コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- lucid dream
- 日時: 2016/02/28 01:04
- 名前: 銀弧 (ID: Dbh764Xm)
初めまして。銀弧と申します。
この話は明晰夢というものを主題にした物語です。短い話ですがお付き合い頂けましたら嬉しいです。
タイトルは明晰夢を英語に変換したものです。
少々ぐだることもあると思いますがよろしくお願いします。
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- Re: lucid dream ( No.1 )
- 日時: 2016/02/23 19:35
- 名前: 銀弧 (ID: Dbh764Xm)
明晰夢とは、夢の中で自分が思うが儘に行動できる最高の夢である。
とある夏の昼下がり、智史は開け放された窓際で外から吹き込む風でそよそよと揺れるカーテンを、なにをするわけでもなく眺めながら、先ほどから祖母が流したままにしているサッカーのラジオ中継をボーっとしたままに聞いていた。
「智史、外に遊びにいかなくていいのかい」
「いいよ、今日は家にいる」
ふいに祖母が風を通すためと僅かに開いた障子の隙間から声をかけてきた。
朝食を食べてから一時間ほどしても一向に部屋からでてこようとしない孫にしびれをきらして声をかけにきた彼女には悪いが、智史は今日一日この家をでて外にいこうという気はなかった。幸い、ある程度予想はできていたのか明日くらいは遊びに行きなさいと言い残して彼女は障子の前から離れていった。
ふぅ、と息を吐きカーテンを眺めていた目を瞑る。
ここは、静かだ。
今は小学校最後の夏休み、父親の母方である祖母の家に三泊四日でとまりにきた。
都心から電車で二時間、バスに四時間揺られてきたこの辺境の田舎は、都会の騒がしさに慣れて育ってきた智史にとっては、静かで、騒がしい。
時折きこえてくる祖母の食器を洗う音と、流れるラジオ、外からきこえてくる木々が擦れているような、いつもみんなが何か急いでいるような都会では耳にとまることのない音があまりに聞き慣れず、それが新鮮だった。
小学六年間、智史は友達というものができた事がなかった。
病弱で学校に行けなかったとか、人と話すことが苦手だったとか、そういった理由で友達が出来なかったわけではない。
ただ少しまわりとはズレたところに、自分の興味があって、それが周りにはできない事だったのだ。
夢、とは誰しもが見るもので、その内容は千も万も違いがあり、ひとときの大冒険であったり、自分のなりたいものにもなったりと、なんだってできるものである。
ただ、それには自分の自我はついておらず、流れるがままに夢の時間を彷徨っている。そして、意識の覚醒という時間になれば、夢の中の内容は忘れて、また日常に戻っていくのだ。
しかし、智史は夢を夢だと自覚し、それを自在に操る事を覚えた。
いつ覚えたのかわからない。智史はいつしかその事に夢中になった。
無限に自分のしたいことをする。
それは空を飛ぶことだったり、好きなお菓子を食べ続けることだったりだけど、想像の中だけなので、多くのものがぼやけている。それを確かなものにしたくて、もっとリアルなものにするために智史は奮闘した。
こんなに楽しいことは他にはない。しだいに智史は、夢の中に引きこもるようになった。学校から家につくとすぐに自室のベットに入り、ご飯の準備ができたと呼びに来る母親の声が聞こえるまで一度の空想の中に閉じこもる。
それは学校の授業中だったり、外に出て遊びにいく時間をも割いて夢の時間にはいっていった。
そんな智史に当然周りからストップが入る。
授業中に寝ていたことがついに親に伝えられ、こっぴどく叱られたが、智史は夢の事を話そうとはしなかった。話したって、信じてもらえないと思って。
そんな理由を知らず、明らかに多量に睡眠を取る智史を心配した両親はいっこうに外に出ようとしない我が子をのびのびと遊ぶ事のできる祖母の住む田舎に行かせたのだった。都会では経験のできない、自然と触れ合うことで智史が少しでも外に興味を持つことを期待して。
- Re: lucid dream ( No.2 )
- 日時: 2016/02/24 19:17
- 名前: 銀弧 (ID: Dbh764Xm)
三泊四日の初日は、お世話になる祖母への軽い挨拶の後、夕食を食べて長旅の疲れを癒すために祖母が用意してくれていた布団に入っていそいそと夢の世界に戻っていった。
そして今朝目覚め、食事をとってもまた智史は夢をみる。
だんだんと遠ざかっていく木々のざわめく音。食器を重ねる音。祖母がまたこちらに向かってくるような気がしたが、どうやら思い過ごしのようだった。
いつもと同じ、夢に入っていく感覚。視界が暗転し暗闇で目を開ける。今回の夢はどうするか、暫くか考えて自分の住んでいる街並みを思い出して車を出現させる。現れた自動車は父親が欲しいといっていた、いつかテレビでみたスポーツカーのイメージ。
街はとても殺風景で、遠くで風が吹いて、ビルとビルが震えているような気がした。
運転などしたこともないが、幼い頃よく家族で車で出かけるたびに父親の運転を眺めてははしゃいでいた。
それをイメージしてアクセルを踏む。動き出す車。
自分以外走るもののない高速道路を全速力で走る。
風が吹き抜けて来る感じは、リアルではないものの、こんな感じなのだろうという想像通りで、これもいつもと同じだった。
なにもかもが自分のイメージで構成されている世界。外の世界とはまた違う、自由な世界。
曖昧で埋め尽くされた、リアリティの無い世界。
何時間走っただろうか、夢の中は外と時間がバラバラなので、現実では数分しかたっていないのかもしれないし、数時間たっているかもしれない。考えたってどうしようもないのだ。今日はこれで終わる可能性もあるかな。そんな事を思いながら無言でただ一定に流れる代わり映えのない景色を眺めていると、だんだんとつまらなくなってきて、新しい事をしたいという気持ちが膨れ上がってきた。ただ、なにをするかがいつも以上に決まらない。
つらつらと考えているとふいに、都会のイメージが崩れる。
緑の鮮やかな、澄んだ空気が流れてくる。一瞬で緑に染まった世界に戸惑い、思考が乱れ、自分の乗っている車が維持できなくて、すっと消えていった。
ここは、どこだろうか。
突然に変わった景色に不安になる。
こんなことは初めてだった。自分が全ての中心であるはずの夢のなかに、思い描いたもの以外がでてくるなんてありえない。急に心細くなって、周りを見渡す。誰もいない、この森はなんなのだろうか。
情けなく震えて、うつむいて足元をみた時、生い茂る木々の奥から歌声が聞こえた。人がいる。
自分の夢の中に誰かいる、ありえない状況だったが、この心細さを埋めてくれるなら誰でもよくて、疑問を感じる前に智史は声のほうへ歩きだした。
自分の夢がコントロールできないことがこんなにも恐ろしいなんて思わなかった。智史は歩きながら考える。昔はこんな感じだったのだろうか、小さい頃にも怖い夢なんて何回もみたのだろうけれど、自分で操ることを覚えてからそんな夢を好き好んでみようとは思わなかったから、この状況がとてつもなく不安だ。
でも、少しだけわくわくしている自分に気がついた。
自分では予測不可能なことがこれから起ころうとしている。今迄とは違い絶対的な結果が目に見えるわけではないこの状況を自分はもしかしたら楽しんでいるのかもしれなかった。
- Re: lucid dream ( No.3 )
- 日時: 2016/02/27 21:13
- 名前: 銀弧 (ID: Dbh764Xm)
歩き続けていると、森が開け、一面を覆いつくす黄色が目に入った。
思わず、息を呑んでその圧倒的な迫力に魅入られる。
自分のイメージとは違い、細部まで再現されているこの大きな向日葵畑は、まるでここが現実の世界であるかのように智史に錯覚させ、ある一種の混乱をもたらした。土の感触、吹いた風に鮮やかに薫り立つ花の匂い。晴れた青空。すべてがリアルだった。
ここは、本当に夢の世界なのだろうか。
「だれ?」
ふいに女の子の声が聞こえた。
智史は飛び上がるほど驚いて声のでところを探す。智史の背など余裕で超える高さの向日葵畑の中から、声の主であろう女の子が現れた。こんがり健康的に焼けた肌に、大人しそうな表情。手にはスケッチブックのようなのを持って、智史と同じように目を丸くして、突然現れた少年を穴が空くほど見つめていた。
「あ、ごめんなさい。いきなり話しかけて……」
3秒ほど見つめあって、固まった智史を気遣ったのか、女の子ははにかんだ顔で智史に謝る。智史と同じくらいの年のようだが、やけに落ち着いて見えた。
智史は不思議と先程までの不安が消えていき、ほっとした気分になる。
なんの状況かはわからないけど、とにかく人と会えたことが嬉しくて。
「ううん、こっちこそ驚いたりしてごめん。まさか人に会うなんて思ってなくて」
「それは私も同じよ、夢の中なのに自分の夢に他の人がくることがあるなんて」
「確かに、とてもびっくりした。今迄ほかに明晰夢を見る人をみたこともなかったし」
なぜか胸がはやりだす。どうして彼女と出会うことになったのか、好奇心がむくむくと頭をもたげた。
「ねぇ、君はどう思う?」
「さぁ、難しいことを考えるのはあんまり得意じゃないんだ。一言でいうなら、夢ならなんだってあるってことじゃないかな」
夢ってそういうものでしょ?
彼女の言葉に笑みが零れる。
この状況をそんなに簡単な言葉で片付けられる豪胆さはなかなかのもので、見た目とは裏腹にとても芯が強いらしい。
そう、夢の世界は自由なのだ。だからこういうことが起きてもおかしくはない。彼女の言う通り、それが自分の中で一番納得のいく答えだった。
彼女とはその後お互いの素性について話あった。彼女は田舎暮らしで、殆ど遊ぶものが無いと不満げに話していた。智史が都会で育ったと聞いて、とても羨ましがった。
「都会ってなんでもあるんでしょ?」
その質問に言葉が詰まる。自分のことについては答えられが、外の世界についてはあまり詳しい知識をもっていなかった。確かに智史の地元はそこそこ有名な都市部で、少し街へ繰り出せば大体の物は揃うだろう。
しかし、友達と遊びにいくこともなく、用事があっても夢の世界で遊ぶほうが智史には楽しかったのだ。
「たぶんね、でも僕はあんまり外には出てなかったから」
「病弱なの?」
「ううん、夢の中のほうが楽しいだけ」
そういうと彼女は少し眉を下げて複雑そうに智史をみた。
「外も楽しいわよ」
智史はその言葉に抵抗を覚えることなく頷いた。
「きっとそうなんだろね、でも、昔から夢の中に閉じこもっていたから、今更その感覚がわからないんだ」
最後に遊ぶために街へ行ったのはいつだろうか、目的もなくふらついて一時間ほど歩き回った後、楽しめるものがなにもなくて、結局落胆して家に帰っていった記憶がある。
「楽しくなかったよ」
ぼやいて土をいじる。相変わらず本物のようにリアルで、少し湿っているような気がした。
「どうしたらこんなにリアルになるの?」
「よくみてるからかな。現実でこうやって地面に座りながら風景を描くのが好きなんだ。土の感覚や、葉の揺れ方、普段そんなに気にしないようなことをじっくりと体感してたら夢でも簡単に再現できるよ」
スケッチブックを持っていた理由がわかった。きっとその中には、もっと沢山の景色が描かれているのだろう。そしてそれはこの場所も一緒で、こんなにも心に焼けつけているものなのだ。
夢とは自分のイメージや、記憶に大きく作用される。自分の知らない事は再現できないし、はっきりとした想像でなければ現れる物体は輪郭がぼやけて、とても不明瞭である。
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