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55.


———



「——そ、そう…なんだ……」
素直にありがとう、と言いたいのに上手く言葉が出てこなかった。
それ以前に…私の顔がさっきよりも熱い。そのことに恥ずかしさばかりが湧き上がってきて、お礼なんて言える状態ではなかった。

「……考え事してたのかもしれねーけど、前は見ろよ」
「見てるし！」

色々と言い争いをしているうちに、私は段々、「また」——楽しい、と思えてきた。
落ち着いた頃、室川の横顔をちらりと盗み見る。するとさっきの言い争いの会話が私の頭の中を巡回する。
ずっとずっと、頭の中でさっきの会話が繰り返されている———。


「……りがと」

私はすぐ近くにいる室川にも聞こえないようなとても小さい声でそう呟いた。
室川は気付く様子もなく、そのまま歩いている。
「じゃあばいばい」と、分かれ道で私は室川に手を振る。

室川は手だけ振って私を見送った。



こみ上げる寂しさ、掴まれたときの感触、鮮明に残る会話——…。

一気に押し寄せる感情。
それを洗い流すように、雨が静かに降り始めた——。