コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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巫山戯た学び舎
日時: 2016/05/15 18:10
名前: 河童 (ID: DxRBq1FF)

 初めましての方ははじめまして。そうでない方はこんにちは。河童です。

 コメディ・ライトでは初めて書かせていただきます。稚拙な文ですが、どうかよろしくお願いします。
 荒らしと誹謗中傷はお止めください。



目次

第一話「一人ぼっちの幸せもの」  >>01-

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Re: 巫山戯た学び舎 ( No.1 )
日時: 2016/07/09 19:10
名前: 河童 (ID: DxRBq1FF)

第一話 「一人ぼっちの幸せもの」 その1

 4月7日、月曜日。午前7時35分。公立渦杜(うずもり)中学校。その校門に僕こと、音桐宗谷——オトギリソウヤは居た。
 今日は入学式。花の中学校生活の始まりである。友達がいる奴は。僕? 僕は——いない。いや、まあ、超完璧に0人というわけではない。2,3人はいた。しかし悲しいことに全員家が遠く、別の中学校……公立柿根超(かきねごえ)中学校に行ってしまった。
 くっ! こういうことなら人見知りなんてせずに小学生生活をエンジョイしていればよかった!
 と、後悔するのも後の祭り。この中学校に来ることは決まっていたけれど、友人がいなさすぎて、自分が転校した気分になる。転校しようかなあ。
 無理だと思っていてもこんなことを考えてしまう。……駄目だ駄目だ、友達がいないってことはこれから作れるってことだよ。うん、ポジティブに考えていこう!
 と、クラス分けの表を見ていると、

「ねえ、貴方が宗谷くん、だよね?」
「え」

 え、である。女子の声。女子の声だ。はて、僕のことを『宗谷くん』なんて親しげに呼ぶような友達、しかも女子はいたっけ。いや、いない。僕は小学校六年間クラスの隅でそっと佇んでいたはずだ。時々困った人に手を貸していたけれど、そんな人との関わりはそれっきりこっきりだった、と思う。

「ねえ、宗谷くんだよね! いやー、よかったよかった! 貴方じゃなかったらどうしようって思ってたんだよ! やっぱり貴方って目立つね。ちょっと後ろの方でもわかったもん。ね、私とどろきって言うの! これからよろしくね!」
「……確かに俺は、宗谷です、けど」

 自分の名前を言う前に自己紹介をされてしまった……。振り返ってみると、2つ結の前髪ぱっつん、見るからに真面目そうな顔立ちの少女がそこに居た。
 ちなみに僕の一人称が俺だったのは気にしないで欲しい。カッコつけたいんだよ。皆俺って言ってるじゃん。だから僕っていうの恥ずかしいんだよ。
 話を戻させてもらう。この子はとどろきちゃん——いや、とどろきさんというらしい。凄い名前だ。とどろきて。いやとどろきて。親のネーミングセンスはどうなっているのか。
 見た目と名前のギャップが凄いぞ。

「俺になんか用ですか?」
「ああ、んっとねえ」

 とどろきさんは手を顎にかける。そしてこちらに顔を向ける。

「私と友だちになろう」
「…………」

 ちょっと待て。いやちょっと待て。この子は一体何を言っている? 友だちになろう? 聞き間違いではなく? その言葉を言われていい者はなんかこう、見た目からコミュニケーション能力が溢れているような人では無いのか?
 僕の初の女友達が……こんなに呆気無く?

「ちょっと、聞いてるー? 友だちになろうよー。おーい」
「人違いじゃ、ないすか」
「ううん。違うよ。私が友達になりたいのは、君」

 なんだか少し告白されたみたいでドキドキする。いやいやいやいや、ただの友達になろうという誘いなんだ。そこにやましさなんて欠片もない!
 でも、少しは期待させてもらってもいいだろ、うん。

「いいんですか、俺で」
「うん。友達ってなっていいとか悪いとかじゃ無いでしょ? なりたいからなるんだよ!」
「でも、何で?」

 疑問。こんな見た目から真面目が溢れる彼女が、なぜ見た目から根暗溢れる僕なんかに。僕ごときに。もしかして、新手のいじめか? 一旦こんな可愛い子に声をかけさせておいて、『あんたなんて、友だちがいる意味無いのよ!』みたいな。……こっわ。中学生活怖い。
 そんないじめに傷つくくらいなら……。

「さよならっ!」
「ちょっと!? なんで逃げるのっ!」

 逃げる。脱兎のごとく。意外と僕、足速いな。ダダダダという効果音が後ろから聞こえてくるくらい。
 ……後ろ?
 まさか——チラリと後ろを見ると。後ろからダダダダ、と先ほどの真面目少女が追いかけてきていた。足、早っ! 真面目少女だと思ったら文学少女なのか? 実は体育会系なのか。なんて思ってる場合じゃない! 捕まる! 捕まってクラスの真ん中に放り込まれる! そんなのは、嫌だ。
 僕は本気の本気で走った。入学式初日から。きっと校則にも『廊下は走らない』とあるだろうが、走った。
 どれくらい走ったかというと、走れメロスの最後らへんくらいのスピード。
 僕にはセリヌンティウスのような友達は居ないのだが。セリヌンティウスも大変だっただろうな、3日も磔にされて。あれってただの巻き添えだろう。主人公はセリヌンティウスだろ。
 さっきそんなこと思ってる場合じゃないと思ったばかりなのに関係ないことを考えている僕は、意外と間抜けなのかもしれない。
 いや、間抜けだ。だって——。
 自分の教室を、見るのを忘れていたのだから。

Re: 巫山戯た学び舎 ( No.2 )
日時: 2016/07/09 19:12
名前: 河童 ◆PZGoP0V9Oo (ID: DxRBq1FF)

第一話「一人ぼっちの幸せもの」 その2

で。結局学校の外だけでなく中まで走り回った僕がどうなったのかというと。

「なんで逃げたの?」
「いじめられるかと思って」
「ええ……。そんなこと思われてたんだ、ちょっとショック」
「ごめんなさい」

 捕まった。この人足の速さが化け物級。しかも、『こんなの誰だってできるよ、』だそうだ。できてたまるか。世界人類誰でもその速さで走ったら地球がぶっ壊れるわ。多分衝撃波とか出てたもん、アレ。
 今は教室に連行されている最中だ。歩いて。連行ということで手を繋がれている。やばい、勘違いしそうだ。めっちゃ柔らかいよォ!
 ちなみにクラスは1年3組で、半本さんも同じだったらしい。運命かな?いやいや。
 教室に着き、ガラガラと音を立てて教室の戸が開けられる。おはようございます、と半本さんが挨拶をすると、2,3人ほどが返事を返す。
 クラスには10人ほどの生徒が居た。あの脱走劇がなければもう少し少なかったかな。なんて思っていたら、数人の女子がこちらを見てヒソヒソと話をしている。気になるので聞き耳を立てる。僕の耳は良いほうなのだ。

——あの人達、手、繋いでない?

 聞かなきゃ良かった! しかも半本さんの友達らしき女子も僕の手を取る人に話しかける。内容は言わずもがな。

「ああ、宗谷くんが廊下を走ってたから、捕まえてきてたの。私もちょっと廊下走っちゃたけどね」
「へー。とどろきちゃん真面目だね。私だったら捕まえれないよー」

 合っているけども……。その事実は合っているけども、少し事実がねじ曲がってないから? まあ、走ったのは認める。私もちょっと走っちゃったんだよねー、じゃない。ちょっとじゃない。あれはマッハだ。

「席順とかってどうするの?」
「わかんない。てきとーに座ってる」
「随分大雑把な先生だね……」

 席順はテキトーらしい。友達さんとの会話が盛り上がっているタイミングで繋いでいた手を離す。できるだけさりげなく。
 席を自由に決めれるなら、と黒板から一番離れている、ドア近くの最後列に着席。我ながら素晴らしいさりげなさ。

「後ろに座るって、なんからしいね」

 おい。さっきまで君は友達と会話していたはずでは?

「二回も逃げられるなんて思われなかったよ。さっきのはあの子との会話中に逃げられちゃうし」

 気づかれていた。どこが『我ながら素晴らしいさりげなさ』だ。
 そしてさりげなく半本さんは僕の隣の席に座り、背負ってきた学校指定のリュックサックを降ろす。カチャリ、と鞄の金具を外す音が聞こえる。そういえば僕もリュックを降ろしていなかったな。机の上にリュックを降ろす。
 今日は入学式のため筆箱だけ机の中に入れ、個人ロッカーに鞄を置きに行こうとすると、半本さんが話しかけてきた。

「まあでも私らしいかな、それは」
「え?」

 私らしい、とは。話が見えない、と思考していると、ああ、そんな難しい顔しなくていいんだよと言われた。難しい顔をしている自覚なんて無いけれど。

「不幸自慢ってわけじゃないけど、私、やることなすことが基本的に悪い方向へ運びがちなんだよねー」

 鞄の金具を今度はかけながら。にへら、と気の抜けた笑いで軽く言う。え、え、え。話がいきなり過ぎるだろ、さっきから。
 初対面でしていい話ではない。運びがちなんだよねー。って、軽すぎる。普通そういうのって、もうちょっと仲良くなってから、『私、実は——』みたいな感じで切り出すような事柄なのでは。

「そういえば、宗谷くん、制服似合ってるねー」
「え、あれであの話題おしまいなの?」

 制服が似合ってるって言われた! 嬉しい! 超嬉しい、けれども。
 しかし問題はそういうところではないのだ。先ほどの不幸の話は『そういえば』で片付ける話じゃないだろう。重い話を先に話そうと頑張った結果なのか、と思いちらりと半本さんの顔を見る。微笑み返される。違う、そうじゃない。そうじゃないんだ。僕が欲しかった反応はそういう学園のアイドル的反応じゃない。可愛かったけれど。
 
「あの話題って?」
「悪い方向に運びがち、のくだりですよ」
「敬語はやめてよー、同い年でしょ?」

 だから、そういう話じゃない。これが所謂天然か? そういえば所謂、という漢字を『しょせん』だという読みだと思っていたこともあったなー。これで『いわゆる』なんて読まないだろ、ふつー。

「じゃあ説明するね。えーっと、昔からなんかやるとダメな方向へ一直線! みたいな」
「話の内容の詳しさが変わってない!」

 むしろさっきよりわかりづらい。説明する気あるのかよ。
 ……まあ、話したくないという解釈をしておこう。それ以外はこの子が天然だという結末に着地してしまう。流石に初対面の子にそんな印象を持っては駄目、だよな?

「あ、詳しく話してって意味か。例えば——。あ、時間だよ! そろそろ先生が来ちゃうよ」
「え、あ、本当だ」

 時計を確認すると、もう八時近い。先程よりも随分騒がしいと思ったら10人ほどだった生徒が全員来ている——否、1つ空いている席があった。イスが余ったのか?

「ほら、可及的速やかに鞄をしまわないと!」
「可及的速やかにって……」

 頭がいいのか悪いのかわからない話し方だな。
 それはともかくロッカーに今まで背中を預けていたそれを入れる。鞄を『背中を預けるもの』と言うと凄く格好いい。どうでもいいことだが。
 しまい終えて、さあ席につくぞ、という所で、空席の持ち主——に、なるであろう生徒が現れた。
 黒髪を肩につかないぎりぎりくらいで切っていて、前髪を白いピンで止めた、まあそれ以外に言い様がないような、そこそこ普通の少女だった。あとは少しツリ目気味だということくらいか?
 言ってしまえばその辺にいそうな子で、少なくとも遅刻はしなそうな印象を持つ。人は見かけによらないと言うしな。きっとそういう子なんだろと思いながら見ていると、空いた1席に座り、リュックサックを降ろし、金具を開ける。しかし、女子にしては珍しく、だれとも話さない。いや、女子でも話さない子はいるけども、この子はぽつんと、孤立というか孤独というか。そんな風に見える。どことなく周りから距離をおいている——いや、距離を置かれている。
 ふむ。僕と一緒の匂いがする! 具体的にはぼっち感が溢れてる! きっとあの子は僕と同族だな、なんて思いながらぼんやりしていると、名前も知らないあの子がロッカーに鞄を入れ終え、席につく。それを見計らったかのようにチャイムが鳴り、騒々しい教室が、水を打ったようにしんとなった。

Re: 巫山戯た学び舎 ( No.3 )
日時: 2016/07/09 19:13
名前: 河童 ◆PZGoP0V9Oo (ID: DxRBq1FF)

第一話「一人ぼっちの幸せもの」 その3

『話したくない』と『話されない』が違うように、『距離を置く』と『距離を置かれる』は違う。
 距離を置く、は自分から離れていく。距離を置かれる、は相手から離れられる。自分がS極なら相手はN極だ。自分は友達になりたいのに、ひらひひらりと躱されて。1人に躱されるとそこから連鎖していく。「あの人が貴方を嫌いと言ったから」「わたしの好きな人が貴方を嫌いだから」なんて言って、他人に理由を擦り付けて、誰かを嫌いになる自分を正当化して。人を嫌うことは悪いことではないのに。それを悪いと思って理由を作って取り繕う事のほうがよっぽど悪いことだというのに。

 なんて。そんなことを思いながら僕は入学式の席にいた。ステージの上では校長先生の長ったらしい話が続いている。
 あの子もなにか理由があって人から距離を置かれているのかな。チャイムが鳴る前の光景を何度も何度も思い出していた。無表情でだれとも話さない、名前も知らない子。チャイムが鳴ったあと、担任の先生——反役(はんえき)先生、とか言ったかな? 先生が来て入学式の説明、これからの日程を説明をしている時も、名簿番号順に廊下に椅子を持って並ぶ時も。ずっと黙っていた。悲しい顔もしないで。
 まるで昔の僕みたいだ。僕は距離を置かれていたわけじゃないけど。
 彼女の名簿は9番目。僕達のクラスは男子が13人、女子が14人の27人クラスだ。ちなみに半本さんは7番目。名前も知らない子——ぼっち子とでも呼ぼうか、いや、可哀想過ぎる。どうしようかな。考えてみれば人のアダ名を考えることなんて初めてだ。黙ってたから、黒犬ちゃん? いや、無表情だったから、ポーカーちゃん? いやいや——。

「校長先生、ありがとうございました。続いては——」

 おっと。長い長いと思っていた校長の話も、終わってしまったようだ。次は校歌斉唱らしい。全員起立、の掛け声で一斉に立ち上がり、ピアノの伴奏が鳴り出す。教室に貼られていた歌詞を一瞥するくらいで、半分も覚えていないような歌詞を脳みそから必死に引きずり出しながら歌う。二番に突入し、ふっと音量が小さくなる。やはり一年生の殆どは二番の歌詞など覚えていないようで、あー、だの、うー、だの、うろ覚えを誤魔化すように音程だけ合わせながら歌うだけだ。
 しかし、半本さんはおそらく合っている歌詞で歌っている。僕と話していて歌詞を覚える暇なんて殆ど無かったはずなのに。すげえ。
 最初の3分の2になった歌声も途切れ、伴奏も段々と小さくなって、やっと校歌斉唱が終わる。
 そして終礼。
 教室に戻るぞー、という藍央先生の声でクラスに戻る。その途中で誰かが椅子に足をぶつけたようで、ゴン、という音がした。見てみると、半本さんだった。不幸がどうのこうのというのは本当だったらしい。
 ガラガラ、と閉められていた教室の扉が横に開かれる。名簿番号2番の僕は、皆より遅く着席する。席順はそのままだ。入学式前と同じように隣には半本さんが居る。窓際にはあの子が居る。
 ガヤガヤと集会直後特有の会話がたくさん聞こえてくる。あの校長話長すぎだよねー、とか。校歌歌えって言われても覚えてないし、とか。
 ぎゃあぎゃあ、ぎゃあぎゃあ。人見知りとは無縁、というレベルで煩い。この人達には初対面の人に対する気まずさは無いのだろうか。しかし、この喧騒も、次の瞬間消えた。

「静かにしろよー。廊下まで響いてるからな」

 気だるそうな猫背に無気力そうな目。入学式だというのにへろへろのスーツを着ている大人。この人こそが僕達の担任。

「さっきも言ったけど、俺の名前は藍央 反役(らんおう はんえき)。敬ってくれてもいいぜ」

 胡散臭い。第一印象はこの一言に尽きる。生徒と同じ目線で、というわけでもなく、私は大人ですよオーラを醸し出すわけでもなく。少し上から見下されている、とでも言うのだろうか。見下すのではない、見下ろされるのだ。見透かされているというか、見破られているというか。

「ええと、これから一年生は下校だ。給食もない」

 やったーという歓声とともに、えー、給食無いのーという不満が教室を埋める。静まった喧騒がぶり返して、さっきより煩くなった。
 はいはい、と藍央先生が机を手でパンと叩く。静まる。

「いいか、小学生でも言われていたと思うけど、寄り道だけはするなよ?」

 一応そういうところは先生なんだな、と考えていたら、付け加えられた「面倒被るのは俺らなんだからな。面倒嫌いだ」という言葉にがっかりした。コイツ屑だ。

「連絡事項はこれくらいだ。じゃあお前ら、ちゃんと仲良くしろよ? 上辺だけでも良いから」

 なんてことを言うやつだ。『仲良く』が難しい人だって居るのに。
 なんて、考えても無駄で。時の流れは残酷で、チャイムとともに起立し、さようならの一言で、僕の中学生一日目はあっけなく終わった。


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