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恋ってだいたいこんなもの
日時: 2016/04/11 18:12
名前: TAKE (ID: LLmHEHg2)

 大学から帰る電車のシートに座って舟を漕いでいると声を掛けられ、見上げると若い女性が立っていた。暗めの茶髪に、大きな目、ナチュラルメイク。ありふれたルックスだが、そこそこの美人だ。
「今朝はどうも、ありがとうございました」彼女は言った。
 何の事か思い出せずに怪訝な顔をしていると、「ほら、満員電車で」と彼女は続けた。
「ああ……」思い出した。

 一限の授業がある日に大学へ向かう満員電車。これだけ人が密集してるというのに、逆に孤独な気分になるというのも変な話だ。
 僕は扉から入ってすぐの壁にもたれて立っていた。次の停車駅で、更に十人程の乗客が入ってきた。車内の混雑は相当なもので、人々は一様に顔をしかめている。
 社会に出るとストレスがたまるわけだ。会社によって違う時間に始業すればいいのに、なんてくだらない事を考える。
 隣に立っている女性も同様だった。眉間に皺を寄せ、困った顔をしている。彼女の胸が僕の左腕に押し付けられている状態の為、妙な誤解を生んだかも知れない。
「あの、ちょっと場所代わりましょう」僕はそう言って、何だこの人、という目でこちらを見てくる彼女を少し説得し、立っている位置を入れ替えた。両腕を上げ、手摺と壁に手を当てる。
 電車が目的の駅に着いた頃には汗だくになっていた。彼女も同じ駅で降り、軽く頭を下げて、先に階段を上がっていった。

「帰りも会うなんて」彼女は言った。
「変な偶然ですね」僕はふと違和感を感じた。「朝あなたが乗った駅、過ぎてるんじゃないですか?」
「各停から急行に、乗り換えたんです」
「ああ、そういう事」
「座ってもいいですか?」
 どうぞ、と答えると彼女は隣に座った。
「変な人だと思われたかと」
「そんな事ないです。助かりました」彼女は顔の前で手を振った。
「まあ、僕が気まずかっただけなんですけどね。ほら……思いっきり当たってたし」
 彼女は一瞬自分の胸に目をやると、すみませんと赤い顔をして謝った。
「いや、あなたが謝る事じゃないです」
 内心にやけてたし、なんて事はもちろん言わない。
 電車が家からの最寄り駅に着いたので、僕は席を立った。彼女も同様に腰を上げた。
「ここで降りるんですか?」
 僕は訊くと、彼女は頷いた。「家、近いんですね」
「みたいですね」
 電車を降り、駅の出口で僕達は別れた。

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恋ってだいたいこんなもの ( No.1 )
日時: 2016/04/11 18:12
名前: TAKE (ID: LLmHEHg2)

 翌日キャンパスを歩いてると、中庭に住みついている猫をじゃらしている彼女に会った。
「どうしたんですか?」しゃがんでいる彼女を見下ろしながら思わずそう訊いた。
 同じ大学の学生だった。二限の授業を終えて昼食に向かう途中だという。
「知らなかった」彼女は言った。
 普段互いが電車に乗り、大学を歩いているところを気にする事も無かったからだろう。
 僕も授業を終えて、食堂へ向かうところだった。「あ、良かったら……」
「ナンパ?」
 え? と言いながら一瞬たじろぐと、彼女は笑った。
「冗談です。混まない内に早く行きましょう」猫の喉を掻いてやると、彼女は立ち上がった。

「えーっと……何回生なんですか?」カレーとオムライスがそれぞれ乗っている二つのトレ—を置いたテーブルをはさんで、僕は訊いた。オムライスを食べているのは彼女だ。
 二回生だと彼女は答えた。
「あ、僕もで……す?」
「敬語はおかしいよね」彼女は笑った。
「学部も同じなんて言わないよね?」
「私は人文」
「ああ」なんでほっとしてるんだろう? 「僕は経営」
「残念」
「まあ、ドラマじゃないんだからね」そう上手い事偶然が続くわけもない。「えっと……」
 話題を探していると、彼女が言った。「あの時間、よく乗るの?」
「電車?」
「うん、朝」
 あの時間に学校へ行くのは火曜だけだと、僕は答えた。「君は?」
「私は火曜と木曜。あれに乗るのはいつも怖いの」
「体押し込んで入ってくる人の顔も、すごい事になってるしね」
「あれが三割」彼女は吹き出して言った。
「残りは?」
「痴漢」うんざり、というような表情をした。「女系家族で女子校出だから、いまいち男の人が苦手なの」
「へえ……」そうは見えなかった。
「初対面の時だけね」思ってる事を見透かされたのだろうか。「あなたは昨日の事で、安心出来る人って分かったし」
「良かった」
「でも本当、いつかスカートの中とか触られるんじゃないかって不安はすごくある」
「分かるよ」
「男なのに?」
「尻を触られた事あるんだ、男に」
「え……?」
「引かないでよ。僕がホモってわけじゃない」
 ごめんごめんと言って、彼女は大笑いした。「変な人がいるもんだねえ」
「冗談抜きに気を付けてるよ。後ろのポケットにパスケースと携帯入れてる」そう言いながら僕も笑った。


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