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『第1章』別れと出会い。

01.


———


「なあ、もうお前正直うざいんだよねー。別れてくんない？」

「え？え……？何で………？」


震える私の声を少し面白がって彼が言う。

「もうお前と居る時間、楽しくないから」


私はその言葉を置いていった後去っていった彼の姿に涙が止まらなかった。
どうして、どうして……。

あんなに楽しかった私たちの日常は、その一言で悪夢へと変えていった。
突然地獄に落とされたよう。


「……うっ……っ………」


私は一人、半年前に付き合おうと言われ……今日、ふられた……体育館で泣き続けた。



ようやく涙が収まる頃には、明るかった放課後から夕焼けを背景にカラスが鳴く夕方へと変わっていた。


「絢人君……どうして……」


私はさっきまで好きだった男の子の名前を口にする。

——それだけで泣きそう。私は唇を噛み、必死に涙をこらえた。
今にも溢れそうな涙をすべてこらえ、私は鞄を持ってようやく立つ。

この綺麗な夕焼けは、私の心とまるで正反対。
妬ましくなるほど——綺麗だった。


私は家の方向へと歩き出す。



——そのとき、


「わっ……！？」


私は電柱とぶつかりそうになっていた。
その電柱と私の間にいるのは……私と身長が同じくらいの、男の子。


「フラフラしてるけど、大丈夫か？」


周りはもう暗くなっていたのに、はっきりと笑顔が見える。

彼は——私の幼馴染み、……室川灯。

02.

———


「え、……室川……？」

室川とは小学校からクラスも一緒だった。しかも6年間ずっと。
……どうして、ここに……？

「俺部活帰りだけど、宮瀬は今日……バスケ部休みだろ？まだ学校いたんだな。……」
「……うん」

何だかこいつに今の私の——本当の気持ちを知られたくなくて、なるべく高い声で、笑顔を作って……返す。

「そ。まあ、気をつけて帰れよ」
「分かってる、よ」


……室川、サッカー部頑張ってるんだろうなぁ……。
今にも破けるんじゃないかというくらいぱんぱんに詰まった、大きなエナメルバッグを肩にかけているのを見て、そう思う。

「……」

私は無言で、室川の後ろ姿を見守った。——



/



「宮瀬！」

翌朝。……私が家の玄関ドアを開けると、なぜか前には室川の姿が。

「室川……？どうしたの？」

笑顔の室川。……朝から、どうしたんだろう……。


「今日ちょっと話したいことあるから、一緒に登校しよ」
「……う、うん」


何だろう。……話したいこと？

全く何のことなのか分からなかったけど、私はとりあえずついて行く。



「宮瀬。さ、昨日……もしかして泣いてた？」


「……え」


私は、図星を付かれ、少しの間黙り込んだ。俯く私を見て、室川が言う。


「まさか七島にふられたのか？」

「はっ……！？」


何でそんなことわかるの……！？
私が、半年前につきあい始めた——七島絢人にふられたって……。

「宮瀬はわかりやすいんだよ。やっぱふられたんだな」

「……ま、あね」


本当は言いたくなかったけど、私は圧をかけられ肯定する。……本当は泣きたくなる気持ちを必死に抑えながら。


「なあ、ぶっちゃけ寂しい？」

「……まあね。あはは」


私はいつも笑顔なのが取り柄とも言える。だからもう、何となく笑った。
……すると室川が急に真剣な目をした。


「なあ、俺と付き合ってくれない？」


「……え？」

03.

———



「え、え？何言ってんの？」
「俺さ、マジで宮瀬のこと好きだった。付き合って欲しい」

軽く頭を下げられ、私は仰天した。

「えええっ！！？」
「そんなに驚くことか？俺は純粋に……」
「ちょっと待って、考えさせて。まさかあんたが私のこと好きとかそんなの考えても……」

私何言ってるんだろう。……室川が私のこと、好き？


「ま、考えておいてくれよ。返事は来年でも別にいいからな」

私は、この優しさに一瞬目頭が熱くなった。
……室川は、昔からよく気が利く……。


「室川！」


私はたまらず、室川に叫ぶ。


「ありがと！」


そして私は、学校に向かって走り出した———





/




教室。


「室川にどう返事しようかな……」

ぽつりと呟く。……でも、あれは本当なんだろうか……。


「「おはよ」」

教室に入った途端に声をかけてきたのは、紺色っぽい髪をサイドテールにしている小宮波留ちゃんと、黒髪ロングの月丘来美ちゃん。


私は目が腫れていないか……ついそんなことを考えてしまう。が、とりあえず笑顔で——挨拶をする。


「波留ちゃん来美ちゃん、おはよー」
「あ、蒼空さ、今日校外学習の班決めあるらしいけど自由にやっていいらしいから。一緒に組まない？」


私はそのことが嬉しくて——今度は作った笑顔ではなく、

ちゃんとした笑顔で。


「うんっ！！」


と、答える。———

04.


———




「……校外学習の班決めね……。女子だけでもいいの？」

「いいらしいよー。あ、てか多分女子同士と男子同士しかだめだと思う……就寝の時も同じ班らしいから」

……あー、それだとまあ女子同士男子同士だよね……。


「でも6人だよねー？あと誰誘うの？」
「あたしらいっつも3人で行動してるから誘う人あんまり居ないよね……あ、あそこに3人組いるじゃん」


来美ちゃんの目線の先。多分班決めに困って居るであろう顔をしている彼女たち。……茶髪の巻き髪の女の子と、薄めの黒髪ボブの女の子と……明るい茶髪のポニーテールの女の子。

「あの3人誘ってみようよ」

「そだね、他3人組いなさそう……」

「じゃあ私誘ってくるねー！」


私はその3人組のもとへと向かう。


クラス替えが行われたばかりだから、彼女たちの名前は分からないけど——とりあえず話しかけてみよう。


「あの、」
私の声で3人の視線が私に集まる。えっと、と私は続け、

「校外学習の班、決まった？」

「あ、まだだよ……」

良かった。まだ決まってなかった……。決まってたらちょっと恥ずかしかったな——…。
そんなことを思い少しホッとしてから、私は声を出す。


「よかったら私とあと私の友達2人と……一緒に組まない？」


すると3人組のリーダー格とも言える茶髪巻き髪の女の子がぱっと明るい表情を見せ、私に言った。


「…うんっ！一緒に組も！！」



中学2年生になって10日……。

何だか、盛りだくさんだな——…。

05.


———




「あ、えっと……こんにちは……？」

「ふふっ、こんにちは」

柔らかく、茶髪巻き髪の彼女が笑う。
その顔を横から見る私は正直綺麗だと思った——大人っぽい、そんな雰囲気がする。


「あ、そういえば……名前聞いてなかったなぁ……」


巻き髪の彼女がぽつりと呟く。私はそれを聞き逃さなかった。
そしてなるべく明るい声で言う。

「ね、あなたたちの名前は？」


「そっかまだ言ってなかったよな……。私は香里。幸村香里」

黒髪ボブの子が言う。香里ちゃん……。
落ち着いた雰囲気で、優しそうな人だなぁ……。

「私は立花千帆！」

茶髪巻き髪のリーダー格っぽい子は、千帆ちゃんというんだな……。
名前、すごく可愛い。というか、本人に合っている。

「あたしは百石美李。よろしくね」

最後に、明るい茶髪のポニーテールの子が言う。


香里ちゃん、千帆ちゃん、美李ちゃん。



楽しそうな人たちと班、一緒になれて良かった。……