コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 怪盗レイヴン 夜闇を舞う黒き怪盗 ( No.2 )
- 日時: 2016/09/13 17:08
- 名前: エル (ID: 0llm6aBT)
いきなりそう言われて、黙り込む隼。そして、一呼吸おいてから再び口を開いてみる隼。
「あーお母さん? 何かあって色々大変だとは思うけど、僕の誕生日を祝前に休んだ方が良いんじゃないの?」
そう苦言を呈し、冷たくあしらう隼。それを見て、母は悲しそうな表情をする。
「やーねえ隼、せっかくこんな風にサプライズしてあげているのに、そんなに冷たいこと言わなくてもいいじゃない。折角衣装とか用意してあげたのに……」
「別に。前にも仕事疲れで色々変なこと言い始めたりしたことあったじゃん」
「アレは……どうしてもネタが思いつかなくて、色々切羽詰まっちゃったから色々大変なことになっちゃって……」
「それで色々大変な思いをしたのは僕なんだけど?」
思い出したくないことを思い出す隼。思い出せば思い出す程、嫌な感情があふれ出てくる。それは非常に嫌な思い出であった。
「で……この衣装をプレゼントとして渡した意図は?」
「ああ、それはね……さっき言った通り、私とお父さんが怪盗だったって話」
「お父さんとお母さんが昔怪盗だったなんて……どこにそんな証拠があるのさ? それに、お父さんは普通のサラリーマンだったって言ってたじゃん」
そう言って、部屋の隅に置いてある家族写真を見る隼。そこには、父と母と、赤ちゃんの頃の自分が写っていた。だが、その写真に写っている父は家にいない。実は、自分が赤ちゃんの時に、病気で亡くなってしまっていたことを隼は母から聞いていた。
「確かに、いきなり言われても信じられないかもしれないわ、けれど……証拠がきっちりあるのよ。これがそうよ……」
母は懐から一枚の仮面を取り出す。その仮面は、何も描かれていない白い仮面であった。口も、鼻も、目も無い。顔に被れば、それこそ顔が無いように見える仮面であった。
「仮面? でもこれって……どこかで見たような……あっ! これノーフェイスウィッチがつける仮面じゃん!」
「そう、私は昔、ノーフェイスウィッチのモデルキャラ、フェイスレスウィッチとして、ヨーロッパ中を騒がせていたのよ」
そう言われて、小説のノーフェイスウィッチを思い出す隼。あのキャラは、最初出てきた時はレイヴンのライバルとして現れ、レイヴンを出し抜いて光の氾濫という宝石を盗み出した。しかし、初登場した本から登場して五回目の本で、レイヴンに出し抜かれて光の氾濫を盗み返され、レイヴンに興味を抱き始めた。そして、後にレイヴンに興味を抱き始め、今ではライバルというより、ヒロインの要素が強くなっていったキャラである。
はっきり言って、母がそんなキャラであるはずがないと思っていた。何故なら、ノーフェイスウィッチは顔こそ見えないが、ミステリアスな美人女性であり、ずっと部屋にこもって小説を書いていて、外に出ることをあんまりしない女性である。失礼かもしれないが眼鏡の干物女という言葉が似あう女性である。
ついでに、ノーフェイスウィッチは人知を超えた不思議な力を持っている。怪盗でありながら、魔女とすら言われている女性である。はっきり言って、小説を書く才能だけが突出している女性の母には、そんな力があるとは思えない。
「私は盗みをしている最中に、のちにお父さんとなる怪盗レイヴンと出会ってね……私より華麗に盗みを行う彼が気に入らなかった、だから私は怪盗として、お父さんが狙っていたものと同じ物を盗んだわ……でもね、お父さんに盗み返されて、対抗心がわいてきたの。けれど……何度やってもお父さんには勝てなくて……いつの間にか、どれだけ力を使っても華麗にかわして行くお父さんに惚れちゃったのよ。ああ〜! 今思い出しただけでも胸が熱くなるわ〜!」
勝手に一人で盛り上がる母に、またしても呆れた目で見る隼。そして小さな声でつぶやく。
「……どう考えても作り話でしょ……」
しかし、隼がそう呟いても母は話を止めない。
「そして、お父さんに惚れてしまった私は、お父さんを呼び出して、素顔をお父さんに見せて一緒になってほしいって言ったの。そうしたら、お父さんなんて言ったと思う?」
「わからない」
「そこまでの覚悟があるなら、ともに一緒になろう。って言ったの。そうしてお父さんも素顔を見せてくれたのよ。ああ〜嬉しかった……」
「……」
言葉が出ない隼。母が何を言っているのか理解できない隼は、ただ黙って母の話を聞くだけだった。
「そして、私はお父さんと結婚したいって言ったわ、そうしたら……快くOKしてくれたのよ! そして、私との時間を大事にするために、共に怪盗を引退しようって言ったわ。そして……最後の大仕事として、フェイスレスとレイヴンは一緒になって世紀の遺産を盗んだの。そして、その遺産を元の国に返したの……そして、レイヴンとウィッチは眠りについたの。これ、レイヴンシリーズの最終回として予定していたんだけどね」
「と、いうことは、お母さんはその経験を生かして小説を書いているってこと?」
「そうよ、怪盗だった頃の思い出を生かして怪盗小説を小説賞に応募したら、見事受かって……大人気シリーズになったのよ! ああ〜……私達の物語がこれからも続いていくのは嬉しいことだ……という言葉を貰った時の、私の感動と言ったら! 何にも代えがたい物だったわ〜!」
一人で盛り上がる母に、ため息をつく隼。そして、一番聞きたかったことを母に聞く隼。
「どうでも良いけど、なんでそんなことを僕に話したの? まあ、どうせ作り話だからどうでも良いことだけど」
「そう、何故このことを隼に話したのか……それを聞いてくれるのを待っていたわ」
「えっ……聞かれるのを待っていたって? どういうことなの? 説明してよ」
「では単刀直入に言わせてもらうわ」
その後、母は深呼吸して、厳かな声で隼に言う。
「隼。あなたには怪盗レイヴンになってもらうわ」
「は、ハァ!?」
いきなり突拍子もないことを言った母に、ただただ驚くことしかできなかった隼。そして、母が何を言っているのか、全く理解できなかった。息子にいきなり、怪盗レイヴンになれということを言ったことに。
「…………」
しばらく唖然としていた隼は、恐る恐る母に言う。
「ねえお母さん……本当に大丈夫? 疲れが凄く溜まっているみたいだから、レイヴンシリーズを休載したほうがいいんじゃない?」
心配した目つきで母を見つめる隼。しかし、母は何の屈託もない表情で隼に返す。
「別に? 私は疲れていないわ、むしろ絶好調よ」
「本当に? 全部ウソでしたってことで良いよもう……」
「ウソじゃないわ、だって、隼は本物の怪盗レイヴンになれるんだから」
「いや、僕は何も特別に運動神経が良いって訳じゃないし、頭が切れるって訳でもないし……確かに衣装を着れば格好だけレイヴンになれるかもしれないけど」
「恰好だけじゃないわ、身も心もレイヴンになれるのよ」
「そんなこと出来る訳ないじゃん、僕はただの一般人なのに……」
「それがね、なれるのよ……『彼』の力を借りればね……」
「『彼』? それって、一体誰?」
まさかとは思うが、お父さんを怪盗として育て上げた人の所に弟子入りさせられるのか、と思い、不安になる。
しかし、不安はすぐにかき消されることになる。
「彼はここにいるわ」
母が懐から取り出したのは、一冊の古ぼけた本だった。表紙には、意味不明な文字で題名が書かれていて、鍵で閉じられていた。
「……どこに『彼』がいるの?」
「『彼』はこの本の中にいるわ」
「えっ……!?」
本の中に人がいる。そんなバカげた話を大真面目に話す母。もはや、何に驚いていいかわからない。
「ねえ……もうやめない? この話……」
「まあ、いきなり言われて信じられる訳ないわよね。だから……この話はここでおしまいにしましょう」
「うん。そうしてくれると助かる……」
「じゃあ一応最低限の説明はしておくわね。この本は盗賊神書と呼ばれている本で、『彼』の魂が本に宿っているの。彼の力を借りるには、巻末に赤い文字で書かれている文字を読むといいわ。これがそうよ」
本の鍵を開けて、本の一番後ろに赤く書かれている一文を見せる母。その一文も、意味不明な文字で書かれていた。
「この文章……なんて読むの?」
「いずれわかるわよ、いずれね……じゃあ、この本を隼にあげるわね」
そう言って隼に手渡しで盗賊神書を渡す母。それを受け取った隼は、非常に嫌そうな顔をする。
「こんなのいらないよぉ……」
「大丈夫、本にはちゃんと彼の魂が宿っているわ。近いうちに、『彼』に会えるかもしれないわね……じゃあ、私は執筆作業に戻るわね」
そう言って、母は自分の部屋へ戻って行った。そして、レイヴンの衣装と本を押し付けられた隼は、何をすればいいのかわからなかったので衣装と本を持って自分の部屋へと戻って行った。