コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 僕ら今日から復讐フレンズ
- 日時: 2016/06/23 20:56
- 名前: YukiCHAN ◆znJHy.L8nY (ID: UJ4pjK4/)
—ー狙うはあの女!
……って、いうのが私たちの唯一の繋がりだったけど、あの女は勝手に急性アルコール中毒で死んでしまったらしい。
あの女がいなくなった今も、復讐だけがかつての繋がりだった私たちは、私たちらしく、ゆるく繋がっている。
自分のように、誰かへ恨みの炎を燃やす人間の、やりきれない思いを晴らしてあげながら。
それが人助けなのか、逆に人をだめにしているのか、分からないけれど。
「ねえねえ、聞いて! 依頼、引き受けてきちゃった!」
「またかよ……で、内容は?」
「彼氏の浮気だってよ。浮気相手の女をぼっこぼこのずったずたにしてほしいって!」
「はあ。怖いですね。女性ってのは」
「ま、やってやるか。今となっちゃ、他人の復讐こそが俺たちの役目だからよ」
Page:1
- Re: 僕ら今日から復讐フレンズ ( No.1 )
- 日時: 2016/07/07 00:51
- 名前: YukiCHAN ◆znJHy.L8nY (ID: UJ4pjK4/)
エピソード1「忘れるまでは」
田野川商店街。その一番端っこにある「たま雑貨店」が、私たちの集会場……というには大袈裟だけど、まあ、溜まり場みたいなところだ。
私たちが集まるようになって、何回目の春を迎えたのだろう。
2回目……いや、3回目か。
1回目の春。その時期、私はこの世とさようならをしてしまいたいほど心がくしゃくしゃだったことを、ぼんやりと覚えている。
傷はだいぶ癒えたけれど、それでも、この季節になるとやんわりと思い出す。
小窓から差し込む柔らかい日差しを少し睨んで、飲みかけていた栄養ドリンクを口に含んだ。
————
——
「ねえねえ、聞いて! 依頼、引き受けてきちゃった!」
荒々しく店のドアが開いた。
平日の13時。こんなにせわしく雑貨屋を訪れるお客さんなんて、いない。……と、するならば、恐らく、彼女だ。
だんだんだん! と音をたてながら、木の床が外れてしまいそうに力いっぱい店の奥へ進んできたのは、予想通り、私たちの仲間の1人——正影京子(まさかげ きょうこ)。
野生的なボサボサの黒いロングヘアを振り乱しながら、鼻息荒く、かなり興奮した様子で喋っているが、早口すぎて聞き取れない。長い前髪からちらりと覗く赤い瞳は、何かの期待に満ち溢れるように、きらきらと輝いていた。
「またかよ……声がでけぇぞ、京子。てかお前、学校の時間だろ。どうしたんだよ」
「サボった! それどころじゃないんだって、面白い話が手に入ったんだって!」
「だから、声がでけぇって……。サボってばっかりいやがって、またダブるぞ。あと何回高校2年生やりゃ気が済むんだお前は」
「んー、あと3回くらいかな? ……って、だから、それどころじゃないんだってば!」
やれやれ。って言葉が今にも吹き出しにでてきそうな顔つきで、京子に呆れているのは、「たま雑貨店」のアルバイト——そして、私たちの仲間の1人である、比子辻太郎(ひこ つじたろう)さん。
辻太郎さんは元アイドルだけあって、顔立ちは凄く整っている。けど、凄く口が悪くて性格も短気だから、私はあまり得意なタイプじゃなかった。そんな辻太郎さんに物怖じすることなく、ガンガン押していく京子のことを私は密かにうらやましくも思っている。
ちったぁ落ち着いて喋れ! そんなことを言いながら、読んでいた新聞を筒状に丸めて京子の頭をポンと叩く辻太郎さん。渋ってないで、京子の持ってきた「面白い話」を素直に聞いてあげれば良いのに。そんなことは言えないから、私はやっぱり小窓の向こうの日差しと睨めっこを続けていた。
……騒がしいな。
栄養ドリンクの最後の一口を飲み干して、空き瓶を机に置いた。
これ、私が口を開かないと、先に進まないパターンだな。
ぎゃあぎゃあと言い合う2人の話をあくまでも申し訳なさそうに、軽く咳払いをして遮った。
「……依頼、なんですよね。どんな内容なんですか?」
それは、私たちの復讐劇が始まる、合図だ。
- Re: 僕ら今日から復讐フレンズ ( No.2 )
- 日時: 2016/07/08 01:31
- 名前: YukiCHAN ◆znJHy.L8nY (ID: UJ4pjK4/)
「……依頼、なんですよね。どんな内容なんですか?」
私の台詞と同時に、京子と辻太郎さんの声がぴたりと止まる。
突然の静粛にはあまりに不釣合いなラテン調の店内BGMだけが、数秒私たちを包み込んでいた。
つってんてん、つってんてん。変なリズムで、ダンスでも踊るようにローファーを動かしながら京子が私に近づいてくる。極限まで近づかれると同時に、バン! と京子が勢いよく机を叩いたことの衝撃で、空の栄養ドリンクの瓶が床に落っこちた。
……びっくりした。
これには思わず、履いているリクルートスーツのスカートの裾をぎゅっと握ってしまった。私はきっと怯えた顔をしてしまっていると思う。こういう、些細なことでビビッてしまう小心者の自分が嫌いだ。
生まれつき背の低い私。5つも歳下の京子よりも20センチくらい身長差もあり、俄然頼りなく見えることだろう。
腰に手を当てた京子が私を見おろし、ニカっと笑った。
あ。口の右端のとろこ、トマトソースみたいのがついてる。今日のお昼、スパゲッティでも食べたんだろうか。なんて、どうでも良いことを考えてしまった。
「良くぞ聞いてくれました! それでこそ200社不採用続きの伝説の求職者、森野美子(もりのみこ)! 圧倒的な質問力だ〜!」
200社不採用は今関係ないでしょ!
それにまだ落ちたの198社だから!
「今回の依頼は、なんと、浮気! 浮気! 浮気でーす!!」
びしぃ! っと天高く拳を突き上げた京子が、声を張り上げた“浮気”というワードに、辻太郎さんが眉間を摘まんで首を左右に振るう。
……そっか。辻太郎さんは去年の冬、大好きだった彼女を浮気で失ったんだっけ。それもその浮気相手が自分の親友だったなんて、相当堪えると思う。実際、クリスマスパーティーでフライドチキンに別れた彼女の名前をつけて抱きしめて泣いていたくらい取り乱していたし。やけ酒のせいで酔っていたのもあるだろうけれど。
「っち。浮気かよ。悪いけど俺は乗り気じゃないぜ。世の中、男と女のもつれだなんて腐るほどあるだろうよ。それをいちいち、復讐の手伝いなんてしてたらキリがねぇ。却下だ、却下」
唇をきゅっと噛んで、おもむろにレジの中のお札を数え始めた辻太郎さん。ああ。拗ねているんだ。この人は、虫の居所が悪くなったり、ばつが悪くなったりすると、意味なくレジの中のお金を数え始める癖があるから。
「めんめん女々しい辻太郎、他人名義だった恋愛なんてさっさと忘れるが良い! 今回の依頼は受けないと損だよ、絶対に面白い!
なんてったって、普通の浮気じゃないんだよ、スーパーすっげー浮気なんだからっ!」
- Re: 僕ら今日から復讐フレンズ ( No.3 )
- 日時: 2016/07/08 23:41
- 名前: YukiCHAN ◆znJHy.L8nY (ID: UJ4pjK4/)
**
電車に乗って15分。
結局頑なについてこなかった辻太郎さんのことを、バカ、とか、意気地なし、とか、むっつりスケベ、とか言いたいだけ言っている京子に続いて改札を出た。
仕方ないですよ、辻太郎さんは店番もあるし、それに元カノの浮気の傷もまだ癒えてないんでしょう。そんな台詞で京子を宥めながら、ハンカチで額の汗を拭った。
正直、辻太郎さんが来なくてよかったと思う。浮気にトラウマを抱えている人を連れて他人の浮気の復讐なんて、やりづらいから。
それにしてもまだ4月だってのに、今日はやけに暑い。
いや……もう4月だから暑いのか。どっちでも良いけど、とにかく、黒いリクルートスーツが太陽の熱をいっぱい吸収して体温を上昇させてくる。
京子によると、依頼人は、どうやら京子の通う高校の1年生の女の子らしく、今も学校の体育館裏で独り寂しく泣いているらしい。
『スーパーすっげー浮気』と言っていたけれど、一体全体、どんな浮気なのだろうか……。
「京子。今回の依頼人と復讐相手の関係って、どうなんですか? 浮気が原因ってことは、恋人同士だったってことですよね?」
「ノンノンノン。今回の復讐はね、ちっと複雑なのさ。依頼人ちゃんが望んでいるのは、恋人への復讐じゃなく、恋人の浮気相手に復讐をしてほしいってことなのよ」
浮気相手への復讐……。
そうか。前に本で読んだことがあるけれど、男と女の怒りの対象って微妙に違っていて、男の場合浮気をされたら彼女を恨む人が多いけど、女の場合はその浮気相手を恨みの対象として見ることが多いと書いてあったような気がする。
要するに、男と女の脳の違いってやつか。
「それもね、浮気相手の浮気相手ってやつなのさ」
「……は?」
「ふっふーん、美子、わけわかんなくなってきたでしょ? ま、こっから先は、依頼人ちゃん本人に話を聞くのが早いね。さーて、学校まで走りますか!」
発言に頭が追いついて行かないうちに、走って行ってしまう彼女に追いつこうと、私は必死で地面を蹴った。
Page:1
この掲示板は過去ログ化されています。