コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 私がヒーローになるまでの話【オリキャラ募集!】 ( No.59 )
- 日時: 2017/01/11 19:59
- 名前: 薄葉あた丸 (ID: 492uL0E4)
「まあまあ、とりあえず座れ」
机をバンと叩いて立ち上がった悠に、千紘は動じることなく言葉をかけた。
穏やかなリビングがこのような荒々しい現場になってしまったのは自分にも責任がある、と宗介は思う。
先ほど食事を済ませたテーブルの同じ位置に腰を下ろした四人は、鞠乃がすっかり眠ったのを見計らって話し合いを始めていた。
千紘の言っていた「話したいこと」とはこれなのだろう。鞠乃が聞いていてはいけない事だ。間違いなく彼女を傷つけてしまう。
叶也が不安そうな顔で悠を見上げたが、悠は座ろうとはせず意見を続けた。
「ここは僕らのような行き場をなくしたイデントが集う場所。言い方が悪いもしれないけど、厄介者は招き入れたくない。だからこれ以上鞠乃とは関わりたくない」
緊迫した空気の中で、宗介はぴんとした糸が張り詰めたような息苦しさを感じた。
自分の生活を壊したくないという悠の気持ちも多少は理解できるが、鞠乃が厄介者呼ばわりされたことは気に食わない。
「悠君は、自分が厄介者ではないという自信があるのかい?」
宗介が口を出そうとする前に、叶也が間髪入れずに言った。
悠は、まさか叶也に立ち向かわれるとは思っていなかったのだろう。丸い目をさらに開いて見つめ返した。
そんな驚きは受け流し、叶也は説教をしているかのような口調で淡々と告げる。
「確かに鞠乃さんは、話を聞く限り女性のイデントだ。これは前例がないことだし正直私も動揺している。彼女を匿っていたら、絶対に平穏では済まないだろう」
「そう思うんだったら——」
「だが」
叶也の声が強く、大きくなった。
たおやかなその瞳も、いつしかきつく鋭い眼光を悠へ向けていた。悠は少し物怖じしたように一歩引く。
「行き場がなくなってここに逃げ込んだ君と私が、彼女を厄介だと言えるのか? 私達も彼女と同じだ」
「わざわざこれ以上の危険を冒してまで僕達が庇う必要はないって言ってるんだ」
怒られた子供のように頬を膨らませ、目を潤ませて、力んだ声には怒りが感じられた。
この空間にとても居づらい。
話に首を突っ込もうにも勇気が出ない自分を悔やんだ。言葉すら出てこない。
宗介は、唇を噛みながらも思った。やはりこの人達を巻き込むわけにはいかないのだ。
鞠乃を助けるかどうかについて口論してくれているのは嬉しい。しかしそれと同時に、常盤木荘の皆さんに迷惑をかけてしまうという実感は募るばかりだ。
助けを求めるつもりで千紘の方に顔を向けてみると、案の定というべきか、彼は目を伏せて微笑みながら指を遊ばせていた。
マイペースな人だとは会った時に感じたが、こんな空気の中でもか。
だが話を聞いていないわけではないのだろう。
時折眉を下げて悲しそうな表情をしたりするのは、二人が喧嘩を始めたからだろうか、それとも鞠乃が不憫だからだろうか。
「悠君がそんな投げやりな人だとは思わなかったよ。これではいざという時にでも、仲間を見捨てて逃げるのだろうね」
呆れたというように首を振って、叶也は台所の奥の扉に消えてしまった。
その背中を滲んだ瞳で追いながら悠は呟く。
「今の仲間を守る為に、見捨てなきゃいけないものだってあるだろ」
悠にとっては、その見捨てるべきものが鞠乃なのだ。
「黒川さんも頭を冷やして考えて。僕は関わらない事が一番だと思うけど」
言いながら階段を登っていく。
二人減ったリビングには、うるさいほどの静寂が訪れた。沈黙を破ったのは、千紘の大きなため息だ。
「彼らも壮絶な過去を背負っていてな、『仲間』という言葉に敏感なんだ。でも心配はいらないさ。あの二人は羨ましいほど仲がいいからな」
あの二人も心配だが、今はそれ以上に聞きたいことがある。
「どうして、鞠乃をここに住まわせてくれると?」