけで。
他は何も。
むしろ苦手な方だった。
姉と私は、仲良しだった。
私がピアノを弾いて歌うと、拍手してくれた。
私は、それが嬉しかった。
学校でのテスト。
私は低くて、姉は高くて。
もちろん姉は褒められて。
私はそんな姉が羨ましかった。
そんな姉が。
交通事故で亡くなってしまった。
私に期待していなかった両親。
毎日のように泣いていた両親。
元気づけたくて、頑張って書いた歌詞。
頑張って作成したピアノの楽譜。
なのに。
「うるさい!」
—うるさい。
この一言で、私は何も言えなくなった。
両親のために、頑張って作った歌。
それが悲しくて。
それが悔しくて。
そうして、今口ずさんだ曲が完成した。
乱暴で、力強い演奏。
私も両親に褒められたくて。
私がいるよって、気づいて欲しくて。
この歌詞が完成した。
- Re: 音色に君をのせて ( No.18 )
- 日時: 2016/08/08 23:40
- 名前: Ria (ID: yVTfy7yq)
それから毎日、私はピアノを弾いていた。
初めて彼に出会った日に聞いた、あの歌を。
自分でも忘れていないのが不思議で仕方が無い。
いつもは、曲調はすぐに浮かんでも、消えてしまっていた。
次の日になったら、忘れてしまうのだ。
「(不思議…)」
こんなにも、優しい音を出せるなんて。
私が弾いてきた曲の中で、最も心地が良い。
弾いていて、穏やかな気持ちになる。
「眠れ眠れ…緑の息吹たちよ…健やかに…」
呟いてみる。
音程だって覚えている。
どうしてだろう。
あの日を最後に、鈴音は音楽室に来ていない。
「(きっと、聞こえてたよね…)」
乱暴で、力強いピアノの演奏。
彼は、どう思ったのだろうか。
「(なんで…弾いちゃったんだろう…)」
ずっとしまいこんでいた楽譜だったのに。
答えはすぐにみつかった。
—しまいこんでいたから。
だから、私は過去を引きづって。
ピアノは上手でも、表現力がどこかかけていて。
何かが物足りなかった。
「(そうか…)」
この楽譜があったから、私は前に進めないんだ。
そっと楽譜に手を伸ばす。
静かに目を閉じてから、一気に破いた。
もう、読めないくらい、小さく。
そして、思い切ってゴミ箱に捨てた。
私の思いの塊の楽譜。
でも、これからは。
私が両親に聞かせたかった、この楽譜を。
新しくファイルに挟んだ。
「(鈴音のおかげだよ…)」
この楽譜を渡して、彼が歌詞をつけるって、言っていたら。
大事な歌詞が詰まっていたんじゃないかって、言われていなかったら。
何も気づけないままだった。
それで、やっと気づいた。
これからは。
「人に聞かせたい」
そんなピアノの演奏ができる気がした。
- Re: 音色に君をのせて ( No.19 )
- 日時: 2016/08/09 07:08
- 名前: 立山桜 (ID: ???)
…泣けてくる
- Re: 音色に君をのせて ( No.20 )
- 日時: 2016/08/09 14:03
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
立山 桜 様
毎回コメント感謝です!
泣いちゃってください(^ ^)
私が受け止めます(^ ^)
——————————
鈴音のおかげで、大事なことに気が付いた。
お礼を言いたい—。
次の日、放課後音楽室に行く前に、私は色々な教室に顔を覗かせた。
みんな、教室を出ていく。
「(もう帰っちゃったかな…)」
諦め半分で、まだ見ていないクラスを覗いた。
彼は、いた。
「(こっちに気づかないかな…)」
「…見て、冷淡少女」
「ほんとだ…」
女子の話し声が自分にささる。
私は、みんなに線をひいている。
だからだろうか。
いつの間にかあだ名は冷淡少女になっていた。
「(音楽室に行こう…)」
私は、その場にいるのが辛くなった。
来た道を戻ろうとしようとした時。
誰かが倒れる音がした。
私は思わず教室に目を向けた。
そこで倒れていたのは。
「大丈夫!?しっかりして!」
青白くて。
呼吸がとても乱れていて。
「鈴音くん!」
倒れていたのは、鈴音だった。
「っ…!」
私は、怖くなって、逃げた。
- Re: 音色に君をのせて ( No.21 )
- 日時: 2016/08/09 14:07
- 名前: 立山桜 (ID: ???)
受け止めてくれますか!(^^)ありがとです!…そこで!?そこで逃げたらダメだー!ここで逃げたら試合終了だよー!笑
- Re: 音色に君をのせて ( No.22 )
- 日時: 2016/08/10 15:42
- 名前: Ria (ID: YnzV67hS)
立花 桜 様
残念ながら逃げてしまいました…(;´Д`)
コメントありがとうございました!
——————————
やがて、赤いサイレンが鳴り響いた。
私は、この音が嫌いだ。
「(嫌だ嫌だ嫌だ…!)」
サイレンは思い出させる。
双子の姉がいた日の思い出を。
きっと、救急車で運ばれたのだろう、と。
私は、その日の出来事がフラッシュバックする。
その場にはいなかったけれど、きっとそう。
ブレーキの音と、姉の叫び声。
なんで、こんなにも鮮明に。
サイレンの音を聞いただけで…!
聞こえなくなるまで、ずっと耳を塞いでいた。
顔を少し上げると、ちょうど救急車が走っていった。
「(あの病院…)」
私はゆっくりと耳から手を離した。
倉田総合病院…。
私も通っている病院だった。
そっと立ち上がり、前に足を踏み出した。
動かした足を止める。
「(鈴音は…)」
ただの、知り合いのはずなのに。
- Re: 音色に君をのせて ( No.23 )
- 日時: 2016/08/10 18:04
- 名前: Ria (ID: YnzV67hS)
広がるのは、白い天井。
朦朧とした意識の中で。
やっとの思いで俺は目を開けた。
「(また…)」
視界がグラグラする。
なんだか、気持ち悪い。
俺は、また貧血を起こした。
最近、提出物やなにやらで動きすぎたかもしれない。
音楽室にだって顔を出せていなかった。
「…ァ…ノ…」
乱れた呼吸で、これが精一杯だった。
俺の見えている世界がボヤける。
そして、今日もまた、鎖に繋がれて—。
俺の頬から涙がつたった。
どうして、こんなにもボロボロなのか。
みんなみたいに、生活したい。
「(…ピ…ア………ノ…)」
君の演奏が、聞きたい。
- Re: 音色に君をのせて ( No.24 )
- 日時: 2016/08/11 06:54
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
初めまして、こんにちは((。´・ω・)。´_ _))
素敵な題名だなぁ……と思って閲覧したら、凄く綺麗な作品で感動しました。
とても繊細な文章で凄く惹かれます!
続きが楽しみです!
また来ます!!(*´▽`*)
更新頑張って下さいm(*_ _)m
byてるてる522
- Re: 音色に君をのせて ( No.25 )
- 日時: 2016/08/13 16:48
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
てるてる522様
ありがとうございます(^^)
更新頑張ります!
——————————
鈴音が倒れてから。
「見て…冷淡少女」
「こわーい…」
私があの場に居たせいで。
みんなはそんな噂をし始めた。
私が具合悪くさせた、と。
「(こんなの慣れてるもん…)」
そう、周りの噂話なんて、デタラメだ。
みんな私が喋らないのを不気味に思う。
だから、ありもしない嘘を噂にする。
…でも、今回は。
私のせい、だったかもしれない。
もちろん、何かしたわけではない。
でも、もうピアノを聞きに何日も来てない。
「(私が…あんな演奏をしたから?)」
そう、あの日以来。
私は毎日、弾いていたのに。
鈴音は来なかった。
「あ、鈴音くん!」
心臓どくん、とした。
焦り。
恐怖。
どんな顔を向けられるのだろうか。
私はその場から走った。
通りすぎても、通りすぎても、聞こえてくる噂。
「(嫌だ…嫌だ…!)」
会いたくない…!
喋りたくない…!
無我夢中で必死に走った。
「美鈴!」
ぶつかる。
肩に手を置かれて、顔をあげた。
そこにいたのは。
今日の空に浮かぶ雲のように白い—。
鈴音だった。
- Re: 音色に君をのせて ( No.26 )
- 日時: 2016/08/14 17:13
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
逆方向に走ってしまったんだ。
私は合わせる顔がなくて、俯いた。
噂が、廊下に響き渡る。
当然、鈴音の耳にも届いた。
「そんなわけないだろ」
その声は、とても力強くて。
周りの人は一瞬驚いた。
「そ…そうだよね!?」
「冗談だよ、冗談!」
私は、嬉しかったのかもしれない。
目が、心臓が、体が。
一気に熱くなるのがわかった。
みんなが散らばっていく。
私は、ゆっくりと肩に置かれた手に手を重ねた。
「…ありがとう。もう、大丈夫だから…」
その言葉を聞くと、鈴音は安心したように微笑む。
手をそっと下げて、耳元で彼は言った。
「今日…ピアノ聞きに行くね」
- Re: 音色に君をのせて ( No.27 )
- 日時: 2016/08/14 16:46
- 名前: 織原ひな (ID: Qz56zXDk)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode
タイトルに惹かれて来ました
素敵な名前のタイトルですね……
中身も緻密で素敵です!
一文一文が改行されててとても読みやすいです
これからも更新頑張ってください!
いつか物騒なタイトルですが「溺死桜」って作品いつか見に来てください!
織原ひな
- Re: 音色に君をのせて ( No.28 )
- 日時: 2016/08/14 20:57
- 名前: Ria (ID: aW5Ed34M)
織原 ひな 様
ありがとうございます(´∀`*)
作品も読ませていただきました!
お互い更新頑張りましょう!
コメント感謝です(´∀`*)
——————————
今日は、何を弾こう…。
私は、久しぶりにウキウキしていた。
噂は、いつの間にか消えていた。
それだけが嬉しかったんじゃない。
鈴音が、来てくれる。
指が早くピアノを触りたくてムズムズする。
ドアが開く音がした。
「今日はどんな曲を奏でるの?」
「…リクエストとかは?」
会話も、大分しやすくなった。
私は基本、話す方じゃない。
でも。
鈴音には、出会った時から。
なんだか大丈夫…。
安心感が持てたのだ。
「そうだなぁ…あ、鈴!」
「鈴?」
「あの音安らぐじゃん?それに」
それに…?
「俺と美鈴の名前、鈴ついてるだろ?」
美鈴。
鈴音。
まるでしりとりみたい。
私は少し笑った。
それから。
「…鈴音のおかげでね…大切なことに気がつけたの」
「うん」
「だから…ありがとう」
「…うん」
鈴音は少し照れ臭そうに笑った。
- Re: 音色に君をのせて ( No.29 )
- 日時: 2016/08/14 22:07
- 名前: 立山桜 (ID: ???)
青春だなぁ…
- Re: 音色に君をのせて ( No.30 )
- 日時: 2016/08/15 16:41
- 名前: Ria (ID: lMEh9zaw)
立山 桜 様
いいですね青春…(´∀`*)
眩しい…!←
コメント感謝です(´∀`*)
——————————
ポロン。
ポロン。
3つの音が、鈴を表す音。
演奏に加え、その音は更に綺麗になる。
心地が良かった。
そして、なによりも。
人に聞かせるピアノ。
自己満足かもしれない。
けれど、私には充分にそれを感じられた。
「このピアノ…凄く…好き」
鈴音は目を閉じてリラックスして聞いている。
そんな素直に気持ちを素で言える彼は羨ましい。
「(私は…歌でしか伝えられなかった)」
—寂しいって、伝えていたら。
こんなことにはならなかったのだろうか…。
「あ、見て」
鈴音が指指した方を見る。
校庭。
沢山の人たちが音楽室に目をやっていた。
「美鈴の演奏、素敵だったからだよ」
私はゆっくりと椅子から立ち上がった。
「またきかせてよ!」
「素敵な曲だね!」
私の演奏を、聞いてくれる人がいる。
—寂しいって、伝えていたら。
違う、きっと私は正しい道を選んだのかも。
そのおかげで、私はピアノと真剣に向き合えたのだから。
拍手の音は、まるで。
大小様々の音が、ピアノに似ている。
- Re: 音色に君をのせて ( No.31 )
- 日時: 2016/08/16 20:44
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
あの日から、少し立って。
私のピアノを聞きに来る人が増えた。
学年、クラス…みんな違うけれど。
純粋に、嬉しかった。
そして今日。
久々に鈴音と2人きりになった。
「今日は鈴音が歌うばん」
「…え〜…」
最近、私がピアノを弾いているばかり。
鈴音の歌をもう何日も聞いていない。
「(私には…)」
「よくやるよな、それ」
「え?」
「喉」
また、無意識に喉に手を当てていたようだ。
「私は…歌えないから…」
そう。
乱暴で力強い、あの曲のせいで。
「良かったら…聞かせてくれないか」
自分の感情に任せて。
叫ぶように歌ったあの日のことを話した。
姉のこと。
両親のこと。
そして…私のこと。
もう何年も前なのに、鮮明に覚えている。
鈴音は少しうつむき加減に聞く。
私は、少し間を置いてから話した。
鈴音に…隠していること。
「そして、私は声を失ったの」
- Re: 音色に君をのせて ( No.32 )
- 日時: 2016/08/16 22:11
- 名前: 立山桜 (ID: ???)
え…声…でないの…?!
- Re: 音色に君をのせて ( No.33 )
- 日時: 2016/08/17 20:48
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
立山 桜 様
あっ!声という声はでているであります!(‾^‾)ゞ
いつもコメント感謝です(´∀`*)
——————————
「正式には…歌声」
「どうして?」
「声帯結節」
声帯結節。
私の場合、喉に負担のかかる声を出し続けたせいでまねいた結果。
喉が痛くなるまで歌い、しまいには…。
「喉が炎症を起こして…それから治療して」
治療は辛いものだった。
当時歌が大好きだった私。
喉を休めるために。
歌う事はおろか。
話すことすらできない日々を送った。
「それから…歌うのが怖くて」
歌っても、思うような歌声が出なくなってしまった。
声には伸びがなく、高音はかすれる。
歌えない日々は、私を苛立たせた。
…そして、私はピアノに逃げた。
歌うことを諦めた。
「…そっか」
鈴音は立ちあがって、自分の胸に手を当てた。
「俺とは逆だね」
鈴音は、自分はピアノから逃げたんだ、と呟いた。
「美鈴みたいな理由じゃないけどさ…」
鈴音は手を前に広げた。
「兄弟がさ、ピアノできるヤツでさ」
鈴音には姉がいるという。
ピアノは小さい頃に習った。
けれど、いくら練習を重ねても。
姉に実力が叶わなかった。
「ま、逃げ出したって感じでさ」
鈴音はへらっと笑って見せた。
- Re: 音色に君をのせて ( No.34 )
- 日時: 2016/08/17 22:11
- 名前: 立山桜 (ID: ???)
(^-^ゞわざわざありがとなのです!更新がんばれー!
- Re: 音色に君をのせて ( No.35 )
- 日時: 2016/08/18 18:23
- 名前: Ria (ID: x2etoROh)
立山 桜 様
ありがとうございます(´∀`*)
更新頑張ります(`・ω・´)ふんすっ!
——————————
美鈴は、歌声を。
鈴音は、演奏を。
あの日に会ったのはきっと。
歌声に惹かれて。
演奏に惹かれて。
お互いに惹かれて。
きっと、出会う運命だった。
「お願いがあるんだ」
「何?」
「初めて会った日に聞いた歌…。」
私の演奏に。
私の音色に。
彼の歌は、素敵だ。
それを…私の伴奏に合わせたら。
きっと、もっと素敵な歌になる。
自分に自身がある訳じゃない。
しかし、ピアノを演奏していて、虚しさを感じていた。
私は…どこかで。
歌う者を欲しがっていたのかもしれない。
「私に…演奏させてくれないかな?」
- Re: 音色に君をのせて ( No.36 )
- 日時: 2016/08/19 20:49
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
窓から入ってきた風が、カーテンを踊らせる。
私の楽譜も、ページが次々にめくれていった。
「風が答えてくれたみたいだ」
鈴音はハラリと落ちた楽譜に手を伸ばす。
こういう時でさえ、素晴らしいって思う。
自然に耳を傾け、声を聞く。
自然は喋りなどしない。
でも、彼が言うと本当にそうじゃないか、と思える。
「本当に自然が似合うね」
笑顔が眩しい女の子には、ひまわり。
そんな風に、彼の後には。
自然が見えるのだ。
「俺も…伴奏が入ったらもっと素敵になると思う」
今の彼は、まるで。
小さき華。
「ね、あの曲。題名なんて言うの?」
彼の答えをじっと待つ。
「イノチノ唄。自然のひとつひとつが主人公なんだ」
きっと、普通の人が聞いたら、首を傾げるかもしれない。
でも、私は歌を聞いた時から。
「素敵な題名だね」
だからこそ、意味を理解することが出来る。
私はきっと、誰よりも。
この歌が大好きだ。
- Re: 音色に君をのせて ( No.37 )
- 日時: 2016/08/23 22:39
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
外は大雨が降っていた。
けれど、私には関係なかった。
ひたすら、遠くに走った。
雨音は私を拒んでいるのか。
激しく振り続けた。
喧嘩。
家でピアノを弾いていたら、怒られた。
それだけなのに。
大好きなことを辞めろなんて、私には耐えられなかった。
「(どうして分かってくれないの…)」
そんなに双子の姉の方に期待していた。
なのに、死んでしまった。
残ったのは、私。
だから—。
「っうわぁあああっ…!」
私なんて…。
そう考えると、いつの間にか自然と涙を流して叫んでいた。
「風邪ひくよ」
気がついたら、隣に誰かが立っていた。
鈴音。
「でも、雨に濡れたい気持ち、分かるなぁ」
彼もまた、傘をささずに濡れていた。
- Re: 音色に君をのせて ( No.38 )
- 日時: 2016/08/27 07:08
- 名前: Ria (ID: PBOj5esF)
どのくらい泣いていたのだろうか。
鈴音は、何も言わずに隣に居てくれた。
私が落ち着くと、2人で近くの橋の下へ移動した。
雨は、冷たかった。
髪の毛から雫が地面へと落ちる。
「しばらく止みそうにないね」
ずっと、泣き叫んでいた。
だからだろうか。
少し喉が痛い。
「雨ってさ…なんかいいよね」
鈴音は橋の下から手だけ出して、濡らしていた。
「雨が上がると…空には虹が出て」
私と向き合う。
「当たり前の事だけど、凄く暖かい気持ちになるんだ」
〝そうだね〟
「…?美鈴…?」
もう、完治していた。
そのはずなのに。
〝また…届かない…〟
私は、目の前の鈴音にすら声が届かなくなっていた。
- Re: 音色に君をのせて ( No.39 )
- 日時: 2016/08/28 09:16
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
鈴音は、すぐに病院を勧めてくれた。
しかし、私は首を横にふった。
鈴音は何も言わなかった。
それが少し、嬉しかった。
「でも、親には話した方がいいよ」
〝イヤ〟
声は出ていないのに、彼は理解していた。
「言葉で伝えるのって、1番分かりやすいと思うんだ」
歌も同じだよ、と続ける。
「口では言えないこと、書いちゃえば伝わるんだよ」
親に期待されていない、私。
家の中はとても居心地が悪くて。
〝怖い〟
伝えるのが、怖い。
声が出なくなった時、私は親に伝えた。
自業自得だって言われて、ため息をつかれた。
今でもそれを覚えている。
当たり前だけど、その言葉だけで。
私は必要とされてないんだ、と実感した。
「…俺、病院で待ってるよ」
気が付くと、空は晴れていた。
鈴音は儚げに笑って、歩いていった。
〝待ってる…?〟
彼が病院で待ってる意味が、分からなかった。
- Re: 音色に君をのせて ( No.40 )
- 日時: 2016/08/30 20:05
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
声がまた出なくなってしまったことを、紙に書いて伝えた。
予想通り、母はため息を漏らした。
いきなり家を出て、濡れて。
そして、声が出なくなって。
「全部アンタのせいだから」
そう言いつつも、病院に行く準備をしてくれた。
〝なんで、話さないといけないの?〟
私の心配なんかしていない。
なのに、本当の気持ちを打ち明けたって。
〝何も変わらないでしょう?〟
だったら。
自分の気持ちを押し殺して。
もう、これ以上—。
「早く乗りなさい」
口では言えないこと、書いちゃえば伝わるんだよ。
〝でも、私は…変わりたいから〟
そう思えたのは、鈴音のおかげなんだ。
まずは、身近なことから。
私は自分の気持ちを書いた紙をポケットにしまい。
そして、急いで白い紙に鉛筆を走らせた。
気持ち悪いって、思われても構わない。
私は少し背の高い母をつついた。
「何—」
恥ずかしくて、目を合わせる事は出来なかったけれど。
やっと。
前に進めた気がする。
〝ごめんなさい、ありがとう〟
- Re: 音色に君をのせて ( No.41 )
- 日時: 2016/08/30 20:41
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
医師からは、沈黙療法を進められた。
「(また…何も出来なくなるんだ…)」
声を一切出してはいけない。
また、力を入れるようなことも、できない。
ただ、ずっと静かにしているだけ。
「じゃ、私は戻るから」
小さくなる、母の背中。
〝待って〟
届かないのは分かっていた。
届いていないはずなのに。
〝お母さん…〟
振り返ってくれた。
母が持っている、私の服のポケットを指さした。
1枚の白い紙が、はらりと落ちた。
ゴミだと思われたようで、拾うことなく部屋を出ていってしまった。
〝読んですらもらえないんじゃ…〟
私の気持ちが—。
「落としましたよ」
ふと落とした視線をまた元に戻す。
この声は…。
「…ありがとう」
「いえ。大切なものだったら、大変ですから」
会話はそこで途切れた。
カラカラ…という音を立てて、私の部屋に入ってきたのは。
〝鈴音…?〟
着ているのは、病院の服。
腕には点滴がささっていて。
「お母さん、読んでくれるといいね」
いつもより、少し白い顔。
それは、触れたら溶けてしまいそうで。
ねえ、どうして。
〝鈴音はそんな姿で笑っていられるの…?〟
- Re: 音色に君をのせて ( No.42 )
- 日時: 2016/08/31 20:56
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
「俺ね、あんまり丈夫じゃないんだ」
彼は、点滴を「鎖」だと言った。
「鎖」に繋がれて、自由には動けない、と。
「自由な自然が、羨ましいんだ」
その白い顔とは似合わず、力強い目。
思わず、涙が頬をつたった。
「鈴音、大丈夫—っお、冷淡少女…」
「美鈴だよ」
「…知ってるっつーの」
鈴音の友達は、鈴音を見に来たらしい。
この前倒れた時に、彼だけには自分のことを伝えたようだ。
鈴音の友達は、とりあえず座るように促した。
「今日さ、なんか白くね?」
「大輝が黒いんだよ」
「はぁ!?」
大輝と呼ばれた人は、1度怒ってみせ、すぐに笑った。
涙していた私も、2人が面白くて思わず笑ってしまった。
すかさず、声を出さないように口を抑えた。
「…辛いね」
話せないのって、と鈴音は続ける。
私は涙を拭った。
〝そんなこと、ないよ〟
耳が聞こえないとか、足が不自由な訳じゃない。
親にいくら嫌がられても。
私は—。
〝幸せ者だよ〟
声には聞こえてはいないけど。
2人には伝わっているような気がした。
「あ、そうだ。明日も来てもいい?」
大輝は鈴音ではなく、私に話しかけた。
私は首を縦に動かした。
「俺の幼馴染みが、あんたのこと気になってんだ」
- Re: 音色に君をのせて ( No.43 )
- 日時: 2016/09/01 20:53
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
私が生きているの、嫌だ?
美蘭が死んじゃった時、思ったでしょ。
なんで出来損ないの私が残ったんだって。
私は、美蘭みたいに勉強なんかできない。
だから、期待してなかったんだよね。
美蘭は、私のピアノが大好きだって言ってくれた。
それから、ピアノが楽しくて仕方がなくて。
美蘭に褒められるのが嬉しかった。
美蘭が死んじゃった時、ピアノを弾く気にはなれなかった。
でも、「頑張れ」って、聞こえた気がしたんだ。
それから、私は美蘭の死に悲しんでいた両親をピアノと歌で励まそうとした。
「うるさい」って言われて、全部は弾けなかった。
ピアノが、歌が、私が否定されて、悲しくて。
そして、声が出なくなったんだよね。
ため息つかれたとき、なんで私が死なないで美蘭が…なんて言われている気がした。
いつもの食事の時間。
私はその中にはいなかっけれど。
笑っている美蘭、お母さん、お父さんを見ているのが大好きだった。
私は美蘭の代わりにはなれないけれど。
お母さんを、お父さんを、支えることは出来るよ。
だから、また、笑って。
良かったら今度、ピアノを聞いてください。
歌う事は出来ないけど…。
聞かせたい曲があるんです。
手紙を読んでくれて、ありがとう。
Dearお母さん
From 美鈴
- Re: 音色に君をのせて ( No.44 )
- 日時: 2016/09/01 21:23
- 名前: 立山桜 (ID: ???)
美鈴…
- Re: 音色に君をのせて ( No.45 )
- 日時: 2016/09/04 07:25
- 名前: Ria (ID: JEeSibFs)
立花 桜 様
美鈴もだんだん変わり始めます!
コメントありがとうございました。
——————————
次の日の放課後。
大輝とその幼馴染みはやってきた。
「鈴音爆睡しててさ、ほっといた」
疲れているのだろうか。
数時間前まで廊下で話をしていたのに。
「あなたが…美鈴…?」
大輝の後ろに隠れていたその人が、見えた。
ショートヘアでスタイルがいい。
私は思わず見とれてしまった。
ゆっくりとうなづくと、その人はニッコリ笑った。
「ピアノ、いつも聞いていたよ!」
〝私の…ピアノ…?〟
「ほら、体育館と近いでしょ?部活中に聞いてたの!」
体育館。
ということは、この人はバスケ部だろう。
私は紙にありがとう、と書いて、それを見せた。
「元気になったら、また聞かせて!私、乃亜!宜しくね!」
乃亜は、きっと誰とでも仲良くなれるタイプなのだろう。
私に、話しかけてくれるなんて。
「…?騒がしいな」
そう言われ、耳を澄ましてみる。
沢山の足音が駆けていくのが聞こえた。
大輝がドアを開ける。
私の目に飛び込んできたのは、数人のナース。
そして、倒れている鈴音だった。
- Re: 音色に君をのせて ( No.46 )
- 日時: 2016/09/04 18:13
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
〝鈴音…?〟
大輝が、鈴音に手を貸していた。
ゆっくりと立ち上がり、ナースに誘導されていく彼を、私は見ることしか出来なかった。
「美鈴ちゃん…」
乃亜は、私の手を強く握りしめた。
目からひとつ、涙が零れた。
「大丈夫。鈴音くんだもん」
「安静にしていてくださいってあれほど—!」
俺は、また鎖に繋がれている。
昨日みたいに皆で話したくて、美鈴の部屋に向かっている途中だった。
最近調子が良かったはずなのに。
急に視界が一転し、真っ暗になった。
そこからはあまり、覚えていない。
意識がはっきりしだしたのは、たった今。
「大丈夫か?」
ナースと入れ替わるように、大輝が入ってきた。
「大丈夫だよ」
「…嘘つけ」
大輝なりに心配しての態度だろう。
目が合うことも、向き合いもしなかった。
「心配した?」
「…そりゃあ…まぁ…」
大輝とは、昔から友達だったような感覚だ。
だんだん性格を掴んできて、俺もそれなりにいじるようになった。
「ありがとう」
「しばらく出歩くなよ」
「はーい」
大輝の背中が遠ざかっていく。
その背中が、鈴音にとっては羨ましくて仕方がなかった。
「自由に動けるの…いいなぁ…」
誰もいない部屋で1人、ぽそりとつぶやいた。
- Re: 音色に君をのせて ( No.47 )
- 日時: 2016/09/09 20:11
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
私はその日、初めて偽りのない笑顔を浮かべた気がする。
「手紙、読んだわよ」
いつもの、少しキツめの声。
ハキハキと喋るのは、母。
聞きなれた声なのに、何故か怖かった。
手紙には、私の思いが書いてあった。
いくら手紙とはいえ、あそこまで書く必要がなかったのではないか、と思う。
「美鈴」
あぁ、また言われるんだろうな。
美蘭、美蘭って—。
「ごめんなさい」
〝どうして、謝るの?〟
そう思うのも束の間。
私は母の胸元に埋まっていた。
暖かい。
それは、人だから、生きているから当たり前だけれど。
なんだか懐かしいような。
気持ちのいい心地よさがあった。
「美鈴も、大切な私の…子供よ」
きっと、母は泣いている。
声が、体が、震えている。
「今度…ピアノ聞かせてちょうだい」
離れる。
母は、真っ赤になっていた。
「な、何よ」
〝ありがとう〟
きっと、口の動きだけで、伝わったと思う。
私は、とびきりの笑顔を見せた。
- Re: 音色に君をのせて ( No.48 )
- 日時: 2016/09/11 20:37
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
久々の教室。
そっと深呼吸をする。
ドアを開ける時は、誰かしらその音に反応する。
私は、それが嫌でたまらない。
目線を下に落としながら、ドアを開けた。
「おはよう、美鈴さん」
「…おは…」
まだ、治ったばかりだから、だけではない。
きっと、いつも言われない言葉をに驚いたから。
声はかすれて、全部は言えなかったけれど、伝わったようだ。
教室はまた笑い声に包まれる。
「大丈夫…?」
席に座ると、隣の子が声をかけてくれた。
私は、声は出さずに、うなづいた。
「(どうして皆気にかけてくれるのだろう…)」
「美鈴ちゃん!」
振り向く。
そこには乃亜の姿があった。
私は、きっと乃亜が気配りをしてくれたんだ、と感じた。
「呼び捨てでいいよ、乃亜」
まだ上手く声は出せないけれど。
「そっか!改めてよろしくね!美鈴!」
きっと、私は1歩ずつ前に進めているのだと思う。
- Re: 音色に君をのせて ( No.49 )
- 日時: 2016/09/13 22:39
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
その一言は、突然過ぎて。
思わずピアノが乱れてしまった。
私は放課後、乃亜がピアノを聞かせて欲しいと言ったため、音楽室に来ていた。
鈴音といる時も、話しながら弾くことができる。
だから、いつも普通に会話をしているのだが。
乃亜がいきなり、こう言ったのだ。
「鈴音くんのこと好きなんだねぇ」
そう、この一言で。
私はピアノを奏でていた手を止めた。
「なんで?」
声は落ち着いているように聞こえるかもしれない。
でも、心臓の音はとてもうるさい。
「だって…ねぇ?」
乃亜はにこにこし始めた。
「…好きって…」
何なのだろう。
私は、ピアノを弾くことが好き。
でもそれは、乃亜の言う好き、ではない。
「…分からない」
「じゃあ!美鈴に質問!鈴音くんはどんな存在?」
「鈴音は…」
歌が上手で。
私のピアノが好きと言ってくれて。
来ない日は、寂しく思ったり…。
私は考えながら、乃亜に話した。
「大切な存在?」
大切な存在?
大切な存在。
「それって、恋じゃん?」
乃亜が嬉しそうに微笑んだ。
- Re: 音色に君をのせて ( No.50 )
- 日時: 2016/10/02 09:21
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
「好き…?」
誰が…?
鈴音が…?
私は急に顔が熱くなった。
「青春だねぇ」
乃亜が楽しそうに笑った。
「乃亜だって…!大輝とはどうなの!」
話題を逸らすようにとんでもないことを聞いてしまった。
流石に怒られ…
「ななな何言ってんの!?」
…図星だったみたい。
「言わないでよね…」
なんだか、微笑ましい。
恋の話、なんてした事が無くて、楽しかった。
「そうだ!今日放課後遊べる?」
「ごめん…今日なんだ」
「あぁ!そっか!んじゃあまた今度ね!」
「うん」
今日は—。
母に、ピアノを聞かせる日。
- Re: 音色に君をのせて ( No.51 )
- 日時: 2016/09/20 20:41
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
玄関をゆっくりと開く。
前は、まるで他の家に入っているような雰囲気だった。
それが、今は。
「おかえり」
「ただいま」
少し素っ気ないが、母が声を返してくれる。
それだけで、充分だった。
「お母さん、二階で待ってるね」
顔の表情は固いままだけれど、きっと、私も変わった。
「ええ」
階段を上がり、私は楽譜に手を伸ばした。
美蘭がいたから。
私はこの楽譜を作ることができた。
「(美蘭…)」
私、前に進めたよ。
だから—。
その時。
階段からドスン、と音が聞こえてきた。
最初は転んだのかな、と思ってそのまま部屋にいた。
が、部屋に上がってくる気配はない。
「お母さ—」
ドアを開けた瞬間、私は手に持っていた楽譜を落とした。
- Re: 音色に君をのせて ( No.52 )
- 日時: 2016/10/02 09:20
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
…私、あれからどうしたんだっけ…?
そうだ…。
偶然早く仕事を上がった父が、家に入ってきて…。
救急車を、呼んだ。
「(嘘つき…)」
こんなこと、思ってはいけないことは分かっている。
けれど、思わずにはいられなかった。
医師からは、ただの過労だと言われた。
父はしばらく母と話をしていた。
私は、少し1人になりたくて、病院を歩いていた。
いや、きっと探していたんだと思う。
ここは、鈴音がいる場所だから—。
いつもの病室にはいなかった。
名前は書いてあるのだが、姿がなかった。
廊下を歩いているのかも、と思いゆっくりと歩く。
「おうた!おうた!」
「きかせて!」
歌。
子供たちが必死におねだりしているようだった。
私は歩くのをやめ、壁に寄りかかった。
「(鈴音かもしれない…)」
その答えは、合っていた。
それは、あの時、私が心を奪われた歌で。
眠れ眠れ
緑の息吹たちよ 健やかに
小さき華
芽生え 風になびく 僕の唄
…
「いつもそこでとまっちゃうんだね」
「つづきはぁ?」
「…また、今度、かな」
鈴音の歌は、途中で止まった。
- Re: 音色に君をのせて ( No.53 )
- 日時: 2016/10/02 09:29
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
そういえば、その先を私は知らない。
聞いたことがない。
いつもそこで止まるから、そこで終わりだと思ってた。
「つづき、いつになったらきけるのー?」
「…〝僕〟が進んでから、かな」
俺、じゃなくて、僕…。
俺、は鈴音。
でも、僕は…。
「美鈴?」
気が付くと、真横に鈴音が立っていた。
「えっ、いやっ、その…」
そうだ、父と母が探してるかもしれない。
「また、今度…!」
「…?うん」
好き、なんて自覚した途端、目すらまともに合わせれなかった。
私は来た道を戻って行った。
僕、それもまた鈴音。
だけど、それは歌っている時の君。
彼の歌は儚い。
あの歌詞の続きが、あんなに悲しいなんて。
今の私は、何も知らなかったんだ。
- Re: 音色に君をのせて ( No.54 )
- 日時: 2016/10/07 23:13
- 名前: Ria (ID: jQF4W0MP)
家族の暖かさ。
母の病室に戻ると、2人は笑顔で迎えてくれた。
いつもだったら、怒っていたのに。
「美鈴」
手招きをして合図をする父。
「(名前呼ばれたの…いつぶりだろ…)」
ずっと待っていた。
美蘭が亡くなる前の、明るさ。
それが、少しずつ、戻ってきていた。
「ピアノ、また今度ね」
「…うん」
「父さんにも聞かせてくれよ」
「…うん」
病院の、夜。
鈴音はいつもの歌を、口ずさむ。
「続きは…」
子供達に言われて、正直、焦った。
本当は、続きなんて—。
—知りたくない。
- Re: 音色に君をのせて ( No.55 )
- 日時: 2016/10/10 20:02
- 名前: 花野 千聖 (ID: 8PS445C3)
どうも!タイトルに惹かれてやってきた花野千聖《はなの ちさと》です!
泣きました〜!すごく切なくて悲しいのにその中に温もりがあって。もう感動も感動、大感動です!
これからも更新続けて下さい!よろしくお願いします!《むしろこちらからお願いします》
- Re: 音色に君をのせて ( No.56 )
- 日時: 2016/10/20 20:36
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
花野 千聖 様
初めまして!
あわわ!そんなに感動して下さってこちらこそ感動ですw
はい、これからも更新頑張ります!
—————————
言うならば冒頭は、子守唄。
外で風になびいている花や草に。
その次は、俺。
自分を探して。
そして、僕。
今の自分を唄に記す。
「…ふぅ」
鈴音は、1冊のノートに文字を書いていた。
イノチノ唄。
実はまだ完成していないのだ。
それなのに、1人になると何故か歌いたくなって。
それを誰かしらに聞かれてしまっている。
「〝僕〟だけの秘密のはずだったのになぁ」
そう、秘密。
誰にも聞かれることのない—はずだった。
「そうだ」
今度は君を主人公にしてみようか—。
鈴音はシャーペンを走らせた。
「えぇー!?そこで逃げちゃったわけ!?」
昨日の事を乃亜に話すと、物凄く驚かれた。
「その…なんか意識しちゃって…」
「…っ!くぁーっ!」
乃亜は机をバシバシと叩いている。
学校生活の中で、できた友達。
最近は冷淡少女なんて呼ぶ人はいなくなった。
「…鈴音くん、元気かなぁ?」
鈴音は学校にしばらく来ていない。
でも。
「大丈夫だよ」
私は何故かそう言える根拠があった。
- Re: 音色に君をのせて ( No.57 )
- 日時: 2016/10/20 20:45
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
眠れ 眠れ
緑の息吹たちよ 健やかに
小さき花 芽生え
風に なびく 僕の唄
何も無い毎日
退屈だと思っていました
外の緑はみんな自由で
誰にも縛られず 生きている
そんなことに気を惹かれ
俺は旅に出てみました
感じる 風の鼓動
聞こえる 俺の心の鼓動
眠れ 眠れ
緑の息吹たちよ 健やかに
響き合う この鼓動
貴方達に 届いていますか
あの小さな命は
どこから飛んで来たんだろう
僕は自由を奪われて
小さな鎖に 縛られました
見つけたものは綺麗で
ひとつひとつに手を伸ばした
……
「鈴音さーん、定期検診の時間ですよー」
俺、はもういない。
「…今行きます」
あの頃の旅した俺は。
今いるのは、〝僕〟だけ。
鎖に繋がれた、弱くて儚い、僕。
あの頃には戻れない。
そんなの、定期検診なんかしなくても分かっていた。
病院から体調いいねって思われても。
そう言われても。
僕の体は、少しずつ…。
欠けている。
- Re: 音色に君をのせて ( No.58 )
- 日時: 2016/10/26 20:52
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
私は、ピアノを弾いていた。
彼の音を乗せる風になるために。
「(違う…)」
ピアノ歴は、長い。
それなのに、どれも音符は当てはまらない。
「(やっぱり…)」
もう1度、聞かなくては作れない。
今度は…最後まで。
「(でも…今週は…)」
テストがある。
それに、そろそろ進路も考えなくてはならない。
両親は、前よりも私に目を向けてくれるようになった。
成績が上がると、やんわりと褒めてくれて。
下がると、優しく励ましてくれる。
嫌だった勉強も、今は嫌いじゃない。
「(来週…かな)」
鈴音に会いに行って、歌を聞いてこよう。
私はピアノから手を離し、楽譜に手を伸ばした。
少し儚いけれど、少し力強い。
彼の歌を風に乗せる伴奏は、まだ冒頭—。
- Re: 音色に君をのせて ( No.59 )
- 日時: 2016/11/04 20:51
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
テストが終わった午後。
私は鈴音のいる病院へ向かった。
今日、またあの歌声が聴ける。
そう思うだけで、テストの時から少しワクワクしている。
静まり返った病院。
私はゆっくりとドアを開けた。
「鈴音」
いつもの笑顔で、迎えてくれる。
そう…思っていたのに。
「あ…」
鈴音はいた。
でも。
「…ないで」
誰だろう、今目の前にいるのは。
「…だ…!」
…なんて言っているの?
「嫌だ…!見ないで…!」
嫌だ…?
見ないで…?
私は頭が追いつかなかった。
今目の前で起きていることに。
私は溢れる涙を腕で隠し、走って行った。
「(嘘だ…!嘘だ…!こんなのっ…嘘だ!!)」
入れ替わるように看護師が横を通っていく。
ねぇ、なんで鈴音なの?
私は病院から出て、家まで走った。
途中、足が絡まって地面に顔をぶつけた。
手から少し、血が流れる。
…血。
「なんで…鈴音なの…?」
私が目にした鈴音。
それは、いつもの優しそうな彼ではなく。
床に散らばったのは、薔薇なんかじゃない。
あれは、血。
- Re: 音色に君をのせて ( No.60 )
- 日時: 2016/11/09 20:57
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
「(ついてないなぁ…)」
鈴音は天井を眺めていた。
あの日、美鈴に見られてしまった。
情けない、自分の姿を。
美鈴だけには、知られたくなかったのに—。
「(死にたくないよ…)」
歌詞を書いたノート。
イノチノ唄。
歌詞はまだ完成していない。
だが。
「(これじゃあ…)」
悲しい曲になってしまう。
この曲は、自分を表した曲だ。
最初は、キラキラした歌詞が出来上がると、信じていた。
でも、少しずつ体は壊れていっていて。
「(美鈴に…見せられないや…)」
嘘なんて書きたくない。
それに、美鈴を—傷つけてしまった。
もう、会わない方がいいのかな。
「怖い…」
死ぬのは、怖くてたまらない。
- Re: 音色に君をのせて ( No.61 )
- 日時: 2016/11/18 20:34
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
「美鈴…保健室行こう?」
私は顔を上げずに、首を横に振った。
こんなみっともない顔、見せられない。
でも、涙が出ている訳ではない。
…涙は昨日のうちに枯れてしまったのか。
いくら悲しくても出なくなっていた。
「美鈴も…見ちゃったの?」
乃亜が椅子に座った音がする。
美鈴も…?私も?
「…知ってたの…?」
掠れた声ではあったが、乃亜はちゃんと聞き取ってくれた。
「…うん。この前お見舞いに行った時、偶然」
なら…どうして黙っていたの?
「鈴音くんには口止めされてたの」
「…なん…で…?」
「…今から言うことは、嘘じゃないから。」
私はゆっくりと顔を上げた。
「美鈴に、心配かけたくない…って言ってた」
- Re: 音色に君をのせて ( No.62 )
- 日時: 2016/11/23 12:09
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
心配かけたくない。
それは、どういう意味なのか。
答えは乃亜が言ってくれた。
「鈴音くんもさ、美鈴が好きだからだよ」
私を…?
その瞬間、頭にあるメロディーが流れた。
「(続きの…音…)」
イノチノ唄。
演奏が途中から迷走していた、続きの音。
「?どうしたの?」
「…ピアノの音が…浮かんだの」
どこまでも伸びていくような音。
ひとつひとつの音が丁寧で、絡み合う。
でもそれは—。
途中で少しずつ解けてしまう。
その後は—。
聞いたことがない。
歌詞も知らない。
後半のメロディーも知らない。
「…行かなきゃ」
逃げてちゃいけない。
「…大丈夫なの?」
「…怖いよ。でも…知りたいから」
いつまでも逃げていたら、この前と同じになる。
「私は、変わらないといけないもの」
「(美鈴…)」
乃亜は、初めて美鈴のこんなにも力強い表情を見た。
- Re: 音色に君をのせて ( No.63 )
- 日時: 2016/11/24 22:09
- 名前: Ria (ID: mnPp.Xe.)
私は学校が終わるとすぐに病院へ向かった。
大輝と乃亜も来てくれることになった。
「…いない」
いつもの場所に、姿はなかった。
—場所すらなかった。
「…どういうこと?」
乃亜が思わず呟く。
机の上にも、ベッド上にも、何も無いのだ。
「そちらの方でしたら…」
偶然通りかかった人が場所を教えてくれた。
隔離部屋。
—病状が悪化したから。
頭によぎるのはそれだけだった。
その場所に、鈴音はいた。
いつもに増して白い顔で、今にも溶けてしまいそうで…。
「お前、大丈夫なのかよ」
「平気平気」
声に力はなく、少し痩せた気がする。
「輸血で、人が多い所だと感染症の疑いがあるからって移動になったんだ」
私は、気がついたら泣いていた。
—死んじゃう。
そんな物騒な言葉が頭を過ぎったから。
乃亜と大輝は席を外してくれた。
「この前はごめんね」
「…こっちこそ…。それで…歌詞の続きが知りたくて」
「…ちょうど書き終わった所だよ」
ちょうど…?
「もう、長くないかもしれないから…」
嫌な予感だけは、昔から当たる。
私はベッドに仰向けになっている鈴音の頬に触れた。
「…冷た…」
鈴音の手が私に重なる。
冷たい。
「…暖かいや…」
鈴音はとても気持ちよさそうに見えた。
私は、涙でいっぱいになって、何も言えなくて。
しばらくの間、泣いていた。
私の手にも、暖かい鈴音の涙が伝った。
- Re: 音色に君をのせて ( No.64 )
- 日時: 2016/11/26 00:04
- 名前: Ria (ID: IxtPF2j4)
眠れ 眠れ
緑の息吹たちよ 健やかに
小さき花 芽生え
風に なびく 僕の唄
何も無い毎日
退屈だと思っていました
外の緑はみんな自由で
誰にも縛られず 生きている
そんなことに気を惹かれ
俺は旅に出てみました
感じる 風の鼓動
聞こえる 俺の心の鼓動
眠れ 眠れ
緑の息吹たちよ 健やかに
響き合う この鼓動
貴方達に 届いていますか
あの小さな命は
どこから飛んで来たんだろう
僕は自由を奪われて
小さな鎖に 縛られました
見つけたものは綺麗で
ひとつひとつに手を伸ばした
感じない その暖かさ
聞こえない 僕の心の暖かさ
眠る 眠る
自然好きな少年は 深く
彩られる 床が
僕に現実を 突きつけた
もう終わりなのかな
大好きな 風に流される旅
もう 触れられないのかな
大好きな 自然の命
眠れ 眠れ
緑の息吹たちも 僕も
自然は 命をつなぐ
僕は 何も 残せない
「…これが、僕の物語の結末だよ」
この歌詞が、鈴音の物語。
私は泣き止んだばかりの顔をまた濡らした。
「身体の回復が…弱くなってるんだ」
「……」
涙を拭う手を、振り払うことができない。
悲しくて、悲しくて仕方ない。
「勝手に…終わら…ない…でよ…」
まだ、私は約束守れてないの。
演奏が完成していなかったの。
「ピアノが完成するまで…待ってよ…」
「…もぅ、いいよ…」
…なんで?
やめてよ…。
そんな簡単に、諦めないでよ…。
「…本当は…もっと美鈴と…一緒に居たかったのに…」
私は鈴音の全部を抱きしめた。
「私は…ずっと鈴音の傍にいたいの」
「鈴音がいいの」
だから—
まだ失わないで。
旅はまだ、これからでしょ?
- Re: 音色に君をのせて ( No.65 )
- 日時: 2016/11/26 13:06
- 名前: 立山桜 (ID: ???)
何て言ったらいいか分かんないけどすごいね…。なんかもう感情がでてる。更新頑張れ!
- Re: 音色に君をのせて ( No.66 )
- 日時: 2016/11/27 23:55
- 名前: Ria (ID: qbtrVkiA)
立花 桜さん
だんだん話が重くなってきて私も悲しい気分です(
コメントありがとうございます。
- Re: 音色に君をのせて ( No.67 )
- 日時: 2016/11/28 00:07
- 名前: Ria (ID: qbtrVkiA)
私は音を作ることをやめなかった。
毎日、学校が閉まるまで必死に音を探した。
家でもピアノはやめない。
「いい曲ね」
「…ありがとう」
「でも、何故かしら…。悲しいわね」
「…うん」
大丈夫。
私の音は間違っていない。
歌詞に合わせた、悲しい音。
「えっ…文化祭でですか?」
「あぁ。頼んだよ」
文化祭が近づいてきたある日。
私はステージで発表する機会を得た。
「…はい」
私も、変わらなくちゃ。
本当は、鈴音の歌声も聞かせたかったけれど。
「(鈴音…)」
学校に来れるような体じゃないのを、一番知っている。
それでも、あの歌声の伴奏がしたい。
そうしたら
音色に君をのせて
どこまでも飛んでいける気がするのに。
- Re: 音色に君をのせて ( No.68 )
- 日時: 2016/12/06 20:47
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
文化祭まで残り3日。
やっとの思いでこの曲を完成させることが出来た。
何回も迷走した。
それでも、何とか終わらせることが出来た。
「(鈴音に…聞かせたいなぁ…)」
でもそれは不可能で。
「美鈴。今日鈴音の所行くけど…」
「いいよ。2人で行ってきて」
「そっか…。ピアノ頑張ってね!」
「ありがとう」
最近、大輝と乃亜は付き合い始めた。
周りも、私もやっとか、って感じだけれど。
2人を邪魔したくないのもある。
それ以前に…見たくなかったのだ。
苦しんでいる姿を。
この曲が完成するまで、鈴音は時間をかけていた。
それほど想いが詰まった曲。
彼の歌声が、後押ししてくれる。
僕のことはいいから
そう言っている気がするのだ。
「(文化祭…撮っててもらおう…)」
そうしたら、鈴音だって見れるから。
- Re: 音色に君をのせて ( No.69 )
- 日時: 2017/01/03 10:08
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
文化祭前日。
だんだん満足できるような演奏が出来てきた。
それでも、まだ満たされないのは…。
「(鈴音がいないから…)」
分かってる。
今も鈴音は戦っているんだ。
気を改めて私は教室に入った。
今日は朝から文化祭の活動。
今日も、がんばろう。
そう自分に言い聞かせて。
「美鈴いる!?」
聞き覚えのある声に、反応する。
—乃亜。
「どうしたの?」
「それが…」
乃亜は今にも泣きそうな顔をしている。
その後ろには大輝もいた。
「鈴音には…言わないでって言われたけど…!」
その一言は、きっとクラスに聞こえていたと思う。
あぁ、どうして神様はいつも意地悪するんだろう。
「明日、病院移動することになったって…!」
- Re: 音色に君をのせて ( No.70 )
- 日時: 2017/02/05 09:25
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
「そっか…」
知らないままが良かった。
そんなこと今知ったら…
明日、どんな顔をしてればいいの?
「…大丈夫だよ」
こうして、偽りの笑顔を見せ続ける?
「美鈴…」
ねぇ、鈴音。
今…。
物凄く…。
「会いたいよ…」
溢れる涙は堪えることが出来なかった。
学校なのに、クラスなのに。
今までどんな事があっても、我慢してきたのに。
「文化祭でピアノ、やるんだよね?」
「…ん」
「よし!んじゃあ行ってくるわ!」
「あっ俺も行く!」
「…やめて!」
クラスの男子がとる行動なんて、分かっていた。
でもそれは、同時に鈴音に負担がかかるのだ。
「私は大丈夫だから」
これ以上、心配をかけたくないから。
「明日…頑張ろう」
クラスでまともに会話できたの、今日が初めて—。
なんてことが今更頭に浮かんだ。
- Re: 音色に君をのせて ( No.71 )
- 日時: 2017/02/16 16:35
- 名前: Ria (ID: 4tgQeMR/)
大好きな、ピアノ。
こんな弾き方しちゃダメなのは、私が一番分かってるのに。
どうしても気持ちが出てしまうのだ。
「(やば…泣きそう…)」
鍵盤が滲む。
—ダメ、今は本番なのに。
胸元には小型のマイクが付けられている。
けれど私はあえて何も話さなかった。
拍手を貰っては、次の曲を。
そうして、この曲まで辿り着いてしまった。
「じ、実はですねー…」
私が止まったのを察し、アナウンスがフォローしようとした。
「(そんなの…いらないってば!!)」
私は遮るように手を走らせた。
「らんぼー…」
ピアノにおっ掛かる影が見える。
それは…私の…
「なんでっ…!」
大好きな鈴音だった。
少し痩せて、元気もないような気がする。
それでも、私に演奏を続けるように促す。
「(あぁ…心地よい…)」
変わってない。
私の大好きな歌声。
大好きな…後ろ姿。
鈴音は、文化祭に来てくれた。
- Re: 音色に君をのせて ( No.72 )
- 日時: 2017/02/20 09:56
- 名前: Ria (ID: Sc1bIduz)
ずっと、この時間が続けばいいのに。
鈴音の物語の歌。
終わってしまう。
「(終わらないで—)」
死なないよ、鈴音は…!
鈴音の歌声が終わり、私のピアノ伴奏だけが静かに響いた。
—終わらせない…!
私が居るよ そばに居るよ
この音が 消えぬ限り
音と唄のハーモニー
大好きな君へ イノチノ唄…
一音ずつのピアノの音に合わせて、呟くように私は歌っていた。
私は思うように歌えないけれど、あなたは持っているの。
その綺麗な歌声を…もっと、聴かせて。
少しの間を開けて、観客から盛大な拍手が送られた。
横目で見ると、感動して泣いている人も見えた。
「(—終わっちゃった…)」
溢れる涙を拭こうとする手を、強く握られた。
「俺は、元気になって…戻ってくるよ」
そして私の頬が…唇を優しく触れた。
「うんっ…!うんっ……!」
私も、信じなきゃ。
そして鈴音は学校から、病院から姿を消した。
最先端の治療を受けて、また、帰ってくるために。
- Re: 音色に君をのせて ( No.73 )
- 日時: 2017/03/17 20:44
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
それからの時間は、早々と駆け抜けていって。
気がつけば私は学校を卒業していた。
鈴音は、あれから帰ってきていない。
連絡手段もない。
何処にいるのかはもちろん、知らない。
どんな状態なのかも、分からない。
春から、私は音楽専門大学に行く。
先生からの勧めもあり、親からの後押しも。
そして自分のために。
それから—鈴音のために。
地元を離れるのに寂しさは不思議と感じない。
「(桜……咲いちゃうよ…)」
アパートで1人、私は荷物を片付けられずにいた。
1人だけ、春がまだ来ないかのよう。
- Re: 音色に君をのせて ( No.74 )
- 日時: 2017/03/20 20:23
- 名前: Ria (ID: 31lZGh9F)
1年はあっという間に過ぎていった。
何度も大会の演奏に出た。
色んな人と組んでは、歌声を私が演奏でのせる。
それでも、何か満たされないのは。
「(…何処にいるの?)」
ピアノを前に1人、涙を堪えていた毎日は少なくない。
「美鈴。次のペアだが—」
先生からも、生徒からも一目置かれる存在の私。
歌を歌う人からの指名が殆どで、私は指名したことが無い。
「…はい」
次のペアの生徒が入ってくる。
目の前に立っていたのは、茶髪で、身長が高くて。
声は低いけれど、何処か優しくて儚げで。
「ひとつ下の学年だが…鈴音だ。」
知らないけれど、知っている。
「ただいま」
私の、ずっと待っていた愛しい人。
やっと会えた。
「おかえり……!」
私は歌えない。
あなたは弾けない。
だからこそ、お互いを補う。
だから私が—。
音色に君をのせて。
<END>