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Re: 【短編集】この一杯を貴方と。【開店中】 ( No.6 )
日時: 2017/01/07 00:16
名前: てるてる522 ◆9dE6w2yW3o (ID: VNP3BWQA)
参照: http://From iPad@

#2 「常連」

「よっ! 圭ちゃん、今日も来たよ」
ドアが開いて、付いているベルが鳴る。
そこからひょこっと顔を出すのは、圭ちゃんこと圭介──店長の古い友人である降谷だ。

「いらっしゃいませ」
秋乃はいつも通りのクールな表情を浮かべて降谷を席に案内する。
……何も言わずとも、降谷の席はいつもカウンターで圭介と一番近い席だ。

「で、今日は何にする?」
慣れた手つきでコーヒーをカップに注ぎながら圭介は降谷に尋ねた。

「そりゃ聞くまでもないだろう」
降谷は圭介に「いつもの」言って、秋乃からお手拭きを受け取って手を拭いてから顔を拭く……という一連の流れを行い、圭介に話しかけた。


「もう圭ちゃん、聞いてくれよ」
お手拭きを元の形のようにクルクルっと畳んで右手側に置いてから降谷は圭介に泣きついた。

「んあ?」
返事はするものの──降谷の方になんか目もくれずに、只管コーヒーをカップに注いだり洗い物をしたりと手を休める暇がない。

「妻が、実家に帰るとか言い出してよ……」
「こういう時どうすれば良いんだよ……」と降谷はテーブルに倒れた。

相変わらず圭介は降谷の方へけして視線は移さず、でも言った。

「そういうのは、秋乃の方が得意だ」
「いや……おまえ何言ってんだよ。こんな若い嬢ちゃんになんて恥ずかしくて相談どころじゃねーよ……なぁ?」
降谷は秋乃にそう尋ねた。
──別にそうは思っていない、けれどそんなことを言っては変に思われないだろうか。

すっかり染み付いた愛想笑いの中で秋乃はそう感じているだろうか。

「……良ければお聞かせください」
秋乃はふと心に決めた、という表情で降谷に言った。
「こりゃまた……。じゃあお願いする」と降谷は少し笑って、妻との出会いから話し始めた。

その話の中には圭介も知らなかったエピソードが詰め込まれており……圭介も時折手を止めて降谷と秋乃の間に入ろうとして───。


「圭ちゃんもいいけど、さすが親子だな。見た目以外にも似ているや。つい話し過ぎちまった……」
圭介と秋乃は店の外まで降谷を見送りに来た。
降谷は「妻とまたなんか有ったら来る」と言い残して夜街に入っていった。

「いい意味でもその他でも……もう来なければいいな」
圭介は星を見上げた。

「そろそろ戻ろう。圭ちゃん」
「お前……それ降谷の影響か? そうだよな」
「私も前からそう呼ぼうとしてましたー」

入口前のメニュー黒板の前で。──圭介と秋乃は2人で今日も「chestnut」を守り続ける。


**

降谷 俊(ふるや しゅん)
圭介の数少ない友人。
妻と上手く行かず、悩んでばかり。