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手をつないで、空を見上げて【短編集】
日時: 2016/04/30 15:45
名前: ひよこ ◆1Gfe1FSDRs (ID: IxtPF2j4)

ひよこと申します。

初の短編集です。シリアスコメディごっちゃ混ぜ、なんでもありの色々詰め短編集なのでお気をつけください。


のんびり更新です。




*目次

1.『××の言葉』>>1

2.『天体観測』>>5

3.『私たちはそれを愛と呼ぶ』>>8-9

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Re: 手をつないで、空を見上げて【短編集】 ( No.1 )
日時: 2016/04/06 16:02
名前: ひよこ ◆1Gfe1FSDRs (ID: BbFmo06P)

1.『××の言葉』











「ひどいよ」


立ち尽くす君の、酷く歪んだ顔をみて、私はそう呟いた。











***








「あんたなんか、大っ嫌い」

私の言葉なんか聞く耳持たず、彼は黙々と本の中の字を追いかける。
赤く染まった空。教室に差し込むオレンジの光。聞こえるのは、グラウンドで部活に励む声と、彼がページを捲る音だけ。

「嫌い嫌い嫌い、嫌いったら大っ嫌い」

相変わらず、彼は私の一つ前の席で本を読む。入り込んだ風が彼の髪をゆらりと揺らしても、気に留めることなく。
私は両腕を机にべたりとくっつけ、前かがみになりながら足をばたつかせた。

「どんっだけ本好きなのよ!! そんなだから友達も彼女もできないのよこのバカ!! よかったわね私みたいな可愛くてやさしーい幼馴染みがいて!!」

ぴたり、とばたつかせていた足を止めた。一つ大きなため息をついて、机に突っ伏した。


彼に『嫌い』と言い続けて一週間。


あなたはまだ、私に気づかない。


ぱたん、と、本を閉じる音が聞こえたかと思うと、すぐに彼は立ち上がった。使い古された鞄の中に本を入れると、そのまま肩にひっかけて歩き出した。

「ちょ、ちょっと待ってよ!!」

慌てて私も立ち上がり、彼の後を追った。

学校を出て、無言で歩く彼の周りをうろちょろしながらついていく。

「ねえ、また今日も行くの」

問いかけても返事はない。

「ねえ、行かなくていいよ」

その足が、止まることはない。
私の言葉も、届くことなんてない。


彼と私が来たのは、乾いた空気が広がる墓地だった。
彼は一つのお墓の前で立ち止まり、ゆっくりとしゃがみこんだ。それにならうように、私もしゃがみこむ。

「......どこ見てんのよ。私はそんなとこにいないっての」

お墓に刻み込まれているのは、紛れもない私の名前。
この墓石がたってから、一週間。彼は毎日ここに足を運んでいる。飽きること無く、毎日。

「わかってるの? 私がこうなったの、あんたのせいなんだよ?」

未練が出来てしまった。
この世界から消えた『私』に、私はまだみっともなく縋っている。

あの言葉を聞いてしまったせいで。

「だからあんたなんて大嫌い。あんたも死んだら私みたいに呪われればいいんだ」

ありったけの憎悪を込めて、彼に言葉をぶつける。

「......美苗」

「......!!」

初めて。彼が初めて、私のお墓の前で言葉を発した。
まさか、まさか。

私の声が、聞こえて


「____よ、美苗」


......ああ。ああ。
嫌だ、嫌だ。その言葉は、聞きたくない。

「やめてよ......」

勢いよく立ち上がり、きつく拳を握りしめる。手のひらに爪がくいこんで、痛いはずなのに、ちっとも痛くない。

「やめてよ!! なんで、なんでそんなこと言うの!? 私はもういないのに!!」

悲しいのに、泣きたいのに、涙が出ない。

「あんたがあんなこと言うから、私は成仏できないの!! お願いだからもう何も言わないで!! ......お願い」

その言葉は、呪いのように私に絡みついて離れない。どれだけ耳を塞いでも、頭を振っても、それが消えることは無い。

「宏太......」

ああ、ほら、私がこんなに叫んでも、喚いても、あんたは気にせず立ち去るんだね。
今日は他に墓参りに来ている人はいない。彼も帰った。私だけが、ここにいる。
いなくなったはずの私だけが、ここに。

本当は、すぐに消えるはずだった。
でもあの言葉を聞いて、怖くなってしまったんだ。











私は学校の帰り道、忘れ物をした宏太を待っていた。すると目の前の道路にボールが転がってきた。近くには公園があるから、きっとそこからだろう。そんなことを考えていると、小さな子供がそのボールを追いかけて道路に飛び出してしまった。運悪く、そこにトラックが。

一瞬のことだった。

気づいたら私は、血だらけで倒れている私を遠くから眺めていた。
なんだなんだと集まってきた野次馬の中に、宏太の姿もあった。
どうやら私は即死だったらしい。
私が運ばれ、誰もいなくなった事故現場。そんな血だまりの側で、宏太だけが立っていた。

「......美苗」

呆然と、立ち尽くして。
私の名前を、壊れた機械のように呟いて。

「美苗、美苗」

ああ、死んでしまったんだなと、どこか他人事のように考えた。
生まれ変わりとかするのかな、どんな姿になるのかな、宏太ごめんね、押し寄せる言葉を呑み込んで、目の前の幼馴染みを見つめた。


「......美苗、愛してた」














「思わず、ひどいよって言っちゃったのよ」

ぽつり、私のお墓に向かって言葉を零した。

「あいつ、今までそんな素振りみせなかったから、私も諦めてたのよ?」

だから、素直に成仏できたのに。
できた、はずだったのに。

「怖くなったの。死ぬことが。この世から消えることが」

生まれ変わりをしたとして、それは本当に私なの? 見た目も声も名前もなにもかもが違う私を、宏太は見つけてくれる? そんなこと、あるわけがない。
宏太が愛してくれた『私』に、私は執着した。愛されたままでいたかった。
だって私も、宏太を

「......違う」

握っていた拳を解いて、私はお墓に背を向けた。

「呪われるのは、私だけでいいもの」

時間がかかってもいい。あんたはちゃんと前を向いて、私を思い出にして。

縛られないように、呪われないように。

「だって、嫌いだから」

私は私に向かって、呪いの言葉を吐き続ける。
彼に届くことのない、××の言葉を。





「あんたなんか、大っ嫌い」








お題『死に際の「愛してた」なんて、ただの呪いだ』提供 あんず(@sousaku_okiba_)様

Re: 手をつないで、空を見上げて【短編集】 ( No.2 )
日時: 2016/04/06 02:20
名前: スミレ (ID: Id9gihKa)

新作、読ませていただきました!
短編集と言う形ですが、本当にこれ短編!?と思うほど、面白かったです!
途中まで喧嘩してるのかな?って思っていた分、驚かされ、切なくなりました!
短くて、すぐ読める、でも胸に残る話でし(o^^o)
やっぱり短編も捨てがたい(≧∇≦)
色んな世界観や物語を楽しめるって…
最高ですねヾ(@⌒ー⌒@)ノ

私もいつか書いてみたいです!
でもつい長引かせたくなる悪い癖が…(・・;)

続き、楽しみにしています!

Re: 手をつないで、空を見上げて【短編集】 ( No.3 )
日時: 2016/04/06 07:42
名前: あんず ◆zaJDvpDzf6 (ID: nyr1MBL9)

ひよちゃんこんにちは。

短編読ませてもらいました……
ありがとう、最高です。

やっぱり自分が使えなかったお題とか言葉を、こういう形で他の方に使ってもらうのは良いものだなと思いました。

呪われるのは私だけでいい、という言葉でぐっときました!
好きだからこそ嫌いという、矛盾したようでどうしようもない感情なのだろうなあと。
彼も呪われないといいな……死後も執着してしまうのは、それはそれで一種の呪いかなと思ったりしました。

切ないけど、それでも二人が幸せになれるように願っています。

素敵な短編をありがとう、これからも応援してます(^^)


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