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- Re: 【短編集】この一杯を貴方と。【開店中】 ( No.3 )
- 日時: 2017/01/03 20:46
- 名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
- 参照: http://From iPad@
#1 「感情」
ここ「chestnut」に訪れる客は、大体その個人個人の「事情」を抱えてやってくる。
そして、それまた色々と「事情」を抱える「chestnut」の店員である高校生の彼女──秋乃に相談をする人が多いのだ。
多分彼女は、世の言葉を借りて言うのなら「聞き上手」という人間に分類される。
彼女に話を聞いてもらうと、安心する──といった客が多いのだ。
きっと彼女独特の話を聞く姿勢……視線、相槌。相槌を打つタイミング等々──こういう細かな一つ一つが多くの客を引き寄せていることに繋がるのだろう。
「いらっしゃいませ」
店長で彼女の父親である圭介が迎えたのは1人の客。秋乃とさほど変わらない年齢ながらに、年相応とは言い難い派手な格好をしていた。
「あぁ、秋乃」
入ってきた客は、秋乃の姿を目に捉えるなりそっちへ駆け寄った。
「緋音ちゃん、どうしたの?」
客の、彼女の名前は谷緋音。
一応秋乃の同級生ながらも学力は最低レベルだ。
一見同じクラスで過ごす仲間でもこんなふうに関わる理由は、1番クラスの中で家が近い者同士だからだ。
「きっと鋭い秋乃なら、分かるんじゃないの? きっと今頭に浮かんだことだよ」
緋音の言葉に秋乃は「もしかして……」と声を潜めた。
「最近付き合い始めた彼氏とまた別れた……とか?」
秋乃が「違ってたらごめん」と付け足したのとほぼ同時に緋音は……
「否定したいとこだけど、さすが秋乃。その通り」
はぁ──と緋音は溜め息を吐いた。
もう今にも話し始めそうな雰囲気の緋音を「取り敢えず座って」と宥める秋乃。
話は聞く……けれどしっかり商売の仕事もこなすのを条件で、『店員且つ相談屋』をするのを圭介に許されている。
それを分かっている緋音も「うん、ありがと」と言って近くの窓際席に座った。
「なんかね、やっぱ年上の彼だったから子供っぽくチャラチャラしてる私が嫌になったみたいで……」
「そんな、緋音が子供っぽかったら私はどうなっちゃうのよ」
「でもなんか秋乃も子供っぽいって言うのとはちょっと違うよね。なんか近寄り難い雰囲気あるっていうかさ。最初結構話しかけづらくて「きっと1年間関わらないんだろうなぁ」って思ってたら近所でちょっとずつ話すようになった……って感じだもん」
緋音は、ちょっとだけ大き過ぎるようなイヤリングを揺らして言った。
「まぁでも今思えば私も自分自分って感じになっちゃってたしなぁ」
「なんか緋音、今まで付き合ってた人達とは違う感情が今回のその人にはあるんだね」
「うん。なんか同級生の男子どもと違って大人って感じだったんだよね。だから今まで以上に色々とメイクとかも頑張ってみたけどさ……。やっぱり大学生から見たら高校生なんて案外年齢そんな変わんないように見えても、子供っぽく見られるもんだね」
ふぅ──と緋音はもう1度溜め息を吐いた。
……多分今まで堪えていた涙が、ポロっとこぼれ落ちた。
「でもこれも。人生の中では苦い思い出──ってことで、大切にしていかなきゃ行けない発見だなって思ってる」
見た目だけで判断すればバカっぽい……何も考えていなさそうって思ってしまうような緋音でも色々考えている。
傍から見れば、正反対の容姿の彼女達がこうやって話し合えるのは……違うことでも彼女達はそれなりに彼女達なりの「事情」を抱えているからだ。
──……。────
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谷緋音(たに あかね)
秋乃の同級生。「chestnut」にちょくちょく来る。
次から次へと、彼氏を変える。
派手な容姿だが、中身は普通に「悩める女子高生」だ。
圭介とは、あまり気が合わない。(圭介が強い偏見を持っているため※)