コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 同居人は、旦那様。
- 日時: 2015/09/16 16:44
- 名前: 悠。 (ID: 0a987INq)
皆様、初めまして*
以前は違うサイトで小説を執筆させて頂いてました、悠。と申します。
今回こちらの方で活動させて頂くのは初めてで、とても緊張してます(
精一杯頑張らせて頂きますので、宜しくお願いしますっ*
*、ご注意
誠に勝手ながら、荒らしや成りすましは勿論の事パクリなども禁止させて頂きますがご理解下さい。
また、主は呼び捨てやタメOKですので気軽に声を掛けて下さいね!
更新はスローペースですが、温かく見てやって下さい(*´`*)
*、あらすじ
世界的に有名な会社のお嬢様と、これまた有名会社の跡取り息子。
そんな二人に訪れた、「政略結婚」という名の奇跡——!?
私なりに頑張るので、宜しくお願いします!
アドバイスなど、随時受付中なので是非どうぞ。
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- Re: 同居人は、旦那様。 ( No.56 )
- 日時: 2015/11/10 20:22
- 名前: 悠。 (ID: 0a987INq)
【 第二十四話 】
夜風が心地良く、二人を優しく、でも決して離さず抱きしめる。
その空気に私は圧倒され、体が動かないままでいた。
「し、失礼、しますっ」
「……っ、二条院さん!」
泪依さんがなにを伝えたかったのかは、分からないけど。
兎に角家に帰らないと、そんな思いでいっぱいだった。
出ていくなんて、考えられなかった。
引き留めて欲しかったし、やっぱり一度ぐらい我儘を言ってみたい。
ただ、それだけの、普通な感情だったはずなのに。
自分の胸の中で、あんなに小さな存在であった、翼さんだったのに。
もう、溢れてきてしまいそうな位に大きく、膨れ上がってる。
急いでアパートに戻ると、扉は開いていた。
明かりのついたリビングでは、寝息を立てる翼さん。
眠っているソファの横では、着信音を奏でる携帯があった。
画面を覗き込むと、そこには「古都」、の文字。
私は無視して、寝室へ入った。
(……——理人っ、)
今すぐに理人、彼のもとへ行けば、すぐに抱きしめてくれる。
私が望めばずっと傍にいてくれる筈だし、優しい言葉もそこにある。
絶対にあの人は、私からなにも奪おうとしない、彼のまま。
でもその代わりに、彼のこころを、私が全部攫ってしまうことになる。
今まで、私はそんな事をしてきたんだ。
理人の自由を造ろうともせずに、上っ面だけの優しさを造っていた。
「理人、理人……っ!」
(会いたいよ、助けてよ 、)
夜が明けて、私は鞄に荷物を詰め終わっていた。
でも一歩を踏み出すことが出来なくて、ただ時間が刻まれていく。
今頃なら、朝ご飯を作っていた時間なのになあ。
一つ溜め息を吐き、私は立ち上がった。
きっと翼さんに会ってしまえば、飛び出す勇気が出ないから。
もう彼には会わないと決め、玄関ドアを押した。
秋の朝空は、透き通るように白い。
冬とは違うけれど、息を吐けばほんの少しだけ白く染まる。
肌寒さにぎゅっと目を瞑り、背中を縮ませたその瞬間(とき)。
後ろから手を引かれ、視界が上を向いた。
「……——古都、さん」
「良かったあ……っ、追いつけて、」
以前、約束を交わしていたけど会うことはなかった、公園。
ついこの間、泪依さんと来たばかりなのに。
大きく膨れた鞄を地面に置いて、はあ、と息を吐いた。
古都さんは、ゆるく結ばれた三つ編みに白い指を絡ませた。
そして視線が合うと、優しく微笑んでくる。
その笑顔は何処か翼さんに似ていて、胸が苦しくなった。
「翼には、あなたが必要なんです」
「……え?」
「私にも、もうすぐ結婚する方がいます、っ……だから」
お願いだから、その一言は言わないで。
私の存在理由が暴かれてしまいそうで、全てが紐解けてしまいそうで。
古都さんは顔を歪めて、苦しそうに言葉を紡ぎ出した。
耳を塞ぎたかったけれど、寒風がそれを邪魔する。
「——————————私の代わりに、彼の傍に」
力強く言い放った古都さんの大きな瞳から、涙が溢れ出した。
そのまま両手で顔を覆い隠し、しゃくり声を上げた。
そして暫くして顔を上げ、苦しそうに笑った。
先に行ってくださいと呟いて、私の鞄を持ち上げ、また、笑った。
- Re: 同居人は、旦那様。 ( No.57 )
- 日時: 2015/12/05 17:52
- 名前: 悠。 (ID: 0a987INq)
【 第二十五話 】
俯いていた顔から、涙が溢れ出す。
何度両手で擦ったって、止まることはなくて。
やっと、やっと、気づけたのに。
気づいた瞬間、彼を愛するひとがいると知って。
アパートの曲がり角で、ふと足を止めた。
此処を曲がったら、もう、あの感情は止めるしかない。
古都さんの代わりに、妻という肩書きで。
彼のことを「好き」でいるなんてことは、絶対になくて。
仕方なく、傍にいるだけ。
そうすることが、古都さん、そして翼さんの幸せ。
「……っ、理人、」
なんて、人間は無力なんだろう。
手放した筈のひとを呼び続けて、泣き続けて。
ひどく弱ってしまったなあ、なんて思いながら。
あの錆びたアパートへと、また足を速めた。
すごく久しぶりのような気がして、また泣きそうになる。
彼の顔を見ただけでまた、涙が溢れるんじゃないかと。
鍵穴に、鍵を通す。
この古びた扉を開けたら、私はただの「妻」。
仕方なく政略結婚させられて、仕方なくこの家に住んで。
ただ、相手と契約を結んだ、それだけのこと。
「——————ただいま、帰りました」
鈍く、低い音を立てて扉が開く。
目の前に立つ彼の姿に、一瞬だけ肩が震える。
もしかしたら泣いてるんじゃないか、そう思うと。
もう言葉を発することもできなくて。
顔を見たら伝えてしまいそうになるから。
翼さんは私の考えていることが分かったのか、静かに座った。
そんな彼の前に私はコーヒーを置く。
そしてすぐ背を向けて、洗面所へと歩いていく。
積まれた洗濯物を放り込み、お風呂を手早く沸かす。
不意に見た鏡には、震える私が映っていて。
でもそんなものはかき消して、目頭に溜まった涙を拭った。
こんなことは、辻褄合わせ。
頭では分かっているけれど、思うように頭が動かない。
「お風呂、沸かしておきました」
「……っ、ああ、ありがとう」
何処か、なにか。
我慢したような声が聞こえて、彼の肩が震えた。
やめてよ、そんな声を出すのは。
貴方は何も我慢していない、何も辛くなんかない筈。
だって、貴方のことが好きなのは私だけなんだから。
掌を握りしめて、その声は無視した。
時間が過ぎるのが、とても遅い気がする。
古都さんもこんな気分でいたのか、なんて考えながら。
こんな気持ちになるのは、やっぱり未練があるから。
完璧に自分の気持ちを抑えられていないから。
そんなこと、分かってる。
気がつけば携帯をとっていて、耳に当てていた。
「泪……くん?」
「——茉彩さん、どうしたんですか」
聞きたかったのかは分からないけれど。
何処か安心して、胸の内が優しくなるような声。
こんな風に逃げ込むことは、いけないことなのだろうか。
でも私は、こうしなきゃ人に甘えることができない。
なんて、くだらない。
これだから、恋愛だとかそんなものは。
嗚呼、こんなことを考えるまでに私は、弱くなっていたのか。
電波に乗って聞こえる彼の声が、完全に止まった。
- Re: 同居人は、旦那様。 ( No.58 )
- 日時: 2015/12/05 18:02
- 名前: 悠。 (ID: 0a987INq)
*、お知らせ
こんばんは、作者です。
ここ最近、冷え込んでいますね。
私も風邪をひいて、一週間ほどダウンしていました(;´・ω・)アセッ
そして本編、いきなりシリアスですいません。←
これから暗めだったりそうじゃなかったりですはい(オーイ
相変わらずの、ダラダラノロノロ更新で行きます。(オーイ
そして、参照1100ありがとうございます*
これからも精一杯頑張らせて頂きますので、応援宜しくお願いします!
- Re: 同居人は、旦那様。 ( No.59 )
- 日時: 2015/12/07 19:47
- 名前: 悠。 (ID: 0a987INq)
【 第二十六話 】
電話口の向こうから聞こえる、泪依くんの声。
冷えていた私の心を甘く溶かして、包み込んでしまう。
でも私はすぐに、電話を切ってしまった。
今すぐに、会いたいひとがいたから。ただそれだけ。
「ちょっと、出掛けま——」
「……っ、行くな」
リビングに戻り行こうとすると、腕を引き戻された。
その髪を振り乱して、辛そうな顔を浮かべた翼さんが、そこにいた。
彼が私に言う権利なんてないのに。
散々ひとを傷つけておいて、何様なんだろう。
本当に、難易度の高いものだなあ、恋愛というものは。
紡がれた掌から伝わってくる体温が、ひどく私を高ぶらせて。
窓から差し込む紺色の渦が、部屋に当たる。
月明りに乱反射して、眩しくぎらぎらと光る彼の瞳。
暖かな、彼の胸の内。
そこに隠された想いを、私はまだ知らない。
「茉彩、ここに居てくれ、」
「どうして……っ、突き放したのよ、」
「……え?」
「私は言おうとした、したよ——、あの日」
そう、言おうと「した」のだ。
彼にこの想いを、全て隠すことなく。
でも貴方は、違うひとを選んだ。
愛おしそうに抱きしめて、微笑んだ。
いつの間にか、彼の胸を掌で叩いていた。
出て来る言葉は、毒ばかり。
ああ、私はいつになったら認められるのだろう。
このひとが好きなんだと。
いつもこうやって逃げて、甘えることが出来なくて。
気がつけば周りには、誰もいない。
ただ居たのは理人、彼だけだったのだ。
頭に浮かんだ言葉は、助けてほしい、この現実から。
抜け出したかったのだ、この日々から。
普通に生活して、愛するひとと結ばれて、そんな日々を。
そして、やっと出会えた筈だったのだ。
でも彼には、愛するひとが先にいて。
想像なんかできていなかった。
だって分かる訳ない、こんなに好きになってしまうなんて。
ここまで傷つくほどに、貴方が好きになってしまった。
気づくのも伝えるのも遅すぎて、ただ、遅すぎた。
「_______________貴方が、好きです」
どうしようもなく、泣きたくなるほどに。
胸が痛くなるほどに、胸が毎日高鳴っていくほどに。
溢れる言葉を抑えられなくなるほどに、ただ、貴方が好きなんだ。
声やその姿を見るだけで、幸せと思えるほどに。
他に聞こえる「音」や「声」なんて、どうでもよくなるほど。
貴方のいない毎日は、考えられなくなってしまうほど。
それだけ、私には貴方が必要なのだ。
笑っている自分を、初めて好きになれたから。
苦しいんだ、貴方といると。
他のひとの事を考えているのは、嫌になる。
近くにいてくれないと不安になるし、声だって聴いていたい。
それが恋だと、何故すぐに気がつけなかったのだろう。
今考えれば、とても馬鹿だ、私は。
どうしてすぐ気づかずに、気持ちを抑えたりしたんだろう。
あの日見た星に想ったことは、間違いだったのだろうか。
出会ったことが、間違いだったのだろうか。
生まれた場所が違ったら、今は変わっていたのかな。
結婚なんかしなければ、こんなに苦しくならなくて済んだのかな。
もっと素直に、なれてたかな。
- Re: 同居人は、旦那様。 ( No.60 )
- 日時: 2015/12/08 20:04
- 名前: 悠。 (ID: 0a987INq)
【 第二十七話 】
震える言葉は、届いたのかな。
恐る恐る顔を上げると、頬を赤らめた翼さんがいた。
そしてそれに気づいたのか顔を押さえて、抱きしめていた手を離す。
その代わりに、私に椅子に座るように言った。
月の青白い柔いヒカリが、彼の瞳を包み込んだ。
私は頷いて、椅子に腰かけた。
「俺と古都には、もう何もない、何も作れない」
「……え?」
「あいつの人生に、割り込みたくない」
「でも、それって———」
その言葉の直前で、私は口をつぐんだ。
これは、翼さんが自分で決めた、彼の道なのだと理解したから。
古都さんは前に言っていた、結婚するのだと。
それは彼女にとって、本当に幸せなことだろうか。
古びたこの部屋には、二人分の溜め息が落ちる。
そして翼さんは、視線を私に戻した。
それだけで顔が赤くなるのが、分かってしまう。
こんなに、彼を「好き」というのは面倒くさいことなのか。
「今すぐには、お前を好きになれない、けど……」
「けど?」
「お前を一生かけて守るって、約束するよ、夫として」
「……翼、さん」
その約束が、どういう意味を持つのか私には分かっていた。
私たちは、妻と夫だ。
それだけは、そう足掻いても変えられない事実。
それ以上にはなれないし、それ以下にもなれない。
そんな理不尽な約束を、彼は受け入れた。
いつものように、翼さんは微笑んだ。
その姿はとても綺麗で、私が愛する、望んでいた笑顔で。
何処か、安心したのが分かった。
胸の内が溶けていくような、前にもあったような感じ。
翼さんじゃなかったら、こんな風にはなってなかっただろう。
あの日出会ったのが貴方だから、こんなに一喜一憂するのだろう。
そう思うだけで、今の自分は幸せだと思えた。
そうとしか、思えなかった。
「おやすみなさい、翼さん」
「ん、おやすみ」
その日は珍しく、良く眠る事ができた。
起きたのは相変わらず、翼さんより一時間も前だけど。
こんな風に朝食を作れることが嬉しくて、思わず頬が緩む。
窓から差し込む朝陽が、眠気を吹き飛ばす。
台所に広がる、コーヒーの匂い。
いつの間にか私は、この香りを翼さんのように思うようになっていた。
毎朝淹れているから当然のこと、それはそうなんだけど。
この匂いは、なんだか私にとって特別なものになっていた。
そうこうしているうちに、リビングの扉が開いた。
少し癖がついた、彼が顔を覗かせた。
それから二人でご飯を食べて、制服に着替えていたら時間が来る。
今日は、家を一緒に出ることができそう。
「今日、一緒に学校行こう」
「へ、でも翼さん反対方向じゃないですか」
「言ったろ、守るって」
「……ふふっ」
らしくないなあ、なんて思ったけれど。
赤い横顔を見ていたら、不思議と笑みがこぼれてきた。
こうした一瞬が、すごく大事なものに思えて。
前までの釣り合わないなんて思い、吹き飛んでいった。
似合う似合わないなんて、関係ない。
私はこのひとの「妻」であり、それは変わらない。
変わらないのなら、もう何も言っていられない。
その仕事をこなし、彼を静かに愛し続けたいから。
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