コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 私がヒーローになるまでの話【オリキャラ募集!】 ( No.27 )
日時: 2016/12/14 20:21
名前: 薄葉あた丸 (ID: V9u1HFiP)



「黒川さん、晩ご飯できたよ。——おっと」
 

 鞠乃は肩をビクっと動かした。

 ノックがなかったので彼の突然の訪問に驚く。
 ドアを開いた本人も鞠乃の存在に言葉を失い、立ち尽くす。

 入ってきたのは高校生くらいの、可愛らしい顔立ちをした少年だった。


 無地のパーカーに、緑色の水玉模様エプロン。

 それを見てさらに微笑ましくなる。


 彼は鞠乃と千紘を交互に眺め、にやりと口元を釣り上げた。

「まさか黒川さんにガールフレンドがいたとは」

「なっ」

 思わず声が。

 そんなに親密な関係ではない。いや、むしろ関係すらない。

 千紘はどんな顔をしているのかと見てみると、お構いなしに植木鉢の破片を拾い続けていた。


「名前は? 何て言うの?」

「紺野鞠乃です。えっと、あの私は——」

「細かい事はいいよ。まりの、か。昔似たような名前の子がいたなあ」


 事情を説明しようとして遮られてしまった。

 千紘は二人のやり取りを、にこにこ聞いている。

 何だかしゃくに障る。


 助けてくださいよ!


「僕は佐々木悠です。彼女さんよろしくね」


 あわあわと口をパクパクさせる鞠乃。


 悠は千紘にニヤリと笑いかけてから部屋を出て行った。


 あれ、そう言えば、どこかで聞いたこのある名前のような気がする。


 佐々木悠?


「今の悠君が例のすばしっこい奴だ」


 すばしっこい?


 あ。


「えええぇぇ!!」

「そんなに驚いたか」


 佐々木悠くん!

 高校生くらいに見えて年下かと思ったけど、同級生だった——!

 鞠乃は千紘の肩を掴んで揺さぶった。

「知り合いです! 今の! 悠くん!」

Re: 私がヒーローになるまでの話【オリキャラ募集!】 ( No.28 )
日時: 2016/12/14 22:34
名前: 薄葉あた丸 (ID: V9u1HFiP)


 彼が抱えている植木鉢の破片がカチャカチャ音を立てた。

「何だ、そうだったのか」 千紘はぐらん、ぐらん、揺れながら言う。

 あまりに反応の薄いセリフに、鞠乃は手を止める。

 驚く様子など少しも見せず冷静だ。

 もはや「知っていた」とでもいうような勢いである。


「まさか知っていましたか?」

「そんな訳ないだろう、君とは初対面だしな。まさか知り合いだったとは。初耳だ。驚いたな」


 言われてみれば確かに。

 千紘が知っている訳は無かったか。

 最後の方の明らかな棒読みは驚いていない証拠だが。


「話も終わった事だ。それでは悠君への挨拶がてら、とりあえず下に降りるか。いや、無理はしなくていいぞ」


 話、とは鞠乃の身体の事だろう。

 きっと彼が求めていた答えは提供することが出来なかった。

 しかし今はいくら頭を悩ませてもその答えにたどり着く事は出来ないだろう。

 何故なら何も知らないのだから。


「大丈夫です。ついていきます」

 鞠乃は今度こそベッドから降りた。


 ずっと座っており、しばらく立ち上がっていなかったので、少し足がふらつく。

 床に足をついたとき、何か違和感を抱いた。


 私の服じゃない。

 自分の脚よりも長いジャージのズボンに、肩からずり落ちそうなほど大きいTシャツ。

 よく今まで気づかなかったと思う。

 見た感じ男性用らしいが。


 しげしげと洋服を眺める鞠乃に、破片をゴミ箱へ捨てた千紘は笑顔を向けた。

「女物がなくて申し訳ない。あまりにも服が汚れていたのでな、洗濯中だ」


 服を替えてくれたのか。

 命の恩人にここまで世話を焼いてもらえて、何て恵まれているのだろう。


 あれ、替えてくれた?

 ということは。

「えっと、その、服は——」

「はっはっは。心配するな。俺ではなく、女性に頼んだ。俺は何も見てはいない」

 言い終える前に、質問を察してくれた。

 最後まで言う羽目にならなくて良かったと安心する。

「本当にありがとうございます。感謝しきれません」

 助けてくれた事、何も知らない鞠乃を許してくれた事、そばで話を聞いてくれたこと。

 今日が初めて会った日なのに、あまりにも親切だ。

 この部屋で千紘と話していて、気づけば窓の外は暗い。

 ぼんやりと月が浮かび星も出ている。

「……お互い様だ」

 口元は笑って、でも少し寂しそうに呟いた。

 何だか意味ありげな気もするが、鞠乃がそんな事を気にする必要はない。


 と、この時はそう思っていた——。