コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 私がヒーローになるまでの話【オリキャラ募集!】 ( No.62 )
- 日時: 2017/01/12 21:31
- 名前: 薄葉あた丸 (ID: 492uL0E4)
瞼の裏が明るいと思ったら、部屋はもう朝の光に包まれていたのだ。
鞠乃はベッドから降りて目を擦る。
昨日の出来事は夢や妄想ではなかったらしい。鞠乃が立っているのは正真正銘、アンティークな整頓された部屋だし、頬をつねると当然のように痛い。
「千紘さんが優しかった事も、悠君に会えた事も、叶也さんの料理が美味しかった事も、全部本当なんですかね」
だとしたら、この家には人が鞠乃の他にもいるはずだ。
目覚めたばかりで記憶が曖昧で、今は何故ここで寝ていたのかという所までは考えは回らなかった。
ベッド際に置いてあった服に着替えた鞠乃は、とりあえず出ようとドアノブに手をかける。
「あれ?」
ガチャ、ガチャとノブを動かす音はするのだが、どうにも扉が開かない。
もしかして閉じ込められているのか。
いや、ここに居る彼らに限ってそんな事はしないはずだ。昨日の夜だってあんなに親切に接してくれていたではないか。
ドアが壊れてしまったのだろう。
「すいません、誰かいませんか? このドア開けてください」
扉をトントン叩きながら大きな声を出すが、返事どころか足音も聞こえない。
これを何回も繰り返している内に、出られないかもしれないという不安がよぎった。
もしかして、ここは全く知らないところ? 昨日の人達もやっぱり夢?
一生ここで過ごすことになったらどうしよう。
お風呂もトイレもついてるし、小さな冷蔵庫には飲み物も入っていたからまあいいか。
それに布団は気持ちいいし、悪くないかもしれない——という事は絶対にない。早く外に出なければ。
「誰か〜。開けてください〜」
次の瞬間、何事もなかったかのようにドアがすっと奥へ開いた。
自分で開けた感覚がしなかったので、おかしいなと首をかしげていると、上から聞き覚えのある声が降ってきた。
「朝が早くて感心だなあ。おはよう」
千紘だ。見上げると、これ以上ないくらい眠そうな顔をしていた。
夢ではなかったことと、廊下の景色が見えたことで、鞠乃にとてつもない安堵感が押し寄せる。
「騒いですみません。ドアが開かなかったもので、つい焦ってしまいました」
「君に非はないよ。いやあ、ここの扉が壊れていることを忘れていた。すまんな」
やはりそうだ。わざと閉じ込めるなんて、そんな事あるわけなかった。
一瞬でも疑ってしまった事を悪く思う。
うん? 壊れていたドアを、どのようにして簡単に開いたのだ?
——思い出した。千紘はイデントで、怪力の持ち主だった。力づくに開けたに違いない。それも、いとも容易く。
「下に降りよう。皆待っているよ」
「皆ですか?」
「ああ、そうだ」
灯りがついていなくても明るい食卓。窓から差し込む光があたたかい。昨日の夜とはまた違った落ち着きがあるリビングだった。
食卓についているのは、千紘の言ったとおり、全員集合らしい面々だ。隅のテーブルには、極度の人見知りだという世良もいた。
世良は鞠乃と目を合わせないように、ずっと俯いている。
そんな対応をされてか、鞠乃はいつか彼と仲良くできたらいいな、という思いが強くなった。
避けられていた人と友達になるというのは達成感があるものだ。
背後にいた千紘が動き、座ったので、鞠乃も席につく。
驚いたのは、隣に座る悠の目が赤く、泣いた痕のようになっていたからだ。
「鞠乃、大事な話がある」
宗介の一言で、悠の体がぴくりと動いた。叶也の眉も険しい角度になっている。
世良は聞いていないフリをしているようだが、泳ぐ目がごまかせていない。
そんなに重大なお知らせなのだろうか。
「明日にでも鞠乃にはアパートを出て行ってもらう。かわりにここで生活してほしい」