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私と××な彼
日時: 2016/09/20 14:59
名前: 東木 (ID: d4ff9UDO)

「由紀は俺から離れられないよ」


妖艶な笑み。

震えるカラダ。


私はきっと、言葉の通り

彼から離れられない。


**

はじめまして。東木です。
拙い文章ですがよろしくお願いします。

あんまり長くせずにさっさと完結させたいので、
展開早いと思います。

Page:1



Re: 私と××な彼 ( No.1 )
日時: 2016/10/07 21:21
名前: 東木 (ID: d4ff9UDO)


「由紀、さっきの男なに?」


低い、地を這うような声が誰もいない教室に響いた。

睨めつけるように鋭い彼の視線は、一点もずらすことなく私を刺している。


「えっ、と……」


彼の言う「さっきの男」は、たぶん同じ日直の男の子のこと。


日直あとはやっとくから帰っていいよ、なんていう他愛のない会話。

だけど、彼にはそれが気に障ったらしかった。


「俺、由紀に他の男と話していいなんて言ったっけ?

俺の記憶があってるなら、そんなこと言ってないけど」


「ごめん、なさい……」


彼、新島 郁人は私と付き合ってるわけじゃない。

彼に私が必要なわけじゃないし、逆も然り、だ。


でも彼は私を縛り付ける。


きっと、自分のそばにいてくれる誰かが欲しいから。


たまたま、私が彼の隣にいたから縛り付けられているだけで。

誰でもいいんだよ、彼は。


「由紀の目には俺だけが映ってればいいんだよ。

もう他の男と喋んないでね?
俺も由紀だけがいればいいんだから」


消えそうな、薄い声。

さっきの威圧感のある声とは大違い。


彼は私の肩に顔を埋めると、ね、と念を押した。


いつもは完璧な彼の、弱々しい背中。


付き合ってもないのに束縛されて、挙げ句の果てには他の男と喋んないでね、なんて。

そんなことをされても、彼から離れられないのは。


きっと、この背中を守ってあげたいと思ってしまうからだろう。


そして、きっと彼は私がそう思うことも分かってる。

分かってるから、こんな弱い背中を見せるんだ。


ずるいよね。

Re: 私と××な彼 ( No.2 )
日時: 2016/10/02 10:28
名前: 東木 (ID: d4ff9UDO)

物心ついたときから、彼はずっと私のそばにいたと思う。


家も近所だったし、親同士も仲が良かったからずっと一緒にいた。

いっくん、ゆきちゃん、なんて名前を呼び合って。


いつまでも一緒にいても飽きなくて、私はいっくんが大好きだった。


いつからだったんだろう。

彼が壊れたのは。


中学の二年生にあがるころ、いっくんは変わり始めた。


なんていうか、垢抜けた。


物静かな感じだったけれど、派手なグループの子と絡むようになってから、いっくんはみんなの人気者になった。


そんないっくんと一緒にいると、自分が惨めに感じて。

私は、自分から距離を置いた。


ちっぽけな自分の、せめてものプライド。


いっくんも私が距離を置いたことに気づいたんだと思う。


「由紀ちゃん、俺何かした?」


違う。

いっくんはなにも悪くない。


悪いのは、惨めな私。

なのに、私は。


「いっくんの、せいだよ」


なんて思ってもない言葉。


いっくんのせいじゃない。

そんなこと、思ってないの。


でも、いっくんが私のそばにいることでいじめられたのは確かだった。


それをいっくんが人気者になったからだなんて、勝手に理由付けて。

まるでいっくんが私がいじめられていることの元凶みたいな言い方して。


余計に、惨めになった。


それからいっくんと私の仲は以前にも増してギクシャクしていた。

ふと、目が合っても私がそらす。


それでもいっくんは私を見つめたまま。

そんな、釣り合わない思いが募ったときだったのかな。


土砂降りの雨の日。


傘もささずに私の家の前で立ち尽くす彼を見て、綺麗だと思った。

高くなった背丈も、骨ばった手も。

髪から滴り落ちる雨水でさえ、綺麗だと思った。


そんな彼は、弱々しく口を開く。


「お母さんとお父さんが、交通事故で死んだって……」

Re: 私と××な彼 ( No.3 )
日時: 2016/10/07 21:33
名前: 東木 (ID: d4ff9UDO)



涙とも雨とも分からない雫が、彼の綺麗な頬を伝う。


ガラスの芸術品みたいな彼は、もう壊れる寸前だった。


「……え?」


「さっき、交通事故で……即死、だったって……」


うそだ。

そんなの、うそ。


だってそんなのあまりにも酷すぎるじゃない。

まだ中学生なんだよ、それなのに両親を亡くすなんて。


神様は、なんて意地悪なんだ。


「うそ……び、病院……行かなきゃ」


手に持っていた傘を彼の上にかざして、腕を引っ張る。


病院の場所がどこかなんて、ましてやどこの病院に居るかなんて分からなかった。

でもまだそんなの嘘だと信じていた私は、確信が欲しかった。


「ここにいよう」


びくともしない彼が発した言葉。


「ここに、俺といて」

「どうして、だってお母さんとお父さんは……!」


「ここにいて」


静かに淡々とした声に、ピシャリと背筋が伸びる。


「……わかった」


痛いほどの大粒の雨が、私と彼の体に降り注ぐ。

もう濡れてるなんて気にしない。


ただ、目の前にいる彼が壊れないかが心配だった。


ガラス細工はとっても綺麗で、言葉に表せない儚さを持っている。

だからこそ、壊れやすい。


高いところから落とせば、すぐに割れて粉々になってしまう。


「由紀ちゃん」


視線を上にあげた彼の目はうつろで、真っ黒で、なにも見えなかった。


「由紀ちゃんは、俺から離れない?」


割れかけのガラス細工を、


「……離れない、よ」


守るために。


私は、ずっと彼のそばにいることを選んだ。

自分を犠牲にしても、脆く儚く、美しい彼を守ろうと思ったんだ。


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