コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- 雨と野良猫
- 日時: 2016/09/05 21:30
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: GlabL33E)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=37477
【挨拶】
初めまして、ゴマ猫です。
コメディ・ライトで書かせて頂いて、4作品目になります。
これまでずっと短編をちょこちょこ書きながら、長編を書き溜めていました。なんとか長編の目処がついたので、ようやくといった感じでアップできます。「またか」と思われる方も居るかと思いますが、今回もジャンルはラブコメです。はい。
コメ返信や拝読など出来ないまま、長らく経ってしまいましたが、これから少しずつやっていきたいと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します。
上記URLは、同じ板で書いている短編集です。「長い物語はちょっと」というお客様は、よろしければこちらをどうぞ。
〜あらすじ〜
「ごめんなさい、あなたとは付き合えません」
想いを寄せていた相手、秋野沙夜に告白してフラれた逢坂優斗は停滞していた。
季節は夏へと移り変わろうとする中、激しい雨が降る日に一匹の猫と出会う。偶然にも捨てられた猫を見つけてしまった逢坂優斗は、飼い主探しをする事に。初めての出来事に戸惑いながらも奔走する毎日。
停滞していた日々が少しずつ変化していく。
【お客様】
立山桜様
織原ひな様
詩織様
てるてる522様
河童様
【目次】
プロローグ>>1
一話〜三話
>>2-4
四話 五話〜七話
>>7 >>10-12
八話〜十話
>>15-17
十一話〜十二話>>21-22
十三話〜十五話>>25-27
【Side View】>>28
- 十四話 ( No.26 )
- 日時: 2016/08/23 23:45
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: MHTXF2/b)
あの後は結局、親父は荷物を纏めると一時間もせずに出かけて行った。
行き先は、秋野さんのお母さんが入院している病院らしい。詳しい経緯までは分からないが、秋野さんのお母さんの容体が良くなる事を願うしかない。
滞在は一週間と言っていたので、帰ってくるまでには猫の飼い主も見つけておかなければならない。それと——秋野さんとの距離感を少しだけでいいので改善したい。せめて、お互いがギスギスした雰囲気にならない程度には。
「……今日もダメ、か」
放課後、今日も今日とて飼い主探しは難航した。
今日は文化部を中心に部室を回ってみたが、昨日と同じ様な反応が返ってきただけだった。連日降り続く雨のせいで、屋上に出て気分転換という訳にもいかない。こうなってくると、焦燥感に駆られ気分も滅入ってくる。
シトシトと小雨が降る中、ビニール傘を差して歩く。降り続いた雨のせいで、道路のあちらこちらに大きな水溜りが出来ている。
今日は親父が居ないので、家に帰る前にスーパーに寄って何か買っていかなきゃな。そんな事を考えながら歩いていると、いつもの旧橋に差し掛かった所で見知った顔を見つけた。
「あれ?」
セミロングの黒髪に、大きな瞳、華奢な体躯、そこに佇んでいるだけで、まるで映画のワンシーンのように絵になる。霧咲雨音さん、お隣さんで、先日俺が猫を拾った時に色々アドバイスをくれて、夕飯まで作ってくれた親切で少し独特の雰囲気がある子だ。
旧橋の隅に立ったまま、水色の傘を差して、流れる川を眺めている。水面には落ちてくる雨粒で細かな波紋が広がっていた。降り続いた雨のせいで、川の水嵩が増している。これ以上振り続けるようだとこの橋は危険かもしれないな。それにしても、霧咲さんは一体何を見ているんだろう?
少し不思議に思いながらも、俺は霧咲さんに声を掛ける。
「おーい、霧咲さん」
「ん、逢坂君。こんにちは」
俺が背後から声を掛けると、霧咲さんはゆっくりと振り向いた。
相変わらず表情の変化が乏しいのと、声音に抑揚が無いのでイマイチ機嫌が分からない。
学校の帰り——という訳ではなさそうだな。霧咲さんは既に私服だ。カーキー色の七分丈パンツに、英字のロゴが入ったラフな白シャツ。少しボーイッシュな服装だ。
そういえば、プライベートな話はあんまり聞いていないな。両親が不在気味というのはこの前聞いたけど。まぁ、知り合ってからそこまで経ってないし、どこまで踏み込んで聞いていいのかも分からないので、迂闊には聞けないんだけどな。
きっとこの辺の踏み込めない距離感みたいのが、秋野さんともあるのかもしれない。いや、もちろん秋野さんとは他の要素が大きい事は言うまでもないが。
「今日はどうしたの——って、買い物か」
俺が尋ねる途中で霧咲さんは、片手に持ったエコバックを見せてきた。中には野菜やら肉などが入っている。
なるほど、一人が多いとは言っていたけど、ほぼ毎日のように霧咲さんは料理をしているのか。本当に偉いな。
「逢坂君は、今帰り?」
「あぁ、これから帰って猫に餌やって、夕飯の準備かな」
最初こそ心配して学校まで連れて行ったりしたが、あいつは意外に賢い奴という事が分かったので、俺は特に心配していない。
きっと帰ったらトイレをして、餌をあげたらまた眠るか、一人遊びをするんだろう。寝る前にちょっと俺が遊んでやればいいだけだし。
が、問題はもう一人の客人の方だ。
昨日の一件で秋野さんの怒りをさらに買ってしまったので、今日もコミュニケーションは難航すると思われる。それに、今日から親父も一週間帰ってこない。緩衝材の無い我が家で何が起こるかなんて予測不能。地雷原を歩くような緊張感を持って接しなければならない。いやマジで。
猫の飼い主探しに、家での秋野さんとの距離感。難題は続く。
「何か作るの?」
抑揚のない声音で問われて、俺は苦笑する。
「いや、買う。その方が安い」
ハッキリ言って、俺も秋野さんも料理の腕前は同じ(昨日の様子から察するに)くらいだ。
目玉焼きも卵かけご飯もそう変わらないだろう。まさか三食とも目玉焼きという訳にはいかないし、三食とも卵かけご飯という訳にもいかない。
もちろん、練習していけば作れるようにはなると思うが、その手間や費用を考えると買った方が断然お得なのだ。どうせ一週間だし、問題ないと思う。
「良かったら、私が何か作ろうか?」
透き通った眼で俺を覗き込むようにして、霧咲さんはそう言う。
嬉しい申し出だけど……いや正直、霧咲さんの料理が食べられるのなら、光の速さでお願いしたいんだけど、秋野さんとの絡みを考えると非常に難しい。せめて俺がもう少し普通に話せるようになってからの方がいい気がする。
「ん? 都合悪い?」
不思議そうな眼差しで、霧咲さんが問いかける。
俺は心で血の涙を流しながら、作ったような笑みを無理矢理浮かべた。
「いや、今日は知り合いが来ていてさ。色々気を遣わせると思うから。悪い」
「ん、なら仕方ないよ。あっ、こんな時間。私、そろそろ帰るね」
霧咲さんは思い出したかのように小振りな腕時計で時刻を確認すると、そう言う。
基本的に霧咲さんは感情の起伏が乏しい。けれど、なぜか寂しさが混じったような声音で言われた気がして、申し訳なさが込み上げてくる。踵を返して帰ろうとする霧咲さん。俺は買い物をしていかなければいけないので、ここからは別の道だ。
何かこのまま別れるのは嫌で、霧咲さんの料理はまた食べたいって伝えておきたくて——
「あ、また今度! ……また今度作ってくれないか? その、この間の料理、凄く美味かった」
だから、思わずそんな言葉が出た。もちろん嘘じゃない。本当に霧咲さんの料理また食べたいのは事実だ。あの時から、あの味は忘れられない。
「ん、また作るね」
振り返って、言葉少なに返事をした霧咲さんの相変わらず表情の変化は乏しく、感情は読めない。
けど、少し嬉しそう微笑んで見えた気がしたのは俺の願望だろうか? 霧咲さんに対しては俺の願望が先行してしまっている気がするな。都合の良い解釈ばかりにならないように注意は必要かもしれない。秋野さんの事もあるし、な。あの時も勝手に盛り上がって、勝手にフラれて、勝手に落ち込んだ。そして、今は毛嫌いされている始末。
本当に人生ってのはままならないものだ。たかだが十何年ぐらいしか生きていない俺が言うのもおかしいけどな。
弱い雨が降り続く中、霧咲さんの背中が見えなくなるまで見送ってから、俺はいつものスーパーへと歩き出した。
- 十五話 ( No.27 )
- 日時: 2016/09/03 18:55
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: y36L2xkt)
「しゃーせー。あっ、ちっす」
通い慣れたスーパーの自動ドアをくぐると、ここ最近で見慣れた顔が視界に飛び込んでくる。長く伸びた茶髪に、耳ピアス、首元がよれたTシャツの上から店のエプロンを付け、ダメージ加工され、膝の部分がバックリと裂かれたジーンズ。相変わらず見た目がチャらい。
「どうも、じゃ」
「ちょ、なに急いでんすか? トークしましょうよトーク」
雑に返事をして横をすり抜けようとすると、腕を掴まれる。
またかっ。前田といいコイツといい、どうして俺は変な奴に絡まれるんだ。ギロリと睨みつけてやるが、チャラ店員は意に介さず、カラカラと笑う。
「変顔好きっすね、俺的にはもうちょいアレンジ加えた方がおもしろ——」
「睨んでるんだよ! 察しろよ!」
「今日も猫の餌っすか?」
「……話を聞けよ」
別に話したくなどないのだが、無視されるとそれはそれで腹が立つ。
というか、もう敬語とかいいか。そういうの特に気にしなそうだし、面倒になってきた。
「違う。今日は夕飯を買いにきたんだよ」
「おっ、なら今タイムセールやってるんで、弁当とか安いっすよ」
「マジ?」
おい、初めて有益な情報くれたぞ。今までは猫の餌の場所を聞いても知らなかったし、急いでいるのにトークしましょうよとか言って、イラつかせられたけど。セールで安くなっているのなら財布にも優しいし。
一応、一週間分の生活費は親父から貰っているのだが、無駄遣いは出来ない。秋野さんの分も預かっているので渡しておきたいんだけど、タイミングが合わないんだよな。
「マジっすマジっす。今日はハンバーグ弁当が五十パーオフっすね」
俺が反応したせいか、チャラ店員は嬉しそうにブンブンと首を縦に振って、俺の腕を掴んで引っ張る。
「お、おい、引っ張るな!」
「急がないと売り切れちゃうっすよ」
グイグイと引っ張られて、弁当が置いている総菜コーナーへ。
セールという事と時間も時間だからか、棚に置いてある弁当やおにぎり等は少なくっており、残り僅かという状況だった。チャラ店員が言うように急いで良かったかもしれない。秋野さん分も買っていった方がいい、よな? ハンバーグ好きだろうか?
平棚に並べられたハンバーグ弁当を一つ手に取り、二つ目を手に取ろうした瞬間、伸びてきたてに最後のハンバーグ弁当を掠め取られた。
「ちょっと、今俺が——なっ!?」
「やぁ、すまないね逢坂優斗。つい君と同じ物が食べてみたくなってね」
そこに居たのは、前田憲之だった。
七三分けで油を頭から被ったようなテカり具合、顔を覆い隠すような大きな眼鏡、一度帰ったのか制服でなく私服だった。赤と黒のチェックのシャツをINして、夏だと言うのにボタンを最後までキッチリしめている。……いや、前田の服装の情報なんて正直どうでもいいのだ。だが、最後のハンバーグ弁当を奪った罪は償わさせねばなるまい。
「……その弁当返せ。今なら許してやる」
「君が持っている弁当となら、交換してあげてもいいよ」
口の端を釣り上げて、前田は不気味に笑う。
それは意味がないだろうが。コイツは俺の嫌がる事を率先してやってくるな。あれか? 俺が部活の勧誘を断ったから嫌がらせでもしてるんだろうか?
「あれ、知り合いっすか?」
不意に俺の後ろに居たチャラ店員がそんな声を上げる。
「はっはっは、ただの知り合いじゃない。親密な、だよ」
「呼吸するように嘘を吐くんじゃねぇ」
前田がチャラ店員の声に気付き、そんな事を言うものだから思わず語気が荒くなる。
ってか、どうでもいいが、ハンバーグ弁当を返せ。手を伸ばして、前田の弁当を奪い取ろうとするが、手首を返してヒラリと躱されてしまう。くそっ、意外に反応が早い。
「おっと、そんなに僕と話したいのかい?」
前田は俺に近寄ると、耳元でそう囁く。あまりの気持ち悪さで、鳥肌が全身に立つ。その気持ち悪さと言ったら、黒くて皆が嫌うあの虫が顔面にへばり付いてきたような感覚だ。うぅ……寒気がしてきた。
「やめろ、俺に近寄るな!」
「おや、それは残念だ」
即座に距離を取るが、目的の物(ハンバーグ弁当)は奪えなかった。
くそっ、この間から気持ち悪い事ばっかり言いやがって。聖水とか掛けたら浄化されたりしないだろうか? なんとなくゾンビとかアンデット系に近い部類だと思うし、光とか聖なる力には絶対弱いだろ。俺はどうにもコイツは苦手だ。
そんな俺の怨嗟の視線なんて意に介さず、前田は買い物カゴに弁当を入れる。
「あぁー、それラストっぽいすね。他にも値引きしてるのあるっすけど」
チャラ店員は少し申し訳なさそうに他の棚に視線を向けながら俺に問い掛ける。
確かに他の棚には、おにぎりや蕎麦がまだ残っている。
けど、おにぎりは人気の具ではなく、普段ならそうそう選ばないような、シャレで作っちゃいました的なゲテ物の具だ。かと言って、夕飯が蕎麦というのも俺には物足りない。
「……何でお前がここに居るんだよ?」
「少し調べものをしていてね。小腹が減ったので来た訳だが——なんだい? 僕がここに居るとマズイ理由でもあるのかい?」
「べ、別にある訳ないだろ」
咄嗟にそう言うが、コイツには色々知られたくない事がある。
それは俺の住所もそうだが、秋野さんが今現在において、保護者不在の俺の家に住んでいるという事なんかが知られたらどんな事態になるか想像もつかない。
「ふふん、嘘が下手だね。顔の筋肉が動いているよ?」
「——なっ!?」
思わず自分の顔を触って確かめてしまう。だが前田は、そんな俺の様子を見てから堪え切れないといった感じで吹き出して笑った。
「ふっ、ふははっ、嘘だよ。君は素直だね」
「……こ、この野郎」
「まぁまぁ。よく分かんないっすけど、お店でケンカすんのやめましょ。ほら、パインむすびとか俺のオススメっすよ」
「そんなもん食えるかっ!」
強引にこの場を収めようとしたのか、それとも空気を読んでいないだけなのか、チャラ店員は輪切りにしたパインの間に挟まったおにぎりを勧めてくる。
時間が経ったせいか、白米の部分がパインに侵食されて黄ばんでいる。どう考えてもパインと白米はミスマッチだ。考えた奴出てこいと大声で言いたい。
「じゃあ、こっちの岩むすびとかどうっすか? 岩みたいに硬くて、歯ごたえ抜群の新作おにぎりっす」
「……分かった、お前の趣向はよく分かった」
一瞬でも今日はまともな事を言うじゃないか、と思った数分前の俺を殴ってやりたい。
前田と違って、天然でふざけた事を言ったりやったりしてくる分タチが悪いな。
「すまないね、うちの者が迷惑を掛けて」
「誰がうちの者だ!」
今度は前田が嘆息混じりにチャラ店員にそう言ったので、速攻で突っ込む。もう処理しきれない。さっきから声を上げ過ぎたせいなのか、周りの人達からは奇異の視線を向けられている。
あぁもう、何でこんな事に……。
「僕は本当に食糧を買いにきただけだったんだが——」
前田はそこまで言って、チャラ店員からチラリと視線を俺に移す。
獲物を狙う蛇のような視線がまとわりついてきて、正直なところ弁当などどうでもいいから逃げ出したくなった。
「思わぬ収穫だったよ」
前田は、そのまま舌なめずりでもしそうな表情でそう言う。
ひぃぃ! と、鳥肌が! とりあえず今討っておかないと厄介な事になる! 武器は、何か武器は無いのか!? パニックになりそうな所で、チャラ店員が俺の前に割り込む形で前田に駆け寄った。
「おぉ、このパインむすびの良さが分かるんっすね! これなんかもどうっすか?」
自分のお勧めを気に入られたと勘違いしたのか、にこやかに笑いながら前田に別のお勧めを説明していくチャラ店員。だが、そんな事はどうでもいい、本当にどうでもいい。
とりあえず今の選択肢は前田を討つか、全力で逃げるかだけだ。さもなければ、家の特定をされた上に要らない情報を前田に与える事になる。運命の悪戯か、今は家に秋野さんが居るのだ。そんな情報をこの男に握らせたら、どんな事態になるのか考えるだけで恐ろしい。
俺は前田がチャラ店員と話している間に適当におにぎりを掴んで、その場を足早に後にした。
- SideView ( No.28 )
- 日時: 2016/09/05 21:23
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: GlabL33E)
その日、秋野沙夜はいまだ見慣れない天井を眺めたまま、居心地の悪さを抱えていた。
「……はぁ」
ベットに仰向けのまま寝転がっていたが、体勢を変えて横向きになる。
視線の先に木製の机、その横に背の高い本棚。使われなくなってかなり経つはずなのに、綺麗に掃除してあったのだろう。年季が入っているのにも関わらず、埃もなく汚れらしい汚れも見当たらない。
降り続いた雨のせいで、少しジメっとした布団が肌に付くと不快感を覚えた。
「どうして私、こんな所に居るんだろ?」
誰に呟いた訳でもない言葉。その言葉は誰も居ない空間に浮かんで、すぐに消える。
秋野沙夜がここに来たのはつい数日前だった。家に帰ると、母親から急に遠方に出張に行くという事を知らされる。当然、そんな話は沙夜にとって寝耳に水の話で動揺した。
ついて行きたいと沙夜はお願いするが、学校がある沙夜はそこに連れていけないと沙夜の母は言う。けれど、家に一人で残しておくのは危ない、と。
そこで母の昔の知り合いだという人を紹介されて、とんとん拍子の内に色々な事が決まり、ここへやってきた訳である。
近所だとは言っていたが、まさか自分に告白してきた男子の家だったなんて想像すらしなかった。それはそうだろう。一体、どんな確率でそんな事があるのだろうか? きっと日本中……いや、世界中探したってそんな例はないかもしれない。
だが、実際にそれはあった。優斗が悪い人間ではない事は知っている。彼が沙夜にとって、一時期の間だったが心の癒しであった事も事実だ。
もう一度ゴロンと寝返りを打って、体勢を変えてみる、今度は白い壁が目に入った。
「それにしても……」
不意に脳内で先日の出来事がフラッシュバックする。
ほんの少しのつもりだった。大体の荷物を運び終えると、優斗の父親である毅はすぐさま仕事へと戻っていった。普段はしない力仕事と夏の暑さも相まって、じっとりまとわりつく汗がどうにも不快で耐えられず、お風呂を借りた。そこまでは良かったのだが——
「——うぅぅっ! やっぱり見られた、よね?」
まさかそこで優斗と鉢合わせするなんて思ってみなかった。
まさに最悪のタイミング。一糸纏わぬ姿を見られてしまったのだ。咄嗟にタオルで肌を隠して、渾身の力を込めた平手打ちを顔面にお見舞いしたが、どうやら優斗の記憶までは奪えなかったらしい。やはりあの後に追い討ちで何発か叩いておくべきだったか? 沙夜はそんな事を考えながら、両手で顔を覆ったままベットの上をゴロゴロと転げる。
あれ以来、沙夜は優斗とまともに話もしていない。
ここに居る間は毅にも迷惑を掛けないようと、沙夜なりに配慮をして話しかけてみたのだが、どうにも優斗の考えている事は分からない。傘を忘れた沙夜に傘を渡して自分は濡れて帰ったり。かと思えば、目玉焼きが作れると言った沙夜をバカにしてみたり。
はぁっと、沙夜は深い溜め息を吐く。
「……本当に意味分かんない」
優斗と話すようになったのは少し前の事。
沙夜の家が離婚だなんだと、毎夜揉めている時だった。両親の喧嘩のきっかけは、お互い仕事の帰りが遅く、すれ違いからの猜疑心が生んだものだった。
沙夜は最初こそ両親の不和を何とかしようと色々と手を尽くしてはみたものの、夫婦喧嘩は徐々に過熱していき、沙夜の願いも虚しく最後は怒鳴り合い、お互いを口汚く罵り合うようになっていった。
あんなに優しかった父が、あんなに優しかった母が、自分の目の前で憎悪の感情を剥き出しにしていた。初めて父も母も怖いと思った。どす黒い感情を辺りに撒き散らしながら叫ぶ姿。愛していると言っていたのに、こんなにも簡単に崩れてしまうような関係だったのか、と。そんな状況の中、忙しかった沙夜の両親は次第に沙夜を放置するようになっていく。————孤独。沙夜に残された感情はそれだった。
始めはそこまで感じなかった。けれど、段々とそんな日々が続くにつれ、心の中に生まれた感情。もともと友達が多い方ではなかったし、学校では上辺をなぞった関係の友達が居る程度。こんな重たい身の上話を出来る関係ではない。その後もいくら沙夜が話しかけても、父や母は応えてはくれなかった。そうして膨らむ想いは負の感情ばかりで、沙夜は次第に学校でも孤立するようになっていった。
そんな時に見かけたのが優斗だった。沙夜は周りと上手く馴染めない優斗を見て、どこか自分に似たシンパシーを感じたのかもしれない。沙夜が話しかけると、優斗は不器用ながらも答えてくれた。優斗との他愛のない話、それだけなのに沙夜は自らの心が癒されていくのが分かった。
「…………」
きっと沙夜にとって、あの時は優斗が唯一の救いだったのかもしれない。
それだけに、優斗が告白してきた時は驚いたのだ。内心では少し嬉しいと思う気持ちもあったのかもしれない。けれど、沙夜は断った。その時の胸の内は沙夜にしか知りえない。
「告白なんてしてこなければ、いい友達で居られたのに」
そんな呟きと同時に、玄関のドアが開く音が下の階から聞こえてきた。
- 雨と野良猫 ( No.29 )
- 日時: 2017/01/30 14:54
- 名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: q6B8cvef)
ゴマ猫さん
こんにちは、銀竹です!
近々とか言いつつ遅れてしまいましたが、「雨と野良猫」更新分すべて拝見しました^^
優斗くん、素敵ですねー……強面で不器用だけど、純情で優しい。
ゴマ猫さんの執筆作品はおそらく全部読ませて頂きましたが、一番好きな登場人物です!
まず最初に猫を拾うシーンで、安易に拾おうとはせずちょっと躊躇ってたあたりから、私の心は奪われました(笑)
ちゃんと後先考えられる、責任感の強い良い子なんだなぁ……と。
しかも里親を探す間、スーパーの閉店時間ギリギリに駆け込んでまでミルクを買いに行ってあげたり、トイレのしつけまでしてあげたり。
加えて、動物の飼育経験がないのに、猫が室内で排泄しちゃったときも嫌な顔一つしないってのは、本当素敵過ぎますよ!
ちょくちょく見せる律儀さ(人間観察研究部に入る詐欺して秘密基地を使うのは良くない、とか、秋野さんに断られても傘貸してあげるシーンとか)、あと年相応に雨音ちゃんの手料理で舞い上がっちゃうところも可愛いですw
かっこよさ、常識、可愛さ、優しさ、これら全てを兼ね備えているなんて、こんな類稀なイケメンがいるだろうか。いや、いない!
彼のこういったイケメンっぷりは、きっとお父さんの人柄もあるんだろうなぁと思いました^^
お父さんも絶対イケメンですしね、ええ。
お父さんが初登場した瞬間から、優斗くんはお父さん似で、かつこの二人はイケメン親子だということを即座に確信しましたよ(キリッ)
今はまだ高校生なので、見た目に惑わされがちですが、将来的には優斗くん絶対モテモテになるに決まってますね。
秋野さん惜しいことしたなぁ><
雨音ちゃんの女子力ありまくりな感じも、いいですねー^^
いつか彼女の満面の笑みを見てみたいです!
猫に会っていくかと尋ねられて、寝てるなら今度でいいと遠慮する彼女の優しさも、見ていてほっこりしました。
なんだこの話、良い人多すぎかよ。
秋野さんも、最初は「優斗くんフるし、冤罪なの分かってるのに裸を見られたくらいで騒ぐし」と思って、正直あまり好きじゃなかったのですが、後半お母さんの入院の件とか、>>28を読んだら印象変わりました。
この子も多分、いろんな事情を抱えてて、きっと素直になれない子なんだろうなぁと。
物語自体はまだ序盤なので、内容というよりは私が優斗くんへの愛を語っただけのコメントになってしまいましたが、個人的にこの「雨と野良猫」は、登場人物が好きですね^^
チャラ店員と前田くんも何気にツボです(笑)
二人ともうざいけど、なんだかんだ良い奴ですよねw
私のほうがチャラ店員とトークしたいです、トークー!
ゴマ猫さんの作品って、基本的に嫌な登場人物って出てこないので、皆可愛いなと思いますが、今後私は優斗くんの恋を応援し隊の隊長を名乗ります(笑)
作品の雰囲気の暖かさ、文章力の素晴らしさはいつもどおり、言うまでもなく。
私は今のところ雨音ちゃん派ですが、どんな形でも、優斗くんの青春が素敵なものになるように、猫の里親が無事見つかるように、そしてゴマ猫さんの執筆活動が順調に進むように、お祈りしています^^
長々と失礼しました!
今後も更新がんばってくださいー^^
- Re: 雨と野良猫 ( No.30 )
- 日時: 2017/02/01 23:21
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: EabzOxcq)
>>29 銀竹さん
こんばんは、いつもお世話になっております。
いえいえ! もうお暇な時に感想頂けるだけで充分ありがたいです。コメントありがとうございます!
優斗が好きだと言ってくれたのは凄く嬉しいです!
ゴマ猫が描く話は大抵主人公は人気が無い事が多いので……。こう、不器用な男子を書くのに色々想像しながら書いていたんですが、優斗の人柄が分かるように一人称で心理描写を多めに(まぁ一人称は好きなのでよくやるんですが)してみたり、口調をちょっとだけ荒くしてみたり、試行錯誤しながらキャラ作っていました。
そうなんです。優斗は見た目が怖いので敬遠されがちなんですが、責任感も強いし根は凄く良い奴なので、ぶつぶつ言いながらもちゃんと人の言う事を聞いたり、面倒を見たりする良い子なんです。銀竹さんにイケメンイケメン言われて、優斗もさぞ喜んでいるでしょう! ありがとうございます!
優斗の父親の毅は自称イケメンですけどね(笑)
けど、頼れる父親で外見というより、生き方が格好いいのかなぁと作者的には思っています。
ありがとうございます〜!
雨音は沙夜と真逆の性格なので、比較的無口でおとなしい子です。ちょっと世話好きなところがあるので、悪い人に騙されないか心配ですね(おい)
彼女も色々とあるのですが、それはまた追々書いていく事にします。
沙夜はちょっと難儀な性格をしているので、まだ拗れます(笑)
銀竹さんが仰られた様に理由はちゃんとあるんですけどね。これからその辺もちゃんと掘り下げて書かねばと思っております(遠い目)
いや本当ですね。まだまだ序盤過ぎて、感想を書いて頂いたのに申し訳なさが込み上げてきました。
ありがとうございます〜。チャラ君はうざいですが憎めない奴で、前田は優斗への興味を拗らせてストーカーちっくになっている変人です(笑)
結構個性的な二人なので、どうかなぁ? とか思ってたのですが、気に入って頂けたなら嬉しいです!
これからが見どころかなぁと思うのですが、去年から更新ストップしているので、今書いている短編が終わったらちゃんと物語を動かしてあげたいなぁと思ってます(汗)
言われてみると、ゴマ猫の作品にあまり悪っぽい悪は出てこないですね。ただ単に自分が書きたくないだけの可能性がありますが(笑)
優斗の応援隊長……! 既にイラストやら動画を頂いていて、感謝の言葉しかありません。本当にありがとうございます!
そう言って頂けると書いていて本当に良かったなぁと思います。まだまだ未熟ですが、これからも頑張って少しでも面白かったと言ってもらえるような作品にしたいと思います。
また銀竹さんの小説にも伺いたいなぁ〜と思っていますので、その時は宜しくお願い致します。コメント、ありがとうございました〜!
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