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- 君ヲ愛スル。
- 日時: 2015/09/16 22:39
- 名前: 氷優。 ◆oR8MhqCGDo (ID: EmbmWiOV)
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——「好きだよ、夏目。」
鋭い鋭い、瞳を細めて。
ほら。笑った。
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>> 小説開始日/2015.9.16
>> 小説終了日/
- Re: 君ヲ愛スル。 ( No.9 )
- 日時: 2015/09/20 18:39
- 名前: 氷優。 ◆oR8MhqCGDo (ID: UIcegVGm)
【第1章 彼と大雨。】
彼は流れる涙を拭う事なく、ただただ泣いていた。
泣いてる理由が全く分からない私には、蒼柳君を見ている事しか出来なくて。
頭を優しく撫でてあげようとしても、寄り添って抱き締めてあげようとしても。
——私の手足は、硬直して動かなかった。
ただ唯一出来たのは、泥だらけの傘を彼に差し出した事。
私は濡れても良い。ただ、彼が濡れてしまえばこの雨と一緒に流れていってしまいそうだったから。
「……変な奴だな、お前。」
ずっと俯いていた顔が、ふと上げられた。
その途端に、目が合って。その時初めて、きちんと彼の瞳を見た気がした。
悲しみと苦しみと、それから少し嬉しさを含んだ、深い瞳。
少し驚き私を見上げるその涙目が、私の胸を締め付けて苦しくなった。
- Re: 君ヲ愛スル。 ( No.10 )
- 日時: 2015/09/20 22:49
- 名前: 氷優。 ◆oR8MhqCGDo (ID: UIcegVGm)
【第1章 彼と大雨。】
暫くぼーっとしていた。
傘を翳したまま、私だけは雨に撃たれて突っ立っている。彼はベンチを軽く軋ませ、また俯く。
彼は泣き止んだのか、涙はぴたりと止まって、涙により濡れた白い肌は乾いていた。
「……寒。」
彼が、小さな声を漏らした。
たった一言言った彼は、大きな身体をちぢこませて右腕を左手で擦っている。
6月になりいくら雨が降って、むしむししていても、こんな大雨に撃たれたら寒いに決まってる。
私は小刻みに震える彼の隣に、腰を下ろした。
まだ彼は私に心を開いてくれなくて、横にずれ隣に座った私から少しだけ離れた。
その彼の何気無い行動に、一瞬だけチクリと胸が痛む。絶対にこんな事、彼に知られたくないけれど。
「家まで、送ってこうか?」
「……お前は?」
「え、私……? なんで私まで。」
「お前も寒そう。」
「さ、寒くないよ。全然寒くない!」
「良いから。取り敢えず、うち寄ってけば。」
目は合わせてくれなかったけれど、確かに優しさを感じた。
彼の家に行ける事をきっかけに、あの涙の理由や人を恐れている理由を、聞き出そう。
でも、彼が口を開くまで私は、余計な事を口にしない方が良いだろう。——そう、大雨に誓った。
彼は私から傘を奪い取る。
それから立ち上がると、私の腕を掴み自分の方へと引き寄せた。
「うわ、」と小さな声を上げた私を他所に、彼は私に傘を翳して歩き出した。
初めて、こんなに近付いた距離。
心臓の音。吸って吐き出した息。足音。独り言とか。
「全部、聞こえちゃうじゃん……?」
でも、貴方になら。
- Re: 君ヲ愛スル。 ( No.11 )
- 日時: 2015/09/21 09:35
- 名前: 氷優。 ◆oR8MhqCGDo (ID: UIcegVGm)
【参照100突破記念】
皆様のお陰で「君ヲ愛スル」、参照100突破しました!
あまり更新が出来ていなくて申し訳ないですが、読んで頂けて嬉しい限りです。
これからも「君ヲ愛スル」を読んで頂ければ、作者幸いでございます(´`*)
さてさて。
次の目標は200突破です……!
長い道のりになるとは思いますが、ゆっくり更新&200突破を目指して行こうと思います。
これからも、宜しくお願いします*
>> 参照100突破/2015.09.21
- Re: 君ヲ愛スル。 ( No.12 )
- 日時: 2015/09/22 15:54
- 名前: 氷優。 ◆oR8MhqCGDo (ID: HyYTG4xk)
【第1章 彼と大雨。】
私は彼の家が何処にあるのか、分からなかったから。
彼の足が進む方へと自分の足も進ませて、自分より15センチ以上は高い彼の後を追った。
でも彼には分かりにくいけど優しさがあって、私が濡れないようにと私の方ばかりに傘を翳してくれていた。
ちらり、と横顔を見上げてみる。
先程濡れたせいで、彼の髪から落ちる水滴が彼の頬を滴り落ちる。
その濡れた髪と、肌と、ほんの少しだけ透けたカッターシャツが、彼の色っぽさを掻き立てた。
知らず知らずの内に、私の鼓動は速まっていくばかりである。こんなに艶っぽく、見た事のないような蒼柳 夏目が、隣にいるから。
「……もっと此方寄らないと、濡れるけど?」
「え、ああ……ありがとう、ね。」
「……別に。」
素っ気なく、素っ気なくだけど。
私の事を気遣ってくれているのは、痛い程伝わってくる。
その度に私の胸はきゅうって締め付けられて、彼という湖に呑み込まれてしまいそうだった。
暫くすると、私の指に冷たいものが触れた。
ぴくりとして手の方を見てみれば、彼の人差し指が私の人差し指を絡めていて。
彼なりの不器用な、〝手、繋ごう〟という言葉(メッセージ)なのだと、気付かされた。
だから私は、黙ったまま、彼を見上げないまま、彼の驚く程に冷たい手を、包み込むようにして握ってみた。
「……冷た、」
ぼそりと呟いた言葉は、彼にはきっと聞こえていない。
- Re: 君ヲ愛スル。 ( No.13 )
- 日時: 2015/09/22 20:03
- 名前: 氷優。 ◆oR8MhqCGDo (ID: HyYTG4xk)
【第2章 彼と冷えた手。】
数分後、漸くとある一軒家へと辿り着いた。
屋根も壁も真っ黒。この家は、彼の印象とぴったりだなあなんて、ふと思ったりする。
彼の驚く程に冷えた手を軽く握り締めたまま、私は家の前で立ち止まっていた。なんだかさっきのやり取りから、彼の家に上がり込む自信がなかった。
さっきの彼は、まるで〝俺の領域に踏み込んでくるな〟とでも言っているようで。
誰とも関わろうとしないよう、分厚く固く高い壁に囲まれているようだったんだ。それなのに。
いきなり彼の家に飄々と上がり込むなんて、大した度胸がなきゃ出来ないと思う。私の場合は。
「……? 何してんの?」
「いや、上がり込んで良いのかと思いまして。」
「別に良いよ。良いから連れてきたんじゃん。」
早く来いよ、とでも急かすかのように、私の手を引っ張ってくる。
私はふぅ、と小さく溜め息を漏らした後、大人しく彼に着いて行く事にした。
相変わらず冷たいこの手は、先程よりも冷たさを増している。
見上げてみる横顔は飄々としているのに、手だけに緊張が走っているみたいだった。
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