コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 私がヒーローになるまでの話【オリキャラ募集!】 ( No.55 )
- 日時: 2016/12/23 22:18
- 名前: 薄葉あた丸 (ID: V9u1HFiP)
夕食を終えて——テーブルの隅には一人分のシチューが寂しげに佇んでいるが——常盤木荘のリビングは祭りのあとの静けさになった。
叶也は台所で食器を丁寧に洗いながら、まるでお母さんのように悠へと指示を出す。
せっせと皿を運ぶ悠の姿を見ていると、手伝わずにはいられなくなった。
「お願いします」 両手に一つずつ持ってきたコップを叶也に預ける。
叶也は性格の良さが現れる晴れやかな笑顔で一言「ありがとう」とそれを受け取った。
「お客さんなんだから、座ってていいよ」
呆れた悠は、残っていた白い皿を全て重ねて一気に持ってきた。
宗介が笑いを堪えるように奥歯を噛み締めている。
彼が一瞬でも、無理やり人の役に立とうとする鞠乃を、彼女の母親に似ていると感じたなどとは思いもよらない鞠乃は疑問符を浮かべた瞳で宗介を見つめ返した。
「そうだな。まあゆっくりしていくといいさ。……ほっ」
四人席に移動していた千紘は、一人、優雅にお茶を飲んでいた。
一口すすってから、満たされた風に息をもらす。
その背後に設置された窓から見える夜の景色と、気品溢れる千紘の動作のおかげで、彼が着ているヨレヨレの白い服でさえ美しく映える。
綺麗な人なのだな、と改めて感じた。
出来ることなら、これからもこの場所に来たいと思うほど、今までになく安心できる午後を過ごした。
まるで昔からの友達と喋っているみたいだった。
悠の場合は実際そうとも言えるのだが。
だが、ゆっくりと言われても、もう外は暗かった。早いうちに帰らなければならない。
「ありがとうございます。でも、沢山お世話になりましたし、そろそろ」
「——あ」
突然、宗介が立ち上がり、千紘のそばの窓へ歩み寄った。
やけに拍子抜けした顔をしていたので、鞠乃も思わずそちらの方へ体を向ける。
すると突然、闇を裂いた光が一筋、地面へと堕ちて鈍く光った。
数秒の後に遅れて響き渡る、怒号のような雷鳴。
どうやら外は嵐ともいえる荒い天候だった。
少しでも雨が降っているなんて気がつかなかった。
遠くから見れば、全く穏やかな青と黒の世界に見えたはずなのに。
悠は大声で叫び、叶也の背中にしがみつき避難する。
子供っぽさの残る悠の行動に鞠乃は、思わず口元がほころんだ。
「違う。全然、怖くないし」
叶也の後ろから震える声で言い張る。
中学生の時も、悠は強がる癖があった。その度に「嘘つけ!」という言葉が飛ぶのがお決まり。
そんな彼が可愛くて仕方が無かった六年前だが、今もその気持ちは少し感じる。
「雨、だね」
「宗介さん、傘は持っていないですよね」
「ああ。出掛ける前は晴れていたから」
濡れて帰るしかないのか。こんな天気の中を。
強風に吹かれて雨に打ち付けられれば、明日は風邪を引くこと間違いなしである。
「出たくないな」 「出たくないです」
二人は同時にうなだれた。
「それなら泊まっていくか? 寝室のある部屋なら空いているぞ」