コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 怪盗レイヴン 夜闇を舞う黒き怪盗 ( No.4 )
- 日時: 2016/09/29 12:42
- 名前: エル (ID: rHtcSzQu)
翌日。放課後の学校で隼は昨日母に言われていたことを友達の遼太と奈央に話していた。
「なるほど、お母さんが昔怪盗をやっていて、その過程でレイヴンだったお父さんと出会って、お母さんがお父さんに一目ぼれして、その後一緒になって怪盗を引退して、引退した後はお父さんの活躍をモデルにした小説を出版社に出したら、ものの見事に大成功しちゃった……ってことでいいのかな?」
「うん。大体そんな感じ」
「あのさ……こういっちゃ悪いと思うんだけど……隼のお母さんは相当疲れが溜まっているんじゃないのかな?」
「うん遼太……僕もそう思うよ。おまけにレイヴンの衣装に、お父さんを怪盗にした『彼』の魂が宿っているっていう、盗賊神書っていう本まで押し付けられて……もうやだぁ……」
「隼君も大変だねえ……」
「大変すぎる……」
遼太と奈央に、哀れみの視線で見られる隼。流石に今回のことは、隼にとって余程応えたようだった。気落ちした隼は、ただただ項垂れるだけだった。
「うう……僕はどうしたら良いの? お母さんがあんな風になっちゃって……」
「ひとまず、お母さんにレイヴンシリーズをしばらく休載するように言ったら? 今まで大分根を詰めて書いていたからね……しばらく休んでも文句は言われないんじゃない?」
「そうだよ。今まで三十巻以上も休み無しで作品を出し続けていたんだから、いい加減休まないとそのうち……」
そう言われた隼は、ますます気を落とす。まあ、あのお母さんのことだから大丈夫だと隼は思っていたが、やはりどこか不安は隠せない隼だった。
「あー……やだやだ……お母さんはどうなるのかな……」
「まあ、なるようになるんじゃない? どうせ過労による一過性の逃避行動みたいなものだとは思うし、そのうち収まるとは思うよ」
「そうだと良いね……」
半ば諦めたような口調で言う隼。それをからかいの表情で見ている遼太。奈央であった。
すると、遼太が言う。
「ねえ、その盗賊神書……今持ってる?」
「え? なんで?」
「なんか興味があるんだよ。その『彼』が宿っている本がどんな本なのか。別に、持ってきてないなら別にいいんだけどさ」
「別に良いよ。別に面白くもなんともない本だけど」
「持って来てるんだ……じゃあ読ませてくれよ」
隼はカバンの中に入れておいた盗賊神書を出して、遼太に見せる。遼太はまじまじと本の中身をじっと見つめる。隼はすぐに本を閉じた代物だが、。
「ねえ……これは本当に本なの?」
「一応本なんだけど……僕にはとても、この本が意味を持って書かれたようには思えないんだ。というか、これは本当に本と言っていいのか……」
「確かに、一目見ただけじゃ何が何だかわからないと思う。だけど、この文字には規則性があるように思える。この本に書かれている文字はつまり……何かの暗号だと僕は思う」
「暗号? どういうこと?」
「要は……この本は普通の人が読めないように特殊な文字で書かれている。それは何故か? それは……この本には他の人には知られてはいけない、とても大切なことが書かれているんだと思う」
「それって何なのさ?」
「例えば……凄い宝石とか、古代の秘宝とか」
「確かにそうなるのが筋かもしれないけど……本当にこんな本が宝のありかを示す地図だなんて思うの?」
「えー、なんかいいじゃん。ロマンがあるよ! 怪盗が盗み出した古代の秘宝の地図を本として私たちの手に渡っているんじゃ」
「奈央……それ本当に信じているの?」
「えー……隼君はロマンって言葉を知らないの?」
「事実は小説よりも奇なりって言うじゃないか。ありもしない幻想よりも、現実の方がもっと驚くようなことが多いと思うよ? こんなくだらない本に時間をかけるより、もっと現実に目を向けた方が良いと思う」
「うー……相変わらずロマンが無いなあ隼君は。とても小学生の言葉とは思えないね」
「昔から、お母さんの被害に遭っていたからね……こういうのはお母さんの悪ふざけみたいなものだから、あまり真剣に受け止めないが良いと思うよ」
「あ……そ……」
隼のあまりにも現実的な言動に、呆れ果てる奈央。奈央は隼と友達とはいえ、隼のこういう所が嫌だと思っていた。まだ小学生だから、もっとアクティブになってもいいと思うのに……と、いつも思っていた。
そして、まだ例の本を読んでいた隼は遼太はというと。
「うーむ……規則性があるのは分かったけど……やっぱり日本語訳は相当難しそうだとは思うよ」
「あれ……遼太まだその本読んでたの?」
「うん。規則性があるけど……日本語にするのは相当苦労すると思うよ」
「いや……これを日本語に出来るって発想がおかしい」
「けれど……内容はさっぱりだ。文字に規則性はあるけど……文章に規則性が見られない」
「だろうね。そんなもの解読できる方がおかしいと思うよ」
「ねえ隼君。お母さんにそれっぽいヒントとかもらわなかった?」
「うーん……巻末の赤い文字が、本に宿っている『彼』の力を借りるための呪文とか言ってたけど」
「巻末の文字……ねえ」
隼にそう言われて、遼太はすぐさま巻末の方へとページをめくる。そしてその文字を見てみる遼太。
「ふむ……これは本の中にあった文字とは結構違う文字だな……一見すると、本の中にある文字と同じに見えるけど……微妙に違っているのがまたニクイなあ……以外と考えて作られているね……」
「そう?」
「でも……この文字は他の文字とはどこか違う……何かこう……生きているような……」
「生きている? どういうこと?」
「なんかこう……変な感じがするんだ。この文字を見ていると、何かが語り掛けてくるような気が……」
「……そんなことあるわけないじゃん」
「そうは言っても……うわっ!?」
いきなり大声を上げた遼太。それに、隼と奈央は驚く。
「遼太君どうしたの?」
「い、今……この本に書かれている文字が僕を睨んだような気が……」
「……それ、本気で言ってるの?」
あまりにも非現実的なことに、ただただ呆れることしかできない隼。
「……ゴメン。そんな気がするだけだ。この本は返すよ」
「うん。ありがとう。それじゃあ二人とも、僕は帰るよ」
「うん。それじゃあまたね」
本を返してもらった隼は、そのまま本を持って学校から帰って行こうとする。すると、奈央が呼び止めた。
「あ、そういえば隼君に言いたいことあるんだった」
「何?」
「誕生日に大変な目にあった隼君に、後で私の宝物を見せてあげる」
「あ、ありがとう……」
「うん。誕生日に酷い物を貰ったって言うから、せめて良い物を見れば少しは気分も良くなると思って……」
「ありがとう。その心意気だけで十分だよ」
少しでも自分のことを心配してくれていた奈央に、感謝の気持ちを覚える。心から自分のことを心配してくれる、友人の奈央に。
「まあ、お母さんはきっと大丈夫だと思うから心配しなくていいよ」
「うん。小説家っていうのは意外と難儀な職業だからね……まあ、今まで耐えてきた隼君なら大丈夫だとは思うよ」
「うん。それじゃあ!」
二人の励ましを受けて、家へと帰って行った隼。
「ただいま」
家のドアを開けた隼。すると、家の中は真っ暗であった。明かりは一つもついておらず、まるで光が消えてしまったようにも感じられた。
「アレ? 停電かな? まさかとは思うけど……お母さんがパソコン使いすぎてブレーカーを落としちゃったかな?」
ひとまず、ブレーカーを探して暗い家の中を歩き回る隼。しかし、太陽が昇っているというのに、何故こんなにも暗いのか隼は疑問に思っていた。カーテンも何も閉めていないというのに。
「お母さん! どうかしたの? もしかしてブレーカー落ちた?」
その言葉と同時に、向こうから足音が聞こえてきた。恐らくお母さんがこっちに来ているのだと思った隼は、足音のする方向に向かって行った。そしてしばらく歩くと、暗闇の向こうにお母さんがいた。隼は駆け寄る。
「お母さんどうしたの? ブレーカー落ちたの?」
「違うわ。これは私が光を消しているのよ」
「は? お母さん何を言っ……て……?」
母が振り向いた時、見えた顔にはなんと……顔が無かった。いや、顔が無いように見える白い仮面を被っていた。それはもう、目も口も、何もない仮面だった。
「お、お母さんそれ……!」
「あら言わなかった? 私がレイヴンの小説に出てくるノーフェイスウィッチのモデル、フェイスレスウィッチの正体だということに。それに、これからあなたに真実を見せてあげるのよ。レイヴンの真実を」
「お母さん! ふざけてるの!? こんなに追い詰められているんだったら、ちゃんと休みを取って、休載して——」
「やれやれ……しばらく眠っていなさい」
母が隼の額を指でつつくと、隼はスイッチが切れたように眠ってしまった。
「さあ隼……これからたくさん見せてあげるわ……レイヴンの真実を……」
そう言って、母は隼を抱きかかえて部屋の奥へと連れて行ってしまった。その仮面の下に、愉悦の表情を浮かべながら。