コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 怪盗レイヴン 夜闇を舞う黒き怪盗 ( No.3 )
日時: 2016/09/21 11:08
名前: エル (ID: rHtcSzQu)

「さて……どうしようか? この本と衣装」
 部屋に戻った隼は、母から押し付けられた盗賊神書と、レイヴンの衣装の処理に困っていた。
「衣装だの本を貰ったけど……はっきり言って、いらないものだらけだ……まあ、以前まで貰っていたものに比べれば、大分マシなものだけどね。一応僕もレイヴンの小説好きだし」
 だからと言って衣装まで渡さなくても……と思いながら衣装と本を机の上に置いた。
「……にしても、なんであんなこと言ったんだろう? お父さんが昔レイヴンとして世間を騒がせていたとか、お母さんはそのライバルだったとか……本当に、お母さんは何が言いたかったんだろう?」
 ベッドに寝転がりながら、そう呟く隼。確かに、母は隼にとって疑問になるようなことばかり言っていた。父が元怪盗だったと言ったり、自分も怪盗で、父と争って引退した後、自分と父のことをモデルとした小説を書いた……と母は言った。はっきり言って、本当のこととは思えない。
「けれど……お母さんが誕生日プレゼントに渡したものって、殆どが希少価値の高い高級品だったような……」
 隼の言った通り、母が隼に誕生日プレゼントとして渡した物は、非常に高級な品ばかりであった。変な幾何学模様の絵は、西洋美術の権化と言われた美術家が描いたものであり、赤い水晶はルビーの巨大な原石だった。そして悪魔の像は、黒曜石で作られた中世の貴重な美術品であった。と言っても、その殆どは押入れに突っ込まれていて、日の目を見てはいないが。
「でも……やっぱり何で衣装と変な本を渡したんだろう? それに、怪盗になれだなんて……お母さんの意図が読めないよ……」
 机の上に置かれた衣装と本に目を向ける隼。そうしたら気になってしまった隼は、ベッドから起き上がり、机に座って衣装や本を確認する。
 衣装の入っている箱の中身を見てみると、シルクハットや燕尾服にマント、仮面だけではなく、黒い革手袋や、黒のブーツが入っていた。だからどうした。といった具合であったが。
 次に、盗賊神書を読んでみる隼。本にかけられている鍵を開けて、本の中身を見てみる隼。鍵と言っても、開けるためのキーが背表紙にはめこまれており、そんなに苦労はしなかった。そして、本の内容を見てみるが、全くわからない意味不明な物だった。
 これは本当に文字なのかという文字の羅列ばかりが本には沢山書かれていた。その文字は、何やら規則性があるようで、規則性が無いようにも見える。まあ規則性があった所で読める物ではない。途中に挿絵が載っていたが、それを見ても何が何なのか、全くわからなかった。衣装とは違い、こちらの方は元から期待していなかったが。
「わかんない……これって本当に本なの? 意味不明な文字がひたすら書かれてるだけ……本当に、本としての意味がない……レイヴンシリーズは、一ページの中に物凄く凝縮されてるっていうのに……」
 読んでも読んでも、意味不明な文字と時々挿絵が挟まるだけ。内容の分からない本であるこの本を、三分で読むのを止めてしまった。
「こんな本、読んでも読まなくても別に同じじゃん……」
 そう言って、本を閉じようとするが、母から言われたことを思い出す。それは、巻末に書かれている赤い文字についてだった。
「そういえば、お母さん言ってたな……『彼』の力を借りるには巻末の赤い文字を読めば良いって言ってたけど……もう一度見てみるか」
 そう言って、見せてもらった巻末の赤い文字を見てみる。
 その文字は、本の中に書かれていた文字とは違っていた。読めない文字なのには変わりないが……どこか本に書かれていた文字とは違うような気がした。
「これ……なんて読むんだろう? 『彼』の力を借りるにはこの赤い文字を読めばいいってお母さんから言われたけど……」
 赤い文字をただじっと見つめる隼。……が、じっと見つめても何かが変わる訳ではなく、結局なんのことなのか分からず、本を閉じた。
「ふう……やっぱり読めないや……ま、こんな本読んでも何にもなるとは思ってないけど……」
諦めて本を閉じた隼。そして本を閉じた後は、ベッドに入って寝てしまった。やっぱり今年の誕生日も、外れの品だったな、と思いながら。
 が、隼は気づいていなかった。盗賊神書に鍵をかけておらず、そのまま本を開きっぱなしにしていたことに。

「ん……あれ、ここどこ?」
 眠っていたはずの隼が目覚めると、何もない闇の世界が広がっていた。まるで目が見えなくなってしまったかのように、目の前には暗闇が広がっていた。
 目の前はどこを見ても黒しかない。この状況で、自分が何をしているのか、どこにいるのかもわからなくなってしまった隼は、パニックを起こしていた。
「ど、どこなのここ……一体なんなの!?」
 訳がわからずただ慌てふためく隼。すると。
「……」
「え?」
 何やら声がする。高いとも、低いとも言えない、中性的な声。聞いていて心地いい声だった。
「烏間隼」
「……誰?」
 コツーンコツーンと足音を立てて近づいて来た何かが、隼の目に薄っすらと映った。それは……。
「君か、私の力を受け継ぐに相応しいという少年は?」
「えっ、ええ!? レ、レイヴン!?」
 目の前には、小説で何度も見た、レイヴンの姿があった。シルクハットを被り、燕尾服を着ていて、カラスのような仮面を被っているその姿。挿絵で何度も見たことはあったが、現物を見るのは初めてであった。
「私はレイヴンではない。ただのカラス。少し不思議な力を持っているだけのね」
「ど、どういうこと?」
「私は肉体を持たない。私の力を求める人間に乗り移ることで、はじめて私は私として力を使える……君のお父さんが昔、私の力を借りて怪盗になったように」
「えっ!? じゃあ、お母さんが言っていた『彼』の力を借りて怪盗になっていたって、君の力を借りていたってこと!?」
「ああ。私がその『彼』だ」
「そ、それって一体……」
「残念ながら、今回はここまでみたいだ。また……会える時に会おう」
 そう言うと、レイヴンの体が黒い羽根となって消えていく。だが、隼にはまだまだ聞きたいことが沢山あった。それを全部聞かないうちには、消えてほしくなかった。
「待って! 消えないで! 君がお父さんと怪盗をやっていたのも、お母さんが怪盗だったのも、全部っ……」
 羽根となって消えていくレイヴンを、なんとかつかもうとする隼。だが、レイヴンはというと。
「ここまでだって言っただろう? じゃあ、そろそろ目を覚まそうか」
 その瞬間、足に触れていた間隔がなくなる。体が宙に浮いたような、そんな感覚を、隼は感じた。
「待って! 君は一体……お父さんと何……わああああっ!」
 レイヴンは隼の呼び止めも聞かず、羽根となって消えてしまった。そして、隼は落ちていく。暗闇の中へ。虚無の中へ。どこまで落ちるのかわからない程、深い谷底へ。
「わああああっ!」
 ベッドから起き上がる隼。そこには、闇も何もなく、ただいつもの暗い部屋が広がっているだけだった。
「あ、アレ……? 夢?」
 息を荒くしていた隼は、自分が感じていたことを思い出す。だが、思い出そうとしても、何も思い出せなかった。
「な、なんだろう……? 何か凄く変な夢を見た気がする……だけど、思い出せない……」
 隼は、何が何だかわからない様子で、ただただ周りを見渡すだけだった。すると、母から貰った衣レイヴンの衣装と、盗賊神書なる本が目に入った。
「まさかとは思うけど……アレのせいじゃないよね?」
 あんまり母を疑いたくはなかったが、この場合原因が他に考えられるだろうか。ひとまず隼は時計を確認して、それが深夜の時刻だとわかると、衣装と本を部屋の隅っこに置いて……そのままベッドに入って眠ってしまった。