コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 恋に落ちる。
- 日時: 2016/04/06 18:20
- 名前: 巴芹 ◆prGJdss8WM (ID: bIAXyXLC)
こんにちは、はじめまして。
巴芹(ぱせり)と申します。
はい、当て字です読めません、はい。
ずいぶん昔(そこまでじゃない)にこのサイトにお邪魔させていただいてたのですが、久しぶりに小説を書きたくなったのでふたたびお邪魔させていただくことにしました。名前は変えてます。
さて、今回のお話ですが、短編集とはならないまでも、何個か別のお話を入れたいと思っております。
ぜんぜんおもしろくないし稚拙な文章だし更新遅いしで駄作になること間違いなしでございますが、暇つぶし程度に(暇つぶしにもならないかも)ボランティア的なスタンスで、もし読んでくださる寛大で寛容で温かい方がいらっしゃったら、ぜひコメントください。(←贅沢)
ではでは、
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恋に落ちる。
著.巴芹
#01. 氷華
氷のように冷たく、華よりも麗しいあなたは、いったいなにを考えているのーーー
Page:1
- Re: 恋に落ちる。 ( No.1 )
- 日時: 2016/04/07 18:04
- 名前: 巴芹 ◆prGJdss8WM (ID: v6.r5O3g)
「白石!もっとしっかり引け!!」
放課後の弓道場に皇子の声が響く。私を怒鳴る声。いつものことだ。私は返事をせずに指示に従った。
「返事をしろ!!」
続いてまた私への怒号が響き渡る。
「…へーい」
半ばやけくそで返事をした。
なんだって私ばっかり、毎日こんな…。
行く当てもない文句が頭の中を駆け巡る。後ろの方からは先輩たちのヒソヒソ声が聞こえてくる。てか全部聞こえてるし。
言いたいことがあるならはっきり言えばいいのに。もういやだ、全部アイツのせいだ。
「違う!そうじゃない!!」
バタバタと急ぐ足音がこっちへ向かってくる。
やだ、来ないでよ
「もっとこっち側の腕を引くんだよ」
皇子がうしろにつき、私の腕に触れた。
もう後ろから聞こえてくる声はヒソヒソ声どころではなかった。
「何よ、あれ」
「いっつも柊くんにかまわれちゃって」
「ちょっと強いからって一年のくせに」
私がやってるわけじゃないのに、どうして私が言われなくちゃならないの
どうして、直接皇子に言わないの
「…部長、もうわかったんで、後ろで先輩たちが呼んでますよ」
最後の言葉を言い終わる前に、私はすでに的に集中していた。
皇子がこれ以上話しかけないように、弓を放った。
* * *
「相変わらず、すごい気に入られようね」
「誰が!」
思いっきり学食のステーキをフォークでぶっ刺した。
「あーんなに皇子にかまわれちゃってさー、ふつうあそこまでしないわよ?」
いくら紫がうまいからってねー、と冴子は羨ましがるでもなく、妬むでもなく、いつものサバサバとした口調で言った。
相原冴子は私と同じ、弓道部所属。
なんにおいてもサバサバしている姉御肌の冴子は私にとって頼れる親友だった。
「だって皇子つったらさー、うちの学園では知らない人はいないという、超有名な
『学園皇子』だからねー、あんたすごいよー」
うちの学校には、がくえんおうじなるものが存在する。
しかも、学園王子ではなく、学園皇子。
天皇陛下か!!とつっこみを入れたくなるネーミングセンスに、私もその事実を知った当初は目眩がしていたが、慣れとは恐ろしいもので、何回も名前を聞くうちになにも違和感を感じなくなっていき、そもそも自分とは関わりのない人間だろうし気にすることはないだろうと高を括っていたのだがーーー、
まさか、こんなことを言われることになるとは。人生とはわからないものである。
だいたいのところ、あの態度でどうして私が皇子に気に入られているという発想に至るのか、冴子に聞きただしたい。
「そんなの見たら分かんでしょ」
「はぁ!?なんで!!」
私は心の底から反論した。
「あんなのが気に入ってるサインなんてあいつ本気で頭パーなんじゃないの!?」
「…あんたって顔に似合わず口悪いわよね〜」
「だってそうでしょ、今日だって私だけ散々怒鳴られてさー!!」
「ちょっと紫…!」
「あ゛ーー、思い出すだけでイライラしてきた、あんの鬼畜クソ眼鏡!!」
「誰が鬼畜クソ眼鏡だ」
「…!」
げ、皇子…!!
「紫ってばさっきからずっと呼んでんのに!」
「全然気付かなくて…」
「ステーキ定食なんか食ってるから短期になるんだ。もっとカルシウムを摂れ」
「…余計なお世話ですー」
「その生意気な態度もだ」
小声で言ったのに聞こえてるし。
だいたいなんで昼食の時間までこいつの顔なんか見なきゃなんないのよ。
せっかくの憩いの時間が。
残っていた料理を急いで口に放り込んで早く皇子とはおさらばしよう。
「…お疲れ様でしたー…」
「あ、ちょうどよかった。お前、今日の放課後、部活終わっても残っとけ」
「はぁ!!?なんで!」
「雑用」
最悪だ、なんで私が
気に入られすぎんのも、たまに大変ねー、そう言った冴子の言葉が耳に残った。
- Re: 恋に落ちる。 ( No.2 )
- 日時: 2016/09/01 21:50
- 名前: 巴芹 ◆Cj7Rj1d.D6 (ID: po4QU.xa)
……眠い。この一言に尽きる。
AM 8:49
1校時目が始まってまだ9分しか経過していないというのに、私の眠気は既にピークに達していた。
ここのところずっと寝不足が続いている。
ただでさえ貧血気味の体質だというのに、それに追い打ちをかけるように、近頃のベッドは私を眠らせてくれない。
まあ、ベッドのせいではないのだが。
原因はわかっている。あの部長のせいだ。
入部当初から、なんかやけに突っかかってくるなとは思っていたが、最近はその傾向が著しい。おかげで、女子の先輩方からの陰湿な攻撃もエスカレートしている。
まあ、それは自体あんまり大したことないんだけど。
私がイラついているのは、いじめの内容ではなくて(あんなもの屁でもない)、どうしていじめの対象が私なのかということだ。
いつもいつも、皇子に構われてるからって、とかちょっと強いだけで調子のってる、とかなんか弱みでも握ってんでしょ、とか。
何かにつけ難癖をつけてくる。
というか、構われてるってなに。
それって冴子が言ってた気に入られてるとイコールなのか?
どっちにしたって、どう見てもそうでないことは明らかなのにみんなしてそんなことを言ってくる。
でも、ちょっと待てよ。
よくよく考えれば、今気づいたけど先輩だけじゃなくてあの冴子までもがそんなことを言ってくるんだからこれは本気で考えたがいいのかも。
〜あの鬼畜メガネのあれは、私への愛情の裏返し!?〜
って、なにこれ。
よくこんな韓国ドラマのサブタイトルみたいなフレーズがぽんと浮かんだものだわ。
しかも私の頭から。
我ながらかなりドン引き。
その場で頭を抱えてしゃがみ込みたい気分。
そんなことしたら考える人シーズンⅡみたいな感じで取り上げてくれないかしら。
ゆくゆくはシーズンⅠのように、そのポーズが銅像になって……。
ダメだ、これは相当頭にキてるわ私。
本気で精神科に行ったほうがいいかも。
そのついでに寝不足も治してもらいたい。
これについては本当に深刻な問題だった。
おかげで食事もあまり喉を通らないし、特に昨夜がひどかった。
あの鬼畜メガネに放課後遅くまで雑用に付き合わされ(しかも二人きり)、疲労困憊状態だったにも関わらず、ベッドは相変わらずで案の定私を寝不足の闇へと誘った。
おまけに、あの鬼畜が夢にまで出てきやがった。
大魔王みたいな格好をした部長。
あまり覚えていないけれど、夢の中の私はひどく彼に怯えていて、彼はそんな私の様子を見てとても楽しんでるようだった。
夢の中でもドSの鬼畜とか、マジなくね。
今朝ほど目覚めの悪かった日はなかった。
最悪の朝。
おまけに貧血、疲れは取れず。
なんか、こうやって改めて考えてみると私ってば、今かなり危うい状態にあるのかもしれない。
練習中にぶっ倒れたらどうしよう……。
そしたらまた、あの鬼畜部長に怒鳴られる。
それでまた先輩たちに陰口言われて、それで……。
そこで私の思考は途切れた。
次の瞬間には、がくんという大きな衝撃が私を襲うのだけれど。
-----
キーンコーンカーンコーン
予鈴が鳴り、みんなが一斉にクラスルームから出て行く。
私はおぼつかない足取りで弓道場へと向かった。
授業中、一応睡眠を取ってはいるけど、正直穴埋めできている気がしない。
やっぱり机の上では限界があった。
眠い。ただひたすら寝たい。
なのに、眠れない。
なにこれ本当、ありえない。
かつてここまで眠れないのは初めてだ。
ていうか、どれもこれもあいつのせい。
腹の中で憎しみの気持ちが湧き上がるが、いつものように罵詈雑言を浴びせる気力がなかった。
でも部活は行こう。
練習はサボりたくないし、第一こんな炎天下の中帰りたくはない。
部活が終わるのは夕方だから、今よりは日も落ちているはず。
そう信じながら部室に入った。
「ーーー白石、おい白石」
誰かの声ではっと我に帰る。
目を開けると、数十センチ先に憎たらしい顔。わお、部長様。
どうやら話中に眠りかけてしまったらしく、顔を覗き込まれている状況だ。
これは不味い。
「ーーあ、すいません」
これはめっちゃ怒られるコースだ。
今回は完全に私が悪いので仕方がないが。
すると、また部長が顔を近づけてきた。
「ーーお前、酷い顔だな」
なんだその目の下の隈、と眉をひそめる。
「はあ、いつもですけど」
私は無気力に答えた。
ダメだ、眠い。クラクラする。
「ーーーお前どうした?」
どうした?ってなにが。
そう言いかけたところで、私の記憶は途切れた。
「ーーー白石さん、白石さん」
遠くでまた誰かの呼ぶ声。いや、この声はよく知ってる女の人の声。
えっとーーー、
「泉ちゃん…?」
目を開けると、案の定泉ちゃんが目の前にいた。私の問いに笑顔で答える。
「そうよ、ようやく気がついたわね」
そう言って泉ちゃんは私の頭を撫でた。
笠原泉、養護の先生だ。
私は普段からよく貧血を起こすタチなので、泉ちゃんにはたいへんお世話になっている。
常連客となりつつあり、仲も良い。
「私倒れたんですか…」
「そうよ、部活中にね」
はあ、そうですか。あまり記憶がない。
でも部活中か、さぞかし部長と先輩方はお怒りになっているのだろう。謝りに行かないと。
「泉ちゃん、私ちょっと閻魔部長様に報告を…」
「あら?それは大丈夫じゃないかしら?」
え?なんでまた
もしかして泉ちゃんが?
「そうじゃなくて、覚えてないのね」
なにをだ
なぜか、嫌な予感がする。
「あら、じゃあ言わないほうがいいかしら」だからなにをだ!
「あなたをここへ運んだの、柊くんよ」
柊、ひいらぎ、ヒイラギ、柊皐月…。
あ、部長だ
って、んんんんんんんんんん?
「部長が私をですか?」
と問うと、ことも何気にそうよ、と泉ちゃん。
部長が私を?あの極悪大魔王が?
どうも腑に落ちない。というか違和感しかない。どうしてわざわざ私を?
そう考えてるうちにだんだん記憶が戻ってきた。
そういえば、なんか部長と話をしていたような…
「あ!!!」
しまった、これは不味い!!
私、部長の話の途中でぶっ倒れたんだわ!
「ごめん泉ちゃん、やっぱり行ってくる!」
「ちょっと!大丈夫って言ったでしょ!彼が運んだのよ、それよりもあなた安静にしとかないと……」
「だから不味いの!」
これは大変だ!絶対怒ってる!!
弓道場に着くまで、私の中の危険を示すサイレンは鳴り止まなかった。
- Re: 恋に落ちる。 ( No.3 )
- 日時: 2016/10/24 21:32
- 名前: 巴芹 ◆Cj7Rj1d.D6 (ID: po4QU.xa)
ーーーガラッ
勢いよくドアを開けたのに無反応かと思ったら、もう弓道場には誰もいなかった。
あわてて時計を見ると、あらまあ、もう部活終了時刻を経過していた。
嘘でしょう、と自分の不幸さを呪いながら、じゃあどうして電気は点いているのだろうと疑問に思った。
奥にだれか……
そう思って進んでいくと、案の定人影があった。
あ、部長
前言撤回。わたしってばなんて幸運の持ち主なの!
声を掛けようとして、一瞬で止めた。というか、止めざるを得なかった。
彼の、弓を引く姿があまりにも目を引くものだったからだ。
真っ直ぐに伸びた背筋、力強く、それでいてしなやかに弓を引く腕、遠く的を見据える眼差し、すべてが、わたしを引きつけてやまなかった。
この光景を見るのは、あの時以来、二度目だ。
「あのー、部長…」
少し躊躇いがちに話しかけた私に彼はゆっくりと振り向くと、驚いたような表情になった。
「お前、帰ってなかったのか」
「はい…」
そこで会話が途切れた。ああやはり部長と話していても間が持たない。どうしようどうしよう、私なにか話さないと…。
そのとき、私は彼に対してのいつもの悪態を吐く言葉はどっかに引っ込んでいて、なぜか少し弱気な態度だった。
弱気というか、毒気を抜かれたような。
原因はまさかさっきの姿を見たからだ、などという馬鹿げたものでは断じて無い。が、とにかく今の私は、寝不足なのを抜きにしてあまり部長に歯向かう気にはなれなかったのだ。
「ー先程は、部長のお話の途中にぶっ倒れてしまったようで、本当に申し訳ございません…」
深々と頭を下げる。いつもの私ならまず考えられない行為だ。その姿に彼もいささか驚いたようで、
「しおらしいな、なんだ?熱でもあんのか」
と言って、頭を上げた私の額に手を当て体温を確かめたぐらいだ。
いや、熱はないけどーーーーって、
「ちょ、ちょっと!」
この男!なにナチュラルに熱測ろうとしてんのよしかも手で!!
「なんだ、」
なにきょとんとしてんのよまさか天然でやってるとかほざきやがるのかしらそんなこと言ってもそれなら許すわけじゃ
「お前、めっちゃテンパってんな」
「はあ?!テンパってなんかないです!」
「じゃあなんだ、直接額で測った方がよかったか?」
そうじゃねーわ!
クソ!この男、完全に遊んでやがる。顔が笑ってるし!前言撤回撤回、やっぱりムカつくこの男。なんなの本当あんたがそんなだから私がいじめられてんのよ!!
さっきまでの弱気な態度とは打って変わって、私は一気に頭に血が上っていた。
「元気出たみたいだな」
「は」
「お前、さっきは俺に言われても何も言い返さなかっただろ。いつもならギャーギャー喚くくせに」
おかしいと思ったんだよ
そう言いながら、部長は弓矢を仕舞った。
そのせいで顔は見えなかった。
でも、これは、一応心配してくれてたのかーーー?
「そしたら案の定、目の前でぶっ倒れやがって。まあでも、そんだけ文句言えるぐらいは回復したんだろ。良かったじゃないか」
なんか、変なの。
馬鹿にしたり心配したり。意味がわからない。
この男のペースが掴めないわ。
「部長ってちょっと変わってますね」
弓矢を仕舞い終わった部長は、思い切り訝しげな顔をした。
あら、今度は怒った?
「ーー俺にとって一番変わってて厄介なのはお前だけどな」
「ん?なんか言いました?」
「いや、なんでもねえ」
でもなんか聞こえたような、
まあいいや。この男のことだからまた碌でもない私の悪口だろう。全く聞こえなかったことにしておこう。
そう言ってから部長はケースを担ぎ、私を振り返った。
「お前はもう少し他人に迷惑を掛けない振る舞い方を考えろ、おかげでお前の周りはみんな心労になるぞ」
「はあ?!また説教ですか!!部長の説教はもう耳にタコができるくらい聞き飽きたのでそんなに説教したいなら他所をあたってください!」
このクソ鬼畜眼鏡!と、心の中で付け足したのはもちろん言わない。
「その短期なところもだ」
かぁああ!ムカつく!!
私はその場で地団駄を踏みたい衝動に駆られた。しかし寸前のところで思いとどまる。
が、一方的に言われ続けるのは性に合わない。言い返しないと気が済まない。
精一杯の敵意を込めて彼に言い放った。
「部長、部活後の自主練は理事長室行きですよ」
わざと嫌味ったらしく抑揚をつけてやった。まさか理事長室ごときでびびる年代ではないことくらいはわかっている。が、ただ彼になにか言い返すことができればよかったのだ。
「…」
数秒の間、部長が私に背を向けたままなにも反応を示そうとしないので、私は勝手に己の勝利を決め込んでいた。
内容で勝ったわけじゃないのはわかっている。ただあの男を黙らせることができればーーー、
「ー…ふっ……ふは」
ん?笑ってる……?
見ると、部長の肩が小刻みに震えていた。
「は??!なに笑ってるんですか!?」
「ふはははははは!!」
そこからはもう堪え切れないと言うように思い切り笑われた。
なにこれ、超屈辱!
さっきまでの優越感はどこへ行ったのやら。
私は今度こそ完全に地団駄を踏んでいた。
ありえないありえないありえない馬鹿にするにもほどがあるふざけんな
「はーー…、笑った笑った」
疲れたというように彼は頬あたりの筋肉を解す。
私は無言で彼を睨みつけた。
にも関わらず、その睨みでさえも鼻で笑われて躱された。
「お怒りのところ悪いが、もう帰るぞ」
「は?」
帰るって、まさか二人…
- Re: 恋に落ちる。 ( No.4 )
- 日時: 2017/01/14 17:07
- 名前: 巴芹 ◆Cj7Rj1d.D6 (ID: po4QU.xa)
「「……」」
結局、私と部長は二人で帰ることになった。
まあもうだいぶ暗いし、まさか誰かに見られることはなかろうとは思うが、万が一誰かに見られていてしかも、先輩達の耳に入ったら、もしくは先輩達に見られていたとしたらーーー。
あまりの恐怖に身震いする。
じゃあやっぱりさっき、断ればよかったのだ。
「……じゃあお先、失礼しまーす…」
「何言ってんだ、俺も帰るんだよ」
先輩より先に帰る奴があるか、と彼は当然のように言い、荷物を背負った。
「……何が楽しくて部長と二人で帰らなきゃならないのですか」
「二人?なんだお前、俺と二人っきりがそんなにいいのか」
「はあ?!何言ってんですか!なわけないでしょ!」
さっきから何を言ってんだこの男は!調子に乗るのもいい加減にしろ!!
私の怒りは頂点に達し、溢れ出る罵詈雑言の数々を止めることはできなかった。
「俺と二人だと照れるんだろ、だから嫌なんじゃないのか?」
「なんでそうなるんですか!別に部長と二人でも全然平気ですけど?!」
「じゃあ帰るぞ」
「はい!帰りますとも!」
ーーーあの時の私、なんて馬鹿なの。
あんな挑発に乗ってしまうなんて。人生の汚点だわ。
もし本当に誰かに見られたりでもしたらーー、いや、そういうのは考えないようにしよう。
今はただ、この場を耐え抜くことだけ。
「「……」」
会話がない。
そもそも私と部長が会話するときって必ず何か揉めてるときだし、普通に普通の他愛のない会話というのをしたことがない。
だって何話せばいいかわからないし。
「…明日晴れだな」
突然、部長が空を見上げてそんなことを言い出した。
「なんで分かるんですか」
「星が出てるからだろ」
「そうなんですか」
それにつられて私も見上げた。
見上げた夜空にはたしかに、散りばめたようなたくさんの星が広がっていた。
なんとなく二人して、上を見上げたまま歩いた。
ーーキキィィイ
いきなり後ろから自転車のブレーキの音が聞こえた。
それと同時に、強く肩を抱き寄せられた。
「…あぶねーな」
そのまま自転車は通り過ぎていった。
わたしの肩はまだ彼に抱き寄せられたままだ。
わたしは彼の胸の下あたりで固まっていた。
「…おい」
彼の言葉でようやく我にかえった私は、今の自分の状況に一気に血がのぼった。
目の前には制服のネクタイがあった。
何やってんだ私。
「…ごめんなさい」
状況が掴めた途端に私は一歩引いた。自分で自分の頭を殴りたい気分だ。
何やってんの本当最近とぼけすぎてるから本当に馬鹿か私はしっかりしろ本当に
「お前は本当にもう少し周りを見ろ」
「はい」
いつもはまったく聞かない部長の言うことも、今は素直に聞けた。
動機はおさまらないままだ。
それから、部長はまた何か話していた気がするけど、あまり覚えていない。
そのあと、なぜか私はあまり彼の顔を見れなかった。
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