コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- ビニール傘に虹が映れば
- 日時: 2016/05/28 23:48
- 名前: 雨久花 (ID: 5YqwrR3X)
はじめまして、雨久花(みずあおい)と申します。
未熟者ですが、一人でも多くの方に楽しんでいただければと思っています◎
感想、アドバイス、誤字脱字への指摘いつでもお待ちしています! ぜひお気軽に話しかけてくださいませ。
□登場人物
水無月文(みなづき あや)
日下慶悟(ひのした けいご)
高瀬朝香(たかせ あさか)
岸井諒助(きしい りょうすけ)
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- Re: ビニール傘に虹が映れば ( No.2 )
- 日時: 2016/05/28 23:52
- 名前: 雨久花 (ID: 5YqwrR3X)
「へー、それで傘貸してくれたんだ。可愛いじゃん、なんかワンコっぽくて」
「今そういうこと言ってるんじゃないんだけど」
ぶつぶつと呟き身じろぎすれば、動くなとチョップをくらった。
三時間目が終了した昼休み。つかの間の休息に高校生のテンションなんて上がる一方だ。
「ここは猿山か! お前ら二年としての自覚を持て」
時折覗きにくる先生のセリフは聞こえていないも同然。むしろお猿さんたちの方が静かそうだ。
そんなぎゃいぎゃいとにぎやかな教室の一角。ひとつの机をはさみ昨日の傘事件を話す傍ら、私の爪はずいぶん可愛らしいことになっている。
器用な手つきで放ったらかしの爪を磨き、綺麗なサーモンピンクで彩っていくのは、高瀬朝香。私の中学時代からの友達だ。
色素の薄い髪にすらりと長い手足。少しつり目がちの目は、時々ひどく大人っぽく光る。
肩から滑り落ちた髪を耳にかける仕草に、やっぱり美人だよなぁと再確認。
趣味と題しては可愛く細かいネイルを施すし、雑誌片手に人の髪を複雑な編み込みにしてみたりする。時々持ってくるパウンドケーキは、手作りには見えなくて逆に引くくらい。
女子の鑑みたいな子だ。
「それでどうすんの、文。その傘、今日持ってきてるんでしょ?」
騒がしい教室の中、朝香の声はすっと耳に届く。
一気に華やかになった右手をぐーぱーしながら、私は重々しくうなずいた。きちんと教室の後ろの傘立てに鎮座しているはずだ。
けれど返すにあたって問題がひとつ。
「その人の名前が分からないのよ」
左の爪を塗る朝香の手が止まった。きょとんとこちらを見つめる。
「え、名前分かんないの? 学年も? 名乗っていかなかったわけ?」
「いぇす」
「……おっちょこちょいなワンコね」
「……いぇす」
そのとき、ノイズ混じりにスピーカーのスイッチが入った。
「こんにちは。昼の放送を始めます。今日の当番は……ーー」
爪のサーモンピンクを傷つけないように、廊下を小走りで進む。周りへの配慮なく走り回る男子共をくぐり抜け、目的地へ。
「しつれーい」
軽い声かけで扉を開ける。
喧噪にかき消されていた、人気のアイドルの歌声が一気に漏れ出てきた。そっか、リクエストの音楽コーナーだ。逆にその放送に生徒の喧噪が入り込まないよう、あわてて扉を閉める。
「……水無月先輩。どうしたんすか」
気だるげな表情を意外そうに変化させたのは岸くんーー岸井諒助くんといって、放送委員会の後輩だ。今日のお昼放送の当番。
お世辞にも愛想がいいとも、真面目とも言えない私をきちんと先輩と呼んでくれる。
放送機材の前のパイプイスの背にもたれていて、お弁当箱は脇に寄せられていた。お昼はもう食べ終わったらしい。
「ちょっと頼みがあって。このあとの連絡要項タイム貸してくれないかな」
「え? いいですけど……なんかやらかすってんなら、その時はマイク切るんで」
私がなにをすると。
「……ついでに他の連絡も読んでほしいんすけど」
体育祭についてのと、生徒指導の先生から。
ちゃっかり渡されたメモを受け取り、自分もパイプイスを出した。
音楽が終わる。マイクのスイッチを入れた。
「次は生徒指導部からの連絡です」
噛まないようにメモの文字を追う。
最後に、ここに来た目的である連絡を。詳しいセリフは全く考えていなかった頭を働かせながら、
「えー、最後の連絡です。昨日、生徒玄関にて傘を……預けていった男子。覚えのある人は、二年三組、水無月までお願いします。繰り返します……ーー」
- Re: ビニール傘に虹が映れば ( No.3 )
- 日時: 2016/05/30 23:03
- 名前: 雨久花 (ID: 5YqwrR3X)
『彼』に会えたのは、放送の翌々日だった。案外遅かったというか、三日で来てくれてよかったというべきか。
ともかく、今日も今日とて騒がしい昼休み。お昼を食べ終え、私が持ってきたボッキーを朝香とつまんでいたときだった。
扉から顔をのぞかせ、きょろきょろと見回す男子生徒。
思わず固まってしまったのは仕方ない。
カフェオレみたいな色の髪はうなじを中程まで隠している。たぶん染めたのだろう。顔立ちは結構整っていて、朝香にもひけをとらない(後で話したところ男子と比べるなと怒られた)。
高めの身長を隠すように教室をのぞく彼が少しおかしくて、朝香をつついた。
あの人だよ、傘を貸してくれた人。
ーーと、私たちの姿を目に留めたらしい。まっすぐこちらへ近付き、足を止めた。
「水無月、さん、で合ってるよな。傘を預けた者です」
一見きつくも見えた目を和らげ笑う。相手の警戒をいっぺんに解いてしまうような笑い方だ。
あいにく私にそんな笑い方はできないので、軽く会釈を返す。
……あれ、この人……。
「二年生?」
靴ひもが青い。
私たちの学校は、繰り上がり式に学年ごとに靴ひもの色が変わる。今年は一年生が赤で、三年生は緑。そして、二年生は青。
絶対に三年だと思ってた。
「うん、二年四組。日下慶悟です」
しかも隣のクラスっていう。
へらっと笑った彼改め、日下くんに傘立てから傘と、ついでにリュックからボッキーをもう一箱取り出した。
「傘ありがと。ボッキーはお礼ね」
遠慮とかは面倒なんで受け取って。無愛想に続ける。
くすぐったそうに口元をゆるめた日下くんは、うやうやしくそれを受け取った。
「こちらこそ。んじゃ遠慮なくいただくね」
「うん」
「ありがとう」
「……じゃ」
ばいばい、手を振られる。うなずいて、小さく手を振り返す。
イスを引き座ろうとした。
「いい人だったじゃん」
「……おう」
穏やかで、傘を貸してくれた時も思ったけど、善意のかたまりみたいな人だ。クラスは違う。多分、友達もいっぱいいるんだろう。
上手く笑えないし口下手な私とはこれから先、接点もなにもないだろう人。
座りかけて、でもなんとなく。
目を丸くした朝香を視界の端に映し、扉の前まで急ぐ。大きく踏み出し、数歩。廊下へ出ようとした日下くんの背中のセーターを思い切りひっぱった。
「うおっ!?」
「ーーっうぶ」
勢い余って私の方が背中に顔をつっこんでしまった。
恥ずかしすぎる。日下くんの方はさぞ困惑しているだろう。私も同感。なにしてるんだろうと心の底から思う。
「えっと、水無月さん?」
「あの」
「はい」
「教科書、貸して欲しい」
ただ、このまま話さなくなるのは少し惜しいと思ってしまったのだ。
- Re: ビニール傘に虹が映れば ( No.4 )
- 日時: 2016/06/02 19:26
- 名前: あわゆき飴乃@もとは湯呑ですっ (ID: uJjLNBYk)
こんばんは、初めまして!題名に惹かれてやってきました〜
日常のふとしたときめきとか、甘酸っぱいなにかを温かみをもつ文章で
書いていてすごいなあって思いました(笑)
あ、申し遅れましたが湯呑ゆざめという者ですっ。
「観覧車。」という短篇集とかいろいろやってます←
もし、読んだら感想とか下さいッ(*^。^*)
とゆーわけで、応援してます!
いきなり失礼しましたっっ
- Re: ビニール傘に虹が映れば ( No.5 )
- 日時: 2016/06/05 22:56
- 名前: 雨久花 (ID: 5YqwrR3X)
湯呑さん
はじめまして! コメントありがとうございます。
わ〜!! 『なんてことないけどちょっぴり特別な日常』というのがコンセプト
だったりしたりしなかったり…なので、そう言っていただけて光栄です…!
「観覧車。」ですね…もちろん、ぜひぜひお邪魔させていただきます*
チキンゆえ中々コメントを残せないのですが、必ずや!!←
これからも精進していく所存ですので、よければまた覗いてやってください◎
ではでは
- Re: ビニール傘に虹が映れば ( No.6 )
- 日時: 2016/06/19 17:21
- 名前: 雨久花 (ID: 5YqwrR3X)
「あれ、水無月さん。今帰り?」
下駄箱で後ろから声をかけられ、心臓がはねる。
傘を返し、教科書を借りたあの日から、日下くんはこちらが引くくらい気さくに話しかけてくる。……いや別に引かないけど。
ローファーを地面に落とし、下駄箱を閉める。
「うん。部活入ってないし。日下くんは」
「同じー。授業終わったら直帰」
少し意外だった。身長もあるし、運動部あたりには入っていそうなのに。
流れで一緒に校門を出ると、日下くんが道路の右の方を指差した。駅の方だ。
「俺こっち」
「私も、……そっち」
「まじで。一緒に行きません?」
「い、行きます」
嬉しそうにーーなんて、さすがにうぬぼれだろうけどーー笑った日下くんからそっと目をそらした。
並んで道を歩きながら、ぽつぽつと取り留めのない話をした。
古典の授業が眠すぎるとか、英語の先生の出す宿題の量はえげつないとか、もうすぐ体育祭だなーとか。
対して私は、自覚できるくらい、ぎこちない相づち。気にすることなく話をふってくれる彼は本当に会話上手だ。
学校で話す時とは少し違う。声や笑い声が、ずっと広がっていく感じ。
ふと目が合って、日下くんがなぜが吹き出し笑い出す。疑問符を浮かべつつ、つられて小さく苦笑した。本当にいつも笑ってる人だ。
駅前の広場に着く。私はバスで、日下くんは電車らしいからここまでだ。
じゃあ、と手を振ろうとした時、目の前にケータイが差し出された。画面に表示されているのは、おなじみのトークアプリ。
「あー……っと、迷惑じゃなければ、ライン交換しませんか」
言いにくそうに絞り出された言葉に、一瞬だけ戸惑う。
連絡先を交換するのは全然構わない。問題は私が連絡不精だということだ。いじめの原因になるとまで言われる既読無視もよくやらかす。返信を一週間以上あけてしまう事も日常茶飯事だ。
どう言おうか迷っている間に日下くんが慌てだす。
「そんな考えこまないで! ほんと連絡先とかプライバシーだし、だめでも全然」
「いや、あのストップ」
私も慌てて静止をかけた。
ひとまず連絡不精なのを断り、それでもよければとケータイを取り出した。
俺もだいたい同じタイプだし気にしないという寛大な一言で、無事、お互いのアカウントが追加された。
『慶悟』とシンプルに登録された名前が並んで、ちょっと感慨深い気分になる。男子の友達なんて数人しか追加されていないからな。
「あや」
小さく呟かれたテノールに弾かれたように顔を上げた。
私のアカウントが映っているであろう画面に目を落としている。いつも通りの笑顔を浮かべながら。日下くんのその表情に、なにか他のものがにじんでいる気がした。
「け、けいごってこういう字書くんだ」
落ち着かなくなって私もそう呟く。
「そ。なんか仰々しいだろ。あやってどう書くの?」
「文っていう字。大抵、フミとかに間違えられるから平仮名にしてる」
「へー。でもなんか似合ってるよな、一文字ですっきりした感じ」
「……どうも」
そんな事を言われたのは初めてで、くすぐったくて素っ気なく視線をそらしてしまった。
電車の時刻だと言う日下くんと別れて、バス停でケータイをいじる。
夕方の蜂蜜色の西日が影をつくる。
ぴこん、通知音がした。日下くんからだ。もう電車には乗ったんだろうか。
トーク画面を開けば、気の抜けた顔のくまのスタンプが三つ並んでいた。可愛い。つい口元がゆるむ。
とりあえずお返しに、眠たげな顔で親指を立てるネコのスタンプを連打してやった。
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