コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 私がヒーローになるまでの話【オリキャラ募集!】 ( No.8 )
- 日時: 2016/12/20 18:00
- 名前: 薄葉あた丸 (ID: V9u1HFiP)
「嫌だ! やめてくれ! 俺は人間と同じだ!」
ただ叫び続けた。
叫ぶのをやめてしまったら、命も動かなくなってしまいそうだったから。
「俺たちは、お前らと同じだ!」
*
「——りの、聞こえるか?」
全てが薄い世界で、懐かしく暖かい声が聞こえる。
このまま消えてもいい、とさえ思ってしまうほどに安らかな気分になった。
「鞠乃!」
自分の名前だと気付き、とっさに目を開く。
ぼんやりと、自分を覗き込む人影が見えた。
「!」
頬に、何かが落ちてくる。
冷たい。涙だ。
「宗介さん——?」
鞠乃は寝かされていたベッドから上体を起こした。
見渡すと、ここは、ベッドとイスが一脚置かれただけの空間。木製の小さな部屋のようだ。
鞠乃がいるベッドのすぐ横で、宗介は椅子に座っている。
何故こんなところにいるのだろう。
数時間前の出来事を思い出そうと、目を閉じてみる。
本を買いに行っていた。
楽しそうな宗介がいる。
気に食わない題名の本が一冊あり、気分が悪くなった。
そのまま買い物に出掛け、宗介をおいてきたことを後悔しながら帰りの道を歩いて——。
ということは、ここは家なのだろうか。
いや明らかに違う。
こんな場所、見たことがない。
——思い出した。
あのあと、宙を舞った感覚が残っている。
ここは天国なのか?
傷がついたであろう場所に、鞠乃は手を当てた。
ん? 傷がない。手のひらを右に左に動かして探ってみるが、痛みもしない。
不思議だ。あれから何日も経ったようには思えないのに。
やはり死んだのだろうか。
鞠乃が怪訝な顔で額を触り続けていると、ふいに宗介に抱きしめられた。
いきなりの事で戸惑ったが、一気に安堵感が押し寄せる。
宗介は優しい手つきで、何度も鞠乃の頭を撫でた。
だが、抱きしめるというより、しがみつくようにも感じられる。
彼の頬を伝う涙が、鞠乃にも分かった。
「俺の前からいなくならないでくれ……」
しぼりだすように呟く。
普段あまり自分のことを言わない宗介の口からこんな言葉が聞けるとは。
天国も悪くない。
しばらく腕の中に収まることにした。
「お取り込み中のところ、すまんな」
部屋のドアが静かに開いたかと思うと、見覚えのない、知らない男の人が入ってきた。
宗介はすばやく鞠乃から離れ、眼鏡のずれを直す。
男は白いセーターにジーンズ姿、かなり長身のようである。
「お嬢さんに話があってな」
お嬢さん。……もしかして私のこと?
鞠乃は戸惑う。状況がなかなか理解できない。
「少し、二人にしてほしい」
男が宗介に話しかけた。
宗介は一度ためらう様子を見せたが、鞠乃の頭をぽんぽんと軽く叩き、男に耳打ちしてから部屋を出て行った。
いなくならないで、待って。
緊張からか、声は喉のあたりで溶け、部屋には男と鞠乃二人に。
「俺は黒川千紘という。千紘と呼んでくれていいぞ」
そう言いながら、いままで宗介が座っていた椅子に腰をおろす。
近くで見ると、大分美形な若者だ。
白くてすべすべの肌に、澄んだ瞳が美しい。
思わず見とれてしまうほど綺麗な顔立ちをしていた。
「千紘さん、もしかしてあなたは神様ですか?」
千紘は目を見開いた。
そして、すぐ優しい笑顔になり、声を出して笑いだす。
恥ずかしい事を言ってしまったと、鞠乃は顔を赤くした。
「まあそうだな。ある意味神様かもしれん。ついさっきの事を考えるとな」
うっとりする笑顔で、ゆっくりとした口調で、語る。
何だか見ていると落ち着く人だと思った。