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Re: 私がヒーローになるまでの話【オリキャラ募集!】 ( No.17 )
日時: 2016/12/14 20:44
名前: 薄葉あた丸 (ID: V9u1HFiP)

第二話「遥かな世界」


 東雲病院という、ここら辺では大きな方の、機能も充実した病院がある。

 その病院の地下一階に、膨大な研究所が広がっていた。


 あらゆるコンピューターが並ぶ部屋から手術室の様な造りの部屋まで様々な部屋が沢山あり、その広さは研究員達にも計り知れない。

 研究員の一人である七瀬百果の持ち場は、少し特殊な部屋だった。

 会議用テーブルをいくつか繋げた大きな面積の台が部屋の隅に置かれ、上には得体の知れない道具が大量に散乱している。

 部屋の中心にはこれまた会議用テーブルが六つ、二列に並べられ、パイプ椅子がテーブルを取り囲むように並んでいる。

 これだけ物が置かれていてもまだスペースに余裕が有る程、割と広い部屋を百果は提供された。
 
 壁や床は一面真っ白。何故か薬品の香りが漂う、何とも混沌とした部屋だ。

 何の為の部屋かは決まっていないが、とりあえずこの場所を使う仲間内では会議室として扱われている。


「ジュリア、いい加減壁から離れて」

 パソコンに向かい合って文字を打ち込んでいた百果は、振り返って背後の女性にぴしゃりと告げた。
 
 まったく、今は会議中だというのに。まあ、メンバーは三人だけれども。

 彼女がいるとのんびりした空気が流れて緊張感なんてものは微塵も感じない。

 ジュリアは適当に「おっけーです」とゆるく応答し、離れがたそうに壁をなでてから百果の前の席についた。

 ジュリア・ハイビスカス。この研究所でも精鋭といわれる優秀な部下だが、扱いが大変なのが玉に瑕といった所だろうか。

 どうやら隣の部屋が石油ストーブをつけているらしく、その匂いが良い意味で気になるらしい。


 その趣味は理解できないが、変な趣味を持っているという点なら私も共通しているところがあるか、と百果は自分を無理やり納得させる。


「始めようか」

 白衣のずれを直し姿勢を正したジュリアは急にきりっと眉をつりあげ、真面目なトーンで話し始めた。
 
 今まで壁に張り付いていたお前のセリフかい。

 それにジュリアが参加していなかっただけで会議はもう始まっている。

 百果の胸中が察されたのか、それとも顔に出ていたのか、隣に座っていた加賀水面に、

「まあまあ、ピリピリしないでください。先輩もう歳なんですから。寿命が縮まりますよ」

と言われてしまった。


 まだ現役の若者です!

 うるうる、ツヤツヤの二十六歳です!

 あなたより七歳年上なだけですから!


 と、声に出せない自分が嫌だ。

 確かに水面は若い。

 常に笑顔で毒を吐く、天然毒舌天使だとしても、裏を返せば嘘がつけない純情な乙女なのだ。

 そう。可愛い、可愛い。

「先輩、顔が変幻自在ですね。なんかカメレオンみた〜い」
「水面ちゃん、ナイス例えだねえ」


 可愛くない!

 カメレオンと言われても嬉しくない。


 それに、肯定しないでほしい、ジュリア。

「はい! もう真面目な話! 資料出して!」

 机をバンと叩き、ややきつめに言った。

 さすがに二人も反省した素振りを少しだけ見せ、手元に数枚の紙を置いた。

 こんな三人でお送りしている我がチームだが、これでも限られた人間しか知らない極秘情報を握っている。


「紺野鞠乃の生存についてだったわね」

 そう。これこそ極秘情報だ。

 この紺野鞠乃というのは、日本、いや世界で唯一の女性特殊体質者だ。

 詳しい事情は知らされていないが、ただ、「捕まえて話だけでも聞け」と言われている。


「確か数時間前に水面がトラックでぶつかったって、聞いたけど?」


 語尾を強めに、返答を促した。

「すみません、少し気を失わせて連れてこようと思ったんですけど、思ったより重傷になっちゃって」


 思ったより重傷? 思ったより……、重傷……。

 百果は頭を抱えた。

 紺野鞠乃の身に何かあったら一大事だ。

 捕まえろとは言われているが、殺せとまでは言われていない。

 もしそんな事が起きたら、全員消されてしまう。


 ちらりと水面の顔色を覗くと、案の定、今日あった面白い事を話していますとでもいうような顔をしていた。

 やはり接触はジュリアにやらせておくべきだったか。

「大丈夫。その後を観察していたけど、例のリストに載っている黒川千紘が介抱しているようだったので」

「ジュリアあぁぁ」

 もう少しで百果はジュリアに抱きつく勢いだった。

 寸前で思いとどまり、激しく頭を撫でるだけにした。

「良かった。水面の運転で普通の人間が事故に遭っていたら確実にお陀仏よ」

「縁起でもないことを言わないでくださいよッ」

「うおッ」


 背中を平手打ちされた。
 満面の笑みで。きっと悪意はないのだろう。だが意外に痛くて百果はしばらく悶えていた。