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ゆめみるうさぎ。
日時: 2010/12/27 10:11
名前: 三春 ◆OTogeME6uU (ID: mznU1Olg)


「うさぎ好きでしょ」







 だいっきらいなはずのアイツのひとこと。
 



 最初は好きなんかじゃなかったアイツもうさぎも……














 いつから、こんなに好きなの?

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Re: ゆめみるうさぎ。 ( No.1 )
日時: 2010/12/27 10:12
名前: 三春 ◆OTogeME6uU (ID: mznU1Olg)

「夢月(むつき)」

 柔らかい音を奏でる声に、わたしはふいに振り向く。


「…、秋くん(しゅうくん)」


 そこに立っていたのは、おさななじみの秋くん。


 ——————少なくても、秋くんはそう思ってるはず。


 手にはプレゼントのようなものが。

 そっか、秋くんの彼女にあげるんだ……


 秋くんは王子様って呼ばれるくらいの、イケメン。


 なのに優しくて、全然つんつんしてないんだ。


 秋くんには、同じサッカー部のマネージャー広尾さんっていう彼女がいるんだもん。

 広尾さんは美人で気の利く、まったく非の打ちどころがない女の子。

 だけど、わたしが秋くんのこと好きだったらおかしいかな?


 小さいころから好きだったんだもん。

 この気持ちは、誰にもまけない。負けたくない。



「夢月、はい」

 秋くんに手を握られて、わたしの心臓は爆発寸前。


 ……、は、離してぇ!

 目をつぶって恥ずかしさをこらえていた時、秋くんによって何かが握らされた。


 ……え。

 秋くんによって握らされたのは、さっき秋くんが持っていたはずの紙袋。

 ……意外と、重いかも。

「……広尾さんに、あげるんじゃないの?」


 受け取った今でも、理解が出来ないわたし。

「だって今日、夢月誕生日だろ?」

 不思議そうに目を見開く秋くん。


 ……、お、覚えててくれたんだ。


「……あっありがとう。中、見ていい?」

 中身が早く知りたくて、知りたくて。

 わたしは秋くんの返事を聞くと、すぐさま中身を取り出した。

 丁寧に、かわいい包み紙でラッピングされていたのは、


「か……わいいー」


 くまのぬいぐるみだった。

 きゅんとなるほどかわいいくまのぬいぐるみに、わたしは年甲斐もなくハグをした。


 その光景を見た秋くんは、『夢月は昔から変わらないなぁ』と、昔からの優しい笑顔でそう言った。


 ……秋くんも変わってないよ。


「夢月はくま好きだもんな」

 “夢月はくま好きだもんな”

 その“好き”が、わたしに向けての、“好き”だったらいいのに。


 ありがとう。秋くん。

「……だ、大事にするねっ。この子の名前は、“シュウ”にする」

「はいはい、あんまり可愛いこと言わないでください」


 ふふっと笑ってわたしの頭をなでた秋くん。

 秋くんの手は温かくて、優しくて……


 あんまり、優しくしないで。

 優しくされたら、わたし、もしかしたら……っていうちっぽけな期待を捨てられないよ。

 切なくて、甘酸っぱい、腫れのように広がる感情。


「じゃあな、夢月」

「ん、ばいばい」
 “シュウ”と名付けたぬいぐるみ。

 わたしはそれを抱いて、教室へと走った。


 久しぶりに話せちゃった。

 口元が緩んでいることにも気づかず、シュウをしっかりと抱いて、教室へ飛び込んだ。


 今日は最高の誕生日だよ。



Re: ゆめみるうさぎ。 ( No.2 )
日時: 2010/12/27 10:15
名前: 三春 ◆OTogeME6uU (ID: mznU1Olg)



「夢ちゃーん。どうしたのそのぬいぐるみ」

 なれなれしく話しかけてきたのは、となりの席の千草。

 わたしの名前は、夢じゃないんだけど。

 いつものことだから、そこはあえてする—した。

 いつもだったら、無視するんだけど、今日は機嫌がいいから話してあげよう。


「秋くんにもらったの」
「ああ、夢ちゃん今日誕生日だもんなぁ」

 さらりと口にした千草に、わたしの口はぽかん。と開く。


「ななな、なんで知ってるのよ」


 驚きと言うより、恐怖の感情がわたしを襲う。

 この人、怖いっ。

「だってさ、むつきっていうくらいなら、1月生まれでしょ?」


 ……名前知ってるなら、なんで夢ちゃんって呼ぶのよ。

 わたしはこいつ、雨宮千草が苦手だ。

 学年1位の成績を持つ千草は、先生のお気に入りのひとりで、こいつのとなりにいたら、授業中あてられる回数が多いったらありゃしないし。


 なんだかいつも、わたしと友達の会話を盗み聞きしてくるし。


「でもさ、夢ちゃんうさぎ好きでしょ? くまよりさ」

 話が突然方向転換。

 わたしは千草の言葉に驚きを隠せない。

「なななな、なんで」
「だってさ、いつもノートにうさぎの絵描いてるし……、何かとうさぎグッズだらけだし」

 わたしはとっさにふでばこを手にとって、中身をあさる。


 ……確かに。


 うさぎだらけだ。


 消しゴムをはじめ、シャーペン、定規、メモ帳まで。

 気がつかなかった……。


 いつの間にかたまってた?

 無意識のうち、うさぎがすきになってた?


「ってことで、そんな夢ちゃんにはい」

 千草がバッグから取り出したのは、ばかでっかい箱。

「な、なにさ」

「誕生日プレゼントです」

「なんで千草が……」

「まぁ、受け取ってよ」
「なんかのワナ?」

 小さく悪態をつきながらも、箱を開く。


「……うさぎのぬいぐるみ」
 中にあったのは、もこもこした生地が可愛い、ピンクのぬいぐるみ。

「誕生日、おめでとう」
 にこにこして渡されたら、受け取るしかないじゃん。


 なっ、中に爆弾装置なんかはいってないでしょーね!?



 そんな物騒な予感が脳裏をよぎった。
「この子にはなんて名前つけてくれる?」

 頬杖をついて、からかうように笑う、千草。



「……、チグ」
「……それって、千草のチグ?」

「……、ち、違うの! ちぐちぐしてるからチグっ」
「ははっ。なんだそれ」


 ……嘘。だよ。

 今、千草って名前付けたいって思ったの。

 なんでかよくわかんないけど、


 そ う 思 っ た の 。


「……なんかかぶっちゃってごめんなぁ。秋と」

 千草が当たり前のように、秋くんを呼び捨てにしたから、わたしは驚いて、


「しゅっ……秋くんと仲いいの?」
 思わず、声を荒げてそう言った。

「あのさ、夢ちゃんもしかして……秋のこと」

 どっきゅーんっと心臓が跳ね上がる。

 ばくばくうるさい心臓がわたしをさらに追い込む。


「べっ、べつにただのおさななじみってだけでー」


 言いながら目が泳いでしまう。


 ……わたしって嘘下手。

 ってか、自分の嘘の下手さにあきれてる場合じゃないんだってばっ!


 どうやって言い逃れよう……




「前から気になってたんだけど———————」

 千草の追い込むような視線に自然と背筋が伸びる。


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