コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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臨界カルディナ%
日時: 2015/11/22 19:28
名前: 新世界の芋 (ID: rE1CEdls)

どうも新世界の芋です。
しばらくこのサイトから離れていたのですが、再び戻って来ました。
今回書く物語は、一言で言うと、ファンタジーバトル物です。
読みづらいかもしれませんが、しばらく見守っていて下さい!
スタートです!






——————第一章《新世界》



「くらいなさいっ! 《影縫五の型》!」

腰まで伸びる長い黒髪の女性が、その髪と同じくらいの長さの長剣を構え、対戦相手に向かって技を放つ。
その長剣は俗に言う刀という代物で、持ち手の女性と見合う美しさだ。
遠くからだと、その刀と女性の黒髪は色も同じで、なめらかで、同時に凄まじいオーラを放っているものだから、区別がつかないほどだ。

「———はぁあっ!」

刹那、目にも留まらぬ早さで繰り出された技は、対戦相手の体を貫いた。

「......さすが.....風祭家の...ご息女、だ......」

対戦相手の男性は、ガクリと膝を地面に付くと、ゆっくりと顔面から地面に倒れる。
しかし、その男性は刀を捨てた黒髪の女性の腕の中に沈んでいた。
倒れる寸前に、女性は気を失った男性を崩れ落ちる衝撃から守っていたのだ。
気を失っている男性の耳元に、小さく「すまなかった」と囁いた。

『うぉおおおおおおおおおおおおおっ!』

二人の攻防を見守っていた大勢の観客は、ごくりと唾を飲み込むと、割れんばかりの歓声が、ドーム型の会場に響き渡った。
観客として見守っていた俺は、姉の晴れやかな姿を両目に焼き付け、爪が食い込むまで拳を強く握りしめていた。
まだこの時の小さかった俺では、この時の姉の悲しそうな、悔しそうな表情から、その奥に潜む事件には気付くはずも無かったのだ。



——七年後——



「えー、それでは、今回の実技テストの結果を発表しまーす」

短い茶髪の髪の毛に、真っ赤なジャージ、おまけに童顔ときて、先生というには、少々生徒達にナメられているという可哀想な俺の担任は、俺に可哀想な結果を言い渡した。

「えっと、今回も最下位の、松島君は、何か先生に言いたい事はある?」

木本文音きもとあやねというこの可哀想な女性教師は、めんどくさそうに俺にそんな事をいってのける。

「実技テストの結果発表は恥ずかしいので、出来ればクラス全員の前では言わないで頂けると、とっても嬉しく思う所存であります。」
「うぇっ、なによ、そのしゃべり方..........いつもみたいに話せよ。」
「いや、こういう感じのキャラで行ったら、あの腹黒年増貧乳先生でも、この後の補修で優しくしてくれると聞いたからなんだけど...........違うの腹黒年増貧乳先生?」

ビキッ、と聞いたことのない音を鳴らした木本先生は、真っ二つにへし折れた鉄製の教壇を背に、禍々しいオーラを放っていた。
だが、そんなことよりも先生の後ろにある教壇が真っ二つにへし折れたのが、とても気になっていた。
あれ、どうやってへし折ったんだろ...........

「テメー、ホントに優しくしてほしいと思ってるのか?あん?」
「..............」
「おい、聞いてんのか?」
「..............」
「おっ、おい、どうしたんだよ大丈夫なのか......?」

さっきまでの態度とは一変して、俺の事を気にかける豹変ぶり。
悪くはない。

「先生。」
「えっ、おっ、な、なんだ?」
「あれ、どうやってへし折ったんですか? 出来ればこの後の補修は、先生のシゴキではなく、鉄製の教壇のへし折りかたについて、教わりたいんだけど。」
「..........」
「どうしたんですか?どうやって上手く教えようか考えてるんですか?いやー、嬉しいな、僕も今日で晴れて鉄製の教壇をへし折れるのかー。」


これから先の記憶は残念ながら、目覚めた俺の脳ミソには記録されていなかった。


「————うぉおおおおおおおおおおおおっ」

謎の自分の叫び声と共に俺は真っ白な部屋で覚醒した。
今の叫び声は、俺のものだが、なんであんなに叫んだのだろう。
まるで超絶怖い何かを恐れていたような..........
そこまで考えて、俺の体が震え始める。一体どうしたんだ俺は........それに俺は何で保健室で寝ていたんだ?
まるっきり分からん。どうしたものか。
とりあえず教室に戻ってみよう。何か知っている人がいるかもしれない。
そう思い立ち、仕切りの真っ白いカーテンを勢いよく開けた。

「..........」
「..........」

仕切りの向こうにいた謎の少女と、目と目がごっつんこする。
なんでだろう。なんで僕は目を逸らせないのだろう。服を一切着ていないからか?初めて女性の裸を見たからか?それとも.........

「———きゃあああああああああああ」

真っ黒な髪の毛をなびかせ、あらわになった自分の裸をベッドの毛布で目にも留まらぬ早さで隠した。
だが遅いぞ美少女よ。
もう俺は全てを目に焼き付けたのだから。文字通り全てを見てしまったのだからな。
俺は何とも言えない幸福感に身を震わせていた。
今日は何て良い日なんだろう。
誰かに殴られたみたいにとてつもなく身体中が痛いけれど、そんなのを忘れるくらい、俺はとても幸せだった。

「きゃあああああああああああ」

今日はお祝いだな。赤飯だな。記念日だな。

「きゃあああああああああああ」

誰か家に招待して、一緒に祝ってもらおうかな。
うへへ、なんか楽しくなってきたぞ。

「きゃあああああああああああ」
「って、うるさいよ!何回叫ぶんだよ!きゃあああああああああああ、は一回で良いんだよ!」

そして、真っ黒な髪の毛の美少女は、再び俺の顔を覗く。

「きゃあああああああああああ」
「えっ、今俺の顔見て叫んだの!?そんなに俺の顔輝いてた!?」

目に涙を浮かばせていたその女の子は、俺の事をキッと睨み付けた。

「あなたどこまで見たの?」
「えっ、い、いやぁー、なんのことかな。」
「ど.こ.ま.で.見.た.の.?」

雰囲気が段々と禍々しくなっていく少女を前に、俺は少しだけ怖じけずいていた。
少女は確信している。俺が彼女の全てを見たと。
まずい。
まずいぞ。
赤飯どころじゃなくなってきた。
なんとか誤魔化さないと..........

「い、いや、実は今まで眠ってて、正直寝起きだったから、あんまり覚えてないんだよね.......あはは」

苦し紛れの俺の嘘は、当然キレが悪い。

「嘘ついたって無駄よ!あなた、私の裸を見ようとして、『うぉおおおおおおおおおおおお』って雄叫びしてから、勢いよくカーテン開けたじゃない!」

なんてことだっ。
彼女の話の中から「私の裸を見ようとして」を抜かせば全て事実。
これではまるで俺が、決死の覚悟で彼女の裸を見ようとしたみたいじゃないかっ!
いや、というかなんで彼女は保健室で裸になってたんだ?
ベッドの上には、この学園の女性用の制服と、ジャージが置かれていた。
制服はびっしょびしょに濡れていて、生ゴミの様な変な臭いがしていた。
この話をして、とりあえず話題を変えよう。
正直辛い。

「と、というか、どうしたのその制服?なんか変な臭いしてるし、濡れてるし........」
「.......っ.......」

彼女は、俺がいるにも関わらず、隠していた毛布を剥がすと、俺の目の前で裸を見せつけながら、素早くジャージに着替えた。
脱いだ制服を持つと、俺の事を無視して、いそいそと早足で保健室を出ていった。
一体何が起こったのか分からない俺は、保健室を出ていく時の彼女の悲しそうな、寂しそうな顔を見て、心の中にモヤモヤしたものを抱えながら、その場を離れる事が出来ずにいた。


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Re: 臨界カルディナ% ( No.1 )
日時: 2015/11/23 22:48
名前: 新世界の芋 (ID: vnwOaJ75)

体の痛みと呼応して、俺の心がズキズキと痛み出す。
彼女を怒らせてしまったのだろうか。
彼女の裸を見たことについては、きっと彼女も俺の嘘を見破っていて、怒っているかもしれない。
というか絶対怒ってるし。
でも、確実に、絶対的に、高確率で、彼女はあの汚く汚れた制服の話をした途端に、顔から血の気が引いたよう見えた。
顔を真っ赤にして俺を問いただしていたのに、急に顔を真っ青にして。
俺はつい想像してしまう。
びしょびしょに濡れた制服を着たまま、大勢の生徒達に見られながら、一人でこの保健室まで来たのだろうか。
ここまで歩いてくる間、彼女は一体、どんな表情を浮かばせていたのだろうか。
....きっと良い表情はしていないだろう。
そこまで考えてみて、ついさっき会ったばかりの彼女を気にせずにはいられなかった。


《————コホン...えー、二年八組の松島千葉流くん。至急第三格技室まで来てください。優しい優しい木本先生が待ってますよぉー。繰り返しまぁーす.....》


学園中にアナウンスが流される。
とえも聞き覚えのある声だった。
いつもと違って、優しい声で俺を呼んでいる。
いつもは、「あん?」とか「クソ虫がっ」とか教師らしかぬことばっか言ってるあの先生が。
女性らしさを引き出して、少しではあるが、色気のある声で。
....俺...なんかしたのかな....
俺は身体中から、体温というものを失ってしまったのではないか、というくらい震えに震えていた。


《あと一分以内に来ないと、どうなるかなぁー.....マッテルワヨ....————》


俺は風のように光のように、何年かぶりに全速力で駆けていた。
体が勝手に動いていた。
本能が「急げ」と俺に訴えていた。







そこはこの学園の裏庭と呼ばれる、随一のデートスポット。
しかし、そんな幸せが蔓延するこのエリアで、あきらかに雰囲気をぶち壊す集団が一つ。
その集団の周りにいたラブラブカップル達は、何も見なかった事にしようと、距離をどんどん広げていた。

「ちょっとぉー、もしかして如月さん、ジャージに着替えたのぉー?」
「........」

気品さの欠片もない金髪の女は、後ろに仲間と思われる、柄の悪い男二人を従えて、一人の女性に詰め寄っている。
如月と呼ばれた腰まで伸びる長い黒髪の女性は、下を向いたまま、何も言わない。

「まぁー、しょうがないよねぇー、あんな汚いもの頭から被っちゃたらねぇー。臭くて周りに迷惑かかっちゃうもんねぇー。キャハハハハ」

金髪の女の気味の悪い笑い声に、続くように柄の悪い男二人も笑いだす。

「ねぇー、ちょっとぉー、シカトですかぁ?.........何か言いなさいよぉ!!」

激昂した女は、如月という女性の胸ぐらを荒々しく掴んだ。
あらわになった彼女の顔は、悔しさで顔が歪んでいた。

「........」

しかし、ここまでされても彼女は、目を合わせるどころか、何も言わない。
結果、それが相手を更に怒らせることになってしまっても。

「あんた.....生意気なのよっ!」
「......っ!...」

瞬間、金髪の女の右手は、黒髪の女性の頬を激しく叩いていた。










「.....はぁ.....はぁ...はぁ....はぁ....」

俺の目の前には「第三格技室」と書かれている扉があった。
息が整うのも待つ暇なんか無い俺は、部屋を確認してからすぐさま扉を開けた。

「おっ、良く来たなー。あと二秒でタイムアップだったんだが....命拾いしたな。」

開け放たれた扉の向こうには、ただただ広い空間の中心に、竹刀を携えた木本先生が立っていた。
ここからだと部屋が広すぎて、木本先生が小さく見える。
まぁ、元から小さいんだけど。
見た目は完璧にロリなんだけどなぁー、性格がなー。
入る肉体を間違えたんじゃないかってくらいに、残念なのだ。

「.....ひぃっ.....ふぅ....はぁ.....」

その場に、仰向けになってバタンと倒れこむ。
この学園は広すぎる....なんとかならないのか.....
一学年、約1000人。それが三学年分もある。
プラス、教師や事務の人間を合わせると、この学園は約4000人もの人間が所属している。
だからまぁ、小さくしろ。なんて無理な話なのかもしれないな。

「おいおい、こんなんでバテるなよー。これから実技補修あるんだからな?」

息を整えている俺の元まで、木本先生が歩いてきてくれた。

「.....え.....実技補修....?」

身に覚えの無い言葉に俺は戸惑いを隠せない。
実技補修という単語は、もちろん知っているのだが、なぜ俺がそれを受けねばならないのかが分からなかった。

「はぁ...?とぼけんなよ。朝言ったじゃん。」
「朝...?」

記憶を遡る。
だがしかし、俺の記憶の中には保健室で目覚めるより前の記憶が、まるで無いのだ。
さっきの黒髪の女の子との事で、すっかり忘れていたが、なぜか何も覚えていなかったのだ。

「はぁー、ったく、めんどくせーなぁ...」

ため息をつくと、木本先生は、俺の顔面目掛けて拳を向けてきた。
勢い良く繰り出された拳は、空気を切る音を鳴らしながら、俺の目の前で寸土めした。
何が起きたのか分からなかった。
早すぎて見えなかった。
でも、この俺の顔面目掛けて迫ってくる拳を、俺はつい最近見た気がする。

「———っ...」

途端に。
パズルのピースがはまったように、これをきっかけに、俺は失った記憶を取り戻していく。
実技試験の結果が言い渡され、補修が決定し、先生が鉄製の教壇を真っ二つにし、そのやり方を教わろうとしたことも。全て。
俺の頭の中にいくつかの選択肢が提示される。
謝るか?
言い訳をするか?
それとも逃げるか?
どれが一番生存確率が高いか考えていると、俺が入ってきた第三格技室のドアが勢い良く開け放たれた。
出てきたのは、一人の男子生徒。

「先生っ!大変です...!中庭で長い黒髪の女の子が、複数の生徒にリンチにあってます!!」

俺と同じく息を切らして入ってきた男子生徒は、顔を真っ青にしていた。
しかし、俺はそんなことより、この男に苛立っていた。

「.....おい、お前。」
「え?な、なに?」
「....ここに報告しに来るよりも、他にやることがあったんじゃないのか....?」
「やることって....?」

「—————てめーがここに来るまでの間に!....そのやられてる女の子の受ける傷が増えるんじゃないのか!! なんで助けないんだよ!」

「なんでって....俺には何も関係無い人だし....」

この男に一発拳を入れてやろうと思ったが、そんな暇は今無い。
俺はこの男を押し退けると、中庭へと体を向かわせていた。

「おっ、おいっ!....お前が行ってもどうしようないだろ!自分の実力ちゃんと分かってるのか!」

後ろからは木本先生が何か叫んでいたが、俺の耳には届かない。
俺はさっきの全力疾走の何倍も早く、校内を駆けていった。




Re: 臨界カルディナ% ( No.2 )
日時: 2015/11/24 22:20
名前: 新世界の芋 (ID: vnwOaJ75)






教師になって今年で五年目。
まだまだガキだ。
私だって、自分の生徒の事を信用していないわけでは無い。
でも、松島がどうこう出来る事でも無いというのは、信じる信じないというのとは関係の無いこと。
どうにかしてくれるのなら、してほしい。
私が松島の担任になったのは今年から。二年になっても、松島は一年の頃と同じく、最下位を貫いている。
筆記テストも、実技テストの低い点数を補おうとは全くせずに、やる気の無い回答ばかり。
思い返してみれば、彼の「本気」というのは、私は一度も見たことが無い気がする。
教師として、彼の「本気」を見たい。
それは、短い間だが彼を見てきたからこそ思う、私の願いだ。
(.....かましてこい....松島....!)











格技室を飛び出してから、どれくらい走ったのだろう。どれくらい時間が経ったのだろう。
さっきの男子には悪い事をした。
初対面の俺なんかに、あんな事言われて、今頃誰かに八つ当たりしていないだろうか。
.....あの子を助けたら、ちゃんと謝りに行こう。
そんな事を考えながら走っていると、目の前に華やかな光景が目に入ってきた。
葉が綺麗に切り揃えらた木々たち。
センス良く並べられた花々たち。
どこからかハートなんかが飛んできそうな雰囲気。
しかし、場違いな集団が一つあるだけで、こんなにも雰囲気が壊されるものかと、俺は少しばかり感心していた。
けれど、そんな感想は今は必要じゃない。
三人の獣のような奴等にに囲まれている一人の女の子。
その姿に俺は、つい走る足を止めてしまう。
芝生の上に横になって、お腹を押さえてうずくまる一人の女の子の表情は、苦しさと悔しさが入り交じった様な歪んだ顔をしていた。
長い真っ黒な綺麗な髪の毛は、ボサボサに荒れて、さっき着替えたばかりと思われるジャージは、見るに耐えないくらいボロボロになっていた。

「....くぁっ!.....」

男の放った足蹴は、女の子の腹部を捉え、悲痛な呻き声を上げる。
続けてもう一人の男が、同じように腹部に蹴りこむ。
すぐ側で不気味な笑みを浮かべて、その光景を見ていた金髪の女が、また同じように腹部に蹴りを入れる。

「....ぅぐっ!.....」

ここで、俺は考えてしまう。
「今」の俺が行って、あの三人に何が出来るのだろうか。
くだらない自分のプライドを捨てれば、あの子を助けられる。
そう思った瞬間、頭の中に昔の記憶が流れ込む。



『————姉ちゃんっ....!どうして....どうしてなのさ!』
『あなたも、いずれは私と同じ道を歩むと思うわ。....だから私の最後のお願い。』
『いかないでよっ!姉ちゃん!姉ちゃん....!』
『ここから......この家から.....逃げるのよ——————』



.....あの日、姉ちゃんとした最後の約束。
あの狂った場所から、姉ちゃんの約束通りに、俺は無事でなかったにしろ、逃げ出す事が出来た。
それから、色々な人の助けを借りて、ここまで来た。
あの家の奴等に見つからないように、これまで生きてきた。
でも、今「あれ」を使うと、俺の正体がバレるかもしれない......
姉ちゃんとの約束を破って、姉ちゃんと同じ道を歩んでしまうかもしれない。
でも.....
それでも......
俺は姉ちゃんに恥ずかしい姿を見せたくは無いっ.....!

「もっと喚きなさいよっ!」

金髪の女の蹴りは、女の子の顔面に向けて放たれた。
(これなら、間に合う.....)




「————『外し』————」

俺はそう唱えると、文字通り「一瞬」の間に金髪の女の元まで駆け寄り、女の足を掴んだ。

「....えっ....?」

驚くのも無理は無い。
顔面に蹴りを入れようと思ったら、自分の足が動かなくなったんだから。

「うぉおらああっ」

掴んだ足を持ち上げ、片手で振り回し、投げ飛ばす。
手加減はするが、腐っても一応この学園の生徒だ。そう簡単には死なないだろう。
建物の壁にめり込んだ金髪の女は、気を失ったように、白目を剥いていた。

『....?.....』

残りの男二人も、この一瞬の間に起きたことに頭がついていかず、ポカーンとしている。
だが俺は、理解させる時間すら与えない。
....俺の正体がバレたら最悪だからな。
しかし。

『————インサイドアーム!《弁天》』

二人の男が同時に唱える呪文。
幾何学的な文字の円が浮かび上がると、その円の中心から二本の槍が現れる。
流れるように、二人の男の手元へと運ばれる。
(.....くそっ....『外し』が甘かったか......)

「おいおい、ビックリさせんなよ....危なかったぜ。」
「もう少し反応が遅れてたらやられてたな。」

鋭利な先端がギラリと光る。
人の丈以上の長さの《弁天》と呼ばれた武器はインサイドアームと呼ばれる武器だ。
人それぞれが個別に持つ武器の名前。
己に一番合う形状、能力がそのまま反映されている。いわば、自分だけの武器。
しかし、あの《弁天》という槍状の武器は、未だに「自分専用の武器」を持っていない物に与えられる、つなぎの武器。
自分専用の武器をこの学園を卒業するまでに取得するのが、この学園のある意味であるからして、あの二人の男は、まだまだ未熟だ、ということの現れだ。
でも、そんな未熟な者に、俺の『外し』についてこられたのは、きっと俺が久しぶりにこの技を使ったからだろう。
だが、二度も同じ間違いを俺はしない。

「いくぞ!ぶっ殺してやる!」
「覚悟しろ!」

何の作戦も無しに突進してくる二人の男。
俺は一回深いため息をつくと、呪文を再び唱えた。



『————インサイドアーム《影代》......』


見慣れた幾何学的な文字の円が浮かび上がり、そこから『俺専用の武器』が出現する。
人の腕の長さと同じほどの、二対の短剣。
俺が生まれた時から、体に叩き込んできた二刀流の技—————
ブランクなんか関係無しに、俺の体が覚えている.....!

「くらえっ!《影縫八の型——虚庵残》!」

俺の『外し』と掛け合わされることで、最大の威力を発揮する技。
俺の中に流れるこの汚い「血」が俺に力をくれた。
......ごめんな、姉ちゃん......

「はあああああああっ!」

片方の剣が一人の男の腹を捉え、もう片方の剣がもう一人の男の顔面を捉える。
しかし、この男共は、自分の身に何が起こったのかすら分からないだろう。
目覚めた時の驚く顔が楽しみだ。
一瞬の刹那の刻、男二人は、無惨にも地に倒れ伏した。
地面に突き刺さった《弁天》は、男共の意識が無くなると同時に、砂のように消え去った。






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