コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- その少女、兵器につき
- 日時: 2015/08/23 23:00
- 名前: ノスタルジア (ID: 4/G.K5v4)
はじめまして〜!
ノスタルジアとかいう綺麗なペンネームを使う者でございます!
今回は閲覧感謝いたします!
この作品、とことん亀更新になると思われますが、何卒お付き合い願います!
アクション主体のこの話、もちろんキーキャラクターはタイトルにもなっている兵器な少女です。
愛らしく、皆様から愛されるキャラにしていきたいと思っております。
もちろん、少女以外も。
ではでは、お楽しみくださいませ!
Page:1
- Re: その少女、兵器につき ( No.1 )
- 日時: 2015/08/23 23:02
- 名前: ノスタルジア (ID: 4/G.K5v4)
序章
わたしは逃げていた。
気が付いたらわたしは培養器から放り出された形で床に転がっていた。
身につけているものは、薄っぺらい手術衣のようなもの。一枚の布を、無理矢理衣服のようにしたそれは、腰の辺りで結んで強引に衣類に形を近づけていた。
結び目を解けば、わたしの未成熟な身体が露わになるだろう。結び目が解けないように、わたしは気をつけて辺りを見回しながら歩いた。
周りに人の姿はない。その理由はすぐに分かった。
無機質な白い壁や床で囲まれた大きな建物内に鳴り響く、うるさいほどのサイレン。かすかに煙のにおいも漂ってくる。
ここはある研究施設だろう。
おそらく、施設内の機械が誤作動か何かで爆発し、その爆発に探知機が反応してサイレンが鳴っているんだろう、と。周りに人が見えないのは、その事態の終息に向かっているからだ、と自己解釈した。
わたしの本能が、根拠もなく告げてくる。
ここは危ない。速く逃げろ、と。
わたしの足は自然と駆け出していた。人のいない施設内を駆け回るのは簡単だった。誰の目にも触れることなく、わたしは出口目掛けて必死になって走る。
だが。
目の前に広がる光景は、わたしを戦慄させた。
施設の外には肌を一切見せず、防護服やマスクで徹底的に身を守った施設内の人間とおぼしき人たちが、わたしに銃口を向けて制止していた。
「……え?」
わたしは思わず声を上げた。
なんで、どうして、といった疑問が口から放たれる前に、一人だけ銃を持たない男が真っ直ぐに上げた腕を一瞬の迷いもなく振り下ろした。
瞬間、わたしに大量の鉛玉が襲いかかる。
当然全てかわせるわけがない。
腕に、足に、背中に、腹に、首筋に。
目にも留まらぬ鉛玉を身体中に浴びながらわたしは走った。
この程度じゃ、わたしは「壊れない」から。
しばらく逃げるわたしの背中を狙い撃ちながら追いかけてきていた施設の人間も諦めたのか、数分の鬼ごっこの末に、わたしは追っ手を撒くことに成功した。
だが、鬼ごっこが終わる頃にはわたしの体力も限界だった。
両腕が上がらない。足も動いているのが不思議なくらい銃弾を浴びた。身体に穿たれた穴は十以上あり、首から上も銃弾を浴びている。
わたし逃げ延びた山奥を彷徨い、小さな洞穴を見つけた。
中は涼しく、雨も風も凌げるくらい丈夫な様子を窺えた。
ここで体力が戻るまで休んでいよう、と入り口を様々な岩や石で外からは見えないように入り口を塞いでいく。出る際はこれを崩せばいいだけだ。
わたしは岩壁に身体を預け、ボロボロになった身体を休ませた。
睡眠欲がないはずなのに、何故か眠たくて仕方がない。
わたしはゆっくりと目を……閉じ……い、しきを……くらやみにしず、め……
- Re: その少女、兵器につき ( No.2 )
- 日時: 2015/08/23 23:16
- 名前: ノスタルジア (ID: 4/G.K5v4)
第一章 その部活、アクティブにつき
1
放課後の校舎は静寂に包まれていた。
それも本校舎から離れた別棟の中なら尚更だ。
本校舎ならばグラウンドと面しているため、運動部が声を揃えてランニングしている声や、指示を飛ばす怒号にも似た声が聞こえてくるだろうが、グラウンドと面していない別棟では大きなその声もか細い。
別棟の三階の一室で机に肘を立て両指を組みながら、司令官のようなポーズを取りながら呟くように言い出した。
「……退屈だ。退屈は、罪だ。そうだと思わないか、少年よ」
声をかけられたであろう、その部屋唯一の男子は、頬杖をつきながら面倒そうに返す。
「……それ、俺に言ってるんすか、雅(みやび)部長」
雅、と呼ばれた少女がつまらなそうに口を尖らせた。
「今この中にいる少年は君だけだろう?」
「年が若い人間をさす言葉なんで、少年イコール男子にはなんないっすよ」
「君は屁理屈ばかりだな。将来つまらない大人になるぞ」
「それは少し楽しみですね。どの辺りがつまらないのか」
「はあ、あのな少年よ。つまらない、退屈、暇は重罪だ。将来の君を私に断罪させるのだけは勘弁してくれよ」
「雅部長、ここは文芸部の部室ですよ。演劇部の部室なら一階まで降りて右手にある教室なんで、一階にどうぞ」
「つーまーんーなーいー!」
雅部長と呼ばれた少女が思わず叫ぶ。
茶色い髪を腰まで伸ばした、赤い目が特徴的な美少女だ。服装はカッターシャツにリボンをつけ、下はショートパンツという学校にいるような服装ではなかった。
彼女たちの通う学校は、制服は存在するが、斬新さを追求したデザインにしたためオレンジ基調の派手なものになってしまったため、生徒から批判の声が多く、私服登校を学校側も了承したのだ。
もっとも、派手なのはブレザーとスカートだけなので、カッターシャツやリボンは普通に使用する者も少なくない。
文芸部の部長、月ヶ峰雅(つきがみねみやび)もその一人で、彼女が着ているカッターシャツは学校指定の物だ。
「つまんないぞ少年! 君はいつから退屈という重罪そのものになってしまったんだ!」
「……人を勝手に罪扱いすんな」
「そんなだから君の髪はボサボサなんだよ!」
「これはクセ毛だ。櫛通しても結局こうなるんだよ」
ところどころ跳ねた黒髪くらいが特徴な、端正な顔立ちの少年がつまらなそうに反論する。顔だけはいいのに、デフォルト仕様の仏頂面のせいで、モテたことは一度たりともない。
「つーか、その呼称やめてくださいよ。名前知ってるでしょ」
「あんな中途半端な自己紹介で分かるものか!」
少年は雅の言い分に理不尽さを感じていた。
何故なら、彼はこの部活に強制的に入部させられ、自己紹介をしろと言われたから仕方なく名前を名乗っている途中で、雅が行動を起こし始めたので、中途半端な自己紹介にしたのは他ならぬ雅のせいなのだ。
「いいじゃないか。呼び方に個性をつけた方が面白いだろう?」
「そういう問題じゃないんですけど」
そんな二人の言い合いに、くすくすと微かな笑いが聞こえてくる。
少年、桐野千夜(きりのせんや)がそちらに視線を向ける。
そこにいたのは、足を組みながら口元に手を当てて上品かつ優雅に笑っている、銀髪の少女がいた。
「何笑ってるんですか」
「あら、駄目かしら。相変わらず仲が良いと思って、微笑ましく感じていたところよ」
校内一の美少女と噂される二年生、雪里風音(ゆきさとかざね)。
そんな有名人が近くにいる、というのもおかしな状況だが、彼女が文芸部所属というのも意外性満天だろう。
「冗談よしてくださいよ。俺と雅部長のどこが仲良いんですか」
「あら、私には二人はカップルに見えたけど?」
「それはない」
千夜と雅の言葉が被る。
二人が睨み合い、風音が笑うというこの光景は、もはや文芸部の日常と化していた。
- Re: その少女、兵器につき ( No.3 )
- 日時: 2015/08/23 23:08
- 名前: ノスタルジア (ID: 4/G.K5v4)
文芸部の部室の扉が唐突に勢いよく開かれた。
一拍置いて、中に元気よく一人の生徒が入ってくる。
純白のワンピースに身を包んだ美少女だ。肩より少し長めの桃色の髪は、部室から入ってくる光によってキラキラと光っているように見える。
しかし美少女が入ってきたというのに、女子である雅や風音はとにかくとして、男子である千夜もまるで無関心だった。どころか、穏やかな笑みを浮かべ続ける風音とは対照的に、千夜と雅は揃って溜息をついた。
部室に入ってきた美少女は、頭の上にウサギの耳のように手を載せる。それから満面の笑みで、
「ぴょんぴょ〜ん! 今日も今日とていい日だね〜! ほら、みんなで一緒に元気よくさんはい、ぴょんぴょーん!!」
部室は静まり返っている。
奇妙な挨拶をした少女は、
「何で誰もノってくれないのー!? 宇佐美(うさみ)だけ一人で喋って、馬鹿みたいじゃん!」
無言を貫き通す部員に叫ぶ。
彼女もこの文芸部の部員の一人、笹木宇佐美(ささきうさみ)。
名前が似ているせいか、ウサギが大好きで自身も可愛らしいウサギのようにキャラ作りしているらしいが、若干というかかなり空回りしている。
現に宇佐美考案のさっきやった「ぴょんぴょん挨拶」も誰一人やらなかった。
ムキになって叫ぶ宇佐美に、千夜と雅は冷たく突き放すように言う。
「馬鹿みたいじゃなくて馬鹿なんだろ」
「同感だ。というかもう何回もやって無視されているというのに、何故まだやろうとするんだ」
宇佐美が入部した翌日から、七月上旬の現在まで、一緒にあの挨拶がされた試しがない。それでもくじけず挑戦するあたり、強いハートを持っているのだが、こういう場合は逆に面倒くさい。
宇佐美はぷくーっと頬を膨らませると、
「でもでも、宇佐美はめげないもん! ほら雅部長! ぴょんぴょん、ぴょんぴょん、ぴょんぴょーん!」
「やかましい」
しつこいのが雅の怒りを買ったらしい。
雅の履くブーツの靴底が宇佐美の顔面にクリーンヒットする。
どうでもいいことだが、雅は座ったまま足を上げているので、ショートパンツの丈の関係で少し際どいラインが生まれてしまっている。
風音は静かに鞄から本を取り出しながら、
「月ヶ峰さん。ショートパンツの隙間から少しパンツが見えてるわ。あら、今日の色は黒なのね」
「少し大人を目指そうと思ってな。どうした少年、見たかったら見てもいいんだぞ?」
ほれほれ、とショートパンツのベルトを緩め、ジッパーを下げて挑発する雅。
一方の千夜は雅には目もくれず頬杖をつきながら、
「見たくないからしまってもらえませんか」
つまらん奴め、と拗ねてしまう雅。
彼女は宇佐美を指差すと、
「だがお前のあの挨拶は少年の反応よりつまらん! 言ったろう、退屈、暇、つまらないは罪だと」
むー、と頬を膨らませる宇佐美。
そこへ、五人目の部員が入ってくる。
「おはよーございますっ! えーと、会議まだですよね!?」
黒髪ポニーテールの、快活なイメージがある少女は息を切らして走ってきたらしい。
雅は腕と足を組むと、
「ああ、今揃ったところだ」
すると席についていなかった宇佐美が風音の隣に座り、黒髪ポニーテールの少女は千夜の隣に座り、小声で千夜に問いかける。
「待った?」
「いや。多分そんなでもない」
「そっか。なら良かった!」
嬉しそうな表情を浮かべる少女を不思議に思っていると、雅が机に肘をつき、両手の指を組み合わせる。
「では今から会議を始める、準備はいいな、お前ら」
おー! という掛け声に唯一混ざらなかった千夜。
そもそも彼は望んでここにいるわけじゃない。無理矢理入れられたのだ。
話は、三か月ほど前に遡る。
- Re: その少女、兵器につき ( No.4 )
- 日時: 2015/08/23 23:12
- 名前: ノスタルジア (ID: 4/G.K5v4)
1
およそ二ヶ月ほど前。
高校生になった桐野千夜は、学校への道を歩いていた。
中卒は嫌だから、最低でも高校卒業の資格は取っておきたいと思い、特にしたいことも将来の夢もないまま高校の入試を難なく合格し、進学することに成功した。
その高校も目立つ特徴はなく、偏差値も高くない何処にでもあるような学校だ。ただ設立して五年程度の新設校なので、校舎の外壁や内装はかなり綺麗だ。家から近いし、平均的な成績で入学できることもあって、千夜はすぐに高校をここに決めたのだ。
中学の担任の先生からもうちょっと上の学校にいける、と残念そうな表情で言われたが、下手に学力を上げて勉強に必死になるのも面倒だし、なにより家から徒歩で行ける、という距離に魅力を感じたので、適当なことを言って断った。
千夜には将来の夢というものはない。
だから高校卒業後は就職し、安定した生活を送るつもりだ。
入学式はつつがなく終了した。昼前に終わったので、帰りに昼飯でも買って帰ろうかと校舎を出た時だ。
校舎の玄関から正門にかけて、左右にたくさんの生徒が待ち構えていた。
一体何事か、と動揺しよく観察していると、生徒は紙束や看板を持っており、「サッカー部でーす!」「野球部マネージャー募集してます!」「吹奏楽部どうですかー!」などという大声が飛び交っていた。
どうやら新入生を部活に勧誘しているらしい。
そういえば、中学の担任からこの学校の資料をもらった時、ちらっと目を通したことを思い出した。その時、部活動に精力的とか書いてあったような気がする。
うわ、面倒だなと家へは遠回りになる反対側の門から帰ろうと踵を返したところで、
すぐ傍に誰か立っているのに気が付かず、危うくぶつかりそうになり、思わず声を上げてしまう。
「うわっ!?」
気配が全くなかったのでオーバーに驚いてしまった。
だが傍の人物はその声に大して驚くことなく、
「うん? ああ、すまない。道を塞いでしまっていたな」
茶色い髪を腰まで伸ばした端正な顔立ちの美少女だ。白い学校指定のカッターシャツにデニムのショートパンツを履いている。私服登校が許されているこの学校では珍しい光景ではない。
ただ入学式なので一応制服を着ている千夜からしてみれば、やっぱり制服ださいな、と改めて感じさせられる。
腕を組みながらこちらを見上げている小柄な少女は、こちらを不思議そうに見つめ、
「どうした少年? 私をじっと見つめて?」
気配もなく傍にいた少女を見つめながら千夜は固まっていた。
何で広い場所で自分の傍にいたんだろう、という疑問が過ったが、千夜は小さく息を吐いて、
「……いや、なんでも。で、先輩はここで何を?」
千夜が彼女を先輩だと確定した理由は二つある。
一つは私服であること。
新入生は、入学式では制服の着用が義務づけられている。入学式に出席する理由がない部活の勧誘などに来ている生徒は大体が私服だ。
もう一つは彼女がシャツの胸元に付けているリボンだ。
この学校では女子はリボン、男子はネクタイの色で学年が判別出来る。一年生は緑、二年生は青、三年生は赤で、彼女が身につけているリボンが青であることから一学年上の二年生であることが分かる。
千夜の質問に、少女は思案するような声を出して正門の方、正しくはそこへ行くまでの道にいる部活勧誘の生徒の方へと視線を向ける。
「なにやら外が騒がしいと思ってな。あれは何をしているんだ?」
「部活の勧誘じゃないすかね。ちらほら部活の名前聞こえるし」
「君は何故ここで立ち止まっていた?」
「あそこを突っ切るのが面倒なんで、反対側の門を通ろうとした進路の先に先輩がいたんです」
「それは悪いことをした。部活に入らないのか?」
「特に入りたい部もないんで。先輩こそ、部活やってないんですか?」
在校生は出席する義務がないというのに、わざわざ登校してくるということは、何か理由があるのだろうが、こんなところで突っ立っているのだ。部活に入っているようにも思えないし、委員会の仕事をすっぽかしたわけでもないだろう。
「……部活か……」
少女は顎に手を当てて考えるような仕草を見せる。
「……確かに、新設校なら楽しいだろうと思い入学したが、特になにもなく一年を無駄に過ごしてしまった。部活を始めるのもありか」
なにやらぶつぶつと独り言を言っている。部活には入っていないようだ。
「しかし入りたい部があるわけじゃない。楽しくないことは長続きしないだろうし……」
少女は閃いたように目を見開き、ばっと顔をあげた。
「そうか! ないなら作ればいいんだな! 私が楽しくなるような、そんな部活を!」
少女が輝いた表情を浮かべると、ショートパンツの中から携帯電話を取り出した。誤解させないように言うが、ショートパンツのポケットの中から、ではなくショートパンツの中からだ。
どこに入れてんだよ、と千夜が呆れていると、少女は携帯電話を操りどこかに電話をかけ始めた。
「ああ。私だ。は? 詐欺じゃない! 私だ私! 名前表示されただろう!?」
どうやら電話相手に詐欺と間違われているらしい。
「急ですまないが、教室を一つ借りておいてくれないか? 部活を作る。部員? すぐに確保する。何人だ? 五人? 了解した!」
少女は携帯電話を、今度はシャツの中に突っ込んだ。
「いいぞ、楽しくなってきた! そうだよ、この高揚感だ。学生生活はこうでなくてはな!」
なにやら一人で盛り上がっている少女に、もう帰ってもいいだろうと、千夜は正門とは逆の門に向かって歩き出す。
「楽しそうでなによりです。じゃ、俺はこれで」
しかし、そんな千夜の腕を少女は小さな手でがしっと掴む。
「何を帰ろうとしている? 君も来るんだ」
「……はい?」
状況が飲み込めず、千夜は間の抜けた声を上げてしまう。少女は有無を言わさず、千夜の腕を引っ張り、後者の中へと引き込んで行く。
「さあ部活だ部活! 君は部員第一号だ! 楽しんでいこうじゃないか!」
「い、いやちょっと待て! 俺は部活なんてやるつもりないんですけど!?」
千夜の声は、興奮気味な彼女の耳には届かない。
- Re: その少女、兵器につき ( No.5 )
- 日時: 2015/08/23 23:15
- 名前: ノスタルジア (ID: 4/G.K5v4)
「ばーん!」
少女が千夜の腕を引きながら向かったのは別棟の三階にある一室だ。
扉を開ける効果音を口で発しながら、少女は勢いよく開けた。
中には長机が二つ、縦に組まれており、さらに一人用の机が側面に接するように設置されている。
長机の方に用意されたパイプ椅子に一人の少女が座っていた。
背中まで伸びる銀髪は銀糸のように綺麗で、青い瞳に白い肌。日本人離れした美貌を持った少女が、足を組みながら優雅に本を読んでいる。それだけで性別問わず人目を惹くのは明らかだ。
そんな彼女は読んでいる本から目を離し、視線を千夜と少女に向ける。
「あら、月ヶ峰さん。言われたとおりしたわよ。部員はすぐに確保する、と聞いていたけれど、確保というより捕獲に近い形で連れてきたわね」
月ヶ峰、と呼ばれた少女は忙しない様子で、教室から出て行く。
それから扉の隙間からひょこっと顔を出して、
「すぐに戻る」
そう言って今度こそ遠くへと走って行く。
置き去りにされた千夜は気まずそうに教室を見渡す。本当に急ごしらえの部室で、机や椅子以外は何もなかった。千夜がどうすればいいか分からずに立ち尽くしていると、
「座ったら?」
銀髪の少女が隣の席に座るよう促してくる。いきなり隣に座るのはそれなりに勇気がいることだ。他に椅子があるし、別の椅子に座る、という選択肢もあったが、自分が座るよう促した場所とは違う場所に座られたら嫌だろうと思い、素直に隣に座る。
銀髪の少女は読んでいた本に栞を挟んで閉じる。どうやら千夜の話し相手になるらしい。
綺麗な顔と瞳に見つめられ、千夜はまともに相手を直視できない。女性と話した経験が乏しい千夜にとって、彼女はハードルが高すぎた。
「君、名前は?」
「き……桐野千夜です……」
「あら、珍しい名前ね。どういう漢字を書くのかしら?」
「……普通に、千の夜と書きます……」
「綺麗な名前ね」
名前を褒められたのは初めてだ。今まで女っぽいと言われ、若干嫌になっていたが、少し名前に自信が持てた。
「……あの、先輩とあの人はどういう関係なんですか?」
彼女が先輩だと決めつけたのは、単に月ヶ峰と呼ばれた少女と対等に話していたからだ。
銀髪の少女は、くすっと上品に笑った。
「友達よ。小さい頃からの。幼馴染と言うべきかしら」
「……なんか、疲れませんか? あの人の相手」
幼馴染である相手にこう聞くのは失礼だろうと思ったが、質問を受けた銀髪の少女は上品な笑みをこぼし、
「ええ、とても疲れるわ。でも一緒にいると楽しいものよ」
「……楽しい……?」
今の千夜は振り回されただけなので、楽しさなど感じる余裕もない。
「彼女、退屈とか暇とかが嫌いなのよ。常に楽しいことを模索し、追求し、発見し、試してみる。そこまでが、楽しいのよ。結果的につまらない、と吐き捨てることも多いけれどね」
そこまで言って、部室に静寂が訪れる。
その静寂を破ったのは、勢いよく開けられた扉の(口から発せられた)効果音だった。
「ばーんっ!」
「あら、おかえり月ヶ峰さん。部員は確保、もとい捕獲してきたの?」
「うむ、ばっちりだ!」
そう言って月ヶ峰が連れてきた少女二人が倒れこむように部室になだれ込んできた。一人はポニーテールの、もう一人は桃色の髪の二人だ。二人ともリボンは緑色であることから、新入生であることが分かる。
「な、なんなんですか……? 一体……」
「……きゅうぅ……」
二人とも目を回している。千夜同様無理矢理連れ回されたらしい。
月ヶ峰は腕を組みながら、窓に背を向け千夜たちに宣言する。
「ようこそ、文芸部へ! 私は部長の月ヶ峰雅! 君たちを歓迎しよう!」
ここ文芸部なのか、と千夜は初耳の情報に驚く。
「そして副部長のー?」
「雪里風音。よろしく」
雅に続いて挨拶する風音。にっこりと笑うだけでも美人だ。
「さあ、次は君らの番だ。挙手制だから、好きにしたまえ」
真っ先に手を上げたのは、肩より長めの桃色の髪の少女だ。少し幼さが残る顔立ちだが、可愛らしい見た目のため、男子から人気があるだろう。
「……えーっと、笹木宇佐美ですっ! うーんと、よろしくでーす!」
ぺこっとお辞儀をする宇佐美。
名前を聞いた雅が感嘆の声を上げた。
「宇佐美か。中々に綺麗な名前だな」
「雅が言う?」
「風の音も似たようなものだろう」
どっちもどっちだろ、とツッコもうと思ったが、風音に「千の夜も中々よ」とか言われそうなので、思うだけにとどまった。
千夜が名乗りそうにないのを見て、ポニーテールの少女が一歩前に出る。
「……華宮玲央(はなみやれお)っていいます。好きなように呼んでください」
にっこりと笑う玲央。
風音や宇佐美と違う可愛さがある玲央。千夜と目が合うと少し照れたように笑った。風音と違う、可愛らしさに思わず目を逸らしてしまう。
「最後は君だぞ、少年」
全員の視線が千夜に向けられる。
無理矢理入部させられ、すぐにでも出て行こうと考えていたが、どうもそのタイミングを失った。ここで名乗らねばさすがに気まずい。部室から出て行くなんて以ての外だ。
入部、してやるか。
そう思い、千夜は口を開く。
「……俺は桐野、」
「さあさあ、全員揃った! 早速活動を始めるぞ!」
「って待てオイ! 折角だから名乗らせろよ!」
こうして、文芸部は五分程度で出来上がった。
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