コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 私の葛藤した高校生活。
- 日時: 2015/10/31 23:50
- 名前: M (ID: NOuHoaA7)
まず、私について説明しよう。高校一年生、洲川静兎。ときどき男と勘違いされることがある名前だ。まだ入学してそんなに時期は経っていないが、クラスでは孤立気味である。理由は簡単、喋るのが苦手なのだ。だから、基本会話では適当に頷く程度の反応しかしない。
そんな私だが、傍から見ると孤立しているように見えないらしい。私の無口さが何故か悪い方向ではなく、良い方向に行き、意外と相談されるのだ。昼食で一人になったことはない。弁当を食べながら、相手の愚痴や相談を聞いている。周りからは話を聞いてくれるいい人に見られていると、クラスメイトが言っていた。
相談されるということで、あまり簡単に相手をあしらえることが出来ず、とりあえず真面目に話を聞く。愚痴程度ならまだ問題ないが、本格的に相談されるとなると、責任重大だ。
例えば、だ。
「ねえ、うさぎっち、聞いてよー!」
相談の常連、佐賀井岬が当然のように私の前の席に座った。無論、こいつの席ではない。
とりあえず、頷いてコーヒー牛乳を飲んでいた私。
「ほら、私の好きな人、サッカー部の甲木君っつったじゃん? 彼女持ちだったんだってー、マジショック」
ほう、この彼氏なし歴=生きた歴である私に対して恋愛の相談を持ちかけるか。初恋すらまだの私が恋愛なんて分かるわけないだろう。
しかし、相談されたからには何か言わなければならない。さて、どうしたものか。
「しかも、その彼女、同じバスケ部の先輩でさ! 私あの先輩嫌いなんだよねぇ、何であの先輩なのかなーって思うわけよ」
「あー……」
「甲木君かっこいいのになー、なんでだろう? うさぎっちどう思う?」
まず甲木って誰だよ。じゃなくて、ちゃんと答えなければ。
ストローから口を話し、思ったことを口にする。
「その甲木君ってどんな人なのか知ってるのか?」
「いやー、顔見て一目惚れ的な」
「じゃあ、性格が悪いのかもよ。その嫌な先輩を選ぶくらいなんだから、その男子も良い性格してないんだ、きっと」
「うさぎっち……」
あ、しまった。
これでは好きな人の悪口を言っているようなものだ。今回は失敗したかもしれない。
急いで弁解しようとした瞬間、机越しに佐賀井岬が抱きついてきた。
「うさぎっちもー最高! そうだよね、ちゃんと性格知らないと駄目だったよねー! 良かったー、悪い奴に告っちゃうとこだったー!」
ありがとうと何回も感謝する佐賀井岬。なんとか死守したコーヒー牛乳を再び飲みながら、窓の外を眺める。
——甲木君、良い性格だったらごめんなさい。
こんな感じで。
私の青春0%の高校生活が始まった。
Page:1
- Re: 私の葛藤した高校生活。 ( No.1 )
- 日時: 2015/11/01 10:34
- 名前: M (ID: NOuHoaA7)
今日もいい天気だ。窓の外に広がる青空を眺めながら、そんなことを思う。こんな日はのんびりとコーヒー牛乳でも飲みながら、一人でゆっくりと——
「須川さん、ちょっといいかしら?」
したいところだが、そうはいかないらしい。声の主を見上げると、そこには某企業のお孫さん、久納池美麗が腕を組んで仁王立ちしている。結構偏差値の高い進学校だからか、何気に金持ちが多いのだ、この学校。
コーヒー牛乳を飲みながら軽く頷けば、隣の席に堂々と座る久納池美麗。そこお前の席じゃないだろう。
「実は貴方に相談があるの。まずはこれを見て頂戴」
そういって見せてきたのは、弁当だった。なんとも色彩豊かでバランスの良い弁当なのだろうか。私の母が作る地味な弁当を隠したくなる。
「その……貴方は恋愛の相談もされるのよ、ね?」
こくん、そう頷けば、久納池美麗は安心したように息を吐いた。
なんだか嫌な予感がする。
「じ、実は、同じ書道部の先輩に、大会のとき、弁当を作ってあげようと思っていて……べ、別に好きだからとかじゃなくてね!」
ツンデレきたこれ。
顔を真っ赤にしながら訴えてくるが、好きだから作りたいのだろう。どうやら恋愛系らしく、思わず頭を抱えたくなった。何度も言わせてもらうが、私は恋愛経験0である。
「そそそれで! どうやって弁当を作ってあげます、と切り出すべきか、悩んでいるのよ」
言わせてくれ、知るか。
だが、相談されているのだ。このツンデレお嬢様に、何かアドバイスをせねば。
少し考えて、ようやく言葉がまとまる。さあ、須川静兎、やるぞ。
「まず、弁当を作ってあげるって言い方を変えよう。先輩には、普段から頑張ってる先輩に弁当を作りたいですって、素直な気持ちを伝えればいいんじゃないかな。久納池さん可愛いし、先輩も喜ぶと思う」
「か、かかか……わいい……っ」
更に顔を真っ赤にした久納池美麗。
べ、別に可愛くなんか……と呟きながら顔を反らす久納池美麗は、少し嬉しそうに頬を緩ませていた。
そして、小さくお礼の言葉を述べ、どこかに行ってしまった。忙しい子だなぁ、と思っていると、佐賀井岬が当然のように私の前の席に腰かける。
「久納池さんに相談されてたんだー、何の相談だったの?」
「個人情報」
「口がかたいねー、いや、ま、だから相談できるわけなんだけどさ」
コンビニで買ったであろうサンドイッチを頬張り、佐賀井岬は少し眉を吊り上げた。
「でもさ、久納池さんって金持ちだからか知らないけど、うざくね? 上から目線で偉そうだし」
気持ちは分からなくもない。だが、彼女は自分の気持ちを伝えるのが苦手なのだろう。言いたいことが上手く言えず、遠回りになってしまうのだ。
だからこそ、デレになると可愛いのだが。
「ちゃんと話してみるとただ会話が苦手なだけみたいだよ。素直になれないタイプっていうか……悪い子じゃなさそう」
「ふーん?」
納得がいかない様子の佐賀井岬だが、女子の話題の切り替えの早さを舐めてはいけない。すぐにあの人かっこいいだの、あそこは付き合ってるだの、聞いてないのに喋り出す。
——久納池さん、上手くいったかな。
その次の日、久納池美麗がまた私の前に現れた。
「貴方、料理はお得意かしら?」
「人並に」
「私に和食を教えなさい!」
え? 昨日見せてくれた弁当は? 話を聞けば、洋食は出来るのだが、和食は全く作ったことがないらしい。先輩は和食が好みらしく、なんとしてでも和食の弁当を作りたいそうな。
放課後、家庭室を借りて料理に励んだ私と久納池美麗だったが——久納池美麗が和食を作れるようになるのが、日が暮れて月が見える時刻になるまでだと、予想することは出来なかった。
- Re: 私の葛藤した高校生活。 ( No.2 )
- 日時: 2015/11/02 19:35
- 名前: M (ID: NOuHoaA7)
もう五月に入った。あと1週間程で、高校生活で最初の試験、中間テストが始まる。苦手な科目の復習をせねばならない。
昼休み中も惜しむことなく勉強に費やそう。そう思って弁当を口の中に押し込む私の前に、また相談者はやってきた。
「あ、あのぉ……一緒に弁当食べてもいいですか?」
遠慮がちな小さな声で話しかけてきたのは、まだセーターを着ている少女だった。小柄で垂れ目、いかにも気弱そうな子——って誰だっけ。
そもそもクラスにいただろうか、こんな子。記憶を辿っていると、目をうるうると今にも泣きそうな表情になっていたセーター少女。
「駄目、ですかぁ?」
「え、あ、いや、どうぞ!」
「良かったですぅ……」
失礼しますね、とセーター少女は正面の席に腰かけた。私の机の上に小さな弁当箱を広げ、今日は寒いですねと話しかけてきた。
え、今五月だよ?
「あ、そうだ、申し遅れました。私、田崎沙紀っていいます。貴方は静兎ちゃんですよね……?」
頷いた。安心したのか、また良かったと呟いて弁当を食べる田崎沙紀。こんな子クラスにいただろうか……。
「その……私、地味で、喋るの苦手で……クラスにも馴染めなくて、寂しかったんです……そしたら、いつも相談されている静兎ちゃんが目にはいって……」
いわゆる影が薄い子みたいだ。なるほど、名前も顔も知らなかったわけだ。
「どうしたら、静兎ちゃんみたいにいろんな人と喋れるようになるんですか?」
この質問は、運動神経が良い人間にどうして運動が出来るのか、と聞くようなものだ。自分にとっては当たり前のことを、どうやったら出来るのかなんて聞かれても、言葉に詰まる。
あと、私はそんなにいろんな人と喋ったつもりはない。
「それと、私まだ仲良しな子もいなくて……友達の作り方を教えて欲しいです……」
友達っていつのまにかいる、そういうものではないのだろうか。
この子は難しい相談をしてくるな……どうしたものか。あ、いや、待て。こういうときは、自分を使うんだ。
「田崎さん、今普通に私と喋っているよね。なら、他の人とも喋れる筈だよ」
「む、無理です……静兎ちゃんみたいに、みんな優しいわけじゃないんですからぁ」
「そうかな……じゃあ、私と仲良くしようよ、ね?」
「っ……!」
正直面倒臭いと思ったのは秘密だ。
田崎沙紀は感激からなのか、体を震わせている。そして、
「はい! 私のことは沙紀と呼んで下さいね!」
相談者と友達になりました。
- Re: 私の葛藤した高校生活。 ( No.3 )
- 日時: 2015/11/02 20:09
- 名前: M (ID: NOuHoaA7)
私には特別仲の良い友達などはいない。それは生まれたときから今まで、全く変わることのない事実である。別に、人嫌いとかではない。ただ、欲しいとは思わないのだ。人の温もりも、感情も、言葉も何も欲しくはない。
だからだろうか。ただ相談に乗るだけの現状が、どうにも心地よいのだ。
そして、後悔してしまったのが今である。
「私、ここで友達と買い食いするのが夢だったんですよー」
「へえ……」
つまらない夢だ。そんなことは口に出せず、黙々とアイスにかじりつく。甘ったるいバニラが口全体に広がり、まるで今の現状を表すようで、少し心地が悪い味だ。
放課後、帰ろうとした私を引き留めたのは、田崎沙紀だった。暑そうなセーターを物ともせず、私に買い物の誘いを投げ掛けたのだ。特に断る理由もない為、とりあえず承諾の意を示すと、途端腕を引っ張られて今に至る。
お気に入りのアイス屋らしく、私にこれがオススメだだの、これは酸っぱいだの教えてくれたが、結局私は無難なバニラに決めた。
そんな私に「やっぱり最初はバニラですか!」と言ったところから、これからもここに連れて行かれるのだと推測する。頭が痛い。
「静兎ちゃんは好きな物とかあります? この辺のショッピングは熟知しているので、お目当ての場所に連れていきますよぉ」
「好きな物……」
あまりオシャレにはこだわらないから、衣服やアクセサリー系はなし。雑貨にも興味はない。ゲームは嫌いではないが、すきでもないのでこれもなし。
こういうとき、人はすぐに自分の好きな物を思い浮かべられるものなのだろうか。悩みに悩み抜いた私は、唯一好きだと胸を張れるものを思い浮かべた。
「本、とか」
「なるほど、書店ですね! それなら良い場所を知っていますので、行きましょう!」
また、私の腕を引いて走り出す田崎沙紀。今日は何時に帰れるのだろうか……。
田崎沙紀が案内したのは、大通りから外れた小さな書店だった。古本屋、という程古いわけでもないが、少なくとも新しくはない。昔からある書店だということだけは確かだ。
青色の塗装に、看板には『たけんや』の文字。ガラス戸を押せば、私の知らない空間が広がった。まるで本のためにあるような場所だ。カーテンで日は遮られ、本が焼けることはない。また、驚くのは本の量だ。小さな書店に溢れんばかりの本が並んでいる。
田崎沙紀はカウンターの奥に歩き、おじさーんと声をかける。すると、目付きの悪い、獣のような中年男性が出てきた。
「んだ、またあんたか嬢ちゃん。まだ『おとめめ』の新刊は入ってないぞ」
「違いますよー、新しいお客さんですっ」
あ? と低い声を出し、私を睨んできた中年男性。もしかしたら、睨んでいるつもりはなく、ただ目付きが悪いだけかもしれない。
「何買いにきたんだ?」
「あ……その、何か面白そうな本を……」
私の返答に、ふんと鼻をならし、またカウンターの奥へと去っていった中年男性。なんなんだと思っていたら、田崎沙紀が声をかけてきた。
「おじさんはいつもあんな感じで無愛想ですけど、嫌ってる訳じゃないんですよ」
その直後、戻ってきた中年男性。その手には一冊の本が抱えられていた。
「これでも読みな」
押し付けるように手渡された本。『暑くて青い春』というタイトルだった。代金はいらねえ、そういってまたカウンターの奥に消えてしまった。
やりましたね! と笑う田崎沙紀。私は反応に困り、軽く本の中身を確かめる。面白そうな話だ。
にしてもあの中年男性。もっと愛想がよくてもいいものを。自分のことを棚にあげ、密かにそう思うに私であった。
- Re: 私の葛藤した高校生活。 ( No.4 )
- 日時: 2015/11/03 17:55
- 名前: M (ID: NOuHoaA7)
『たけんや』から出ると、またまた田崎沙紀は私の腕を掴み、どこかへと進む。もう空は赤く燃え上がっており、帰宅する学生やサラリーマン達とすれ違うことが多くなった。
「あと! もう一つ静兎ちゃんに見せたいところがあるんです!」
「あ、いや、今日はもう、」
「すぐそこですから! ほら、行きますよ!」
田崎沙紀は自信満々にそう言って、取り合ってはくれなかった。身勝手な、とは思いつつも、結局ついていく私がいる。
案内された場所は、驚くべきところだった。ゲームセンターだ。ぽかんと、口を開けたまま直立している私をまた引っ張り、色あせた空間に連れて行かれた。——プリクラだ。
「あ、の、沙紀ちゃん?」
「もう、沙紀でいいですよぉ! それより今日は私のおごりですから、早く撮りましょう!」
有無を言わせない様子で硬貨を投入する田崎沙紀。慣れた手つきで操作をし、「目は盛りますかねぇ」などと呟いている。目を盛るってどういうことだ。
操作が終わったのか、狭い撮影場所に入ってきて私の腕と自分の腕を組み始めた。ぎょっとして逃げようとしたが、非力そうな見た目から察することが出来ない力で引っ張られる。
「ほら、撮りますよ! カメラを見てくださいっ!」
「え、カメラ?」
「目の前にあるこれですって、残り5秒! ピースです!」
「え、え?」
反射的に人差し指と中指を立てて構えてしまった。それと同時に、カシャッとシャッターを切る音が響いた。
『落書きスタート!』
謎の音声と共にタッチペンを動かす田崎沙紀。何故か五枚も写真を撮られたと思ったら、落書きまですることになった。私はタッチペンを握ったままどうすることも出来ず、そして何も言えず、画面に思いをぶつけることにした。
そんな私の隣では、スタンプの猫耳で遊ぶ田崎沙紀がいる。「犬耳と猫耳、どっち派ですか!?」どっちも嫌だ。最終的に猫耳にされた私が画面の向こうで無表情のまま睨んでいる。写真写りが悪いようだ。
それにしても最近のプリクラは凄い。髪や目の色を変えられたり、怖い程目を大きくさせたりしている。目を盛るとはこのことだったのか。次第に時間が好き、落書きタイムも終了した。
隣でわくわくとしながらプリクラが出るのを待っている田崎沙紀は、出てきたプリクラを取り出した瞬間、あ、と間抜けな声を出す。
「ば、馬鹿ってなんですかー!?」
「お前のことだ、馬鹿」
思わず馬鹿と言ってしまった私。プリクラの落書きで、田崎沙紀に矢印を引っ張って「馬鹿」の文字を書いたのだ。それ以外特に落書きがされていないプリクラは、田崎沙紀が落書きしたものに比べてかなり地味である。
「静兎ちゃん酷いですぅ! 馬鹿、馬鹿って! しかも全然落書きしてませんし!」
「あ、こういうの苦手で」
「苦手な人は馬鹿なんて書きませんよもぉ!」
口では文句を言ってくるが、表情は嬉しそうだった。しまいには、クスクスと笑い始めた。
「でも、良かったです」
「え、何が?」
「静兎ちゃん、やっと反応してくれました。今日、ずっと適当っていうか、つまらなそうだったので、心配だったんです、怒ってるのかなーって」
間違いではない。
「でも、やっとちゃんと返事をしてくれて嬉しいです。ほら、学校のときの静兎ちゃん、人に壁をつくってる感じがして……仲良くなれないのかなぁって思いましたけど、勘違いでしたね!」
いわれて気づいた。そういえば、私は自分から人に話しかけようと思ったことはない。こうやって放課後遊んだのも、今日が初めてだ。
「静兎ちゃん、これからもよろしくですよぉ!」
「あ、うん」
「なんか冷たいですね……」
あ、プリクラ切ってきますね、と去っていった田崎沙紀。
今まで友達のいなかった私にはよく分からないが……この今まであり得なかった現状が、どうにも心地よい。
しばらくして戻ってきた田崎沙紀は、切り分けたプリクラの片方を寄越した。よく笑っている田崎沙紀と、無表情の私。だが、どこか楽しそうにも見える。
「……沙紀ちゃ」
「沙紀、ですよぉ!」
ね、と笑う沙紀に、私も思わず笑みを零した。
「沙紀、ありがとう」
こんな日常も、悪くはないのかもしれない。
- Re: 私の葛藤した高校生活。 ( No.5 )
- 日時: 2015/11/03 18:09
- 名前: M (ID: NOuHoaA7)
「あ、そうだ」
「どうかした?」
「ほら、見せたいところがあるっていいましたよね! ここはただ立ち寄っただけなんですよぉ」
そういえばそういっていた気がする。なんで立ち寄ったのかは聞かないでおこう。
「ここの屋上、開放されてるんです。行きますよぉ!」
「はいはい」
階段を駆け上り、ついたのは屋上。誰もいないせいか、妙に静かな空間だった。沙紀は屋上の柵まで走り、遠くを指差す。
「ここからの眺めは最高なんですよぉ!」
大きな夕日が私達のいるもっと遠くの方で沈みかけていた。雲ひとつない空は赤く輝き、近づく夜空とグラデーションを描いている。
綺麗。そう思った。
「この辺住んでいる人でも、屋上が開放されていることは知らないんですよぉ。いい場所でしょ?」
こくんと頷く。静かで綺麗で、すごく落ち着くいい場所だ。
「ここからなら少ない人数で花火が見られますし、新年の初日の出を見られます。ゲーセンのオーナーさんが、すごくいい人で——」
沙紀が続けて何かを言っていたが、耳に入らなかった。それ程までに、景色が綺麗なのだ。
「——なんです。って静兎ちゃん、聞いてます?」
「……あ、」
「聞いてなかったんですねぇ!?」
「ごめん」
そういったら笑い出す沙紀。
「罰として、これから一緒にお弁当を食べる刑です!」
「えー、面倒」
「酷くないですか!? そういえば、プリクラに馬鹿とか書きましたよね! 静兎ちゃんって意外とS……?」
「お前も酷いな」
笑い声は風に紛れて消えていった。
Page:1
この掲示板は過去ログ化されています。