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Re: 私がヒーローになるまでの話【オリキャラ募集!】 ( No.57 )
日時: 2017/01/10 18:04
名前: 薄葉あた丸 (ID: 492uL0E4)

 千紘は何でもないことのように、さらりと言ってのけた。

 窓の外は激しい雨が降っている。


 彼の言葉はとても助かるが、普通は「送っていこうか」などという言葉をかけてくれるのでは?

 そして鞠乃達は迷子になってここにいる訳ではない。帰ろうと思えば帰ることができるのだ。

 叶也も驚いた様子で千紘を眺めていた。

「いや、大丈夫です。さすがにそれは」

 宗介は眉間にしわを寄せて首を横に振る。

「それでは言い方を変えよう」
 千紘は続ける。

「次はいつ会えるか分からないだろう。俺は少々君と話したい。今夜だけでも引き留めたいんだ」

 優しい笑顔の裏で、何か重立ったものがあることに宗介は気付いたようだった。

 しかし気付かない鞠乃は、次の瞬間にまさか宗介がそれを承諾するとは想定していなかった。

 こくりと静かに頷く宗介に、

「決まりだな」
 他の四人が戸惑っていることにはお構いなしで、千紘は上機嫌だ。

 鞠乃は宗介の顔を覗き込む。

 少なくともここが危ない場所とは思えないが、一晩過ごすとなると話が変わる。

 警戒心の強い宗介がそれを受け入れるとは何事だ。


 と、考えたところで思い出した。

 鞠乃はもう三時間もここで眠らせてもらった身ではないか。

 ここまで良くしてもらった鞠乃に拒否権はあるのか。



 そして結局、鞠乃は悠にバスルーム付きの豪華な部屋へ案内されてしまった。

 こんな綺麗な部屋が空いているなんて、信じられない。という事は、皆さんは更にすごい部屋で生活しているのだろうか。

 この部屋には深緑色の絨毯が敷かれていて、大きなベッドと、丁寧に造られた木彫りの机が置いてある。

 真っ白のベッドカバーがかけられた布団は、今すぐに飛び込みたくなる程ふかふかだ。

「風呂はいつ入ってもいいよ。着替えは……ちょっと待ってて」

 そう言って悠は、ドアを開けたまま出て行った。

 遠ざかる軽い足音を確認してから、鞠乃は華やいだ声を上げながらベッドへ飛び込む。

 想像通りの気持ちよさに、うねりながら仰向けになって大の字に広がった。

「気持ちいいよー」

 思わず独り言をこぼしながら、天井を見つめれば吸い込まれそうな不思議な心地がした。クリーム色の壁が目に優しい。

 だんだん瞼も重くなってきたし、ここで一晩過ごさせてもらっても良いのかな、とさえ思い始めていた。

 高い位置にある小さな窓からは、微かに雨の降る、これまた眠気を誘うBGMが聴こえてくる。



 いつの間にか瞳を閉じて、静かに寝息をたてていた鞠乃を発見した悠は、至極面倒くさそうな顔で彼女の体に毛布をかけた。

「全く、いくら同級生だといっても、ここに女が来るのは困るんだよな。黒川さんは何を考えてるんだ」

 持ってきた鞠乃の着替えをベッドの傍らに置いて、勢いよく、音を鳴らせて扉を閉じて再び部屋を去った。

 鞠乃は深い眠りについていたようだ。その大きな音でさえ、安らかな表情の鞠乃の耳には届かない。