コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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.・。~涙色~.・。*-Namidairo-*
日時: 2015/08/19 10:14
名前: 佳織* (ID: 1Enbe91p)

;+:*Ploroge*:+;





あの日、あの時、あの場所で。

みんなで過ごした日々は、 かけがえのない宝物で。
この先、何が起こったってわたし達は当たり前のように
ずっと一緒だって……信じていた。


だけど———。





時の流れは、残酷で。
神様は意地悪で。







簡単にも、 わたし達の関係を壊してしまった。




*目次*
@1:交錯する恋心。
第1話>>2 第2話>>3 第3話>>4 第4話>>5

Page:1 2



Re: .・。~涙色~.・。*-Namidairo-* ( No.3 )
日時: 2015/07/19 21:54
名前: 佳織* (ID: n8TUCoBB)

エピソード2:変わらない想い。




————ピピピピッ…

カチッ。

目覚ましの音に目を開けると
眩しげな朝の光が窓の外から差し込んでいた。

重たい体を起こしてカーテンを開けながら
雲ひとつない澄みきった空を見ながら、そっと呟いた。



「戻りたいな…あの頃に」



そう感じてしまうのは、きっと
久しぶりにあの頃の夢を見てしまったせいだ———。



そんな風に何の根拠もない理由を自分自身に言い聞かせて
朝の身支度をして、わたしは学校へと向かった。




*****************************************************************************



「あーおいっ!!おっはよーん」
「明日香っ。おはよー」

下駄箱で偶然会ったのは、明日香だった。
明日香は成長しても変わらずのしっかり者で
学年でも上位をキープしている優等生。
おまけにクラスの学級委員も努める完璧女子。

「葵にしては、珍しく早い登校じゃん!!どうしたの??」
「失礼な!!わたしだってねー、たまには真面目な時もあるんですー」
「あははっ…心を入れ換えたってわけかぁ」
「もうっ…そーやって人をバカにしてー」

ドンッ。

話に夢中になっていてよそ見をしていると
勢いよく誰かとぶつかってしまった。

「あっ…すみませ———」

ぶつかった相手に一瞬、固まる。

「こちらこそ…わる…い」

相手も固まる。

だって。そりゃあ、固まっちゃうよ。
相手は…もう、何年も口を聞いていない人、なんだから。

「えっ…と…その———」
「裕紀ー!!なにしてんだよー」

か細いわたしの声は簡単にもかきけされてしまった。
きっと、彼の耳にはわたしの声なんか届いていないだろう。

「怪我とか…ねーか??……南さん」

優しい声でそう聞く彼の瞳はとても透き通っていて
綺麗だった。

「うん……平気だよ。ごめんね、菅原くん」

早口でそう言ってわたしは
その場から逃げるように立ち去った。

「あっ!!ちょっと、葵!!!!」

呼び止める明日香の声も無視して。





頭では分かっていた。
いつまでも小さい頃の関係のままではいられないってこと。
成長すればするほど
男女間の距離なんか離れてしまうってこと。

分かっている、分かっているのに———。




———『南さん』




あんな他人みたいな呼ばれ方をされたら。

「ッ…ヒック……」

泣かずになんかいられなかった。





だって、



わたしは。







小さい頃から変わらずに
貴方のことが、 今だって好きだから———。

Re: .・。~涙色~.・。*-Namidairo-* ( No.4 )
日時: 2015/08/02 14:44
名前: 佳織* (ID: gqZQq2JR)

エピソード3:彼と彼女。






「バカだなぁ……わたし」

泣き腫らした赤い瞳で。
わたしは廊下で1人、 ポツリと小さく呟いた。

泣いて……泣いて……
やっと気づいた。


わたしは、 まだ完全に。
菅原くんへの恋心を忘れられずにいて。


そして、 いまだに


彼の事が好きだってこと———。



「葵??……何してんだよ、こんな所で」


背中から不意に声をかけられて、ビックリして振り向くと。
そこには、幼馴染の河野直樹の姿があった。
直樹は、高校に入った今でも、変わらずわたしに接してくれる唯一の男子だ。


「なんだ、直樹か…。驚かせないでよね」
「わりぃわりぃ。葵が一人でボーっと立ってたから何してんのかなーって思って声かけちまった」
「別にぃ。ちょっと考え事をしてただけだよ」

ニコニコッと取り繕った笑顔でおちゃらけた感じで答えると。
不意に直樹の瞳が真剣になって。
低い声で静かに言う。

「目、腫れてんぞ。……泣いてたのか??」

その言葉に。
何も言い返すことが出来なくって。
わたしは直樹から視線を逸らした。

やっぱり——。

「やっぱり……かなわないなぁ、直樹には。何でもお見通しだねっ」

昔っからそうだった。
直樹には、簡単にわたしの嘘なんかばれちゃうんだよね。

「そりゃぁ……ずっと見てたからな、葵の事」

切なげな表情でそう言う直樹の顔に。
不覚にもドキッとしてしまった。

「で??……泣いてた理由はやっぱりアイツ??」

直樹が差すアイツというのは、 菅原くんのことだ。
わたしは小さくうなずいた。
すると、直樹ははぁっと大きくため息をついて大声で言う。

「お前なぁ…あんな奴のこと、いい加減忘れろよ。いつまで好きなわけ??」
「しょうがないじゃん。……忘れたくても忘れられないんだから」

逆にどうしたら忘れられるのか、教えてほしいくらいだよ。

「———じゃあ、俺が忘れさせてあげようか??」
「えっ…」

長いまつ毛に透き通った瞳でわたしを見つめながらそう言う直樹に。
一瞬、 鼓動が高まってしまった。

けれど、すぐにハッとなって
すぐさま言い返した。

「あのねぇっ…冗談でも言って良い事と悪い事があるんだからねっ」

そう吐き捨てて、背中を向けて足早に立ち去った。

全く…直樹の奴。
からかうにもほどがあるっつーの。





□ ■ □ ■ □ ■ □




*直樹side*



「マジかよ…アイツ」

『冗談でも言って良い事と悪い事があるんだからねっ』

バカかよ。……俺だって、 冗談でそんないい加減なこと言うはずがねぇよ。

「あらまー…フラれちゃったね、直樹」
「んだよ、お前かよ。七海」

ニヤニヤした顔で俺に近づいてきたのは幼馴染の七海だった。
小さい頃と変わらずの小柄な体系に整った容姿。
男子からの人気が耐えない女子だ。

そして、俺たちの中で唯一。
いまだに菅原と仲の良い奴。

「直樹も大変だね。好きな女の子はいまだに初恋の男の子を想っていて…自分のことを全く見てもらえずにいて」
「うっせぇ!!」

———ダンっ。

俺は思いっきり廊下の柱に拳をぶつけた。
そんな俺に構わず見下す七海。

「おー怖い怖い。そんなんじゃあ、葵に嫌われるよ」

そう吐き捨てて、七海は俺から去って行った。





むかつくけど。




認めたくなんかないけど。





アイツの言っていることは全部、 正しい。









俺の事なんか見てもらえなくたっていい。
アイツが幸せになってくれればそれでいい。









そう思ってた、 今までは。














でも。
アイツに冷たくする菅原の態度に。
俺は許すことができなくなっている。


アイツを、 菅原なんかに渡したくねーって思っている。















俺だったら…絶対に
葵のこと、 幸せにできるのにって思っている。











「もう、限界…なのかもしれねーな」









俺は、 きっと。
もう。











この想いを我慢することができねーんだな。

Re: .・。~涙色~.・。*-Namidairo-* ( No.5 )
日時: 2015/08/15 17:46
名前: 佳織* (ID: 1Enbe91p)

エピソード4:すれ違う想い。





*裕紀side*




久しぶりに近くで見た、 好きな女は。





今にも泣きそうな顔をしてた———。





■ □ ■ □ ■ □ ■



去っていく葵の背中を追いかけたい。
そんな衝動に駆られながらも
俺は、 ただ、 ただ——。



呆然と葵の後ろ姿を見つけるだけだった。



俺には、 アイツの背中を追いかける資格なんかないから。





「あのさぁ…裕紀が何考えてんのか、あたしには分かんないけどあの子の事……傷つけたら許さないから」




傍にいた、 幼馴染の明日香にそう言われて。
俺はムッとした顔で答えた。



「はぁ??……別に俺、何もしてねぇだろが。アイツが勝手に泣きそうな顔して走ってっただけだろ」

こんなひどいことを平然とした顔で言える、そんな自分に腹が立った。
本当はアイツが泣きそうになっている理由なんか分かってた。
分かっていた、 それなのに。



でも…駄目なんだ。



もう葵に優しくしてやれないんだよ、 俺は。




「じゃあ、最後に一言だけ言っておく。……今のアンタのままじゃあ、絶対に後で後悔するよ」




明日香は最後にそれだけ、言い残して。
俺から走り去っていった。





———『絶対に後で後悔するよ』




なぜか、 その言葉だけが。
俺の頭の中で何度も何度も、 反芻されていた。




「おーい、裕紀。いつまで待たせるんだよ」
「ああ…わりぃな」

待たせていた友達をすっかり忘れていた。
友達はと言えば屈託のない笑顔を俺に向けて言う。

「安心しろよ、 話を聞くとか野暮なまねはしてねーからさ」
「ああ、ありがとな。助かる」

そんな会話をしつつ、俺は教室へと足を運んだ。



***********************************************************




*明日香side*



「ったく、葵のやつ。どこに行ったんだか」

でも、無理もないか。
好きな人にあんな他人みたいな呼び方をされたら。

普通じゃいられない、よね。


そんな考えをめぐらせながら廊下を歩いていると。


窓の外をボーっと眺めている直樹の姿があった。
あたしは近寄って声をかける。


「あっ!!直樹」

あたしの声に気がついたみたいで直樹がこちらに視線を向けた。

「明日香か。どうしたんだよ」
「ねぇっ、葵見なかった??」

葵。
その名前に一瞬、直樹の肩が震えた。そんな気がした。

「……知らね」

素っ気なくそう言ってそっぽを向く直樹に。
あたしはカマをかける。

「葵となんかあった??」
「…………………」

これは、図星だな。

「何?告白でもしたわけ??」
「するかっ!!…でも、似たようなもんかもな」
「えっ!!じゃあ、やっぱり告白したわけ??」
「いっ…いやアレは告白とはいえね—な」

実は…と直樹が前置きを入れてこれまでの経緯を教えてくれた。
なるほど、ね。
傷つく葵を見ていられなくって直樹は俺が忘れさせてやろうかって口走ったわけか。
で、それを勘違いされて今に至る、と。

「まぁ、葵は鈍感だからね。ちゃんと好きだって言わないと」
「でも、好きっつってもなぁ…アイツはいまだに菅原のことが好きだしさ。フラれるのは目に見えてるわけだし」

辛そうにそう言う直樹の横顔に。
あたしは胸が締め付けられた。
たしかに裕紀のことを想う葵は苦しそうで見ていられないときはあたしにもある。
だけど。

そんな葵を想う、 直樹だって辛そうじゃんか。


「俺が葵を…幸せにしてやれればいいんだけどな」
「できるよ」


一言。そう言うと。
驚いたように直樹はあたしを見つめてきた。



「アンタのその思いだけがあれば、いつか葵も裕紀のこと。忘れられる時がくるんじゃない??」



葵の友達として。
本当は葵と裕紀を応援するべきだ。
でも、 それができないのは。



あたしにだって、 譲れない想いがあるからだ。






誰にも言ったことのないあたしの気持ち。
たぶん誰も知らない。
一番の親友の葵でさえも。






「そっかなぁ……明日香がそう言うなら諦めねーで頑張ってみるわ」





お互いに笑い合う。
直樹はありがとなと言いながら
あたしの頭を撫でて髪をクシャクシャにした。

「だーかーらー…むかしっから言ってるでしょ。髪がぐちゃぐちゃになるから撫でるなって」
「あはは…わりぃわりぃ」

沈んでいた直樹の顔がとたんに笑顔になって。
自然とあたしも笑顔になる。





幼なじみの関係が大きく変わってしまったけれど。
あたしの気持ちだけはあのころと何も変わらない。





昔も今も。
あたしは。









太陽みたいに、 暖かい笑顔の。










直樹のことが、 ずっとずっと…好きだよ———。

Re: .・。~涙色~.・。*-Namidairo-* ( No.6 )
日時: 2015/08/19 11:07
名前: 佳織* (ID: 1Enbe91p)

エピソード5:揺らぐ想い。




*明日香side*




好き。
何年たっても、何十年たっても…この先、きっと変わらない想い。

だけど

どんなにあたしが貴方を想っていても
あなたの瞳に映るのは、たった一人。



———あたしじゃない、 別の人。




でも、 それでもかまわないんだ。



だって好きな人には幸せになってほしい。
直樹自身もそう言っていたようにあたしだってその想いは同じだから。




だからこそ、 あたしは貴方には幸せになってほしいから
貴方の恋を応援するよ、 直樹。




**************************************************************




*葵side*



——キーンコーン。



放課後を告げるチャイムが鳴った。
教科書を鞄に一つ一つしまいながら
自然とわたしの口からため息がこぼれた。


なんだか、今日は全然授業に集中できなかったな———。




———『じゃあ、俺が忘れさせてやろうか??』



不意に真剣な瞳で真っ直ぐにわたしを見つめながらそう言った、直樹を思い出した。


「反則だよ、バカ」


あの時、 怒ったのは。
無神経にそう言った直樹にもだけど。
自分にも腹が立ったんだ。



一瞬だけだけど。
少しだけ、 気持ちが揺らいでしまって。



直樹の想いに答えそうになってしまったから。



「わたしも…直樹のこと、怒れないや」


一人、ボソッとそう呟いて鞄を片手に教室を出ようとしたときだった。
入り口の扉に寄り掛かっている人影にドキッとした。


「あの、さ…葵。今日…一緒に帰らねぇか??」


しどろもどろにそう言う、 直樹がいたから。


きっと、 直樹がこう提案したのは。
さっきのことを謝りたいからなんだろう。

わたしは黙って頷いて。


「じゃあ、帰ろうか」


静かにそう言った。



■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■



すっかり空は赤くなっていて。
夕暮れの道をわたしは直樹と二人っきりで歩いていた。
並んで歩いてはいるものの、 どちらも会話を振らず。
沈黙の空気が流れていて、帰り道がとても長く感じる。

「あの、さ…今朝のことなんだけど」

ようやく、直樹が口を開いた。
わたしは鼓動がドクッと飛び跳ねた。
やっぱり…そのことについてなんだ。

「その…悪かったな、いきなりあんなこと言って。お前の気持ちも考えずに…その…確かに無神経だったわ。本当にごめんな」

頭を下げて、謝る直樹は真剣で。
心の底から謝ってくれているんだなって伝わってきた。

わたしはニコッと小さく笑って。

「もういいよ、気にしてないし。…わたしも謝らなきゃね」
「え??」

ポカーンとした顔でそう言う直樹。
わたしはあの時、感じた気持ちを正直に直樹に打ち明けた。

「本当は……あの時、直樹の言葉に頷きそうになった。実は気持ちが少しだけ揺らいだ。このまま裕紀を好きでいて傷つくよりも直樹を好きになった方が幸せになるんじゃないかって」

あの時。確かにそう感じた。
直樹と付き合った方が自分はずっと笑っていられるし
何よりも直樹は優しいから。
きっと誰よりもわたしを幸せにしてくれる——。

そう思った。

「だから、 おあいこってことで」

最後に大きな声でそう付け足して、わたしは歩を進めた。

「何だよ、それ」

立ち止まったままの直樹から漏れた言葉。
それは小さくて、 わたしには届かずかき消された。

「———そんなこと、言われたら…もう後戻りできねぇよ」




茜色の空の下。
夏の始まりを告げる初夏の風が。

二人の間にそっと流れた。

Re: .・。~涙色~.・。*-Namidairo-* ( No.7 )
日時: 2015/09/19 16:47
名前: 佳織* (ID: p./2qFOd)

エピソード6:言葉にできなくて。





*葵side*




「じゃあね!!直樹。また明日」

明るく笑顔で手を振ると、直樹は照れ臭そうに。

「おう、また明日な」

それだけ、素っ気なく返して自分の家へと入って行った。
直樹が家に入ったのを確認して自分の家へ入ろうとしたときだった。

ふと目を逸らした先にいた人物とお互いに目を合わせてしまった。

わたしはその視線に一瞬、固まってしまった。

「……ゆう、き」

か細い声で、 その人物の名前をそっと呟いた。
帰りに会ったのは、本当に久しぶりだった。
今日は…部活が早く終わったのかな———。

そんなことをぼんやりと考えたまま、自宅に入ろうとしたとき。

「——お前さ…直樹とつき合ってんの??」






急に…裕紀の口から、そんな予想もしていなかった質問が投げかけられた。
そのせいでわたしは呆気にとられて。





「……えっ??」





思わず、聞き返してしまった。




どうして??




わたしのことなんか、 どうでもいいって思っているんでしょ??
なのに。






なんで、
そんなこと、 聞くの??







ぐるぐると頭の中で裕紀に言いたい言葉がたくさん募ってくるけど。
わたしは必死でこらえて。
素っ気なく答えることにした。







裕紀と二人っきりの、この気まずい空間から早く逃げ出したかったから。







「———つき合ってない。ただ、帰り道に偶然会っただけだよ」






そう言ってわたしはそそくさと自分の家に入って勢いよく扉を閉めた。





わたしは玄関の扉に寄り掛かったまま。
そのまま、ずるずるとその場にしゃがみこんだ。






「意気地なし」






本当は聞きたかったよ、わたしだって。
なんでそんなこと、聞いてくるの??とか。
なんで冷たい態度をとるの??とか。
七海とだけ今でも仲が良いのは、 どうして??とか。




———七海が好きなの??とか。






「やだなぁ、わたし。どうしてっ…言いたいことが上手く言えないのっ……??」





瞳から次々と流れてくる涙を零しながら
わたしはそんなことばかり考えていた。





言いたいことが言えない自分が嫌い。
そう思うのと同時に。


自分の中で分かったことは。


あの人…裕紀のことを想うだけでこんなにも涙を流せるくらいに
わたしは今でも。






裕紀が好きなんだな……と、 いうこと。




*****************************************************************




*裕紀side*




あの時。



『お前さ……直樹とつき合ってんの??』



どうして俺はこんなこと、 聞いちまったんだろう。






「やっぱり…そう簡単には忘れられねぇって事かよ。だせぇな、俺」





自分の中では完全にアイツの存在を消した気でいた。
廊下ですれ違っても、 なるべくアイツの顔を見ないようにしてた。
話しかけられても、極力素っ気ないそぶりをした。




正直、 葵にそんな態度をとるのは……苦しくって辛かった。





俺はアイツが傷ついて泣くところなんか見たくねぇんだ。
アイツにはずっとずっと……笑ってほしいのに。
なのに。




「どこで間違えたんだろう、俺は」





本当は今すぐにでもアイツを抱きしめたい。
抱きしめて、それで。





好きだ。











その一言が言いたい。









だけど。
俺にはできない。




俺は、 七海の傍にいなくちゃいけない。
アイツを独りにさせるわけにはいかない。











だから。









「ごめん、ごめんな。葵っ」











一人。
夕空の下。











涙を零しながら俺は小さくそう呟いた。


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