コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- Run Away-だれをどこまで信じるか-
- 日時: 2015/10/11 08:01
- 名前: かざも (ID: uWXzIoXb)
はじまりは突然に、けれど平凡に。
事態は、知らぬ間に深刻化していくだけ・・・・・・。
染まっていったら、消えていくだけ———
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- Re: Run Away-だれをどこまで信じるか- ( No.1 )
- 日時: 2015/10/11 08:00
- 名前: かざも (ID: uWXzIoXb)
成人式を終えたあと、いわゆる一回目の同窓会が開かれた。
社会人になった旧友たちとの再会を待ち望んでいた楠木洸也は、めいっぱい楽しんでやろうと勢い込んでいた。
しかし、さぁ乾杯だ!と言う前に洸也の姿は会場から消えていた。
辺りがだいぶ暗くなり、会場の中は各々で楽しんでいる。
「ねえ、楠木君は?」
高校時代の同級生で、今は大学に通っている広野皐月が幹事の星野に尋ねた。
「あー、おばあさんの危篤で急きょ帰ったんだ」
「え!?危篤!?・・・大変ね」
「あいつにとっては祝いの日だっていうのにな」
「じゃあ私、あとで個人的に会いに行くわ」
「やめとけよ。お前が行ったところで場違いだぞ。それに個人的に会いに行くなんて告白でもするのかよ」
「どうしてすぐその方面に行くのよ。私、楠木君と話したいだけだもの。久しぶりの再会なのよ」
星野は「わかったわかった」と言いながら、ケータイの画面を見る。
「お前、楠木のアカウント持ってる?LINEの」
「ないわ。楠木君、グループに入ってくれないから追加できないの」
「それなら今からお前のに送るから、それでアイツに連絡しな」
「ありがとう星野。さすが幹事ね。いい情報網だわ」
「情報網だからって、今後一切おれを利用するなよ?」
「了解なり」
敬礼し、軽い足取りで女子グループのほうへ戻っていく皐月。
星野は彼女の後ろ姿を見ながら、何気なくお猪口に入った日本酒をグビッと飲み干す。
体の中は一気に熱くなり、まだ舌先がその味に慣れていないことを感じる。
酒って不味いな、などと小さな声でつぶやいていると、遠くのほうから「星野ーぅ」と陽気な声が聞こえた。
皐月たちの女子グループが呼びかけてきたようだ。
皐月がじっとこっちを見ている。いたずらっぽい笑みを浮かべて。
その瞬間、星野はケータイを握りしめた。
(・・・なに簡単に連絡先なんて教えてんだよ俺は)
皐月の笑顔を見ただけで、さきほどの親切心など一気になくなった。
「ちょっと幹事〜、ノリ悪いよ!聞こえてんの?さっきから呼んでるんですけどーっ!」
女子グループの中にいる化粧の厚い女子がケラケラ笑いながら言う。
内心、「こんなやつ同級生にいたか?」と思いながら、「うっせーぞ」とあしらった。
「ていうか、俺の事呼んだ?」
「だから呼んでるって言ったじゃん。ねえねえ、幹事なんだからちょっと盛り上げてよ!乾杯してからみんな個人で固まってるでしょ?」
名前も忘れた女子共にそう言われ、星野が周りを見渡した。
たしかに4、5人ぐらいで散らばって思い出話や近況報告などをしている。
別にこれはこれでいいと思うんだけどな〜〜。それに自分たちだって個人で固まってるだろう。ついでに最初に個人で固まりだしたの君らだろう。
しかし自分は幹事だ。どういう成り行きでこの役目を担うことになったかは忘れてしまったがこの同窓会が終わるまではしっかり役目を果たさねばならない。
星野がお猪口を持ってゆっくり右手を上げる。
まだ誰も気づかない。
「ちゅーーーーーもーーーーく」
その一斉で、会場中の視線が一方向に向いた。表情はさまざまである。
すべての視線が合わさったところで、星野は勢いよく立ち上がる。
「いまから幹事であるわたくし星野修平が……ずっと片思いしている相手に告白したいと思いまっす!!!」
その一言が、会場の中をあの頃の子供じみた雰囲気に染める。
調子にのって「誰だよー!」「早く言えよー!」と煽りだす男性群。
女子たちも「えーだれだれ!?」と、知っている限りの俺の恋愛遍歴から探り出そうとしている。
星野は、皐月たちの女子グループに視線を向けた。
他の面々と同様にキャーキャー騒ぐ女子たち。もちろんその中には皐月もいた。
星野は皐月を、ただ一点とらえてニヤリと笑った。
「・・・っ!?」
その表情を見た皐月が、なにかを感じ取ったようで瞳を大きく開く。
———見てろよ皐月。すぐに全員の視線がお前に向くようにしてやる。
星野が大きく息を吸う。
「俺は—————————」
思い出深い高校時代—————。その日の同窓会は長く続く——。
- Re: Run Away ( No.2 )
- 日時: 2015/10/10 10:48
- 名前: かざも (ID: uWXzIoXb)
彼が私たちの元から姿を消した。
晴れ渡る空の下、新品の靴を履いてなんだかとても身軽な気持ちで歩いていた。
1年半過ごしていたアパートを離れて、姉の元で過ごすようになった私に、彼女は今年トレンドのスニーカーを買ってくれた。
履き心地がよく、宣伝のCMで言われていたように厚底部分の低反発がかなり負担を軽減してくれる。
これならどこまででも歩いていけそうだ。
のんきにそんなことを考えていると、いつの間にか最寄りの駅についた。
ここから大学付近の駅まで6区間ある。所要時間は約18分。
前住んでいた場所よりも好都合な条件だった。これが姉の家に移り住むきっかけの一つの理由だ。
ホームに並ぶ学生の列。この界隈は、大学が建ち並んでいるのでこの辺に住む年齢層はきわめて若い。
私が並んだ場所はほぼ最後のほうで、私の後ろに並ぶ学生は1,2人ほどしかいなかった。
どうしたってこの時間帯はまず座席には座れない。
私はポケットからスマートフォンを取り出して、イヤホンを差し込む。
耳にかけたそれから流れ出すのは、最近はまっている海外のマイナーなバンドグループの曲だ。
なかなか楽曲に恵まれず売れ行きのよろしくない彼らが切羽詰まって作詞作曲した5枚目のシングル曲。
出だしのイントロは雑然としていてそこにパイプの転がるような音が聞こえる。
ようやくしてボーカルの声が聞こえてきたと思うと、すぐさま激しいドラムの音に耳をやられる。
思わず音量を下げる。
激しいロック。今回の彼らのシングルはヘビメタルがメインのようだ。イントロの嵐の前の静けさが嘘のように抗争のメロディが鳴り響く。
ホームの前に流れ込んできた電車はこの曲を聴いている私からするとあまりにも静かな光景だった。
ぞくぞくと乗り込んでいく学生に紛れて、私も一緒に車内へ足を踏み入れる。
背をもたれるのに丁度よさそうな場所を見つけ、車内に体を向ける形で私はそこに立った。
車内放送が流れたあと、電車がゆっくり揺れる。
なおも耳に流れる曲はとても対照的な激しさを持っていた。
ケータイの画面に目を向けた私は、この前の同窓会で最後にみんなで記念撮影をした写真を見る。
あの日は、なんだか学生の頃にタイムスリップでもしたかのような気分だった。
高校を卒業して2年半ぶりに会った同窓生たちは、20歳という節目をそれなりに楽しく迎えていた。
中には高校からずっと交際を続けている男女もおり、結婚するのかとからかい気味に聞いていた同級生にまんざらでもない表情をしていたのが凄くほほえましかった。
私たち女子群はうらやましそうにその二人を見ていた気がする。そして「いいなぁ」と口を開くたびにそう言っていた。
写真を拡大させながら、端のほうから同級生たちの顔を見ていった。
正直誰だろうと思う人が2,3人はいた。私は記憶力の乏しいほうなので、その相手から話しかけられてこられたとき曖昧に笑顔を浮かべるだけで何とも申し訳ない気持ちになった。
指を動かしながら写真の中央に目がいった。
前列の真ん中に座る青年は、今回の同窓会の幹事を担ってくれた星野修平。
彼はニッと口角をあげてしっかりピースをしているが、どこか悲しそうな笑顔だった。
そして、その斜め右の後ろで同じポーズをしている私も——。
『俺は広野皐月がずっとずっと大好きでした!』
同窓会で一番の盛り上がりをみせた場面だった。
星野の視線はまっすぐに私の横の広野皐月を見ていた。
皐月はポカンと目と口を開けて星野を凝視した。明らかに戸惑っているのが丸わかりだった。
その後、皐月は小さな声で「ごめんなさい」と頭を下げた。
撃沈するかと思われた星野は、冗談っぽく「だーよーなー!!」と一人大笑いして場を和ませていた。
同窓会は沈静な空気にはならず、後半戦もまだまだ盛り上がった。
星野は幹事として、その後もずっと会を仕切って頑張ってくれた。
(星野、頑張ってるよ・・・大丈夫だよ)
そんなことを心の中で思いながら、星野が笑ってくれていることにとても安心していた。
けれど、最後の記念撮影のときだった。
皐月と仲のいい私は、必然と隣に並んで写るはずだった。
私がいた場所の左側に彼女は立った。
そうなると、幹事の星野が真ん中に座ることによって二人は上下で写ることになる。
そのときは、まわりが騒いでいて誰も気づいていなかったが、
皐月は後ろにいた女友達に「代わって」と小声でお願いした。
前列で同級生たちとしゃべっていた星野が、なぜだか肩をピクリと動かしたような気がした。
そして、皐月が後ろの子と場所を代わる瞬間を、本当に一瞬だけ後ろを向いて見てしまった。
悲しそうに、寂しそうに顔を曇らせる星野。そして声を出さず口を何度かパクパク動かした。
星野がそのとき何と言ったか、私には直感でわかった。
『ま』『じ』『か』
胸の痛む思いだった。
そんな顔を見てしまったからこそ、直後に笑顔を取り繕う彼を見ていられなかった。
おかげでこの写真にうつる私と星野は似たような笑顔を浮かべてしまった。
(皐月・・・・・・星野がいなくなったの・・・・・・あんたのせいだよ・・・)
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